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浦島太郎外伝1 南海王は亀を所望し候
二話
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そうと決まれば早いほうがいい。薬がどのくらいで効くのか、卵はどのくらいで出来るのか分からない。明日には浦島を陸に送っていく。陸と海を行き来できるのは亀だけだ。
南海王の寝所に移された亀は早速、小さな丸薬を手に乗せられた。
「これが、性別を一時的にひっくり返す薬ですよ」
「これが……」
こんな小さな薬で性別がひっくり返る。なんて恐ろしいものなんだ。手の上の薬をマジマジと見ながら、亀の喉がゴクリと鳴る。
「ほら、飲まないのですか?」
「の……飲みます!」
覚悟を決めて丸薬を口に放り込み、水を流し込む。簡単に飲み込めたそれに味などない。例えあったとしても緊張で分からなかっただろう。
飲み込んでみたが、しばらくは特に変化がない。疑問に思い自分の体をあちこち触っていると、突然腹の辺りがカッと熱くなり、思わず床に膝をついた。
「かっ……あっ、つい!」
腹の中が焼けるように熱い。痛みすら感じる熱に恐怖して腹を抱えて泣いていると、南海王が近づいてきて顔をクッと上げさせた。
「辛そうですね」
「うぅ……」
「腹の中が一番変化が大きいですし、即効性で一気に変わっていきますからね。でも、そろそろ治まりますよ」
言うやいなや、南海王は亀の履き物を綺麗に脱がせ褌も取り払う。そうして見た自分の下肢は、思った以上に衝撃で悲しかった。
通常時はそれほど大きくはないが、人の形を取れば一応はついている。なのに今はつるんとして何もない。しかも南海王が無理矢理足を開かせ股ぐらを撫でてニッと笑う。その意味を、亀も分かっていた。
「綺麗なアワビですね。当然ですが未使用ですし、色も形もなかなかです」
「み……見ないでください……見ないでぇ」
恥ずかしいやら悲しいやらで涙がぽろぽろ零れ落ちていく。雄の尊厳は大事なものだと思い知り、同時に浦島にしている仕打ちの非道さに顔も上げられなくなる。雄の身で子を産まされるなんて、よほど相手を好いていなければ心が壊れる。亀だって今は一時雌の体だけれど、心は雄のままなのだ。
「嫌だ」を繰り返ししゃくり上げる亀を見る南海王は、思ったほど楽しそうではない。むしろ少し悲しそうに眦を下げている。この人が強いている事なのに、なんだこの顔は。楽しませろと言ってここに連れてきたのはこの人なのに。
思わず睨むと、南海王は眉を上げ、次にスッと顔を近づける。思ったよりもしっかりと重なった唇は、程よい柔らかさで気持ち良かった。
「これが、発情の薬です。飲ませてさしあげましょうか?」
「飲ませてって……」
「勿論、口移しですよ」
もの凄く悪戯っぽい顔で言うが、とんでもない!
「そんな事をしたら貴方様まで発情するではありませんか!」
「おや? 亀が相手をしてくれるのでしょ?」
「しません! いりません! 自分で飲めます!」
南海王の手から瓶に入った薬をひったくり、栓を抜いて飲み干す。案外サラリと飲み干せてほんのりと甘い。陸の果汁でも入っているのだろうか。
そんな事を考えていた亀は、急速に起った体の変化に一瞬気をやり崩れ落ち、甘い痺れに腰が立たないまま熱い息を吐くことになった。
「あ……あぇ? ふぅ、うぅ……」
体が熱くて言う事をきかない。肌が敏感でたまらない。腹の奥がジクジク疼いて、それに伴い何かが産まれていく。臍の裏側辺りにゴロゴロしたものがいくつも作られている。
「始まりましたね」
「はぁ……あっ、つい……助け、て……」
「強制的に、しかも短期の発情ですからね。反応が一気に強く出ます」
「い、ぁ……あぐっ、くる、しぃ」
「腹の中でどんどん卵が出来ていますね。大体五十くらいあれば足りますので、頑張ってください」
「五十! あぎ! あっ、はぁぁ」
腹の中が苦しい。食べ過ぎた時の何倍も苦しいし重たい。仰向けに転がったまま動けない亀の腹はどんどん大きく膨らんでいく。よくぞこんなに腹の皮が伸びるものだと驚いてしまうくらいだ。
その様子をしげしげと見ていた南海王は、何を思ったか近づいてきて更に亀の衣服を乱す。上半身の紐を解いて前を暴くと、ほっそりと綺麗な手で胸を撫でた。
「はひぃ! はぁ、だめ、おやめ下さい!」
「ふむ、女体薬を飲んでも胸はつるんぺたんですか。母乳で子育てをしないのだから当然と言えば当然ですが……雌の人魚は人化するとこれでもかと豊満なのですよね」
「ふひぃ!」
とても疑問そうに高説をたれるが、同時に亀の胸を無遠慮に撫で、揉み、乳首を摘まむ。発情のせいか痺れるように気持ち良くてガクガク震えながら身もだえ喘ぐ事しかできない亀の腹の中では、その刺激で更に卵がポコポコとできている。
更に何を思ったのか、南海王は摘まんでツンと尖った乳首を突然口に含む。それだけでも衝撃だというのに、ねっとりと舌を絡めて乳首をこねくり、絡め、吸い付く。ビクンビクンと腰が跳ねて腹の中がカッと熱くなり、トロトロの愛液が出来たばかりの部分から溢れた。
「やはり出ませんか。妊娠みたいなものだから、もしかしたらと思ったのですが」
「は……はひ……ふっ、ふぅぅ」
「やはり性よりも魂の形を映すのでしょうね。魂は男だから、ここも膨らまない」
「も……もう止めてくらさい! 死にます! 死んじゃいます! お腹破裂してしまいます!」
「おや、臨月のよう。ふふっ、よく育ちますね。ねぇ、亀や。ここで私がお前に挿入して、中にぶちまけたらこの卵は有精卵になって、育てば子亀が出てくるのでしょうかね?」
「恐ろしすぎる事を言わないでください!」
そんな事になったら……怖い。怖すぎる! 人生終えたい! 亀生か? そんなのどっちでもいい!
動けないながらもジタジタしている。すると急に腹の中がキュルキュルし始めた。徐々に腹が少し痛む感じもあり、動いているのを感じる。ビクッとしたまま動かず、徐々に顔色を悪くし浅い息を吐く亀に、南海王も動きを止めた。
「おや? 産まれますか?」
「ひっ! い……嫌だ……嫌です!」
「産まれない方が困ると思いますが」
「嫌……怖い、怖いです……南海王様ぁ!」
卵は互いに擦れながら腹の中を徐々に下に向かって降りてくる感じがする。もうコツコツと入口を突きだし、今か今かと出待ち状態。硬く閉じた入口が産気づいた事で徐々に口を開けようとしている。
更に痛みが激しくなり、とにかく中の物をひり出そうと下腹に力が入りそうになる。でも出ないのだから無駄で、耐えるしかない。そのあまりの痛みに腰が熱く溶けそうで、意識は朦朧としてきた。
助けを求められた南海王は少し思案して亀を床から移動させ、自分の寝台に上半身を乗せるように四つん這いにして、更に下には柔らかな布団を敷いた。そして、丸見えになった濡れる部分に指を突っ込み奥まで挿入すると中をクニクニと刺激し始めたのだ。
「ひぃ! ふやぁぁぁ!」
ゾクゾクっと腰からせり上がる痺れ。そして腹がグンッと締まる感じ。痛みが増して早く出したくて、秘部からはダラダラと透明な液が落ちていく。
南海王は様子を見て立ち上がり、引出しから軟膏壺を取り出す。その中身を少量指に取ると再び挿入して、硬い入口に塗りつけた。
「あ、あひ? ふっ! ふぅぅぅぅ!」
塗られた所が熱い、そして力が入らない。一気に柔らかくなった部分を卵が一つ通り抜け、ズリズリと内壁を擦って落ちていく。おぞましいが、同時に気持ちいい。それがまた亀を驚かせ、否定させた。
「ふぁ! ぁ、あ? あぁ! 出る! いっ、嫌だぁ……見ないでくださいぃぃ!」
腹に力が入って、卵が一つぬるりと下に落ちる。厚く柔らかな布団に落ちたそれを、南海王は摘まみ上げた。
「綺麗な形ですね。大きさもいい」
「ひぃ……ふぅ……ふぅ……はひ! ふぁあぁぁぁ!」
一つ落ちればもう歯止めなどかからない。一つずつ肉壁を擦りながら産まれる卵。それが狭い部分を通ってひり出される度に、亀は痛みとは違うものを感じて戸惑った。
痛かったはずなのに、それは徐々に薄らいできている。逆に敏感な内部をたっぷりと擦りながら生まれ落ちる刺激や、入口を通り抜ける時の感覚に腰骨は蕩けてしまい、足はガクガクと震えていた。
「だ……だめ……これダメです! 僕は雄なんですぅ!」
「おや、気持ち良くなってきましたか」
「ちが、ちがうぅぅ!」
ぽろ、ぽろっと卵が落ちる。二つ、三つ……十コも産むと痛みはなくなり甘い痺れが下肢を蕩けさせるようになる。腰が持ち上がらなくて布団に擦りつけるように卵を生み続ける亀を、南海王は嬉しそうな顔で見ている。視線を感じ、見られている事にまた快楽を感じて、戸惑いは深くて辛い。気持ちいい事に逆らえないが、雄としての矜持も捨てられない。
「み、ないれぇ……卵産むの、見ちゃいられす……」
「呂律が回っていませんよ。気持ちいいのですね」
「ちが……気持ち良く、ないぃ!」
話している間も卵がどんどん出てきて、段々と布団の上に山を作っていく。南海王がそれを抱えて別の器に入れていくが、徐々に産む早さは加速していく。一つずつだがツルツルと滑り落ちるくらいになっていて、亀は下肢に流れる甘い疼きにもう逆らえなくなっていた。
「ふっ、ふぇえ、あぐ、いぃ……も、痺れるよぉ……はぁ……気持ち良く、なりたく無いのにぃぃ! はぁ……止まらないよぉぉ!」
「うーん、淫靡で困りますね。可愛いお前が涙を流してヒンヒン言いながら卵を産むのはこんなにも欲情を誘うのですね」
「そん、なぁぁ! こと! 関心しな、いぃぃぃ! で、くださいよぉぉぉぉ!」
この人やっぱ嫌いだ! 意地悪で鬼畜で何考えてるか分からなくて加虐癖で変態で!
腹の中が大分軽くなってきた。だが、まだゴロゴロする。腹の中がキュゥゥと締まってきて、ジンジンしている。疲れてきたのに終われない。全て出し切るまで許されない。
「も……疲れた…………も、産みたくないぃぃ」
ポトリと、また出てくる。後どのくらい残っているのだろう。とにかく必死に産むことだけに専念して終わらないと、腰が抜けてしまう。
約一寸の丸い卵がドンドン出てきて、腹はぺたんと凹んだ。山盛りの産みたて卵の器が五つくらいある。どれだけ産んだんだか分からない。
「貴方、多産ですね。五十くらいあれば十分だと思っていましたが、八十は越えていますよ」
「う……嬉しくな、いひぃぃぃ!」
またポトリ。本当にいくつ入っているんだ!
でも徐々にせり上がるようないきみも治まってきて終わりを感じた亀は、だが最後だろう卵が入口に引っかかって顔を青くした。どうやらその卵は他よりも大きいみたいで、柔らかく弛緩した入口をギリギリで通らない。いきんでもダメで、どうしようもない。
亀のその様子に気がついた南海王が近づいて、熟れてぬるぬるの秘部にズブリと指を差し入れる。そうして引っかかっている卵を確認すると、一度指を抜いた。
「亀や、お前は鶏かなにかですか? 随分大きなのが腹に引っかかっていますよ」
「ひ、かかっていますよ、じゃないぃ! でない……出ないですぅ。お願い、出てぇ。産ませてぇぇ」
脂汗を滲ませて必死にいきんでも出てこない。つるんと腹の中に戻ってしまう。これ、このまま出てこなかったらどうなってしまうのだろう。
不安にエグエグと泣く亀を見て、南海王はしばし考える。そしてぬるりとした液体で自らの手を汚すと、それを一気に亀の肉壺へと埋めてしまった。
「あぐぅ! うっ……あぁぁぁ!」
腹の中で手が大きく開いて入口へと到達し、狭い部分を指で押し広げていく。焼けるような痛みに目の前がチカチカして歯の根が合わずにガタガタ鳴る。ブルブル震えたまま、南海王の指が出かかった最後の卵に触れた。
「一気にいきみなさい!」
「はぁ、はひぃぃぃぃぃ!」
無理矢理広げられた入口が痛い。多分裂けた。でもおかげで詰まっていた卵がつるんと滑り出て、南海王の手で外へと出される。本当に、鶏の卵くらい大きかった。
「よく頑張りましたね」
「お、なか……いたい……」
意識が消えそうなくらいぐったりで、全部に力が入らない。崩れるように倒れた亀の腹に外側から触れた南海王の手が温かくなってくる。
「……ぁ」
「この程度なら私の力で癒やせますから。少し血が出ましたね。具合、どうですか?」
「あ……たかい……」
「眠りなさい、起こしてあげますから」
体が温かくなって、眠くなってくる。そのまま気絶するように眠った亀は、夢も見ないほどに落ちていった。
フッと、温かな場所で目が覚めた。まだ寝ぼけている目で辺りを見回した亀は、誰かの腕の中だと認識して一気に目が覚めた。
目の前には煌びやかな服を脱いだ南海王がいる。深紅の夜着に、普段は結い上げている髪を下ろした彼は目を閉じている。その顔立ちは目を閉じていても美しいが、少し幼くも見えた。
辺りはまだ暗い。起き上がろうとモゾモゾしていると、背中に回っていた手が亀の襟首を掴んでもの凄い力で引き倒した。
「んご!」
「まだ寝ていなさい。明け方に帰れば十分でしょ」
「南海王様!」
南海王は薄らと目を開けてこちらを見ている。少し気怠げな感じが余計に色気をふりまいている。
「お前、人を虫けらのような目で見ていますね」
「その色気で何人食い荒らしたのかと」
「失礼な亀ですね、お前は。誰も食ってはいませんし、孕ませてもいませんよ。私にはまだ発情期はきていませんからね」
「そうですか」
「あぁ、発情期が来たら真っ先にお前に飲ませに行きますから。口に入れる物、気をつけなさい」
「どんな嫌がらせなんですか!」
これ以上そういうのは御免被る。枯れていると言われてもいいから、やっぱりこういうのは自分にはむかない。
ガタガタ言っていると、南海王はふと目元を緩めて笑う。楽しそうで優しいその顔を見ると、この人を憎みきれなくなるのだ。
「まぁ、それは後々ということで」
「流れないんですね……」
「体の方は大丈夫ですか?」
「こっちは流すんですね」
問われて体を見回し、亀は目を輝かせた。ちゃんと元に戻っている!
「ほわぁぁ、お帰り僕ぅ」
「どこに向かって言っているのですか」
「南海王様も一度つるんとしてみればいいんですよ! 凄く悲しかったんですから!」
「そうですか?」
想像してみたのだが……ダメだこの人、性別の垣根がなさそうだ。付いていようと付いてなかろうとそれはそれで楽しみそうで嫌だ。
「もう、どうしてこだわり無いんですかぁ」
「海の生き物はこんなものですよ」
「もう嫌だぁ、海洋生物共ぉ」
がっくりと肩を落とした亀を、南海王は楽しそうに笑い飛ばした。
「そういえば、最後の卵。アレってなんですか?」
大事な事を一つ思い出し南海王に聞くと、彼は寝台を降りて机へと向かう。そして、そこに大事に置かれている大きめの卵を持ってきてくれた。
「うわぁ……改めて見ると大きいですね」
「これですが、生きていますよ」
「………………え?」
それって、どういう……。
彼の言葉を正しく受け取った亀は、涙目で南海王を睨み付けた。
「最低です南海王様! あれほど有精卵はダメだって言ったのに、僕をお母さんに!」
「お待ちなさい亀、誰が貴方にぶち込みました。お前、意識あったでしょ? いつ処女喪失しました」
「してないけれど! してませんけど! でも南海王様なら何か、どうにかしてそのくらいの嫌がらせすると思います!」
「流石の私もそれほど無責任に父親になるつもりはありませんよ」
溜息をついた南海王に、ではどういう意味なんだと亀は彼を見た。
「おそらくですが、お前の神気が排出された結果ではないかと思います」
「神気……ですか?」
確かに、ないことはない。一応海神である東海王の眷属だ。これでも不老長寿ではある。
だが、これまでそんな事なかった。亀にはそんなに強い神気などないと思っていた。
「お前は長く東海王といますから、彼の神気を知らぬうちに吸収しているでしょうし、最古参です。今まで、何かしらの方法で排出したことは?」
「ありません」
「では、体に溜まっていたものが出たのでしょう。過剰な分が出ただけなので体は平気だと思いますが」
そう言われてから卵を見ると、なんだか不思議な気分がしてくる。
「ということは、この卵からは何が産まれるのですか?」
「まだ分かりませんが、宿主に似た形を取る事が多いようです。または何かしらの力ある結晶となるか」
「そうですか……」
不思議だ、そう聞くとなんだか愛しく思えてくる。これも一応、お腹を痛めて産んだ子だ。
……浦島も、そう思ってくれるといいな。
「それで、この卵どうしますか?」
「え?」
「持って帰りますか?」
「…………え」
これを? 持って帰る?
……絶対に言い訳が通用しなさそうなのが二人いる。
「あの、それはちょっと」
「でしょうね。鯛と東海王にはバレますよ」
「ですよねぇ。絶対に弄られますよね」
「面白いですから、鯛は十中八九」
「嫌すぎる!」
鯛も亀と同じく最古参。妙に意識される事も多い。その中でこれだ、絶対に南海王と同じ目で弄ってくる。
でも放置しておくのも忍びない。元気に産まれてきてほしい。
そんな事を思っていると、南海王が卵を大切に温かな布でくるんだ。
「では、私が預かりましょう」
「え?」
「興味があります、あまり事例のある事ではありませんので。何が孵るのか見てみたいので」
「あ、それは勿論……むしろ有り難いですけれど」
きょとっとして応じれば、南海王はしっかりと頷いて卵を籐の籠に丁寧におさめた。
「あの、起きたのでそろそろおいとまします」
「もう少し寝ていけばいいのに」
「明日は遅れるわけにはゆきませんし、竜王様の事もきにかかります」
「律儀者ですね、憎らしいくらいに」
溜息をつき、南海王は亀に例の薬を手渡す。亀はそれを懐に大事にしまって丁寧に一礼して南海王の元を離れた。
南海王の寝所に移された亀は早速、小さな丸薬を手に乗せられた。
「これが、性別を一時的にひっくり返す薬ですよ」
「これが……」
こんな小さな薬で性別がひっくり返る。なんて恐ろしいものなんだ。手の上の薬をマジマジと見ながら、亀の喉がゴクリと鳴る。
「ほら、飲まないのですか?」
「の……飲みます!」
覚悟を決めて丸薬を口に放り込み、水を流し込む。簡単に飲み込めたそれに味などない。例えあったとしても緊張で分からなかっただろう。
飲み込んでみたが、しばらくは特に変化がない。疑問に思い自分の体をあちこち触っていると、突然腹の辺りがカッと熱くなり、思わず床に膝をついた。
「かっ……あっ、つい!」
腹の中が焼けるように熱い。痛みすら感じる熱に恐怖して腹を抱えて泣いていると、南海王が近づいてきて顔をクッと上げさせた。
「辛そうですね」
「うぅ……」
「腹の中が一番変化が大きいですし、即効性で一気に変わっていきますからね。でも、そろそろ治まりますよ」
言うやいなや、南海王は亀の履き物を綺麗に脱がせ褌も取り払う。そうして見た自分の下肢は、思った以上に衝撃で悲しかった。
通常時はそれほど大きくはないが、人の形を取れば一応はついている。なのに今はつるんとして何もない。しかも南海王が無理矢理足を開かせ股ぐらを撫でてニッと笑う。その意味を、亀も分かっていた。
「綺麗なアワビですね。当然ですが未使用ですし、色も形もなかなかです」
「み……見ないでください……見ないでぇ」
恥ずかしいやら悲しいやらで涙がぽろぽろ零れ落ちていく。雄の尊厳は大事なものだと思い知り、同時に浦島にしている仕打ちの非道さに顔も上げられなくなる。雄の身で子を産まされるなんて、よほど相手を好いていなければ心が壊れる。亀だって今は一時雌の体だけれど、心は雄のままなのだ。
「嫌だ」を繰り返ししゃくり上げる亀を見る南海王は、思ったほど楽しそうではない。むしろ少し悲しそうに眦を下げている。この人が強いている事なのに、なんだこの顔は。楽しませろと言ってここに連れてきたのはこの人なのに。
思わず睨むと、南海王は眉を上げ、次にスッと顔を近づける。思ったよりもしっかりと重なった唇は、程よい柔らかさで気持ち良かった。
「これが、発情の薬です。飲ませてさしあげましょうか?」
「飲ませてって……」
「勿論、口移しですよ」
もの凄く悪戯っぽい顔で言うが、とんでもない!
「そんな事をしたら貴方様まで発情するではありませんか!」
「おや? 亀が相手をしてくれるのでしょ?」
「しません! いりません! 自分で飲めます!」
南海王の手から瓶に入った薬をひったくり、栓を抜いて飲み干す。案外サラリと飲み干せてほんのりと甘い。陸の果汁でも入っているのだろうか。
そんな事を考えていた亀は、急速に起った体の変化に一瞬気をやり崩れ落ち、甘い痺れに腰が立たないまま熱い息を吐くことになった。
「あ……あぇ? ふぅ、うぅ……」
体が熱くて言う事をきかない。肌が敏感でたまらない。腹の奥がジクジク疼いて、それに伴い何かが産まれていく。臍の裏側辺りにゴロゴロしたものがいくつも作られている。
「始まりましたね」
「はぁ……あっ、つい……助け、て……」
「強制的に、しかも短期の発情ですからね。反応が一気に強く出ます」
「い、ぁ……あぐっ、くる、しぃ」
「腹の中でどんどん卵が出来ていますね。大体五十くらいあれば足りますので、頑張ってください」
「五十! あぎ! あっ、はぁぁ」
腹の中が苦しい。食べ過ぎた時の何倍も苦しいし重たい。仰向けに転がったまま動けない亀の腹はどんどん大きく膨らんでいく。よくぞこんなに腹の皮が伸びるものだと驚いてしまうくらいだ。
その様子をしげしげと見ていた南海王は、何を思ったか近づいてきて更に亀の衣服を乱す。上半身の紐を解いて前を暴くと、ほっそりと綺麗な手で胸を撫でた。
「はひぃ! はぁ、だめ、おやめ下さい!」
「ふむ、女体薬を飲んでも胸はつるんぺたんですか。母乳で子育てをしないのだから当然と言えば当然ですが……雌の人魚は人化するとこれでもかと豊満なのですよね」
「ふひぃ!」
とても疑問そうに高説をたれるが、同時に亀の胸を無遠慮に撫で、揉み、乳首を摘まむ。発情のせいか痺れるように気持ち良くてガクガク震えながら身もだえ喘ぐ事しかできない亀の腹の中では、その刺激で更に卵がポコポコとできている。
更に何を思ったのか、南海王は摘まんでツンと尖った乳首を突然口に含む。それだけでも衝撃だというのに、ねっとりと舌を絡めて乳首をこねくり、絡め、吸い付く。ビクンビクンと腰が跳ねて腹の中がカッと熱くなり、トロトロの愛液が出来たばかりの部分から溢れた。
「やはり出ませんか。妊娠みたいなものだから、もしかしたらと思ったのですが」
「は……はひ……ふっ、ふぅぅ」
「やはり性よりも魂の形を映すのでしょうね。魂は男だから、ここも膨らまない」
「も……もう止めてくらさい! 死にます! 死んじゃいます! お腹破裂してしまいます!」
「おや、臨月のよう。ふふっ、よく育ちますね。ねぇ、亀や。ここで私がお前に挿入して、中にぶちまけたらこの卵は有精卵になって、育てば子亀が出てくるのでしょうかね?」
「恐ろしすぎる事を言わないでください!」
そんな事になったら……怖い。怖すぎる! 人生終えたい! 亀生か? そんなのどっちでもいい!
動けないながらもジタジタしている。すると急に腹の中がキュルキュルし始めた。徐々に腹が少し痛む感じもあり、動いているのを感じる。ビクッとしたまま動かず、徐々に顔色を悪くし浅い息を吐く亀に、南海王も動きを止めた。
「おや? 産まれますか?」
「ひっ! い……嫌だ……嫌です!」
「産まれない方が困ると思いますが」
「嫌……怖い、怖いです……南海王様ぁ!」
卵は互いに擦れながら腹の中を徐々に下に向かって降りてくる感じがする。もうコツコツと入口を突きだし、今か今かと出待ち状態。硬く閉じた入口が産気づいた事で徐々に口を開けようとしている。
更に痛みが激しくなり、とにかく中の物をひり出そうと下腹に力が入りそうになる。でも出ないのだから無駄で、耐えるしかない。そのあまりの痛みに腰が熱く溶けそうで、意識は朦朧としてきた。
助けを求められた南海王は少し思案して亀を床から移動させ、自分の寝台に上半身を乗せるように四つん這いにして、更に下には柔らかな布団を敷いた。そして、丸見えになった濡れる部分に指を突っ込み奥まで挿入すると中をクニクニと刺激し始めたのだ。
「ひぃ! ふやぁぁぁ!」
ゾクゾクっと腰からせり上がる痺れ。そして腹がグンッと締まる感じ。痛みが増して早く出したくて、秘部からはダラダラと透明な液が落ちていく。
南海王は様子を見て立ち上がり、引出しから軟膏壺を取り出す。その中身を少量指に取ると再び挿入して、硬い入口に塗りつけた。
「あ、あひ? ふっ! ふぅぅぅぅ!」
塗られた所が熱い、そして力が入らない。一気に柔らかくなった部分を卵が一つ通り抜け、ズリズリと内壁を擦って落ちていく。おぞましいが、同時に気持ちいい。それがまた亀を驚かせ、否定させた。
「ふぁ! ぁ、あ? あぁ! 出る! いっ、嫌だぁ……見ないでくださいぃぃ!」
腹に力が入って、卵が一つぬるりと下に落ちる。厚く柔らかな布団に落ちたそれを、南海王は摘まみ上げた。
「綺麗な形ですね。大きさもいい」
「ひぃ……ふぅ……ふぅ……はひ! ふぁあぁぁぁ!」
一つ落ちればもう歯止めなどかからない。一つずつ肉壁を擦りながら産まれる卵。それが狭い部分を通ってひり出される度に、亀は痛みとは違うものを感じて戸惑った。
痛かったはずなのに、それは徐々に薄らいできている。逆に敏感な内部をたっぷりと擦りながら生まれ落ちる刺激や、入口を通り抜ける時の感覚に腰骨は蕩けてしまい、足はガクガクと震えていた。
「だ……だめ……これダメです! 僕は雄なんですぅ!」
「おや、気持ち良くなってきましたか」
「ちが、ちがうぅぅ!」
ぽろ、ぽろっと卵が落ちる。二つ、三つ……十コも産むと痛みはなくなり甘い痺れが下肢を蕩けさせるようになる。腰が持ち上がらなくて布団に擦りつけるように卵を生み続ける亀を、南海王は嬉しそうな顔で見ている。視線を感じ、見られている事にまた快楽を感じて、戸惑いは深くて辛い。気持ちいい事に逆らえないが、雄としての矜持も捨てられない。
「み、ないれぇ……卵産むの、見ちゃいられす……」
「呂律が回っていませんよ。気持ちいいのですね」
「ちが……気持ち良く、ないぃ!」
話している間も卵がどんどん出てきて、段々と布団の上に山を作っていく。南海王がそれを抱えて別の器に入れていくが、徐々に産む早さは加速していく。一つずつだがツルツルと滑り落ちるくらいになっていて、亀は下肢に流れる甘い疼きにもう逆らえなくなっていた。
「ふっ、ふぇえ、あぐ、いぃ……も、痺れるよぉ……はぁ……気持ち良く、なりたく無いのにぃぃ! はぁ……止まらないよぉぉ!」
「うーん、淫靡で困りますね。可愛いお前が涙を流してヒンヒン言いながら卵を産むのはこんなにも欲情を誘うのですね」
「そん、なぁぁ! こと! 関心しな、いぃぃぃ! で、くださいよぉぉぉぉ!」
この人やっぱ嫌いだ! 意地悪で鬼畜で何考えてるか分からなくて加虐癖で変態で!
腹の中が大分軽くなってきた。だが、まだゴロゴロする。腹の中がキュゥゥと締まってきて、ジンジンしている。疲れてきたのに終われない。全て出し切るまで許されない。
「も……疲れた…………も、産みたくないぃぃ」
ポトリと、また出てくる。後どのくらい残っているのだろう。とにかく必死に産むことだけに専念して終わらないと、腰が抜けてしまう。
約一寸の丸い卵がドンドン出てきて、腹はぺたんと凹んだ。山盛りの産みたて卵の器が五つくらいある。どれだけ産んだんだか分からない。
「貴方、多産ですね。五十くらいあれば十分だと思っていましたが、八十は越えていますよ」
「う……嬉しくな、いひぃぃぃ!」
またポトリ。本当にいくつ入っているんだ!
でも徐々にせり上がるようないきみも治まってきて終わりを感じた亀は、だが最後だろう卵が入口に引っかかって顔を青くした。どうやらその卵は他よりも大きいみたいで、柔らかく弛緩した入口をギリギリで通らない。いきんでもダメで、どうしようもない。
亀のその様子に気がついた南海王が近づいて、熟れてぬるぬるの秘部にズブリと指を差し入れる。そうして引っかかっている卵を確認すると、一度指を抜いた。
「亀や、お前は鶏かなにかですか? 随分大きなのが腹に引っかかっていますよ」
「ひ、かかっていますよ、じゃないぃ! でない……出ないですぅ。お願い、出てぇ。産ませてぇぇ」
脂汗を滲ませて必死にいきんでも出てこない。つるんと腹の中に戻ってしまう。これ、このまま出てこなかったらどうなってしまうのだろう。
不安にエグエグと泣く亀を見て、南海王はしばし考える。そしてぬるりとした液体で自らの手を汚すと、それを一気に亀の肉壺へと埋めてしまった。
「あぐぅ! うっ……あぁぁぁ!」
腹の中で手が大きく開いて入口へと到達し、狭い部分を指で押し広げていく。焼けるような痛みに目の前がチカチカして歯の根が合わずにガタガタ鳴る。ブルブル震えたまま、南海王の指が出かかった最後の卵に触れた。
「一気にいきみなさい!」
「はぁ、はひぃぃぃぃぃ!」
無理矢理広げられた入口が痛い。多分裂けた。でもおかげで詰まっていた卵がつるんと滑り出て、南海王の手で外へと出される。本当に、鶏の卵くらい大きかった。
「よく頑張りましたね」
「お、なか……いたい……」
意識が消えそうなくらいぐったりで、全部に力が入らない。崩れるように倒れた亀の腹に外側から触れた南海王の手が温かくなってくる。
「……ぁ」
「この程度なら私の力で癒やせますから。少し血が出ましたね。具合、どうですか?」
「あ……たかい……」
「眠りなさい、起こしてあげますから」
体が温かくなって、眠くなってくる。そのまま気絶するように眠った亀は、夢も見ないほどに落ちていった。
フッと、温かな場所で目が覚めた。まだ寝ぼけている目で辺りを見回した亀は、誰かの腕の中だと認識して一気に目が覚めた。
目の前には煌びやかな服を脱いだ南海王がいる。深紅の夜着に、普段は結い上げている髪を下ろした彼は目を閉じている。その顔立ちは目を閉じていても美しいが、少し幼くも見えた。
辺りはまだ暗い。起き上がろうとモゾモゾしていると、背中に回っていた手が亀の襟首を掴んでもの凄い力で引き倒した。
「んご!」
「まだ寝ていなさい。明け方に帰れば十分でしょ」
「南海王様!」
南海王は薄らと目を開けてこちらを見ている。少し気怠げな感じが余計に色気をふりまいている。
「お前、人を虫けらのような目で見ていますね」
「その色気で何人食い荒らしたのかと」
「失礼な亀ですね、お前は。誰も食ってはいませんし、孕ませてもいませんよ。私にはまだ発情期はきていませんからね」
「そうですか」
「あぁ、発情期が来たら真っ先にお前に飲ませに行きますから。口に入れる物、気をつけなさい」
「どんな嫌がらせなんですか!」
これ以上そういうのは御免被る。枯れていると言われてもいいから、やっぱりこういうのは自分にはむかない。
ガタガタ言っていると、南海王はふと目元を緩めて笑う。楽しそうで優しいその顔を見ると、この人を憎みきれなくなるのだ。
「まぁ、それは後々ということで」
「流れないんですね……」
「体の方は大丈夫ですか?」
「こっちは流すんですね」
問われて体を見回し、亀は目を輝かせた。ちゃんと元に戻っている!
「ほわぁぁ、お帰り僕ぅ」
「どこに向かって言っているのですか」
「南海王様も一度つるんとしてみればいいんですよ! 凄く悲しかったんですから!」
「そうですか?」
想像してみたのだが……ダメだこの人、性別の垣根がなさそうだ。付いていようと付いてなかろうとそれはそれで楽しみそうで嫌だ。
「もう、どうしてこだわり無いんですかぁ」
「海の生き物はこんなものですよ」
「もう嫌だぁ、海洋生物共ぉ」
がっくりと肩を落とした亀を、南海王は楽しそうに笑い飛ばした。
「そういえば、最後の卵。アレってなんですか?」
大事な事を一つ思い出し南海王に聞くと、彼は寝台を降りて机へと向かう。そして、そこに大事に置かれている大きめの卵を持ってきてくれた。
「うわぁ……改めて見ると大きいですね」
「これですが、生きていますよ」
「………………え?」
それって、どういう……。
彼の言葉を正しく受け取った亀は、涙目で南海王を睨み付けた。
「最低です南海王様! あれほど有精卵はダメだって言ったのに、僕をお母さんに!」
「お待ちなさい亀、誰が貴方にぶち込みました。お前、意識あったでしょ? いつ処女喪失しました」
「してないけれど! してませんけど! でも南海王様なら何か、どうにかしてそのくらいの嫌がらせすると思います!」
「流石の私もそれほど無責任に父親になるつもりはありませんよ」
溜息をついた南海王に、ではどういう意味なんだと亀は彼を見た。
「おそらくですが、お前の神気が排出された結果ではないかと思います」
「神気……ですか?」
確かに、ないことはない。一応海神である東海王の眷属だ。これでも不老長寿ではある。
だが、これまでそんな事なかった。亀にはそんなに強い神気などないと思っていた。
「お前は長く東海王といますから、彼の神気を知らぬうちに吸収しているでしょうし、最古参です。今まで、何かしらの方法で排出したことは?」
「ありません」
「では、体に溜まっていたものが出たのでしょう。過剰な分が出ただけなので体は平気だと思いますが」
そう言われてから卵を見ると、なんだか不思議な気分がしてくる。
「ということは、この卵からは何が産まれるのですか?」
「まだ分かりませんが、宿主に似た形を取る事が多いようです。または何かしらの力ある結晶となるか」
「そうですか……」
不思議だ、そう聞くとなんだか愛しく思えてくる。これも一応、お腹を痛めて産んだ子だ。
……浦島も、そう思ってくれるといいな。
「それで、この卵どうしますか?」
「え?」
「持って帰りますか?」
「…………え」
これを? 持って帰る?
……絶対に言い訳が通用しなさそうなのが二人いる。
「あの、それはちょっと」
「でしょうね。鯛と東海王にはバレますよ」
「ですよねぇ。絶対に弄られますよね」
「面白いですから、鯛は十中八九」
「嫌すぎる!」
鯛も亀と同じく最古参。妙に意識される事も多い。その中でこれだ、絶対に南海王と同じ目で弄ってくる。
でも放置しておくのも忍びない。元気に産まれてきてほしい。
そんな事を思っていると、南海王が卵を大切に温かな布でくるんだ。
「では、私が預かりましょう」
「え?」
「興味があります、あまり事例のある事ではありませんので。何が孵るのか見てみたいので」
「あ、それは勿論……むしろ有り難いですけれど」
きょとっとして応じれば、南海王はしっかりと頷いて卵を籐の籠に丁寧におさめた。
「あの、起きたのでそろそろおいとまします」
「もう少し寝ていけばいいのに」
「明日は遅れるわけにはゆきませんし、竜王様の事もきにかかります」
「律儀者ですね、憎らしいくらいに」
溜息をつき、南海王は亀に例の薬を手渡す。亀はそれを懐に大事にしまって丁寧に一礼して南海王の元を離れた。
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