上 下
45 / 55

第45夜 ロック

しおりを挟む
変な夢を見た。

  私はPCで、ある動画サイトを眺めていた。
  偶然見つけた動画が、私の興味を惹いた。
  動画のタイトルは、【閲覧注意!! あるジャーナリストの告発】とあった。
  
  閲覧注意・・・? なかなか、刺激的じゃないか・・・。

  私は、その動画を再生してみることにした。

 ・・・・
 
  動画タイトルが、映し出される。
  その次に、下記のようなメッセージが表示された。

 『本動画は、あるジャーナリストの告発動画である。 
  この動画は、彼の家の本棚に隠されたカメラに収められていた。
  この動画の内容を信じるか・・・信じないかは、あなた次第。
  もし、この動画を見た後、あなたの身に何か起こったとしても、本動画のuぷぬし
  は、一切、責任を取りません・・・。』

  一人の男が、画面に映し出された。
  頭を抱えながら、うろうろしている。あきらかに、狼狽している様子だ。

 「落ち着け・・・落ち着け・・・。
  私は、ジャーナリストだ。冷静になれ、冷静になれ・・・。フぅーっ!
  よしっ! カメラは・・・大丈夫かな?」

  男の顔が、画面いっぱいになった。
  おそらく、先ほどの説明にあった本棚に隠されたカメラを覗き込み、撮影ができ
 ているか、確認しているのだろう。
  
 「よし、録画ランプはついている・・・。始めよう・・・。」

  そう言うと、部屋の一室にある椅子に腰かける。
  カメラ画像は広角ぎみで、椅子を中心に部屋全体が、ほぼ映し出されている。
  椅子の後ろには部屋の扉が見えた。

  男の姿は、全体が映し出されているため、顔の細かい表情はよくわからない。
  だが、小刻みに体を動かし、両手の指を合わせているところを見ると、かなりの
 緊張状態にあるようだった。

  男は、それでも冷静を装い、ゆっくりと話し始めた。
 
 「○年×月△日(この日付は、一か月ほど前のものだった)。
  この動画をご覧の皆さん。はじめまして。
  私は、ジャーナリストのマーク・ダラン。
  私は、皆さんにお伝えしたい事があって、この動画を撮影しています。
  きっと、これからお伝えすることは、にわかには、信じられないでしょう。
  しかし・・・真実なのです。」

  ここで、マークは顔を横に向けると、深く深呼吸をし、再び、カメラの方に顔を
 向きなおした。

 「皆さん、現在、私達の右耳の後ろには、個人識別用のチップが埋め込まれていま
  す。そう、今から三年前に、個人識別法が制定され、その翌年、つまり、二年前
  ですが・・・施行されました。
  それにより、個人識別用のチップの埋め込みが義務化されました。」
 
  マークはそう言うと、自分の右耳の後ろを、しきりに触り始める。

 「皆さんもご存知のとおり、このチップには、各個人の識別番号のみ、書き込まれ
  ています。この識別番号をキーに、個人識別サーバーから個人情報を引っ張り出
  します。個人識別サーバーには、戸籍謄本と住民票に基づいた個人情報以外は、
  保管されていないと政府は公言しています。実際、それ以外の情報については、
  法律制定の際、いろいろと議論され、除外されました。フぅーっ・・・。」

  マークは、上を向き、肺の中の空気をすべて吹き出した。
  そして、再び、深呼吸すると話を続けた。
 
 「個人識別サーバーの情報は、政府により、厳重に保管・管理され、一切悪用され
  ることはないと、法律にも定められています。今のところ、個人情報の流出事故
  等は、発生しておりません。当然と言えば、当然ですが・・・。」

  マークは頭を左右にゆっくりと振った後、カメラを見据えて話を続けた。  
   
 「この法律を制定する際、これは、国民を政府の監視下に置くための法律ではない
  かと議論されたことは、皆さんの記憶に新しいことかと思います。
  そこで・・・私は、いろいろ独自に調査をしました。
  少々、法を犯すことになりましたが・・・。
  私は、あるハッカーに依頼し、機密情報を入手することに成功しました。
  そのハッカーは、残念ながら、もう、この世に存在しないと思います。
  やつらが・・・彼を行ってしまった・・・。」

  そこで、マークは顔を両手で覆うと、しきりにこすり、再び顔を上げ、話を続
 けた。

 「失礼しました・・・。
  ・・・
  彼の犠牲のおかげで・・・私は、真実を知りました。
  これから、皆さんにお伝えする真実を・・・。
  私は、この真実をお伝えすべきかどうか、正直なところ・・・悩んでいるので
  す。もしかしたら、皆さんに危害が及ぶかもしれません。」

  また、マークは顔を両手で覆い、しきりにこする。
  今度は顔を上げず、両手で顔を覆ったまま、話を続ける。

 「しかし、私は、ジャーナリストなのです。真実を・・・真実を伝えなければなら
  ない。私も、きっと、あのハッカーと同じ目にあうことでしょう。
  そうなる前に・・・お伝えせねばならないのです。」

  マークは顔を上げると、右耳の後ろを右手でゆびさした。

 「この識別用チップは、個人識別の用途だけでは・・・ないのです。
  これは、違法チップなのです。法律では認められていない情報・・・個人の位置
  情報を取得し、個人識別サーバーへと電送し、皆さんの行動を監視しているので
  す。そして・・・。」

  マークが、突然、話をやめた。
  ちょっと小首を傾げた後、早口で話し始める。

 「皆さん、今、私はロックされ始めています・・・。
  たった今、右耳の中で、【ロックプロセス開始】と聞こえました。
  急がなければなりません。
  政府は、この違法チップで、皆さんの脳波をも電送し、それをAIで解析し、皆
  さんが反社会的人物かどうかの判定も行っています。
  もし、反社会的人物の場合、私のようにロックされ、回収・・・」

  マークが、突然、話すのをやめてしまった。
  十秒ほど、そのまま見ていたが、何も話そうとしない。
  まるで、固まってしまったかのように身動き一つしない。
 
  マークが止まってから、一分ほどたった時だった・・・。
  
  突然、部屋の扉が開き、黒ずくめの格好をした二名の男が部屋に入ってきた。
  顔は覆面で隠され、まったく確認できない。

  男たちの一人が、マークが座っている椅子を蹴とばした。
  マークは、椅子に座った形の状態で床に投げ出され、まったく動かない。
 
 「ハハッ! カチコチだな、コイツ・・・。おいっ、そっちを持て!」

  男の一人が、マークの左側を抱えながら、そう言った。
  もう一人の男がマークの右側を抱え、二人で部屋の外へと運んでいく。
  そこで、突然、動画は終了した。

  動画の終了画面を見つめながら、私は考えていた。

  この動画は、はたして、本物なのだろうか・・・?
  本物であれば、きっと大変なことだ。この動画が、本物かどうかわからない。 
  だが、みんなに知らせた方がいいような気がしてきた。
  そこで、この動画のアドレスをSNSで拡散しひろめようと、浅はかにも考えた。
  
  ある程度、拡散用のメッセージを打ち込んだ時だった。
  突然、私の右耳の後ろあたりから、機械音声のようなものが聞こえてきた。

 【ロックプロセス開始・・・ロック中・・・ロック中・・・・・・・】
 
  私は理解した。
  動画の最後で、マークの身に何が起こったのかを。
  そして、なぜ、ロックされたのかを。

  知るだけなら・・・問題ないのだ。
  拡散しひろめようとしたから・・・。

  私の体は、今、ロックされ始めている。
  足が・・・腕が・・・体の感覚が・・・なくなっていく。

 【ロックプロセス完了】

そこで目が覚めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

婚約者の幼馴染?それが何か?

仏白目
恋愛
タバサは学園で婚約者のリカルドと食堂で昼食をとっていた 「あ〜、リカルドここにいたの?もう、待っててっていったのにぃ〜」 目の前にいる私の事はガン無視である 「マリサ・・・これからはタバサと昼食は一緒にとるから、君は遠慮してくれないか?」 リカルドにそう言われたマリサは 「酷いわ!リカルド!私達あんなに愛し合っていたのに、私を捨てるの?」 ん?愛し合っていた?今聞き捨てならない言葉が・・・ 「マリサ!誤解を招くような言い方はやめてくれ!僕たちは幼馴染ってだけだろう?」 「そんな!リカルド酷い!」 マリサはテーブルに突っ伏してワアワア泣き出した、およそ貴族令嬢とは思えない姿を晒している  この騒ぎ自体 とんだ恥晒しだわ タバサは席を立ち 冷めた目でリカルドを見ると、「この事は父に相談します、お先に失礼しますわ」 「まってくれタバサ!誤解なんだ」 リカルドを置いて、タバサは席を立った

父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる

兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。

妊娠中、息子の告発によって夫の浮気を知ったので、息子とともにざまぁすることにいたしました

奏音 美都
恋愛
アストリアーノ子爵夫人である私、メロディーは妊娠中の静養のためマナーハウスに滞在しておりました。 そんなさなか、息子のロレントの告発により、夫、メンフィスの不貞を知ることとなったのです。 え、自宅に浮気相手を招いた? 息子に浮気現場を見られた、ですって……!? 覚悟はよろしいですか、旦那様?

【完結】生贄になった婚約者と間に合わなかった王子

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
フィーは第二王子レイフの婚約者である。 しかし、仲が良かったのも今は昔。 レイフはフィーとのお茶会をすっぽかすようになり、夜会にエスコートしてくれたのはデビューの時だけだった。 いつしか、レイフはフィーに嫌われていると噂がながれるようになった。 それでも、フィーは信じていた。 レイフは魔法の研究に熱心なだけだと。 しかし、ある夜会で研究室の同僚をエスコートしている姿を見てこころが折れてしまう。 そして、フィーは国守樹の乙女になることを決意する。 国守樹の乙女、それは樹に喰らわれる生贄だった。

高校生とUFO

廣瀬純一
SF
UFOと遭遇した高校生の男女の体が入れ替わる話

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

処理中です...