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9月2日 会長④

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 ――そういう訳で、当初は生徒会メンバー全員をめとって、アメリカに連れて行くつもりだったのだけれど、訳あって結局こんな結果になってしまった。皆ごめん。

 夏休みの間、皆にしたことも本当に申し訳なかった。
 でも、これだけは信じてほしい。
 僕は生徒会役員の全員が本気で好きなんだ。
 会長、薫先輩、ドリちゃん先輩、桃山、美咲ちゃん、全員を本気で愛している。
 こんなこと言ったら皆は『浮気者』と怒るかもしれないけれど、これが僕の正直な気持ちだ。


 だからこそ、皆には僕がいなくなった後も、いつもの生徒会として、仲良くバカやって、相変わらずの生徒会でいてもらいたい。
 そして皆には幸せになってもらいたい。


 イケメンで何でも出来て地元の番長たる僕のことは忘れてくれて構わない。
 あ、でもやっぱり時々『あぁ、あんなイケメン超人いたな』と思い出してほしい。
 それだけで僕は満足だ。

 僕は中途半端な形で生徒会を去ることになってしまったけれど、イカれた思考回路の皆のおかげで、毎日が本当に楽しかった。
 どうかこれからもイカれた問題児であり続けてくれ。
 皆のこれからの活躍を陰ながら応援しているよ。
 皆、今まで本当にありがとう。
 さようなら。

 P.S. 椅子に掛けっぱなしだった会長のブレザーは貰っていくよ。


 慎一




 ♦︎


「アメリカ」と誰かが呟く。
 生徒会役員全員――当然、慎ちゃんを除いてだけれど――でテーブルの手紙を取り囲むようにして読んだ。
 慎ちゃんの転校を知った翌日。
 私たちは学校を休み、慎ちゃんの家に向かった。
 昨日も薫と美咲は慎ちゃん家を訪れているが、呼び鈴を鳴らしても反応がなかったという。
 そこで、私たちは今日、道具を用意して、無理矢理鍵をこじ開けて、侵入したのだ。
 もはや法律がどうのなどと言っている場合ではない。
 私たち生徒会にとっては慎ちゃんを見つけて、捕まえて、お尻ペンペンのお仕置きすることの方がずっと重要なのだ。

 そうしてリビングに行くと一通の手紙が置いてあった。
 慎ちゃんから、私たち生徒会メンバーに宛てられた手紙。
 生徒会の不法侵入を見越して置いていったのか。慎ちゃんらしい。『生徒会は必ず不法侵入してくるだろう』と私たちを逆の意味で信用している。

「これは…………お仕置きが必要ですね」美咲が眉間にシワを寄せてつぶやく。「とりあえず昨日から現時刻までの航空情報を調べてみます」

 即座に行動に移すのはいかにも美咲らしい。
 他の皆も誰一人諦めるものはいない。
 当然、私もだ。

「私は西条家のコネでアメリカの主要な空港に人を向かわせるよ。望み薄だけれど、ないよりマシでしょ」

「なら、私たちは近隣の聞き込みに行こうか」薫が桃山とドリちゃんを促す。
「そうですわね。でも桃山さん、大丈夫ですの? 休んでいても良いのですよ?」

「大丈夫」遥香が微笑む。

 遥香は少しだけ、生気をとりもどしつつあった。
 手紙を読んでからは、目の奥に怒りの炎も見え隠れするくらいに。
 しかし、表面上はあくまで穏やかであり、それがかえって怖い。嵐の前の静けさ。

 薫、ドリちゃん、遥香が外に出る。
 私はアメリカの西条財閥の傘下企業や、親族に電話をかけ、写真を送り、空港に向かわせる。使えるものは、全て使う。
 美咲は美咲で、パソコンを開いてカタカタと忙しなく作業していた。

 やがて、美咲の手が止まる。
「ダメですね。須田 慎一の名前の搭乗者は昨日、今日はいないことになっています」
「プライベートジェットの方も?」
「はい。あらかた覗かせてもらいましたが、いませんね」

 国が絡んだ移送だから、秘密裏に動いているということだろうか。
 はぁ、と美咲がため息をつき、椅子の背もたれに身を預ける。

「でも、どんな事情があって、私たちを連れて行けなかったのでしょう?」美咲が天井を見上げながら、疑問を口にする。
「だって慎ちゃん先輩がプロポーズして、私たちがそれを受ければ一緒に行けるって話だったらしいじゃないですか」

 慎ちゃんの手紙にはそう書いてあった。総理大臣がそう認めたと。
 私は慎ちゃんの告白を保留にしていた身。美咲の言う「私たち」に私が含まれているのかと考え、胸が締め付けられた。
 美咲に悟られぬように、表情は変えず、思い当たることを話す。

「もしかしたら、アメリカの制度が一夫一妻だからじゃない?」
「なるほど……。日本では重婚が認められていますけど、アメリカは全州共通で一夫一妻ですからね」
「慎ちゃんは生徒会全員と婚姻関係を結んで、アメリカに連れて行くつもりだった。でも、多分、直前でアメリカは一夫一妻だから1人にしろ、とでも言われたんじゃないかな?」
「慎ちゃん先輩はいつも詰めが甘いですからね。あり得ます。でも、そうなると少なくとも1人は連れて行けたってことになりません? なのに慎ちゃん1人で行っちゃったじゃないですか」

 これにも私は思い当たる節があった。

「慎ちゃんが私たちの普段からのアプローチをはね退ける時、いつもなんて言ってたか覚えてる?」

 美咲は少し考えてから、ハッと息をのむ。彼女も気付いたようだ。

「「僕はこの生徒会が好きなんだ。誰か1人と付き合うつもりはない」」
 美咲と私の声が重なる。



「そうか……。慎ちゃん先輩、選べなかったんですね」
 パソコンを見つめて、美咲がつぶやく。
「慎ちゃん先輩らしい」とも。










「美咲」
私はしっかりと美咲を見据える。



「……はい」
 何かを感じ取ったのか、美咲は真剣な眼差しを私に向ける。
 私も美咲を見つめる。
 だが、その実、私は美咲を見ていなかった。
 怒り、悲しみ、後悔、愛おしみ。
 私が見ていたのはそれらの類いの想い。
 それら全てを込めて言う。













「何年かかってでも、絶対に慎ちゃんを見つけるよ」





 宣言するように、そう告げると、







「はい!」
 美咲は力強く答えた。
 美咲の声が誰もいない空虚な廊下に響いていた。










 このままじゃ終われない。
 慎ちゃんに私の本当の想いを伝えるまでは絶対に終われない。
 待っていて慎ちゃん。必ず助け出すから。







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