太陽と月みたいな友達ふたりとモブの俺(オメガバース)

さや

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さすがに自分でやります

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 諒介に紹介してもらった診療所は、学校から徒歩で行ける程度の距離にあった。

「ここ……か」
「ここ……ね」

 両親とともに口をぽかんと開けて呆然と見上げる建物に看板等は一切ない。
 諒介からもそう聞いていたが、やはり気後れしてしまった。

 どう見ても高級マンションのそこが一棟丸ごと診療所なんて、とても考えられない。








 Ω科に紹介してもらったと言うと、なんと両親ともが『ついていく』と言い出した。
 母親など、達樹が自分から受診すると言い出したことに安堵して電話口で号泣したほどだ。

 どうやら、春休みに入ったら強制的にでも受診させる方向で夫婦間の話はまとまっていたらしい。
 達樹は小柄で性の発育がそう早いほうではないが、取り返しがつかないことになっては遅いと。
 男子校の男子寮にいる達樹を心配してみるみる痩せてしまった母に達樹は謝った。

 そして、行政の派遣した相談員との面談も含め診療所で行おうという話になり、さらに両親がついてくることで両親と相談員との本人不在の面談まで1日にふんだんに詰め込まれた。

 初診の受付のみが1階の入り口、──本来コンシェルジュが常駐するような部屋で行われる。

 その際、本人確認が厳重に行われ、今後診療所に入るためには患者とその身内に発行されるIDカードが必要となる。さらに指紋の認証まであった。
 番を持たないアルファにはIDカードそのものが発行されないという説明を受け、両親がほっと胸を撫で下ろしていた。
 働く職員の大半が番を持つオメガの男女だとも聞いていて、達樹は自分の将来のことも考えてじっくりと観察することにした。








「はじめまして、安積といいます」

 立ち上がって達樹たちを迎えたΩ医の第一印象は、『この人がオメガ⁉』というものだった。

 文句のつけようのないイケメンで、身長もおそらくは170センチ台の後半はあるだろう。
 なにより、しっかりと筋肉がついた引き締まった身体は、とても子供をふたり産んだ母親には見えない。

 あまりの驚きに言葉もない達樹に、安積は柔和に笑った。

「そんなに緊張しないで。取って食ったりしないから」
「あ……すみません。今日はよろしくお願いします」

 達樹が頭を下げると、両親が続いた。

「成瀬達樹の母です。息子がお世話になります。どうぞよろしくお願いいたします」
「父です。どうか、息子の力になってやってください。よろしくお願いします」

 両側で深々と頭を下げる両親の姿が、達樹の胸に焼き付いた。










 まずは、受付で両親と本人それぞれが書いたアンケートをもとに、カウンセリングが行われる。

 その後、達樹はオメガとしての発育状況を詳しく調べるための検査に入る。その間、両親は医師やカウンセラー、検査技師や薬剤師と話をする。

 達樹は検査の合間に薬剤師から発情が始まってからの抑制剤や避妊薬の種類や効果、副作用などの説明を受け、検査が終わり次第両親と合流して食事をしながら相談員と面談をする。

 検査の結果が出たら、改めて医師との話し合いだ。


 さて、相談員との面談の際、母親からとんでもない質問が飛びだした。

「あの……、行政から支給されるこれですけど」

 母が出したのは、オメガ判定を受けたとき同時に届いた厚めのパンフレットだ。
 しかも、達樹がとても直視できなかったページを開いている。

「お勧めを教えていただきたいのですが」
「か、母さん?」
「母さん……」
「息子は寮で生活していて、発散方法が限られますので」

 そのページについて行政に抗議までした母の変化に達樹は仰天し、父は頭を抱えた。

 そこには、生々しくもグロテスクな形をしたアダルトなグッズの写真がずらりと並んでいる。
 発情期の際の自慰用で、オメガは2種類ずつ支給なのだそうだ。

 完全にセクハラだと思っていたのだが、どうやら話を聞いてみると、発情期に我を忘れた結果挿入したものが抜けなくなるというトラブルは、未婚のオメガにかなりの高確率で起こるらしい。

 特に、なにがなんだかわからないうちに過ぎるという初めての発情のときに起こる確率が高く、それから慌てて支給を申請する者も後を絶たないようだ。

 未成年の少年少女に自力での購入はハードルが高い。だが、自分がそのトラブルに見舞われたらと想像して達樹はぶるりと震えた。

 だがしかし、それとこれとは別である。自分で選ぶと説き伏せて、「絶対に受け取る」と約束させられてなんとか話を変えてもらった。
 父はその間、顔色こそ赤くなったり青くなったりしていたが結局なにも言わなかった。いや、口を挟みたいがなにを言っていいのかわからなかったようだ。

 相談員が、この医院でも申し込みと受け取りが可能という話をしてようやくその場は収まったが、達樹と父はすでに疲労困憊だった。
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