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ツートップ?
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翌日、1限後の休み時間に、達樹と諒介は連れ立って光のクラスに向かった。
「……なあ」
「ん?」
なんとなく注目を集めている気がするが、皆が遠巻きにしていて寄ってこない。
それをいいことに、達樹は諒介に尋ねた。
「木沢たち、学校来てないんだけど」
「…………」
木沢とは、昨日の第2性暴露の主犯である。
朝になったら学年中に自分の第2性が知られているかもしれないとびくびくしてほとんど眠れなかったが、学校に来てみると暴露した当人たちがいなかった。
狐につままれたような気分になったが、どうやら諒介には心当たりがあるらしい。
「……第2性のアウティングって、結構大ごとだからな」
「そうなの?」
近くにアルファもオメガもいなかったから知らなかった。いや、周りにいても知らなかったのだということには昨日気づいたが。
「たぶん、このまま年度末まで来ねえと思う」
「……そうなんだ」
中学生にそこまでのペナルティが課せられるのならば、確かに大ごとだ。
そこに自分も関わっているというのがなんとなく辛くて、達樹は息を吐いた。
「おまえのせじゃない。あいつらが馬鹿なんだよ」
どうしても気が重くなる達樹に対して、諒介は容赦がなかった。
「俺らには、自分を守る権利がある。そんなこともわからないあいつらが馬鹿なんだ」
言われて、不意に気づいた。
「……わかった」
なんとなく照れくさくて、諒介の顔を見ずに達樹は告げた。
「諒介、ありがとう、守ってくれて」
「────」
一瞬だけ、諒介の足が止まる。
「……俺は、なにもしてない」
「……うん」
実際に手を回したのは怒り狂った諒介の番だったのだが、このときの達樹はそんなことを知るよしもなかった。
「佐々岡いる?」
諒介が声をかけると、教室の入り口の近くにいた生徒は飛び上がって驚いた。
「え⁉ あ、柚木、……と、成瀬⁉」
隣にいた達樹に2度驚いたその生徒は、教室の中に向かって声を張り上げる。
「ピ、ピカちゃん‼ ツートップがお呼び‼」
(……ツートップ?)
耳慣れない呼び方に戸惑っていると、友達と話をしていた光が振り返ってあからさまに戸惑った顔をした。
「……え、なに?」
おずおずと達樹たちに近寄ってくるが、明らかに気後れしている。
その姿を間近で見て、噂通りだと達樹は内心で唸った。
全体的に色素が薄めで、肌が透けるように白い。
くっきりとした二重まぶたと長い睫毛に縁取られた大きな目、すっきりと整った鼻と小さな口。
世間一般がイメージするオメガを絵に描いたような美少年だった。
──もっとも、口を開くとがらりと印象が変わるという話も有名だったが。
「ちょっと込み入った話があるんだけど、昼休みとか、空いてる?」
達樹が訊くと、光の困惑がさらに深まった。
「俺、寮だから学食なんだけど」
私立である馳倉中学に給食はない。
達樹も学食か購買を利用するのが常だったが、今日は違っていた。
「弁当、作ってきた」
「……は?」
瞬間、光は諒介の言ったことが理解できないようだった。
「弁当、3人分作ってきた」
「…………」
光が信じられないものを見るような顔で何度も諒介と達樹を交互に見る。
言葉より状況が理解できないのかもしれない。達樹も立場が逆ならわけがわからないと思ったことだろう。
ゆっくりじっくり話すために弁当を作ってきたと聞いたときは、諒介のスペックを多少なりとも知っていた達樹ですら面食らった。
「……いーけど」
了承した光にほっとして、「じゃ、昼に」とその場を離れる。
「ピカちゃん、ツートップから同時に告白⁉ すげー‼」
「バーカ、そんなんじゃねーよ‼」
後ろから光とクラスメイトのやり取りが聞こえてきた。
(……やっぱり、目立ってる、かな?)
諒介と連れ立って歩けばもちろん目立つし、そこに光が加わればさらに目立つのは避けられない。
わかってはいたが、自分みたいな地味人間には荷が重いと達樹はため息をついた。
「……ピカちゃんって、なんだ?」
ふと、諒介が訊いてきた。
「……………………さあ」
達樹は知っていたがあえてはぐらかした。
光の母親が入学式でその呼び方を連呼したのは超がつくくらい有名な話だ。
光がその呼び方を嫌って猛勉強の果てに同じ中学の出身者がいないこの学校に進学したということもだ。
有名な話ではあるがあまりに不憫で、とてもこれ以上吹聴する気にはなれなかった。
「……なあ」
「ん?」
なんとなく注目を集めている気がするが、皆が遠巻きにしていて寄ってこない。
それをいいことに、達樹は諒介に尋ねた。
「木沢たち、学校来てないんだけど」
「…………」
木沢とは、昨日の第2性暴露の主犯である。
朝になったら学年中に自分の第2性が知られているかもしれないとびくびくしてほとんど眠れなかったが、学校に来てみると暴露した当人たちがいなかった。
狐につままれたような気分になったが、どうやら諒介には心当たりがあるらしい。
「……第2性のアウティングって、結構大ごとだからな」
「そうなの?」
近くにアルファもオメガもいなかったから知らなかった。いや、周りにいても知らなかったのだということには昨日気づいたが。
「たぶん、このまま年度末まで来ねえと思う」
「……そうなんだ」
中学生にそこまでのペナルティが課せられるのならば、確かに大ごとだ。
そこに自分も関わっているというのがなんとなく辛くて、達樹は息を吐いた。
「おまえのせじゃない。あいつらが馬鹿なんだよ」
どうしても気が重くなる達樹に対して、諒介は容赦がなかった。
「俺らには、自分を守る権利がある。そんなこともわからないあいつらが馬鹿なんだ」
言われて、不意に気づいた。
「……わかった」
なんとなく照れくさくて、諒介の顔を見ずに達樹は告げた。
「諒介、ありがとう、守ってくれて」
「────」
一瞬だけ、諒介の足が止まる。
「……俺は、なにもしてない」
「……うん」
実際に手を回したのは怒り狂った諒介の番だったのだが、このときの達樹はそんなことを知るよしもなかった。
「佐々岡いる?」
諒介が声をかけると、教室の入り口の近くにいた生徒は飛び上がって驚いた。
「え⁉ あ、柚木、……と、成瀬⁉」
隣にいた達樹に2度驚いたその生徒は、教室の中に向かって声を張り上げる。
「ピ、ピカちゃん‼ ツートップがお呼び‼」
(……ツートップ?)
耳慣れない呼び方に戸惑っていると、友達と話をしていた光が振り返ってあからさまに戸惑った顔をした。
「……え、なに?」
おずおずと達樹たちに近寄ってくるが、明らかに気後れしている。
その姿を間近で見て、噂通りだと達樹は内心で唸った。
全体的に色素が薄めで、肌が透けるように白い。
くっきりとした二重まぶたと長い睫毛に縁取られた大きな目、すっきりと整った鼻と小さな口。
世間一般がイメージするオメガを絵に描いたような美少年だった。
──もっとも、口を開くとがらりと印象が変わるという話も有名だったが。
「ちょっと込み入った話があるんだけど、昼休みとか、空いてる?」
達樹が訊くと、光の困惑がさらに深まった。
「俺、寮だから学食なんだけど」
私立である馳倉中学に給食はない。
達樹も学食か購買を利用するのが常だったが、今日は違っていた。
「弁当、作ってきた」
「……は?」
瞬間、光は諒介の言ったことが理解できないようだった。
「弁当、3人分作ってきた」
「…………」
光が信じられないものを見るような顔で何度も諒介と達樹を交互に見る。
言葉より状況が理解できないのかもしれない。達樹も立場が逆ならわけがわからないと思ったことだろう。
ゆっくりじっくり話すために弁当を作ってきたと聞いたときは、諒介のスペックを多少なりとも知っていた達樹ですら面食らった。
「……いーけど」
了承した光にほっとして、「じゃ、昼に」とその場を離れる。
「ピカちゃん、ツートップから同時に告白⁉ すげー‼」
「バーカ、そんなんじゃねーよ‼」
後ろから光とクラスメイトのやり取りが聞こえてきた。
(……やっぱり、目立ってる、かな?)
諒介と連れ立って歩けばもちろん目立つし、そこに光が加わればさらに目立つのは避けられない。
わかってはいたが、自分みたいな地味人間には荷が重いと達樹はため息をついた。
「……ピカちゃんって、なんだ?」
ふと、諒介が訊いてきた。
「……………………さあ」
達樹は知っていたがあえてはぐらかした。
光の母親が入学式でその呼び方を連呼したのは超がつくくらい有名な話だ。
光がその呼び方を嫌って猛勉強の果てに同じ中学の出身者がいないこの学校に進学したということもだ。
有名な話ではあるがあまりに不憫で、とてもこれ以上吹聴する気にはなれなかった。
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