変夢奇譚 ~くだらない夢のよせ集め~

Ak_MoriMori

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第52夜 降霊

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変な夢を見た。

  あのカウンセラー、九蘇くそ 八郎はちろう氏(第3夜「蛇口」参照)が自殺した。
  突如、自宅マンションから飛び降りたということだ。
  遺書などはなく、彼の自殺の原因はわかっていない。

  私は、あいつに恨みを抱いていた。
  それもそのはず・・・額に蛇口をつけられた挙句、それを抜き取られたのだ。
  そのせいで、私の脳みそは、若干、外にこぼれ出てしまった・・・。
  あれからしばらくの間、脳みそが流れ出ていたが、ようやく止まった。
  きっと、私の脳みそは、乾燥したウニのようになっているに違いない。

  そのためなのか、記憶力が低下したような気がするし、以前よりも頭がおかしく
 なったような気がする。額には、いまだにまぁるい穴が開いたままで、こうやって
 生きているのが不思議なくらいである。

  あいつめ、自殺するんだったら、私が殺してやったのにな・・・。
  私は、なぜか無性に腹が立った。なぜ、腹が立つのかは、わからない。
  きっと、脳みそが、少し、外にこぼれ出てしまったせいだろう。

  私は、彼の自殺の原因を探るため、趣味の一環である降霊術を行い、彼の霊を呼
 び出すことにした。なぜ、そんなことを思いついたのだろうか?
  きっと、脳みそが、少し、外にこぼれ出てしまったせいだろう。
 
  降霊のまじないを唱え、血を混ぜて作ったろうそくの炎を吹き消すと、黒い気体
 が、ろうそくの芯から立ちのぼった。それは、徐々に影法師の形をとり、やがて、
 あの九蘇八郎クソヤロウの姿になった。

 「九蘇くそ八郎はちろう・・・ここに剣山つるぎやま・・・もとい見参けんざん!」

 「『けんざん』で、いいんじゃないですか? 先生。」

 「いや、ほら、ちゃんと、『つるぎやま』って言わないとな、伝わらないだろ。
  どういう漢字を使っているのか。」

 「いや、これ、小説だから問題ないでしょうよ。」

 「おお、そうだった・・・そうだった。キミ、脳なしにしては、頭が回るな!
  ところで、なぜ、私のことを呼び出したんだ?」

  私は、九蘇氏に呼び出した理由を話そうとしたが、その理由が思い出せない。
  きっと、脳みそが、少し、外にこぼれ出てしまったせいだろう。
  
  九蘇氏は、そんな私を見て、あきれながらも、話を始めたのである。

 ・・・・

  これは・・・意外な展開だな。
  まさか、キミが私のことを呼び出すとは・・・。

  もしかして、キミ・・・覚えていないのか、あの日のことを。
  あの日、何が起きたのか?
  そうか、そうだな。そうに違いない。
  そうでなければ、私のことを呼び出したりしない。
  キミの脳みそは、ほとんど、外に流れ出てしまったからな。
  記憶力が、著しく低下してるんだよ。

  えっ・・・何を言ってるのかって?
  しょうがないやつだな。この脳なしめ!
  何が起きたか、教えてあげるがね、キミ、驚かないでくれよ。
  といっても、驚くだけの脳みそも残っていないかもしれないが・・・。

  まあ、話すにしてもな、最初から話さないといけない。
  よし、少し長くなるかもしれんが、我慢してくれ。
  キミの脳みそが足りないのはよくわかってる。
  しかしだ・・・我慢して聞いてくれよ。

  私はね、あるアプリを開発したんだ。
  信じられないと思うがね、リアルタイムで、その日の死者数がわかるアプリを開
 発したんだよ。その日の死者数をリアルタイムでカウントするんだ。
  あまり、大きな声で言えないところから、データを提供してもらうことにした。
  言ったところで信じないだろうね。死神と月〇円で契約したと言っても・・・。

  えっ・・・なんで、そんな物を作ったのかって?
  キミは、本当にどうしようもないくらい、脳なしだなッ!
  そんなもん、この小説のネタのために決まってるだろう。
  それ以外になんの理由があるってんだ・・・逆にこっちが聞きたいね!
  
  まあ、アプリは、とりあえず、問題なく動いているようだった。
  少なくとも、日別の累計死者数は、翌日に公表される統計データと一致している
 ように見えた。だがな、やはり、ちゃんとしたテストをしなければいけない。
  人が死んでから、すぐにカウントされるのかとか、正しくカウントされているか
 どうかとか・・・。
  
  いろいろと考えたよ。誰を被験者にすべきかを。
  誰かを殺さなければならない。そうしなければ、テストできないからね。

  さあて、誰を殺そうか? 考えろ、考えろ・・・ってね。
  通り魔的に最初に出会ったやつを殺すか?
  それとも、身内の人間にしようか?

  そうだ、蛇口をつけたあいつ、つまり・・・キミにしようと思いついたんだ。
  今だったら、きっと、簡単に殺せるに違いない。怪しまれずにね・・・。
  そう考えて、キミを殺しに行く準備をしている時だったよ。

  キミがね、来たんだよ・・・私のマンションに・・・突然ね。
  青白い顔して、額に穴を開けた状態でさ。

  おっ、これは、ちょうどいい機会だ。
  油断させた隙に、いっちょ殺しますかってもんだよ。
  私は、キミを招き入れ、一緒にベランダに出たんだよ。
 「ここから見る夜景は、絶景だよ」とか言ってね。

  ハハッ・・・本当に何にも覚えていないんだな、キミは。
  キミがね、ボクのことを放り出したんだよ・・・ベランダから。

  ああ、いやいや、気にしなくていいよ。
  今となっては、放り出してくれてよかったと思っている。
  アプリのテストができたからね。
  その代償は・・・ちょっと大きかったが、テストができて良かったよ。

  キミが来る前に、アプリを確認した時の死者数は十人だった。
  それが、私が死んだ後、十二人になってたんだ。
  えっ・・・少なくないかって?
  ああ、地域を指定したからね・・・自宅周辺に。

  ただね、一人じゃなくて二人だったのが、ずっと謎だったんだが・・・。
  今になって、ようやくわかった。

  キミは、ホントウに脳なしだな。
  まだ気づいていないのか・・・?

  もう一人は、キミなんだよ!
  キミが、私のところに来れるはず、なかったんだよ。
  私がキミの額から蛇口を引っこ抜いた時から、キミは生きる屍のようになって
 しまってたんだから・・・アハァハァハァハ。
  きっと容態が悪化して、コロッといってしまったんだね。

  よっぽど、私への恨みが強かったんだろう。
  そう、私は、幽霊のキミに殺されたんだ。
  ほらっ、自分の足元を見てごらん。足がないじゃないか!

 ・・・・

  私は、九蘇氏の言葉を聞いて、驚きながらも、足元を見た。
  なるほど、確かに私の足はなかった。
  きっと、脳みそが、すべて流れ出てしまったからに違いない。

 「まさが、幽霊に降霊されるとは、こりゃ、傑作だね。
  ところで、私のアプリと研究成果をまとめた遺稿はどうなったかな。
  あれが、発表されたら、私は成仏できるってもんだ。」

  私は、笑いながら、彼の遺稿とアプリが入ったスマートフォンを取り出した。
  なぜ、そんなことが出来たのかは、わからない。
  きっと、脳みそが、すべて流れ出てしまったからに違いない。

  私は、九蘇氏に向かって、にやりと笑った。
  そして、遺稿をびりびりに引き裂き、スマートフォンを踏みつぶしてやった。

 「この九蘇八郎クソヤロウめ・・・ざまあみろっ!」

 「アッ・・・なにをするっ!
  この人でなしっ! この鬼畜めッ!
  この九蘇八郎クソヤロウッて・・・それは私か。
  ああ、もうどうでもいい、死ねッ! この脳なし野郎ッ!」

  九蘇氏の体が、白いモチのような物・・・エクトプラズムとかいうやつだ・・・
 に変わり、煙が吸い込まれるかのように、私の額の穴から体内に入り込んでいく。

  私の体が、勝手に動き始めた。きっと、九蘇氏が操っているに違いない。
  両手が・・・勝手に動き・・・私の首に・・・そして・・・一気に締め上げる。

  く・・・苦し・・・あれっ・・・苦しくない・・・おかしいな。
  そうか。きっと、脳みそが、すべて流れ出てしまったからに違いない・・・。

そこで目が覚めた。

ここは・・・どこだろう?
体を起こそうとしたが、まったく力が入らず、体がこわばって、うまく動かない。
苦労しながらも、右腕を上げてみる。

・・・なんだろう・・・このチューブは?
腕に何かのチューブが差し込まれている。
そのまま、右手を額に当ててみる。
指先に・・・ガーゼのような感触・・・さらに、穴が開いているような感触。

私の唇が、勝手に動いた。

九蘇くそ八郎はちろう・・・ここに剣山けんざん!」
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