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浦島太郎外伝6 鯛は昔の夢を見て
七話
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夕食も海蛇が行きつけにしているという、少し落ち着いた感じの店で食べた。
そうして暗くなり、花街に灯籠が灯る頃、鯛たちはその前辺りにいた。
花街近くは宿屋が多い。逢引き茶屋や、連れ込み茶屋の類が多いのだ。
その前で、鯛は足を止めた。
「どうした?」
「……しないんですか?」
少し先を行っていた海蛇が、足を止めて鯛を振り返り首を傾げる。が、鯛は胸の前で手をギュッと握って海蛇を見て、その視線を茶屋へと向けた。
「今日はこれで、お終いですか?」
「それは……」
「竜宮に戻ったら、ちょっと気まずいのですが。兵舎にも人は多いし、本殿にも。顔見知りが多い分、あちらの方が落ち着きません」
「まぁ、確かにな」
「……嫌なら、いいのですが」
見た目は綺麗な鯛だが、実際は海蛇よりも大分年上だ。鯛の子供が海蛇の年でも可笑しくはない。いや、鯛は子など産んだことも、産ませた事もないが。
そのくらい離れている。彼から見て自分はそういう魅力も残っているだろうか。こればかりは自分では分からなくて自信がない。
少しばかり俯いてしまうと、海蛇が近づいてきてそっと頬に触れ、触れるだけの口づけをくれる。甘やかされている気分だ。そしてその後は大きな体で抱き寄せてくる。
「初めての逢瀬でそれは、がっつきすぎかと思っていた」
「むしろ今じゃなくていつなんですか。空気察してがっつきなさい」
「仕方がないだろ、本気の相手はアンタだけなんだ。しくじったら次があるかも分かりゃしない。がっつく男は嫌われるしな」
「誘いに乗らない察しの悪い男も嫌われますよ」
「嫌われたか?」
「……知りません」
嫌うわけがない。恥ずかしいだけだ。
分かっているのか、海蛇は照れくさそうに笑う。そして頬を僅かに染めたまま、鯛へと手を伸ばした。
「……誘われてくれるか?」
「……はい」
いい年をして恥ずかしげに頬を染めて手を取った。その手をグッと引き寄せて、海蛇は茶屋へと鯛を誘っていった。
行き当たりばったりで入ったにしては落ち着いた雰囲気のいい宿だった。入ってすぐに衝立があり、その奥は広い布団。壁際には着物掛けも二人分あり、籠の中には二人分の夜着もある。文机に文箱、そして温かな行灯の明かり。少し大きめの窓があり、障子を通して夜の明かりも差し込んでくる。
下で銚子を二本ほどつけて上へと上がった鯛は、柄にもなく緊張していた。文机の上に盆を置き、海蛇を誘って彼のお猪口に酒を注いだ。
「どうぞ」
「ありがとな」
お返しにと、彼も鯛のお猪口に酒を注ぐ。それを一気に飲み干すと、彼は少しばかり楽しげな目をした。
「なんです?」
「いや。朱華に酌してもらえる日が来るとは思わなくてな」
「なんです、それ。一緒に飲めばこのくらいしますよ」
「竜宮一の美人の酌だからな。口元緩む」
竜宮一の美人。その言葉が少し悲しい。確かに綺麗にしているが、それは日々の努力あってのこと。だが殆ど誰も、表しか見ない。それは少し悲しい事だ。まぁ、努力を見せたいとも思わないのだが。
複雑だ、自分の事だというのに。突き詰めれば突き詰めるほどに矛盾が出てくる。
「別に私は、美しいなんて……」
「食事、気にしてるだろ? 身につける物だけじゃなく、香油や化粧も気を遣ってる。それに運動や所作、知識もお前は一級の水準を満たすのに時間を使う。美人なのは当然だ」
「…………」
恥ずかしくなって、鯛は顔を赤くして俯く。よく見ていると思ったが、そんな所まで見られていたのか。こいつ、何をどこまで知っているんだ。
「あの、本当に監視していたりしませんよね?」
「してない。が、集団の中にいてもアンタの事が目に飛び込む。その他大勢の中にいてもアンタは特別なんたよ、俺にとって。だから、気づいたら凄く見てるとは思う」
「……変態」
「傷つくし、俺も多少まずいと思ってるんだからやめてくれ」
困った顔で酒を一口飲み込む海蛇の顔がちゃんと見られない。顔から火が出そうだ。
だが、嬉しいのも確かだ。努力を見られるのは格好悪いが、認められるのは嬉しい。ほら、また矛盾する。こういうのが最近増えてきた。
一緒にいたいのに落ち着かなくて離れたり、嬉しいのに憎まれ口を叩いたり。きっと、海蛇でなければ愛想をつかされただろう。
「今は、緊張しているんだろ?」
手が伸びて、頬に触れる。僅かに上向かされて重なった唇に翻弄された。酒の味のする口吸いなど不味いだろうに、頭の芯を酔わされてしまうようだ。
離れた時、ぼんやりと海蛇を見た。撓垂れかかってしまいそうなくらいだ。
「その顔やめろよ、朱華。色っぽすぎて毒だ」
「毒をお持ちなのは貴方でしょ。私に毒などありませんよ」
「そうか? 俺には質の悪い毒を感じる。頭の中を一杯にして、アンタしか見えなくなる。それともこれは呪いか?」
「馬鹿言わないでくださいよ」
頭の中まで痺れさせるのは、そっちだろうに。
お互い示し合わせたようにお猪口を置いた。そうしてどちらともなく布団へと移動し、海蛇は丁寧に鯛を押し倒す。見上げる彼はなんだか飢えて見える。いや、実際飢えているのだろう。口づける、その入り込む舌が味わうように口腔を擽ってくる。
「んぅ……ふぅ……」
探るような舌の触れ方がもどかしい。もっとちゃんと絡みたくて角度を変えて海蛇の頭の後ろに手を置いた。
深くなった口づけは満足できる。求められれば求められるほどに、愛されているような気がする。
「あ……離れちゃ嫌です……」
とろんと蕩けた声で出た本音にハッとするが、海蛇は甘やかすように笑ってもう一度してくれる。こんな風にされたら心地よくて困ってしまう。甘やかされるのは慣れていないから。
帯が解かれて、着物の前も開いていく。寝乱れる姿を見て海蛇は妙に恥ずかしそうにしている。
「なんですか?」
「いや……花が咲いたみたいだなって」
「え?」
「着物が開いたのが、花びらみたいに見えたんだ! たく、らしくないぜ」
「…………ぷっ……ふははははっ」
確かにらしくない。こんな、歯の浮くような事を言うとは思わなかった。
知れば知るほど色んな顔を見せてくれる。あちらは何やら色々知っているというのに、鯛はまったくだ。
「笑うなよ」
「だって」
「……自分でも浮かれてるし当てられてるのは分かってるっての。恥ずかしい」
「いいのではありませんか? 官能詩人なら……ふふっ」
「笑うなっての!」
顔を真っ赤にする海蛇がもの凄くばつの悪い顔をする。それが可愛いなんて言ったら、更に嫌な顔をするだろうか。
溜息をついた海蛇は、自分の着物をパッと脱いでしまう。笑っていた鯛も現れた体には息をのんだ。逞しく引き締まった腹筋や、胸筋。細いのに線が浮き上がっている。
また、ドキドキと心臓が五月蠅い。ゴクリと唾を飲み込んだ鯛の襦袢に、海蛇の手がかかった。
一時は爛れ落ち、赤黒く肉が見えて血を滲ませていた体は綺麗になった。白い玉の肌は戻ってきた。が、海蛇はあの爛れた体を見ている。病は完治したが、それでも気持ちのいいものではないだろう。
途端に体を晒す事が怖くなる。表情が沈み、体が縮こまりそうな鯛の肌に、海蛇の唇が触れた。
「え? あっ、んぅ!」
「良かった、綺麗になってて」
「ふぅぅ……」
ほっとした、安堵の声。肌に触れる熱い唇が愛しげに滑っていく。躊躇いもない様子は鯛を安心させてくれた。
「嫌では、ありませんか?」
「なんでだ?」
「だって…………あんなに、醜かったから」
触れたいと思えないくらい、酷かった。あんな姿を晒すなら、誰にも見られずに終えたいと思うくらいに。
そんな鯛の思いを察してか。海蛇は肌の全てに口づけをしていく。薄っぺらい胸は勿論、臍の周りや太股の付け根、終いには足の指にすら。
「足は!」
「俺はアンタの下僕でも構わないけれどな」
分かってて楽しそうにする海蛇が、足の指の一本一本に口づけをしていく。うっとりと、陶酔したように。ムズムズする感覚が足先から足の付け根までを震わせて、その奥まで響いてくる。
「んっ、んっ」と声を漏らしながら悶える鯛を見て、海蛇は満足そうにしてやめた。
「お気に召したかい?」
「誰がっ」
「俺の忠誠の印」
「お前は私の下僕ではありません! お前は、私の隣にいるのでしょ!」
下僕が欲しいわけじゃない。礼のつもりもない。……こいつのことを、好きになり始めたんだ。好意ではなく、恋慕という形で。
海蛇は驚いて、嬉しそうにあどけなく笑う。そして大切そうにもう一度、足の付け根に口づけた。
手が悪戯に体を撫でるのはぞわぞわとして心地いいのか不明だ。ただとても落ち着かない。触れるか触れないかという距離で肌の上をゆっくりと撫でられていく。太股の辺りや、脇腹。時々チラリと耳の後ろ辺りを舐められるから、その度に「ひっ!」という声が出てしまう。
「朱華、とろとろだな」
「あ……」
寝転がったまま後ろから抱き込まれ、撫でられているだけで体は反応している。白い肌は桜貝のように淡く染まり、乳首はツンと尖っている。下肢では昂ぶりがぷるぷる震え、トロトロと蜜を流して泣き濡れている。
内腿の辺りを下から撫で上げられ、切ない声を漏らしながら自然と足が開いていく。後ろから前へと体位を変えるその間際、不意に耳元を掠めた唇が「いい子」と呟いてくる。
再び正面から組み敷かれても、前のような硬さはもう鯛にはない。トロトロになった体に力は入らなくて、涙が薄らとういた瞳で海蛇を見つめている。
「蕩けてるな、朱華」
「あ……はい……」
「すごく淫靡だ。他の誰にも見せられないな」
「あんっ! いぁ、あぁ!」
熱い口腔に硬い乳首を含まれ、細く二股に分かれた舌が根元から絡みついてくる。絞り上げられながら先端を転がされ、頭の中が痺れて腰が浮いた。根元に糸でも巻かれて絞られたようで、痺れているのに敏感に感じる。唇は周囲を食むようにされ、余計に気持ちがいい。
更にもう片方は爪でカリカリと軽く引っかかれ、ビリビリする。
自然と下肢を海蛇の逞しい腹筋に擦りつけた。ヌルヌルと零す先走りでぬめって、ゾクゾクと背を快楽が走っていく。頭の中は蕩けて射精感が高まっていく。
「あっ、あぁ……もっ、出……るぅ!」
瞬間、海蛇は乳首を吸い上げもう片方を捻り上げた。男の快楽に負けた事は記憶にない。自分で自分を律する事ができないなんて、産まれて初めての事だ。ビクンビクンと体を震わせながら白濁を吐き出して、鯛は呆然とする。こんな事は屈辱なのに、とても気持ちが良くて溺れてしまいそうだった。
「ため込んでたな、朱華。てか、自分でちゃんとしてるか? かなり濃いぞ」
腹の上に吐き出したものを手に取った海蛇が、心配そうにそんな事を言う。が、そんな暇などどこにある。朝は一番早く起き、夜は一番遅く寝る。寝る頃には疲れてしまって、夢も見ずに朝を迎える事も多いくらいだ。
「して、ません……」
「みたいだな。まだ全然萎えないしな」
指摘されて見てみれば、まったく衰えていない。硬いし、まだ欲しいと鎌首をもたげている。
海蛇は体を下へとずらし、硬いままの男茎を握る。そして丁寧に舐めると、射精後で開いたままの鈴口へと細い舌を潜り込ませていった。
「いっ! ひぅ……あぁぁ!」
管が焼けてしまいそうな刺激が走り、腰が勝手に跳ねる。擬似的に射精しているような感覚に脳が焼き切れてしまいそう。その舌は徐々に深くなり、快楽の源へと辿り着くとそこを遠慮なく擽る。
狂いそうな感覚が襲う。そして、まだ冷静な部分で大いに詫びた。こんな快楽を何も知らない浦島に、気絶するまでさせたのだ。体が可笑しくなって当然だ。
「もっ、いや……お願い止めてください! 変になる!」
射精なのか、もっと違うものなのか。よく分からないものが解放を願って腹の中でグルグルと渦を巻いている。
鯛は必死に海蛇の頭を下へと押したが、びくともしない。腹の中が熱くなってきて、せり上がる波が大きくなる。腰が重くなって、こみ上げるような快楽に鯛は二度目を海蛇の口に放ってしまった。
下肢に力が入らない。肩で息をする鯛を見下ろして、海蛇は美味しそうに出した物を嚥下していく。それを見せつけられるのも恥ずかしいもので、鯛は思い切り睨み付けてしまった。
「アレは止めてください!」
「お気に召さなかったか、浦島殿体験」
「も…………あのお方に私はまた謝らなければいけないではありませんか」
今にして、あの方のお心の広さと寛大さに涙が出る。あの方こそ海のように広いお心を持っているにちがいない。これを指示したのに、含めて許して下さったのだから。自分なら絶対、生きてる限り恨みに思う。
顔を隠して恥ずかしく身を丸くする鯛を笑い、海蛇は夜着に手を伸ばそうとしている。それを見て、鯛は起き上がりその手を止めさせた。
「え?」
「いや、何を終わらせようとしているのです?」
「あ、いや…………俺は、いい」
「はぁ?」
妙に歯切れ悪く言う海蛇を、鯛は睨んだ。そして未だに履いたままの褌に手をかけた。
「こら!」
そこから出てきたのは、どんな生き物とも違う逸物。股の間からにょっきりと二本生えたそれを直接見るのは始めてだ。長さはそうないが、何やら棘のようなものがびっちりと生えているし、それが返しになっている。
だが、ちゃんと知っていた。竜宮にはちゃんと、海で生活している生き物の図鑑のようなものがある。文字ではあるが、蛇の生態もちゃんと事前に調べてはいたのだ。
流石に少し固まっていると、海蛇が額に手をやり困り顔をする。少し、悲しそうに。
「無理すんなよ、流石にこれはしんどいだろ? 見た目にもなんというか……な?」
確かに、見た目に強烈ではある。が、別に嫌悪はない。試しに握って上下させると、棘が刺さって血が出たり、内壁をズタボロにするような強度ではなさそうだ。
「おい!」
「流石に直接目にするのは始めてなので驚きましたが、別に嫌悪はありませんよ」
何より好いた男の逸物だ、拒絶なんてない。
鯛は思い切って先端の方を口に含んでみる。舌にざらりとするが、やはり傷つけるほどではない。中で膨らんだら引っかかってしばらく抜けないだろうが、それだけ長く交尾をするのだと思えば大した事はない。
「一つ伺いますが、これって両方一遍に入れなければいけませんか?」
「入らないだろ!」
「あぁ、良かった。それなら何の問題もありませんね」
脱ぎ捨てた着物の袂から、鯛は小さな箱を取り出す。そしてそれにフッと息を吹きかけると、文箱くらいの大きさに変わった。
中には潤滑油となる油が入っているが、少し混ぜ物もした。塗れば内壁は潤い柔らかくなり、微かに温まるものだ。
四つん這いになった鯛が潤滑油を指にとり、そっと菊座に触れる。海蛇の逸物がこのような形をしているのだと知った時からひっそりと慣していたので、指の一本は簡単だ。ズブズブと飲み込み、潤滑油が内壁に染みていく。ぬるりとした液をこそぐように内壁は蠢き、飲み込んではヒクリと欲しそうに窄まる。
それを見る海蛇の顔つきが変わった。
「十分に慣しておりますから、少しその潤滑油を足してください。そうすれば直ぐに、入れますよ」
「慣してたのかよ」
「お前を受け入れると決めた時から、ね。それとも、淫乱はお嫌いで?」
「俺がやりたかった」
「……今後は、お願いします」
男の尻を解すのは根気も手間もいる事なのに「やりたかった」なんて。これに愛情を感じてしまうのは正しいのか。鯛は今も十分混乱状態だ。
四つん這いになり、海蛇の指が菊座に触れ、ぬるりと中へ押し入ってくる。自分とは違う指の感触に尻は震え、入口はキュッと締め付けた。武官の硬い指の腹。それが内壁を確かめるように動き回る。腹を内側から擦られるおぞましい快楽は、直ぐに鯛をグズグズにした。
「中、すごく動くな。俺の指を美味しそうにしゃぶる」
「ふぅ……はぁぁ……」
「ここも、いいだろ?」
「ひぃ!」
グリッと押された部分から痺れる。腹の中は火が付いたように熱い。ここが快楽のツボだというのは鯛がよく知っている。そこを狙うように海蛇が何度も擦るから、鯛の男根からはぼたぼたと白濁混じりの先走りが零れてシミを作っていく。かくかくと腰が動き、雌のように腹で快楽を貪り達しているのが分かった。
指が二本、三本に増え、ぐりぐりと入口で捻るように動いて、腹の中は火事のようだ。甘く疼いて痺れて熱い。欲しい欲しいと奥が疼いてたまらない。頭は再びぼやけ、白くなりそうになる。
「そろそろいいか?」
ぬるりと抜け出た指。その代わりに宛がわれたのは、二本のうちの一本だ。さっき見た時よりも大きそうな感触に臓腑が震える。くびれのない棒状のそれはゆっくりと、鯛の腹の中へと押し込まれていった。
「あぅ! はぁ……ぅあぁぁ……」
「くっ、熱い……」
感じた事のない感覚に腰が震えて達した。ざらざらしたものが真っ直ぐに内壁を擦って入ってくる。まだ、腰を引かれない。ゆっくりゆっくり進むだけだ。
やがてそれは最奥の少し手前で一旦止まり、次に海蛇の腰が打ち付けられる。どうにか腹に全部が収まったようだ。だが本当の快楽は海蛇が腰を少し引いた瞬間に訪れた。
返しのようになっていた細かな棘が締め付ける内壁に刺さって抜けてこない。傷つくほどの痛みはないが、違和感と内臓を引き抜かれるような感覚にゾクゾクと背に怖気がはしる。そうはさせまいと余計に襞が絡むから、余計に臓腑が揺さぶられる感じがする。
更にそれが叩きつけるように最奥を突く。ビリビリして、目の前が真っ白だ。
「悪い、そんなかけないから」
「あぐ! はっ、あっ、あぁ!」
腹から力が抜けない。全部に引っかかる。引っ張られる。引きずり出されそう。それが、気持ちいい。
上半身が崩れ、尖った乳首が布団に擦れてジンジンする。腹の中がぐじゅぐじゅに潤っている気がする。潤滑油が混ざっているのだろう。奥を硬い先端がコツコツ叩くのが好きだ。力強い手が腰を支え、快楽に負けて深くを抉る。それが、たまらなく好きだ。
あぁ、後背位ではなく正常位にすればよかった。そうしたら今、口が寂しい事もなかったのに。
自らの指を試しに吸って、舌を掻き混ぜてみる。それでも十分気は紛れる。
「後で、口吸ってやるから」
「んっ、ふっ…………はぁぁ、だめぇ。もう、無理です!」
大きな波が腹の全部を満たそうとしているのを感じる。腰骨から腹から昂ぶりから、全部が気持ち良くて馬鹿になる。
感じたのか、海蛇も更に深くを狙って打ち付け抉る。最奥を先端が深く抉った瞬間、鯛は一気に飲まれていった。
高い嬌声を上げ、背をのけぞらせて震えたまま腹の中が熱く濡れる。絞るように奥へと内壁が海蛇の逸物を絡め取って、子種の一滴までも欲している。ガクガク震える足は立てていられず潰れ、その衝撃で更に奥を突かれて鯛の昂ぶりからも子種が散った。
背中にぴったりと合わさった熱。汗をかく二人の肌が触れあって、切ない息も重なっていく。
僅かに首を横に向ければ、海蛇の顔がある。海蛇もそれに気づいて、二人は少し無理な体勢で唇を合わせた。苦しいのに気持ちいい口吸いは溺れるようで、鯛はうっとりと身を任せていた。
結局、お互いドロドロで朝を迎えた。着物は途中で海蛇が引っ張りぬいて無事だが、体の方はそうもいかない。
「お湯、貰って帰りましょう」
「同感」
怠い体を起こす鯛の手を、海蛇が取って立たせてくれる。そして思いがけずその手の甲にそっと口づけた。
「!」
「アンタが好きだ」
「……私も、ですよ」
「許してくれるなら、所帯を持ちたい」
「私だってそのつもりです。まだ少し、恋仲を楽しみたいですが」
「俺もだ」
「……子供、産ませてくれますか?」
「祝言上げてからな」
案外しっかりした未来図に、鯛はくすくすと嬉しそうに笑った。
【外伝6 完】
そうして暗くなり、花街に灯籠が灯る頃、鯛たちはその前辺りにいた。
花街近くは宿屋が多い。逢引き茶屋や、連れ込み茶屋の類が多いのだ。
その前で、鯛は足を止めた。
「どうした?」
「……しないんですか?」
少し先を行っていた海蛇が、足を止めて鯛を振り返り首を傾げる。が、鯛は胸の前で手をギュッと握って海蛇を見て、その視線を茶屋へと向けた。
「今日はこれで、お終いですか?」
「それは……」
「竜宮に戻ったら、ちょっと気まずいのですが。兵舎にも人は多いし、本殿にも。顔見知りが多い分、あちらの方が落ち着きません」
「まぁ、確かにな」
「……嫌なら、いいのですが」
見た目は綺麗な鯛だが、実際は海蛇よりも大分年上だ。鯛の子供が海蛇の年でも可笑しくはない。いや、鯛は子など産んだことも、産ませた事もないが。
そのくらい離れている。彼から見て自分はそういう魅力も残っているだろうか。こればかりは自分では分からなくて自信がない。
少しばかり俯いてしまうと、海蛇が近づいてきてそっと頬に触れ、触れるだけの口づけをくれる。甘やかされている気分だ。そしてその後は大きな体で抱き寄せてくる。
「初めての逢瀬でそれは、がっつきすぎかと思っていた」
「むしろ今じゃなくていつなんですか。空気察してがっつきなさい」
「仕方がないだろ、本気の相手はアンタだけなんだ。しくじったら次があるかも分かりゃしない。がっつく男は嫌われるしな」
「誘いに乗らない察しの悪い男も嫌われますよ」
「嫌われたか?」
「……知りません」
嫌うわけがない。恥ずかしいだけだ。
分かっているのか、海蛇は照れくさそうに笑う。そして頬を僅かに染めたまま、鯛へと手を伸ばした。
「……誘われてくれるか?」
「……はい」
いい年をして恥ずかしげに頬を染めて手を取った。その手をグッと引き寄せて、海蛇は茶屋へと鯛を誘っていった。
行き当たりばったりで入ったにしては落ち着いた雰囲気のいい宿だった。入ってすぐに衝立があり、その奥は広い布団。壁際には着物掛けも二人分あり、籠の中には二人分の夜着もある。文机に文箱、そして温かな行灯の明かり。少し大きめの窓があり、障子を通して夜の明かりも差し込んでくる。
下で銚子を二本ほどつけて上へと上がった鯛は、柄にもなく緊張していた。文机の上に盆を置き、海蛇を誘って彼のお猪口に酒を注いだ。
「どうぞ」
「ありがとな」
お返しにと、彼も鯛のお猪口に酒を注ぐ。それを一気に飲み干すと、彼は少しばかり楽しげな目をした。
「なんです?」
「いや。朱華に酌してもらえる日が来るとは思わなくてな」
「なんです、それ。一緒に飲めばこのくらいしますよ」
「竜宮一の美人の酌だからな。口元緩む」
竜宮一の美人。その言葉が少し悲しい。確かに綺麗にしているが、それは日々の努力あってのこと。だが殆ど誰も、表しか見ない。それは少し悲しい事だ。まぁ、努力を見せたいとも思わないのだが。
複雑だ、自分の事だというのに。突き詰めれば突き詰めるほどに矛盾が出てくる。
「別に私は、美しいなんて……」
「食事、気にしてるだろ? 身につける物だけじゃなく、香油や化粧も気を遣ってる。それに運動や所作、知識もお前は一級の水準を満たすのに時間を使う。美人なのは当然だ」
「…………」
恥ずかしくなって、鯛は顔を赤くして俯く。よく見ていると思ったが、そんな所まで見られていたのか。こいつ、何をどこまで知っているんだ。
「あの、本当に監視していたりしませんよね?」
「してない。が、集団の中にいてもアンタの事が目に飛び込む。その他大勢の中にいてもアンタは特別なんたよ、俺にとって。だから、気づいたら凄く見てるとは思う」
「……変態」
「傷つくし、俺も多少まずいと思ってるんだからやめてくれ」
困った顔で酒を一口飲み込む海蛇の顔がちゃんと見られない。顔から火が出そうだ。
だが、嬉しいのも確かだ。努力を見られるのは格好悪いが、認められるのは嬉しい。ほら、また矛盾する。こういうのが最近増えてきた。
一緒にいたいのに落ち着かなくて離れたり、嬉しいのに憎まれ口を叩いたり。きっと、海蛇でなければ愛想をつかされただろう。
「今は、緊張しているんだろ?」
手が伸びて、頬に触れる。僅かに上向かされて重なった唇に翻弄された。酒の味のする口吸いなど不味いだろうに、頭の芯を酔わされてしまうようだ。
離れた時、ぼんやりと海蛇を見た。撓垂れかかってしまいそうなくらいだ。
「その顔やめろよ、朱華。色っぽすぎて毒だ」
「毒をお持ちなのは貴方でしょ。私に毒などありませんよ」
「そうか? 俺には質の悪い毒を感じる。頭の中を一杯にして、アンタしか見えなくなる。それともこれは呪いか?」
「馬鹿言わないでくださいよ」
頭の中まで痺れさせるのは、そっちだろうに。
お互い示し合わせたようにお猪口を置いた。そうしてどちらともなく布団へと移動し、海蛇は丁寧に鯛を押し倒す。見上げる彼はなんだか飢えて見える。いや、実際飢えているのだろう。口づける、その入り込む舌が味わうように口腔を擽ってくる。
「んぅ……ふぅ……」
探るような舌の触れ方がもどかしい。もっとちゃんと絡みたくて角度を変えて海蛇の頭の後ろに手を置いた。
深くなった口づけは満足できる。求められれば求められるほどに、愛されているような気がする。
「あ……離れちゃ嫌です……」
とろんと蕩けた声で出た本音にハッとするが、海蛇は甘やかすように笑ってもう一度してくれる。こんな風にされたら心地よくて困ってしまう。甘やかされるのは慣れていないから。
帯が解かれて、着物の前も開いていく。寝乱れる姿を見て海蛇は妙に恥ずかしそうにしている。
「なんですか?」
「いや……花が咲いたみたいだなって」
「え?」
「着物が開いたのが、花びらみたいに見えたんだ! たく、らしくないぜ」
「…………ぷっ……ふははははっ」
確かにらしくない。こんな、歯の浮くような事を言うとは思わなかった。
知れば知るほど色んな顔を見せてくれる。あちらは何やら色々知っているというのに、鯛はまったくだ。
「笑うなよ」
「だって」
「……自分でも浮かれてるし当てられてるのは分かってるっての。恥ずかしい」
「いいのではありませんか? 官能詩人なら……ふふっ」
「笑うなっての!」
顔を真っ赤にする海蛇がもの凄くばつの悪い顔をする。それが可愛いなんて言ったら、更に嫌な顔をするだろうか。
溜息をついた海蛇は、自分の着物をパッと脱いでしまう。笑っていた鯛も現れた体には息をのんだ。逞しく引き締まった腹筋や、胸筋。細いのに線が浮き上がっている。
また、ドキドキと心臓が五月蠅い。ゴクリと唾を飲み込んだ鯛の襦袢に、海蛇の手がかかった。
一時は爛れ落ち、赤黒く肉が見えて血を滲ませていた体は綺麗になった。白い玉の肌は戻ってきた。が、海蛇はあの爛れた体を見ている。病は完治したが、それでも気持ちのいいものではないだろう。
途端に体を晒す事が怖くなる。表情が沈み、体が縮こまりそうな鯛の肌に、海蛇の唇が触れた。
「え? あっ、んぅ!」
「良かった、綺麗になってて」
「ふぅぅ……」
ほっとした、安堵の声。肌に触れる熱い唇が愛しげに滑っていく。躊躇いもない様子は鯛を安心させてくれた。
「嫌では、ありませんか?」
「なんでだ?」
「だって…………あんなに、醜かったから」
触れたいと思えないくらい、酷かった。あんな姿を晒すなら、誰にも見られずに終えたいと思うくらいに。
そんな鯛の思いを察してか。海蛇は肌の全てに口づけをしていく。薄っぺらい胸は勿論、臍の周りや太股の付け根、終いには足の指にすら。
「足は!」
「俺はアンタの下僕でも構わないけれどな」
分かってて楽しそうにする海蛇が、足の指の一本一本に口づけをしていく。うっとりと、陶酔したように。ムズムズする感覚が足先から足の付け根までを震わせて、その奥まで響いてくる。
「んっ、んっ」と声を漏らしながら悶える鯛を見て、海蛇は満足そうにしてやめた。
「お気に召したかい?」
「誰がっ」
「俺の忠誠の印」
「お前は私の下僕ではありません! お前は、私の隣にいるのでしょ!」
下僕が欲しいわけじゃない。礼のつもりもない。……こいつのことを、好きになり始めたんだ。好意ではなく、恋慕という形で。
海蛇は驚いて、嬉しそうにあどけなく笑う。そして大切そうにもう一度、足の付け根に口づけた。
手が悪戯に体を撫でるのはぞわぞわとして心地いいのか不明だ。ただとても落ち着かない。触れるか触れないかという距離で肌の上をゆっくりと撫でられていく。太股の辺りや、脇腹。時々チラリと耳の後ろ辺りを舐められるから、その度に「ひっ!」という声が出てしまう。
「朱華、とろとろだな」
「あ……」
寝転がったまま後ろから抱き込まれ、撫でられているだけで体は反応している。白い肌は桜貝のように淡く染まり、乳首はツンと尖っている。下肢では昂ぶりがぷるぷる震え、トロトロと蜜を流して泣き濡れている。
内腿の辺りを下から撫で上げられ、切ない声を漏らしながら自然と足が開いていく。後ろから前へと体位を変えるその間際、不意に耳元を掠めた唇が「いい子」と呟いてくる。
再び正面から組み敷かれても、前のような硬さはもう鯛にはない。トロトロになった体に力は入らなくて、涙が薄らとういた瞳で海蛇を見つめている。
「蕩けてるな、朱華」
「あ……はい……」
「すごく淫靡だ。他の誰にも見せられないな」
「あんっ! いぁ、あぁ!」
熱い口腔に硬い乳首を含まれ、細く二股に分かれた舌が根元から絡みついてくる。絞り上げられながら先端を転がされ、頭の中が痺れて腰が浮いた。根元に糸でも巻かれて絞られたようで、痺れているのに敏感に感じる。唇は周囲を食むようにされ、余計に気持ちがいい。
更にもう片方は爪でカリカリと軽く引っかかれ、ビリビリする。
自然と下肢を海蛇の逞しい腹筋に擦りつけた。ヌルヌルと零す先走りでぬめって、ゾクゾクと背を快楽が走っていく。頭の中は蕩けて射精感が高まっていく。
「あっ、あぁ……もっ、出……るぅ!」
瞬間、海蛇は乳首を吸い上げもう片方を捻り上げた。男の快楽に負けた事は記憶にない。自分で自分を律する事ができないなんて、産まれて初めての事だ。ビクンビクンと体を震わせながら白濁を吐き出して、鯛は呆然とする。こんな事は屈辱なのに、とても気持ちが良くて溺れてしまいそうだった。
「ため込んでたな、朱華。てか、自分でちゃんとしてるか? かなり濃いぞ」
腹の上に吐き出したものを手に取った海蛇が、心配そうにそんな事を言う。が、そんな暇などどこにある。朝は一番早く起き、夜は一番遅く寝る。寝る頃には疲れてしまって、夢も見ずに朝を迎える事も多いくらいだ。
「して、ません……」
「みたいだな。まだ全然萎えないしな」
指摘されて見てみれば、まったく衰えていない。硬いし、まだ欲しいと鎌首をもたげている。
海蛇は体を下へとずらし、硬いままの男茎を握る。そして丁寧に舐めると、射精後で開いたままの鈴口へと細い舌を潜り込ませていった。
「いっ! ひぅ……あぁぁ!」
管が焼けてしまいそうな刺激が走り、腰が勝手に跳ねる。擬似的に射精しているような感覚に脳が焼き切れてしまいそう。その舌は徐々に深くなり、快楽の源へと辿り着くとそこを遠慮なく擽る。
狂いそうな感覚が襲う。そして、まだ冷静な部分で大いに詫びた。こんな快楽を何も知らない浦島に、気絶するまでさせたのだ。体が可笑しくなって当然だ。
「もっ、いや……お願い止めてください! 変になる!」
射精なのか、もっと違うものなのか。よく分からないものが解放を願って腹の中でグルグルと渦を巻いている。
鯛は必死に海蛇の頭を下へと押したが、びくともしない。腹の中が熱くなってきて、せり上がる波が大きくなる。腰が重くなって、こみ上げるような快楽に鯛は二度目を海蛇の口に放ってしまった。
下肢に力が入らない。肩で息をする鯛を見下ろして、海蛇は美味しそうに出した物を嚥下していく。それを見せつけられるのも恥ずかしいもので、鯛は思い切り睨み付けてしまった。
「アレは止めてください!」
「お気に召さなかったか、浦島殿体験」
「も…………あのお方に私はまた謝らなければいけないではありませんか」
今にして、あの方のお心の広さと寛大さに涙が出る。あの方こそ海のように広いお心を持っているにちがいない。これを指示したのに、含めて許して下さったのだから。自分なら絶対、生きてる限り恨みに思う。
顔を隠して恥ずかしく身を丸くする鯛を笑い、海蛇は夜着に手を伸ばそうとしている。それを見て、鯛は起き上がりその手を止めさせた。
「え?」
「いや、何を終わらせようとしているのです?」
「あ、いや…………俺は、いい」
「はぁ?」
妙に歯切れ悪く言う海蛇を、鯛は睨んだ。そして未だに履いたままの褌に手をかけた。
「こら!」
そこから出てきたのは、どんな生き物とも違う逸物。股の間からにょっきりと二本生えたそれを直接見るのは始めてだ。長さはそうないが、何やら棘のようなものがびっちりと生えているし、それが返しになっている。
だが、ちゃんと知っていた。竜宮にはちゃんと、海で生活している生き物の図鑑のようなものがある。文字ではあるが、蛇の生態もちゃんと事前に調べてはいたのだ。
流石に少し固まっていると、海蛇が額に手をやり困り顔をする。少し、悲しそうに。
「無理すんなよ、流石にこれはしんどいだろ? 見た目にもなんというか……な?」
確かに、見た目に強烈ではある。が、別に嫌悪はない。試しに握って上下させると、棘が刺さって血が出たり、内壁をズタボロにするような強度ではなさそうだ。
「おい!」
「流石に直接目にするのは始めてなので驚きましたが、別に嫌悪はありませんよ」
何より好いた男の逸物だ、拒絶なんてない。
鯛は思い切って先端の方を口に含んでみる。舌にざらりとするが、やはり傷つけるほどではない。中で膨らんだら引っかかってしばらく抜けないだろうが、それだけ長く交尾をするのだと思えば大した事はない。
「一つ伺いますが、これって両方一遍に入れなければいけませんか?」
「入らないだろ!」
「あぁ、良かった。それなら何の問題もありませんね」
脱ぎ捨てた着物の袂から、鯛は小さな箱を取り出す。そしてそれにフッと息を吹きかけると、文箱くらいの大きさに変わった。
中には潤滑油となる油が入っているが、少し混ぜ物もした。塗れば内壁は潤い柔らかくなり、微かに温まるものだ。
四つん這いになった鯛が潤滑油を指にとり、そっと菊座に触れる。海蛇の逸物がこのような形をしているのだと知った時からひっそりと慣していたので、指の一本は簡単だ。ズブズブと飲み込み、潤滑油が内壁に染みていく。ぬるりとした液をこそぐように内壁は蠢き、飲み込んではヒクリと欲しそうに窄まる。
それを見る海蛇の顔つきが変わった。
「十分に慣しておりますから、少しその潤滑油を足してください。そうすれば直ぐに、入れますよ」
「慣してたのかよ」
「お前を受け入れると決めた時から、ね。それとも、淫乱はお嫌いで?」
「俺がやりたかった」
「……今後は、お願いします」
男の尻を解すのは根気も手間もいる事なのに「やりたかった」なんて。これに愛情を感じてしまうのは正しいのか。鯛は今も十分混乱状態だ。
四つん這いになり、海蛇の指が菊座に触れ、ぬるりと中へ押し入ってくる。自分とは違う指の感触に尻は震え、入口はキュッと締め付けた。武官の硬い指の腹。それが内壁を確かめるように動き回る。腹を内側から擦られるおぞましい快楽は、直ぐに鯛をグズグズにした。
「中、すごく動くな。俺の指を美味しそうにしゃぶる」
「ふぅ……はぁぁ……」
「ここも、いいだろ?」
「ひぃ!」
グリッと押された部分から痺れる。腹の中は火が付いたように熱い。ここが快楽のツボだというのは鯛がよく知っている。そこを狙うように海蛇が何度も擦るから、鯛の男根からはぼたぼたと白濁混じりの先走りが零れてシミを作っていく。かくかくと腰が動き、雌のように腹で快楽を貪り達しているのが分かった。
指が二本、三本に増え、ぐりぐりと入口で捻るように動いて、腹の中は火事のようだ。甘く疼いて痺れて熱い。欲しい欲しいと奥が疼いてたまらない。頭は再びぼやけ、白くなりそうになる。
「そろそろいいか?」
ぬるりと抜け出た指。その代わりに宛がわれたのは、二本のうちの一本だ。さっき見た時よりも大きそうな感触に臓腑が震える。くびれのない棒状のそれはゆっくりと、鯛の腹の中へと押し込まれていった。
「あぅ! はぁ……ぅあぁぁ……」
「くっ、熱い……」
感じた事のない感覚に腰が震えて達した。ざらざらしたものが真っ直ぐに内壁を擦って入ってくる。まだ、腰を引かれない。ゆっくりゆっくり進むだけだ。
やがてそれは最奥の少し手前で一旦止まり、次に海蛇の腰が打ち付けられる。どうにか腹に全部が収まったようだ。だが本当の快楽は海蛇が腰を少し引いた瞬間に訪れた。
返しのようになっていた細かな棘が締め付ける内壁に刺さって抜けてこない。傷つくほどの痛みはないが、違和感と内臓を引き抜かれるような感覚にゾクゾクと背に怖気がはしる。そうはさせまいと余計に襞が絡むから、余計に臓腑が揺さぶられる感じがする。
更にそれが叩きつけるように最奥を突く。ビリビリして、目の前が真っ白だ。
「悪い、そんなかけないから」
「あぐ! はっ、あっ、あぁ!」
腹から力が抜けない。全部に引っかかる。引っ張られる。引きずり出されそう。それが、気持ちいい。
上半身が崩れ、尖った乳首が布団に擦れてジンジンする。腹の中がぐじゅぐじゅに潤っている気がする。潤滑油が混ざっているのだろう。奥を硬い先端がコツコツ叩くのが好きだ。力強い手が腰を支え、快楽に負けて深くを抉る。それが、たまらなく好きだ。
あぁ、後背位ではなく正常位にすればよかった。そうしたら今、口が寂しい事もなかったのに。
自らの指を試しに吸って、舌を掻き混ぜてみる。それでも十分気は紛れる。
「後で、口吸ってやるから」
「んっ、ふっ…………はぁぁ、だめぇ。もう、無理です!」
大きな波が腹の全部を満たそうとしているのを感じる。腰骨から腹から昂ぶりから、全部が気持ち良くて馬鹿になる。
感じたのか、海蛇も更に深くを狙って打ち付け抉る。最奥を先端が深く抉った瞬間、鯛は一気に飲まれていった。
高い嬌声を上げ、背をのけぞらせて震えたまま腹の中が熱く濡れる。絞るように奥へと内壁が海蛇の逸物を絡め取って、子種の一滴までも欲している。ガクガク震える足は立てていられず潰れ、その衝撃で更に奥を突かれて鯛の昂ぶりからも子種が散った。
背中にぴったりと合わさった熱。汗をかく二人の肌が触れあって、切ない息も重なっていく。
僅かに首を横に向ければ、海蛇の顔がある。海蛇もそれに気づいて、二人は少し無理な体勢で唇を合わせた。苦しいのに気持ちいい口吸いは溺れるようで、鯛はうっとりと身を任せていた。
結局、お互いドロドロで朝を迎えた。着物は途中で海蛇が引っ張りぬいて無事だが、体の方はそうもいかない。
「お湯、貰って帰りましょう」
「同感」
怠い体を起こす鯛の手を、海蛇が取って立たせてくれる。そして思いがけずその手の甲にそっと口づけた。
「!」
「アンタが好きだ」
「……私も、ですよ」
「許してくれるなら、所帯を持ちたい」
「私だってそのつもりです。まだ少し、恋仲を楽しみたいですが」
「俺もだ」
「……子供、産ませてくれますか?」
「祝言上げてからな」
案外しっかりした未来図に、鯛はくすくすと嬉しそうに笑った。
【外伝6 完】
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