上 下
82 / 106
第三章 農村防衛編

気が合わない

しおりを挟む

 殺し合いの幕はゴブダ兄弟の先制攻撃により切って落とされる。
 まず長男キーが魔弾を放った。
 大した弾速ではない。弾くまでもない、とマリアは余裕をもって魔弾を躱す。
 しかし、キーの魔弾は当てることが目的ではなかった。魔弾が空気を振動させ超音波のような甲高い不快音を発した。

 マリアは一瞬顔を顰めるが、動きが封じられる程ではない。大太刀を構え、大きな肉断ち包丁で斬りかかってくる次男ワライに備える。

「あひゃ、あひゃ、あひゃひゃひゃひゃひゃ」

 ワライは不快な笑い声をあげながらも、まだ少し距離がある。ように見えた。

——が、次の瞬間、ワライの気持ちの悪い笑みが目の前に突然現れた。ワライの肉断ち包丁が迫る。
 マリアは咄嗟にのけぞってそれを躱した。肉断ち包丁はマリアの頬に一筋の小さな傷を作って、通過していく。桁外れの反射神経で直撃を免れた。

 ただ、マリアはそれだけでは終わらない。のけぞった体勢のまま、大太刀を横なぎに振るう。確実にヒットするタイミング。無理な体勢とは言え、マリアの一撃を受ければ致命傷は避けられない。
 
 しかし、また不可思議なことが起こる。

 今度は三男レングが凄まじい速さで唐突に飛んできて、マリアの大太刀の一撃を大盾で受けた。レングはマリアに力負けして元居た方向へ吹き飛んで行く。まるで始めから吹き飛ばされる予定だったかのように3男レングはケロッとしている。
 
 その間に、ワライは「あひゃひゃ、逃げろー、あひゃひゃひゃひゃ」と既にマリアの間合いの外に移動していた。

 ちっ、と舌打ちするマリアに追い打ちをかけるように、長男キーの火球系魔弾3連がそれぞれ違う角度からマリアを捉える。
 爆発音が響き、煙が上がった。

「あは、あは、あははは、楽勝ぉ~、あはははは」
「ばか、ワラ兄、これくらいでマリアが死ぬわけねぇだろ」
「そうネ。でも、ダメージは負ってるはずネ」

 案の定、黒い煙の中から、マリアが歩いて出てくる。
 頬から垂れ落ちる自らの血を、ぺろっと舐めて「そういう連携ね」と冷めた顔をゴブダ兄弟に向ける。

「凄まじい連携だって言いたいんだろ」と三男レングが口角を上げる。
「そうね。凄まじくキモい連携ね。マネできないわ。したくもないし」詰まらなそうにマリアがバッサリ吐き捨てた。
「あひゃひゃ、あひょっあひょひょひょ、キモイって、キモイって言われてるゥ! キー兄キモいってェェエエ、あひゃひゃひゃ」
「いや、お前ネ。お前以外にキモイ要素ないネ」
「はははは、確かにワラ兄はキモいな、はははは」と三男レングまでもが笑う。

「全員よ」

 再度のマリアの指摘に、再びピタッと笑い声が止んだ。

「威勢が良いこったな。そういう言葉は俺らの連携をどうにかしてから言いな」三男レングが顎をあげて高飛車に煽る。
「行くネ、ワライ」
「あはははは、ひゃっほォォオオ!」

 再びワライが肉断ち包丁を振りかぶりながら、迫る。先ほどと同様にキーの魔弾が飛んできて、不快音を響かせた。
 マリアは、ワライが瞬間移動したように見える現象は、この甲高い音波を基盤にしたキーの幻魔術だと看破していた。音を媒介にすると大した幻覚や感覚異常は起こせない代わりに、レジストし辛いのだ。この幻魔術で、空間把握処理に誤情報を紛れ込ませ、ワライの位置情報を見誤らせているのだろう、とマリアは当たりをつける。マリアは目をつぶって視覚情報を断った。

「ちっ、もう気付かれてるネ」と悔しそうに呟く長男キーとは対照的に三男レングは「ばーか、目をつむってワラ兄の攻撃を防げるわけねぇだろ」と勝利を確信する笑みを見せる。

 ワライが袈裟斬りに肉断ち包丁を振る。が、マリアはヒョイと簡単にワライの斬撃をくぐり抜けると、目をつむったまま、大太刀を走らせた。正確な一撃。そのままであれば、ワライの首は胴体から離れて飛んで行ったところだろう。だが、またしても三男レングが吸い寄せられるように飛んできてマリアの大太刀に大盾を当てた。弾かれて吹き飛ぶ程度なら、大したダメージにはならない。それを見込んでの、タンク役なのだろう。

 ——が、今度のマリアの一撃は三男レングを弾くことはなかった。橙色に熱を帯びる大太刀はレングの大盾を溶かしながら斬り進み、その大盾の後ろに隠れたレングまでもを真っ二つに焼き切った。

 え、という驚愕の顔が乗っかったレングの上半身は、下半身からスライドするようにずり落ち、ドシャと音をたてる。下半身の断面から吹き上がる自らの血がレングに降り注いだ。

「レング!」とキーが叫ぶ時には、既にマリアがキーに肉薄している。身体能力に劣る魔術師職を先に撃つのは定石だ。

 キーはマリアの間合いに入る前に火球系の魔弾をがむしゃらに放ち距離を取ろうとするが、マリアは走りながら水球系の魔弾で正確に相殺して、ついにキーを間合いに入れた。

「ま、待つネ——」と制止するキーは、言葉途中で一太刀に斬り伏せられ、即死する。返り血がマリアの額につく。垂れてくる血をそのままにマリアはワライに振り返った。頬についた血よりも、マリアの瞳は赤く、狂気に満ちていた。

「ひ、ひぃィィイ」とワライは怯えて背中を見せて逃走をはかる。その顔にもはや笑みはない。

 マリアが脚に力を込めて、地を蹴るとほんの数秒でワライに追いついた。

「ちょっと待ってよ。まだあのキモい連携の答え合わせしてないんだからぁ」と敢えてのほほんとした口調でマリアがワライの前に立ちはだかった。ワライは情けない悲鳴をあげながら、尻餅をついて後ずさる。

「あの鎧くんはマグネ系の魔法で私の大太刀にマーキングしてたんでしょ? だから、私が大太刀を振ろうとしたら、大太刀の金属に吸い寄せられて鎧くんが飛んできた。キミは、それに守られながら安全圏で敵を斬り刻む役割ね。卑怯とは言わないけど、やっぱりキモいね」マリアが口に手を当てて、ふふふ、と上品に笑う。

「待って! 殺さないで! お願いだよ! 分かった! 帰る! もう帰るから!」

 ワライの必死な命乞いにマリアは「面白いことを言うね」と言いながらも表情は冷めきっており、冷たい目でワライを見下す。

「キミは今までそうやって命乞いをしてきた人たちを助けたことがあるの?」
「あ、ある! あるよ! 戦意のない人はいつも逃がしてたよ!」とワライは尚もすがる。マリアは「あら、そう」と意外そうな顔を作ってから、「なら——」と微笑んだ。

 
 
「なら、私とは気が合わないわね」

 

 ワライの首が落ちた。
 絶望に染まった表情をワライが浮かべ、そのまま動かなくなる。

「まぁ、どうせ嘘だろうけどね」とマリアは大太刀に付いた血を払ってから納刀した。

 それから大きくため息を吐いて、「ハルトくん…………一体どこにいるのよ」と、再びハルトの捜索を再開させた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク 普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。 だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。 洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。 ------ この子のおかげで作家デビューできました ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが

序盤でボコられるクズ悪役貴族に転生した俺、死にたくなくて強くなったら主人公にキレられました。え? お前も転生者だったの? そんなの知らんし〜

水間ノボル🐳
ファンタジー
↑「お気に入りに追加」を押してくださいっ!↑ ★2024/2/25〜3/3 男性向けホットランキング1位! ★2024/2/25 ファンタジージャンル1位!(24hポイント) 「主人公が俺を殺そうとしてくるがもう遅い。なぜか最強キャラにされていた~」 『醜い豚』  『最低のゴミクズ』 『無能の恥晒し』  18禁ゲーム「ドミナント・タクティクス」のクズ悪役貴族、アルフォンス・フォン・ヴァリエに転生した俺。  優れた魔術師の血統でありながら、アルフォンスは豚のようにデブっており、性格は傲慢かつ怠惰。しかも女の子を痛ぶるのが性癖のゴミクズ。  魔術の鍛錬はまったくしてないから、戦闘でもクソ雑魚であった。    ゲーム序盤で主人公にボコられて、悪事を暴かれて断罪される、ざまぁ対象であった。  プレイヤーをスカッとさせるためだけの存在。  そんな破滅の運命を回避するため、俺はレベルを上げまくって強くなる。  ついでに痩せて、女の子にも優しくなったら……なぜか主人公がキレ始めて。 「主人公は俺なのに……」 「うん。キミが主人公だ」 「お前のせいで原作が壊れた。絶対に許さない。お前を殺す」 「理不尽すぎません?」  原作原理主義の主人公が、俺を殺そうとしてきたのだが。 ※ カクヨム様にて、異世界ファンタジージャンル表紙入り。5000スター、10000フォロワーを達成!

チュートリアル場所でLv9999になっちゃいました。

ss
ファンタジー
これは、ひょんなことから異世界へと飛ばされた青年の物語である。 高校三年生の竹林 健(たけばやし たける)を含めた地球人100名がなんらかの力により異世界で過ごすことを要求される。 そんな中、安全地帯と呼ばれている最初のリスポーン地点の「チュートリアル場所」で主人公 健はあるスキルによりレベルがMAXまで到達した。 そして、チュートリアル場所で出会った一人の青年 相斗と一緒に異世界へと身を乗り出す。 弱体した異世界を救うために二人は立ち上がる。 ※基本的には毎日7時投稿です。作者は気まぐれなのであくまで目安くらいに思ってください。設定はかなりガバガバしようですので、暖かい目で見てくれたら嬉しいです。 ※コメントはあんまり見れないかもしれません。ランキングが上がっていたら、報告していただいたら嬉しいです。 Hotランキング 1位 ファンタジーランキング 1位 人気ランキング 2位 100000Pt達成!!

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

追放されてから数年間ダンジョンに篭り続けた結果、俺は死んだことになっていたので、あいつを後悔させてやることにした

チドリ正明@不労所得発売中!!
ファンタジー
世間で高い評価を集め、未来を担っていく次世代のパーティーとして名高いAランクパーティーである【月光】に所属していたゲイルは、突如として理不尽な理由でパーティーを追放されてしまった。 これ以上何を言っても無駄だと察したゲイルはパーティーリーダーであるマクロスを見返そうと、死を覚悟してダンジョンに篭り続けることにした。 それから月日が経ち、数年後。 ゲイルは危険なダンジョン内で生と死の境界線を幾度となく彷徨うことで、この世の全てを掌握できるであろう力を手に入れることに成功した。 そしてゲイルは心に秘めた復讐心に従うがままに、数年前まで活動拠点として構えていた国へ帰還すると、そこで衝撃の事実を知ることになる。 なんとゲイルは既に死んだ扱いになっており、【月光】はガラッとメンバーを変えて世界最強のパーティーと呼ばれるまで上り詰めていたのだ。 そこでゲイルはあることを思いついた。 「あいつを後悔させてやろう」 ゲイルは冒険者として最低のランクから再び冒険を始め、マクロスへの復讐を目論むのだった。

家族に無能と追放された冒険者、実は街に出たら【万能チート】すぎた、理由は家族がチート集団だったから

ハーーナ殿下
ファンタジー
 冒険者を夢見る少年ハリトは、幼い時から『無能』と言われながら厳しい家族に鍛えられてきた。無能な自分は、このままではダメになってしまう。一人前の冒険者なるために、思い切って家出。辺境の都市国家に向かう。  だが少年は自覚していなかった。家族は【天才魔道具士】の父、【聖女】の母、【剣聖】の姉、【大魔導士】の兄、【元勇者】の祖父、【元魔王】の祖母で、自分が彼らの万能の才能を受け継いでいたことを。  これは自分が無能だと勘違いしていた少年が、滅亡寸前の小国を冒険者として助け、今までの努力が実り、市民や冒険者仲間、騎士、大商人や貴族、王女たちに認められ、大活躍していく逆転劇である。

処理中です...