16 / 28
浦島太郎外伝3 竜王の祝言
三話
しおりを挟む
今日の日を、亀はできれば理由をつけて欠席したかった。それというのも南海王に、この竜宮で会うことになるからだ。
正直視線が痛い。元々鯛は那亀を見て疑っていた……というよりも、ほぼ確信していたようだった。他の面々も苦笑していたが、あえて何も言わないでいてくれた。
が、流石に今日はいたたまれない。浦島まで「苦労してそうだな」という目で亀を見るのだ。
だからといって我が子は可愛い。どんな理由でもお腹を痛めて産んだ子だ。分身のような存在だが、慕って付いてくる我が子に精一杯の愛情を注いでいるし、宝物にかわりはない。
ただ見た目だ。どうして自分に似てくれなかったんだ!
宴席をしばし離れて庭に出た亀は、ちょっと泣きたい気分だった。
「もう、いやだ……何か恥ずかしい……」
「堂々としていれば良いではありませんか」
「!」
突如後ろからした声にビクリと大げさに肩を震わせ、亀は振り返る。見れば那亀を抱っこした南海王が立っていて、亀を見て近づいてきていた。
「な……南海王様……」
「どうして逃げるのです、亀。私たち、もう立派な親子ですよ?」
「誤解のある言い方をするのは止めてください!」
全身鳥肌。思わず自分を抱きしめた亀に、眠そうに目を擦る那亀が顔を向けて手を広げた。
「母様、だっこぉ」
「え? あっ」
我が子の小さな手が亀を欲して伸ばされるのを無下になどできない。咄嗟に近づいて那亀を受け取った亀は、あえなく南海王にも捕まった。
「んぎゃぁぁ!」
「これ亀、騒いではなりません。那亀が眠れないでしょ」
「夫面止めてください!」
「おや寂しい。誰がどう見ても、この子の片親は私ですよ」
「そう見えるように貴方が力を加えたのでしょ!」
大事に那亀を抱っこしたまま、亀は小さく悲鳴を上げる。それを見る南海王の実に楽しそうな顔。だが同時に、那亀を見る目は本当に父親のような優しい目だった。
「確かに、貴方の卵に余っている分の力を注いで形を与えたのは私ですね」
「うぅ、やっぱりあの段階で持って帰れば良かった」
「時既に遅し。この子は間違いなく、お前の神気と私の神気が混ざり合った子。私たちは親子のようなものですよ」
「考えたくありません!」
ジタジタと抵抗する亀を、腕の中の那亀がジッと見る。そして同じように南海王を。
「父様、母様虐めちゃめ! なんだよ」
小さくゆるゆるっとした声がそんな事を言い、南海王は驚いた顔をする。そうして再び眠いのか、すよすよと亀の胸に顔を埋める那亀を見て、南海王は顔を染めた。
「……可愛い」
「はぁ……」
何だかんだと亀に悪戯をするし、嫌がらせをするし、時に足蹴にもするのだが、那亀が出来てからは少し違ってきた。本当に心から可愛いと思ってくれているようで、会いたがる。公務のついでに合わせると、亀そっちのけで二人で楽しそうにしているのも見ている。
何だかんだでこの人を憎みきれないのは、根は優しい人だと知っているからだ。
「亀や」
「はい?」
「そのうち、本当に私の子を産んでみたくありませんか?」
「はぁ!」
とんでもない方向に話が向かい、素っ頓狂な声を上げる亀。だが、そうして見上げた南海王は意外と真剣な顔をしていて、逃げる機会を逃してしまう。抱き込まれる腕の中、緊張しているような心臓の音を聞いて、亀の方までドキドキした。
「那亀の弟、産んでみたくありませんか?」
「ありませんよ!」
「……私はお前に産んで欲しいのですがね」
しんみりと、真面目な声に調子が狂う。これなら冗談や嫌がらせのほうがよほど切り返せる。何故か顔が熱くなる亀は、腕の中で那亀が動いたのを切っ掛けに腕の中をすり抜けた。
「僕はまだ、東海王様の元を離れる気はありません!」
「……そうですか」
「……那亀を寝かせてきます。お戻りください」
伝え、亀はゆっくりと自室へと戻っていった。
◆◇◆
部屋に戻って布団を敷き、着替えさせている間に那亀は少しだけ目が覚めてしまったようだ。まだ眠そうに大きな目を擦っている子は亀を見て、小さな声を上げた。
「母様」
「なに?」
「父様の事、嫌いなの?」
問われると、少し困る。別に嫌いなわけではない、苦手だけれど。悪い人だとは思っていない、意地悪だけど。好かれているとも知っている、歪んでいるけれど。
なので、困るのだ。
「嫌いではないよ」
「じゃあ、好き?」
「……難しい」
「そうなの?」
「那亀は好き?」
「うん、好き。とてもね、優しいんだよ。今日もね、母様いなくて寂しくなったら抱っこしてくれてね、探してくれたんだよ」
「……そうか」
無条件に懐く我が子の目は、ある意味で正しいのかもしれない。この子の言う面もまた、あの人は持っている。
だからってこれまでの事が無くなるわけでもなくて、色んな事がまだ引っかかっていたり、こだわっていたりもする。結局、亀と南海王の間は難しい事だらけなのだ。
那亀を寝かせ、明かりを落とす。元々眠かった那亀はすぐに静かな寝息を立て始め、亀も優しい目で見つめ、そっと部屋を出た。
正直視線が痛い。元々鯛は那亀を見て疑っていた……というよりも、ほぼ確信していたようだった。他の面々も苦笑していたが、あえて何も言わないでいてくれた。
が、流石に今日はいたたまれない。浦島まで「苦労してそうだな」という目で亀を見るのだ。
だからといって我が子は可愛い。どんな理由でもお腹を痛めて産んだ子だ。分身のような存在だが、慕って付いてくる我が子に精一杯の愛情を注いでいるし、宝物にかわりはない。
ただ見た目だ。どうして自分に似てくれなかったんだ!
宴席をしばし離れて庭に出た亀は、ちょっと泣きたい気分だった。
「もう、いやだ……何か恥ずかしい……」
「堂々としていれば良いではありませんか」
「!」
突如後ろからした声にビクリと大げさに肩を震わせ、亀は振り返る。見れば那亀を抱っこした南海王が立っていて、亀を見て近づいてきていた。
「な……南海王様……」
「どうして逃げるのです、亀。私たち、もう立派な親子ですよ?」
「誤解のある言い方をするのは止めてください!」
全身鳥肌。思わず自分を抱きしめた亀に、眠そうに目を擦る那亀が顔を向けて手を広げた。
「母様、だっこぉ」
「え? あっ」
我が子の小さな手が亀を欲して伸ばされるのを無下になどできない。咄嗟に近づいて那亀を受け取った亀は、あえなく南海王にも捕まった。
「んぎゃぁぁ!」
「これ亀、騒いではなりません。那亀が眠れないでしょ」
「夫面止めてください!」
「おや寂しい。誰がどう見ても、この子の片親は私ですよ」
「そう見えるように貴方が力を加えたのでしょ!」
大事に那亀を抱っこしたまま、亀は小さく悲鳴を上げる。それを見る南海王の実に楽しそうな顔。だが同時に、那亀を見る目は本当に父親のような優しい目だった。
「確かに、貴方の卵に余っている分の力を注いで形を与えたのは私ですね」
「うぅ、やっぱりあの段階で持って帰れば良かった」
「時既に遅し。この子は間違いなく、お前の神気と私の神気が混ざり合った子。私たちは親子のようなものですよ」
「考えたくありません!」
ジタジタと抵抗する亀を、腕の中の那亀がジッと見る。そして同じように南海王を。
「父様、母様虐めちゃめ! なんだよ」
小さくゆるゆるっとした声がそんな事を言い、南海王は驚いた顔をする。そうして再び眠いのか、すよすよと亀の胸に顔を埋める那亀を見て、南海王は顔を染めた。
「……可愛い」
「はぁ……」
何だかんだと亀に悪戯をするし、嫌がらせをするし、時に足蹴にもするのだが、那亀が出来てからは少し違ってきた。本当に心から可愛いと思ってくれているようで、会いたがる。公務のついでに合わせると、亀そっちのけで二人で楽しそうにしているのも見ている。
何だかんだでこの人を憎みきれないのは、根は優しい人だと知っているからだ。
「亀や」
「はい?」
「そのうち、本当に私の子を産んでみたくありませんか?」
「はぁ!」
とんでもない方向に話が向かい、素っ頓狂な声を上げる亀。だが、そうして見上げた南海王は意外と真剣な顔をしていて、逃げる機会を逃してしまう。抱き込まれる腕の中、緊張しているような心臓の音を聞いて、亀の方までドキドキした。
「那亀の弟、産んでみたくありませんか?」
「ありませんよ!」
「……私はお前に産んで欲しいのですがね」
しんみりと、真面目な声に調子が狂う。これなら冗談や嫌がらせのほうがよほど切り返せる。何故か顔が熱くなる亀は、腕の中で那亀が動いたのを切っ掛けに腕の中をすり抜けた。
「僕はまだ、東海王様の元を離れる気はありません!」
「……そうですか」
「……那亀を寝かせてきます。お戻りください」
伝え、亀はゆっくりと自室へと戻っていった。
◆◇◆
部屋に戻って布団を敷き、着替えさせている間に那亀は少しだけ目が覚めてしまったようだ。まだ眠そうに大きな目を擦っている子は亀を見て、小さな声を上げた。
「母様」
「なに?」
「父様の事、嫌いなの?」
問われると、少し困る。別に嫌いなわけではない、苦手だけれど。悪い人だとは思っていない、意地悪だけど。好かれているとも知っている、歪んでいるけれど。
なので、困るのだ。
「嫌いではないよ」
「じゃあ、好き?」
「……難しい」
「そうなの?」
「那亀は好き?」
「うん、好き。とてもね、優しいんだよ。今日もね、母様いなくて寂しくなったら抱っこしてくれてね、探してくれたんだよ」
「……そうか」
無条件に懐く我が子の目は、ある意味で正しいのかもしれない。この子の言う面もまた、あの人は持っている。
だからってこれまでの事が無くなるわけでもなくて、色んな事がまだ引っかかっていたり、こだわっていたりもする。結局、亀と南海王の間は難しい事だらけなのだ。
那亀を寝かせ、明かりを落とす。元々眠かった那亀はすぐに静かな寝息を立て始め、亀も優しい目で見つめ、そっと部屋を出た。
1
お気に入りに追加
309
あなたにおすすめの小説
奴隷騎士の雄っぱい牧場
丸井まー(旧:まー)
BL
敗戦国の騎士リンデは、敵兵に捕らえられ、奴隷となった。リンデは、他の者達と共に移送された先の施設で、何故の注射をされた。それから平穏な日々を過ごしていたリンデ達だが、ある日から乳が出るようになり、毎日雌牛のように乳を搾られるようになった。奴隷となった騎士リンデは、貴族の男に買われ、美しい男ダーナディルに乳を飲ませることになった。奴隷騎士の搾乳雌堕ちデイズ!
※てんつぶ様主催の「奴隷騎士アンソロジー」に寄稿させていただいた作品です。
※ムーンライトノベルズさんでも公開しております。
油断して媚薬を盛られたら何故か雄っぱいがおっきくなって乳が出た!?こっそり台所ではぁはぁしながら自分の乳を搾っていたら、上官に見つかった!!
丸井まー(旧:まー)
BL
近衛騎士をしているハビエルは、ある日護衛対象である変態貴族に媚薬を盛られた。慌てて近衛騎士専用の寮の台所に逃げ込んだはいいが、何故か胸がどんどん膨らみ、乳首が乳が出た。驚きながらも、なんとかしようと、はぁはぁしながら乳搾りをしていたハビエルの元に、上官である隊長のレグロが来てしまう。
やる気なさ気な男前隊長✕乳が出るようになっちゃった美形騎士。
※搾乳です!♡喘ぎです!
※ムーンライトノベルズさんでも公開しております。
無事に子供が産まれたので2人目子作り頑張ります
掌
BL
タイトル通りの男性妊娠可能となった世界で子作り出産して家族になった凸凹カップルの「みのかな」が、満を持して2人目子作りとしてゲロ甘イチャラブ交尾をする話。今回もエモ&ポエム濃度が濃い目なのでご注意ください。
Twitterのリクエスト企画でいただいたリクエスト第9弾です。ありがとうございました!
pixiv/ムーンライトノベルズにも同作品を投稿しています。
攻め:犬花実 / ほわほわスパダリ天然S
受け:猫咲奏 / ひねくれツンデレ甘えM
「いぬねこのみのかな」
なにかありましたら(web拍手)
http://bit.ly/38kXFb0
Twitter垢・拍手返信はこちらから行っています
https://twitter.com/show1write
浮気をしたら、わんこ系彼氏に腹の中を散々洗われた話。
丹砂 (あかさ)
BL
ストーリーなしです!
エロ特化の短編としてお読み下さい…。
大切な事なのでもう一度。
エロ特化です!
****************************************
『腸内洗浄』『玩具責め』『お仕置き』
性欲に忠実でモラルが低い恋人に、浮気のお仕置きをするお話しです。
キャプションで危ないな、と思った方はそっと見なかった事にして下さい…。
【R18】双子の弟に寝取られたと思ったら二人に溺愛された
白井由貴
BL
ある日、自室に向かおうとしたら何やら声が聞こえてきた。喘ぎ声の様な声に部屋を覗くと、そこには恋人に跨って喘ぐ双子の弟の姿。恋人を弟に寝取られたと絶望し、悩んだ末に別れたいと告げる。しかし恋人である浩介は別れたくないと言い、双子の弟である晴人と共に自室に連れて行かれてしまう。そこで知った事実とは───
恋人と双子の弟に溺愛される双子の兄のお話。
【絶倫攻め、敏感受け】
※3P、近親相姦、無理矢理、軽い拘束、潮吹きなどの要素があります。
※内容がほぼ全てに性的表現があります。
苦手な方はご注意ください。
※ムーンライトノベルズさんでも公開しています。
彼女ができたら義理の兄にめちゃくちゃにされた
おみなしづき
BL
小学生の時に母が再婚して義理の兄ができた。
それが嬉しくて、幼い頃はよく兄の側にいようとした。
俺の自慢の兄だった。
高二の夏、初めて彼女ができた俺に兄は言った。
「ねぇ、ハル。なんで彼女なんて作ったの?」
俺は兄にめちゃくちゃにされた。
※最初からエロです。R18シーンは*表示しておきます。
※R18シーンの境界がわからず*が無くともR18があるかもしれません。ほぼR18だと思って頂ければ幸いです。
※いきなり拘束、無理矢理あります。苦手な方はご注意を。
※こんなタイトルですが、愛はあります。
※追記……涼の兄の話をスピンオフとして投稿しました。二人のその後も出てきます。よろしければ、そちらも見てみて下さい。
※作者の無駄話……無くていいかなと思い削除しました。お礼等はあとがきでさせて頂きます。
召喚された美人サラリーマンは性欲悪魔兄弟達にイカされる
KUMA
BL
朱刃音碧(あかばねあおい)30歳。
ある有名な大人の玩具の開発部門で、働くサラリーマン。
ある日暇をモテ余す悪魔達に、逆召喚され混乱する余裕もなく悪魔達にセックスされる。
性欲悪魔(8人攻め)×人間
エロいリーマンに悪魔達は釘付け…『お前は俺達のもの。』
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる