105 / 106
第四章 聖女救出編
絶対ぶん殴る
しおりを挟むハルトが後ろを振り返った。
数キロ先に1時間前までハルトたちがいた王都の立派な城壁が見える。丘の上には堅牢な城がそびえたっていた。正面に視線を戻せば、地平線まで延々と続く殺風景な荒野が視界を占めた。
「この辺でよくないか」ハルトがうんざりしてダンの背中に呼びかけた。
「ん? まぁ、そうだな。王都から十分離れたから、大丈夫か」
ダンが教えようとしているのは、あの爆発する魔法だろう。であれば、人の往来がある王都周辺は、通りがかった者を爆発に巻き込む危険性があるというのは理解できた。だが、王都から離れたのはおそらくそれだけではないだろう、とハルトは察していた。
もし、ダンが本当に反乱軍の総長であるならば、当然人目は避けたいだろう。王都の近隣で爆発など起こせば目立ってしょうがない。
ダンは自分が反乱軍の総長だと自ら明かした。そんな機密情報をあっけらかんと、まるで「私実は泳げないんですよ」くらいのあっさりとしたノリで暴露されたハルトは、当然ダンに向ける猜疑心は一層高まっていた。
だが、ダンが嘘をつく必要性も特になさそうなのも確かだ。単にダンがバカである可能性の方が高いようにハルトには思えた。
「じゃ始めるぞ。見てろ」
ダンは視線を10メートル程先の大きな岩に向けると、睨めつけるように目をやや見開いた。
次の瞬間、突然爆発音が響き、岩が砕け散った。割れた岩がパラパラと飛んで来て、小さなかけらがハルトの足元で止まった。
とんでもない威力だ、とハルトは目を見張った。あれを直接くらえば、並みの人間なら一瞬でバラバラ死体だろうな、と嫌な想像をして頬が引き攣った。ダンがハルトに向き直る。
「よし、やってみろ」ダンが言う。冗談を言っている風でもなく、腕組みをしてハルトを見据えていた。
「いや、『やってみろ』じゃないが。できるわけなくない?」
「何事もやってみなければ分からないだろ? 大事なのはトライ&エラーだ。お前はそのトライの部分をおろそかにするのか?」
そう言われると、自分がひどく悪いことをしたような気がしてくる。確かにやる前から、できないと決めつけるのは早計かもしれない。案外簡単にコツを掴んで、できるようになるかもしれない。
ハルトは手を岩に向けて、力を込めた。
「ハァァァアアアアア!」
ハルトの気合の声は地平線の先の蜃気楼に呑み込まれるように儚く消えて行った。岩は当然ぴくりとも動かない。
「はははははは!『ハァァアア』てお前! 何だその雄たけび!」とダンがハルトを指さして爆笑する。ハルトは顔を赤くして俯き、怒りと羞恥にぷるぷる震えた。
「うっるさいなァ! やってみろって言ったのはアンタだろ!」
「でも、お前、『ハァァアア』て、お前、ははははははは!」
ダンはひとしきり笑ってから「まぁ、見よう見まねで出来るわけねぇんだけどな」と言い放った。
ハルトはこの魔術を覚えたら、まずこの男を爆破しようと心に決めた。
「そう睨むなっての。どのみち一から教えるなんて、俺にできるわけねぇんだからよ。あんま期待すんな」
「はぁ? じゃあどうやって教えるんだよ。まさか見て学べ、とか言わないよね?」
だとしたら、面倒だな、と腹の中でぼやく。1,2回見て学べるのならば苦労はしない。職人の師弟関係でその指導法が成り立つのは長い時間、行動を共にするからだ。僕にはダンにひっついている時間はない。
「心配すんな。ちゃんと、考えてある。手っ取り早い方法をな」
「手っ取り早い方法?」
怪訝な顔を浮かべるハルトをダンが手招きして呼び寄せた。それから、ハルトの左胸に手を当てた。
「お? なんだ。扱いづれぇ魔力してやがるな」とダンが肩眉をあげた
ハルトは、そのダンの手に、デジャヴじみた嫌な予感を受け、反射的にダンを『サーチ』で鑑定していた。ダンの身体情報やスキル情報が頭の中に流れると同時に、ダンの記憶の断片がハルトの脳を焦がすように定着していく。激痛にハルトの顔が歪んだ。以前よりも多くの過去を見られる代償に、痛みが伴う。
どうやらダンが反乱軍の総長、というのは本当のことらしい。ダンがどういった経緯で反乱軍に加わり、その取りまとめをするに至ったのかは分かったが、残念ながらダンの思考を読めるわけではない。ダンが今、何をしようとしているのかは、ハルトには分からなかった。
ダンはハルトの魔力に自分の魔力を混ぜるようにぶつける。
「俺がやっていることは2つ」とダンが口を開いた。「一つは爆裂魔法『エクスプロージョン』だ。まぁ見たまんまだが、爆発を起こす魔法だな」
「僕が知っている『エクスプロージョン』と大分違うんだが」とハルトが口をはさむ。
「一般的に知られているのは、勇者の英雄譚なんかで語られる大規模なやつだからな。本来の使い方は、『エクスプロージョン』を魔弾の形に形状変化させて投げて使う」
魔法、魔術による遠距離攻撃のほとんどが、この魔弾形式である。形を変えて、投擲あるいは放出させる。だが、ダンの魔法は明らかにこの形式から外れている。敵が突然爆発したのだ。その直前に魔弾を投げる動作や魔弾が放出される姿は見られなかった。予備動作なしに、爆発を起こす。それは魔法学の常識からかけ離れている。ダンが、まぁ聞けよ、と説明を続ける。
「大事なのはもう一つの方だ。爆裂魔法『エクスプロージョン』に合わせて、俺は空間魔法『ゲート』も使っている」
「空間魔法……」
「ああ。通常、物質をテレポーテーションさせる程の空間魔法は相当難しい技術だ。1級魔術師でも物質転移をできる奴はほとんどいねぇだろうな。それが人間になれば尚更だ。少なくとも俺は人間を転移させられる魔法を見たことがない。だが実体のない魔力の転移ならば、実はそれ程難しいことでもない」
なるほど、とハルトが大きく頷く。「魔力だけを転移させてエクスプロージョンを起こすってわけね」
「ああ。普通、魔術師が遠距離攻撃する際は魔弾を使うからな。まさかてめぇの面の前で急に爆発が起こるとは思わねぇよな」ダンはそう言ってから、だはははは、と豪快に笑った。これが国家転覆を企む反乱軍の総長の発言なのだから、笑えない。
「おっと、やっと掴めてきたぜ」とダンが言うとほぼ同時にハルトは自分の魔力が外からの何らかの力を受けていることに気がついた。それは強制力とも言えた。強制的にハルトの魔力が性質を変え、魔術を行使する準備が急速に整って行く。
「ダン……何するつもりだ」嫌な予感に顔が引き攣る。
「百聞は一乙に如かず」
「なにそれ」
「百回聞くより、1回くらって乙った方が良いってことだ」
ダンは言うや否や、ハルトの青い魔力を使って、空間魔法「ゲート」と爆裂魔法「エクスプロージョン」を強制的に行使させた。
背後から爆裂音と爆風が同時にハルトを呑み込んだ。爆発の中心はハルトの5メートル後方。ダンは行使と同時に、ちゃっかりハルトと距離を取って爆風から逃れていた。もろにエクスプロージョンの爆風を受けたのはハルトだけだ。肌を焼くような熱風にを全身に受け、ハルトは乾いた地面を転がりながら10メートル程吹き飛んだ。
「おっほぉ~、あんまり魔力使わなかったんだが、それでこの威力かよ。お前、とんでもねぇもん持ってんな」ダンが呑気な声を上げるのはかろうじて聞こえた。だが、瞼が重くて上がらない。
「次は自分で使って見ろ。俺が丁度良い舞台を用意してやるからよ」
ダンの楽しそうな声に怒りがこみ上げる。こいつ、やっぱり僕を騙していたのか?
「本選は丁度一週間後からだ。それまでに戻ってこないと、不戦敗になっちまうぜ。まぁ頑張れや」
この男、絶対、ぶん殴る。豪快に笑うダンの声を聞きながら、かろうじて繋がっていたハルトの意識は、ぷつん、と途絶えた。
114
お気に入りに追加
1,847
あなたにおすすめの小説
クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される
こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる
初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。
なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています
こちらの作品も宜しければお願いします
[イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]
異世界あるある 転生物語 たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?
よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する!
土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。
自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。
『あ、やべ!』
そして・・・・
【あれ?ここは何処だ?】
気が付けば真っ白な世界。
気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ?
・・・・
・・・
・・
・
【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】
こうして剛史は新た生を異世界で受けた。
そして何も思い出す事なく10歳に。
そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。
スキルによって一生が決まるからだ。
最低1、最高でも10。平均すると概ね5。
そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。
しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。
そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで
ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。
追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。
だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。
『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』
不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。
そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。
その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。
前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。
但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。
転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。
これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな?
何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが?
俺は農家の4男だぞ?
最強の職業は付与魔術師かもしれない
カタナヅキ
ファンタジー
現実世界から異世界に召喚された5人の勇者。彼等は同じ高校のクラスメイト同士であり、彼等を召喚したのはバルトロス帝国の3代目の国王だった。彼の話によると現在こちらの世界では魔王軍と呼ばれる組織が世界各地に出現し、数多くの人々に被害を与えている事を伝える。そんな魔王軍に対抗するために帝国に代々伝わる召喚魔法によって異世界から勇者になれる素質を持つ人間を呼びだしたらしいが、たった一人だけ巻き込まれて召喚された人間がいた。
召喚された勇者の中でも小柄であり、他の4人には存在するはずの「女神の加護」と呼ばれる恩恵が存在しなかった。他の勇者に巻き込まれて召喚された「一般人」と判断された彼は魔王軍に対抗できないと見下され、召喚を実行したはずの帝国の人間から追い出される。彼は普通の魔術師ではなく、攻撃魔法は覚えられない「付与魔術師」の職業だったため、この職業の人間は他者を支援するような魔法しか覚えられず、強力な魔法を扱えないため、最初から戦力外と判断されてしまった。
しかし、彼は付与魔術師の本当の力を見抜き、付与魔法を極めて独自の戦闘方法を見出す。後に「聖天魔導士」と名付けられる「霧崎レナ」の物語が始まる――
※今月は毎日10時に投稿します。
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
クラス転移、異世界に召喚された俺の特典が外れスキル『危険察知』だったけどあらゆる危険を回避して成り上がります
まるせい
ファンタジー
クラスごと集団転移させられた主人公の鈴木は、クラスメイトと違い訓練をしてもスキルが発現しなかった。
そんな中、召喚されたサントブルム王国で【召喚者】と【王候補】が協力をし、王選を戦う儀式が始まる。
選定の儀にて王候補を選ぶ鈴木だったがここで初めてスキルが発動し、数合わせの王族を選んでしまうことになる。
あらゆる危険を『危険察知』で切り抜けツンデレ王女やメイドとイチャイチャ生活。
鈴木のハーレム生活が始まる!
日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊
北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。
秘宝を集めし領主~異世界から始める領地再建~
りおまる
ファンタジー
交通事故で命を落とした平凡なサラリーマン・タカミが目を覚ますと、そこは荒廃した異世界リューザリアの小さな領地「アルテリア領」だった。突然、底辺貴族アルテリア家の跡取りとして転生した彼は、何もかもが荒れ果てた領地と困窮する領民たちを目の当たりにし、彼らのために立ち上がることを決意する。
頼れるのは前世で得た知識と、伝説の秘宝の力。仲間と共に試練を乗り越え、秘宝を集めながら荒廃した領地を再建していくタカミ。やがて貴族社会の権力争いにも巻き込まれ、孤立無援となりながらも、領主として成長し、リューザリアで成り上がりを目指す。新しい世界で、タカミは仲間と共に領地を守り抜き、繁栄を築けるのか?
異世界での冒険と成長が交錯するファンタジーストーリー、ここに開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる