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浦島太郎異伝 竜王の嫁探し

五話 花は綻び亀は憂う

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 よく眠った気がする。目が覚めた浦島はスッキリとしていることに疑問を感じた。あんなに激しい事をしたのに、なんでもない。普通はもっと体が痛んだり、怠かったりするのではないか。
 それに、渇くような体の疼きもだ。今は流石にないが、夜になると感じるあの感覚は普通なのか? ここでの日々で淫乱になってしまったから? それだけで、本当に説明のつくことなのか?
 疑問に思えば怖くなる。自分の体が知らぬ間に変わっていっているのではという疑い。だが同時に、こんなによくしてくれる人達がそんな事をするのかという、信じたい気持ち。
 何よりこんな何でもない、何の取り柄もない人間の浦島を騙すような事をして、彼らになんの利益があるのか。話に聞く鬼婆や海坊主のように食うというなら、もうとっくに食われているだろう。
 信じている。信じたい……疑いたくはない。
 そんな気持ちが胸の中に広がって、浦島は息を吐いた。

「浦島様、起きていらっしゃいますか?」
「あっ、はい」

 鯛が襖を開けて頭を下げる。静かに彼を迎え入れた浦島は、結局この思いを押し込めてしまった。

「おはようございます。今日はまだ昼餉前ですよ」
「本当ですか!」

 コロコロと笑う鯛に、浦島も目を丸くして嬉しく驚きの声を上げる。いつもは起きると昼餉の時間になっている。いつも寝過ぎてしまうと反省しているのだ。

「そんなに嬉しいのですか?」
「だって、いつも昼餉の時間で申し訳なくて」
「そのような事、お気になさる必要はございませんのに」

 入ってきた鯛が箪笥の中から着物を出しながら、「そういえば……」と浦島を見た。

「浦島様がお目覚めになりましたら来て欲しいと、竜王様が仰っておりました」
「でも、お仕事中じゃ……」

 竜王は大抵、朝の早くから昼まで仕事をしている。それというのも昼に起きてくる浦島に合わせて、後の時間を空けてくれているようなのだ。
 それも申し訳なく思う理由の一つだったりする。
 鯛はくすくすと笑い、着物を手に浦島の側へと戻ってくる。その手には深い緑色に綺麗な花鳥の柄が織り込まれた鮮やかな着物があった。
 浦島はそれに何の疑問も持たずに袖を通す。そうして整えてもらい、にっこりと微笑んだ。

「では、驚かせてさしあげましょう。竜王様もこの時間に浦島様がみえられたら、さぞ驚かれますよ」
「ふふっ、そうですね」

 あの人の驚く顔を見てみたい。そんな純粋な好奇心に、浦島は小さく笑うのだった。

 竜王の執務室を訪ねると竜王は文机の前にいて筆を執っていた。そして、浦島を見て驚いて、柔らかい笑みをくれた。
 胸の奥がざわざわして、キュッと切なくなる。これが好きという気持ちなんだと知ったのは最近。けれど強烈に響く感情でもある。会えると嬉しいのに、苦しくなるのだ。

「起きていたのか、太郎」
「はい。お邪魔してしまい、申し訳ありません」
「そんな事を気にする事はない。亀、しばらく休みとしよう」
「はい、竜王様」

 側に控えていた亀がゆったりと頷き、浦島にも柔らかい笑みを浮かべて会釈をする。そこに鯛がお茶を持って入ってきた。
 それを見た亀の表情は、なんとも言えぬものだった。憂いを帯びた様子で俯く彼のそれは、罪悪感なのだろうか。不安がこみ上げるものだった。

「太郎、こちらへ」
「はい」

 文机を離れて卓へと移動し、甘い菓子を摘まむ。そうして飲むお茶が体に染みこんでいく。その様子を確かめた亀と鯛が一礼し、部屋を出て行った。

「今日は早起きだったな。昼餉までまだ時間がある」
「いつも寝坊ばかりで申し訳ありません」
「それは構わんよ。体調は平気か?」
「はい、とても良いです」

 楽しそうに、とても自然にしている竜王を見ているとほっとする。自分も同じ心持ちになれる。互いにお茶を頂きながら、浦島は初めて見る執務室を見回した。
 壁に作り付けられた書架には沢山の書簡が入っている。文机の上は常に整えられているようで綺麗だ。だが、思ったよりも物が無い。仕事で使う場所なのだからこれが普通なのかもしれないが、簡素だと感じた。

「どうした、珍しそうに」
「あっ! ……すみません、珍しくて。こういう部屋に入った事がなくて」
「構わないよ。何か見たいか?」
「あぁ、いいえ! 俺は文字が読めませんから、見ても何を書いているのか分かりません」

 漁師に学はいらない。給金の計算くらいは出来るが、文字は殆ど分からない。自分の名前すらも書けないのだから。
 竜王はじっと浦島を見て、茶を飲み干して立ち上がった。

「太郎、おいで」
「え?」
「いいから、おいで」

 低く柔らかな声が誘う。浦島も茶を飲みきって立ち上がり、竜王について文机の前にきた。

「そこに座りなさい」
「? はい」

 言われるがまま文机の前に座った浦島の後に竜王がつき、新しい紙を用意して筆に墨をつける。それを浦島に持たせると、持った手の上からぎゅっと握った。

「!」

 体温を感じる距離に、心臓が驚いたように跳ねた。背中いっぱいに感じる竜王の熱、首筋や耳の裏にかかる息、手に触れている大きな手。その全てを感じて、胸の奥が締め付けられていく。この人の事が好きなんだと訴えかけるようで、浦島はギュッと身を固くした。

「こら太郎、そんなに固くなっては筆が運べぬ。もっと楽にしなさい」
「はい」

 深呼吸をして落ち着こうと力を抜くが、それでも抜け切れていない。それでも竜王はさらさらと文字を書き上げていく。真新しい紙には綺麗な文字で『浦島太郎』と書かれていた。

「これが、其方の名だ」
「こんな文字なのですね」
「浦島、というのはあの辺りの地名だろうか」
「そうなのですか?」

 耳元に流れる低い声に体が震え熱が籠もる。こんな浅ましい姿、この人にだけは見られたくないのに。未だ触れている手の熱が、背に感じる体温が。全てが反応してしまう。

「あの、そろそろ俺……」

 離れなければ見られてしまう。こんな姿を見られたら、知られたら幻滅されてしまう。怖くて、浦島は逃げようとした。だが、後ろから閉じ込めるように抱きしめられては行く場所がなくなってしまった。

「行ってしまうのか、太郎」
「あの……」
「どこへも行くなと私が言っても、其方は逃げてしまうのか?」
「っ」

 低く、少し切なげな声音。抱きしめる腕の強さに苦しさは増す。このままこの腕の中にいたいと願うが、同時に熱が増していく。あのお茶を飲めば熱は収まってくれるはずなのに、竜王のそばだと更に加速していくようだ。

「太郎、どこにも行くな。私はもう愛しい者を手放したくない。頼むから、側にいておくれ」

 切なげな言葉と、首筋に触れる柔らかな感触。くすぐったくもどかしい刺激に体が震えた。そして目からはぽろぽろと涙が零れていた。
 聞き間違いかもしれない。深すぎる願望による幻聴かもしれない。けれど確かにこの人から「愛しい」という言葉を貰ったのだ。

「もう、一度……もう一度、言ってください。俺の、幻聴ではありませんよね?」
「あぁ、何度でも言おう。其方が愛しい。どうか、私の側にいてもらえぬか?」

 生きてきて、これほどの至福を味わった事がない。浦島は泣きながら何度も頷いた。
 竜王の手が頬に触れ、顎に触れる。振り向いた先で受けた唇は柔らかく、溺れるほどに幸せだった。舌がちらりと触れた唇を受け入れて開くと、そっと柔らかく絡まる。その口づけの甘さはまさに甘露のようで、いつしか夢中になって受け入れていた。

「あっ……っ!」

 息苦しさを感じる手前で唇が離れ、呆けたような声が出る。頭の中は蕩け、体は熱く疼き出している。綺麗な着物の合わせ目が僅かに乱れ、色付いた太郎の足がなまめかしく覗いた。

「体が疼くか?」
「あの、それは……」
「私のせいだな。……触れても、よいか?」

 綺麗な、だが大きくてしっかりとした手が肌に触れる。後から首筋、鎖骨を通って合わせ目の中に。確かめるような手が胸を撫で、硬く尖った頂きを擦るだけで浦島の下肢は熱を持って勃ちあがり、うれし涙をこぼしてしまう。

「あっ、あぁ!」
「気持ちいいのだな」
「あっ、ひぅぅ!」

 指が乳首を捏ねるように潰し、コロコロと転がす。その刺激だけで腰が小さく跳ねて頭の中は蕩けてしまう。腹の底は疼いてくぱくぱと物欲しげに後孔が口を開けているような気もする。何より、貧相ながらも硬くなった男茎がドロドロに汚れていく。
 竜王は浦島の体を抱え上げて座ると、その股ぐらに浦島を置く。正面から見つめた人の濡れた瞳に吸い込まれそうだ。放つ色香に吸い寄せられ、浦島は自ら唇を重ねた。深く交わる舌を絡め合いながら、頭の芯まで痺れていく心地よさに身を任せた。
 竜王の手が帯を解き、はらりと前が開いてしまう。何もつけていない下肢が彼の前に晒されるのは流石に恥ずかしく、思わず手で隠してしまった。が、竜王は目を細めて微笑み、その手をそっとどけさせた。

「あの、ダメです!」
「いけないか? 私は其方に触れたいのだが」
「竜王様のお召し物が汚れてしまいます」

 これという仕事をしていない浦島とは違い、竜王は昼餉の後も仕事があるだろう。そんな人の着物を汚しては申し訳がない。
 訴えると、竜王は困ったように笑って浦島を引き寄せ、くるんと向きを変えて自らの股ぐらに座らせた。

「!」
「これならば、触れてもいいか?」

 後から伸びた手が、震えて蜜をこぼす男茎に触れる。包み込まれるような感触と、愛しい人が触れているという悦びに貧相なそこは更に硬さを増した。
 が、浦島はその快楽に集中する事が出来なかった。なぜなら尻たぶの間に、竜王のものが触れているのだ。
 まだ完全に硬くなったわけではないが、確かに勃っているだろう。だが、その状態でも到底入る気がしない。互いの着物ごしに後孔に先端が触れているのだが、飲み込める気配がない。そのくらい、竜王のものは立派で大きいのだ。

「あっ、あっ……」

 なんだか、泣きたくなってきた。折角想いが通じ合い、睦み合っているのに。これではいつ、この人と繋がれるのか。自分の小さい体が恨めしい。せめて蛸くらい体が大きければ飲み込む事もできそうなのに。

「太郎?」
「申し訳、ありません……竜王様、俺……」

 腹の奥がキュンとする。ここに欲しいと訴えるようだ。だがそれは出来ない。今のままではそこに到達するよりも前に体が引き裂かれてしまいかねない。
 どうしたらいいのか分からず、気持ちよさと混ざってただただ涙が溢れた。

「何故泣くのだ。気持ち良くはないか?」
「気持ちいいです。でも、俺……俺、竜王様を気持ち良くして差し上げられない……」

 それが辛いと訴えれば、竜王は困った顔をする。そして見上げる浦島の額に、優しい口づけをした。

「焦る必要はない。今はその気持ちだけで十分だ」
「でも! っ!」
「ならば、見せておくれ。其方が乱れ達する姿を。私の手で果てる姿が見たい」
「ひっ! はぁ、あぁ!」

 握り込まれた男茎が早く扱かれ、指が鈴口をほじる。大きく足を広げたまま、浦島は促されるまま射精した。ビクンと腰を跳ねさせ、柔らかな内腿を震わせ、白い肌を上気させて二度ほど吐き出すと、くたりと竜王の胸に凭れる。
 顎を捕らわれ上向かされ、交わした口づけの甘さに目眩がして、浦島は至福の時を味わった。

◆◇◆

 とはいえ、難題が持ち上がった事は確かだ。
 竜王と昼餉を一緒にしてから分かれた浦島は竜宮を難しい顔で歩いている。ブツブツ独り言を呟く彼に竜宮の者は首を傾げたが、それにすら気を止める余裕がなかった。

「あれ? 浦島様ではございませんか」
「え? 亀さん?」

 ふと声をかけられて顔を上げると、そこには亀が立っていて、人好きのする笑みを浮かべている。見目麗しい者の多い竜宮でも、亀はわりと庶民的な方で親しみがあった。

「このような場所にどうしたのですか? こちらの建物は現在閉鎖されておりますよ」
「え? あ……考え事をしていて」

 見れば目の前には立派な離宮があった。朱色の渡り廊下だけで繋がったそこはシンと静まりかえり、扉を固く閉ざしている。
 そういえばこの辺りには来たことがなかったと思い、浦島は好奇心から亀に尋ねた。

「ここは、どういった建物なのですか?」
「こちらは奥の宮。竜王様の奥方様が過ごす場所となっています」

 瞬間、ズキリと胸に銛でも刺さったかのように痛んだ。それは、気づかなくていいものに気づいてしまったからかもしれない。こんな立派な建物があるということは、奥方もいるのではないかと。

「浦島様!」
「あ……」

 ふらりと足下が危うくなり、慌てた亀が支えてくれる。浮かれていた分衝撃は大きくて、目眩がするようだった。

「大丈夫ですか」
「はい……」
「……とりあえず、休みましょう?」

 支えられ、近くの部屋へと亀が運んでくれる。小さなそこはあまり物がない空き部屋で、浦島はそこに座らせられて水を出された。

「お顔の色が優れません。侍医を呼びましょう」
「そんな大事では! 少し休めば大丈夫ですので、心配しないでください」

 苦笑し、溜息をつく。目の前にはまだ、あの建物が見える。あそこに奥方がいるのだろうか。
 浦島の視線に気づいた亀が、奥の宮を見上げる。そして僅かに俯き、浦島に声をかけた。

「あそこには今、誰もいないのです」
「え?」

 静かで悲しげな声に浦島は顔を上げる。亀はとても苦しそうな顔をして、奥の宮を見上げた。

「竜王様がこの海域を治めるようになって数千年が経ちますが、あそこにはここ数百年、住まう者がありません」

 亀の口ぶりからすると、かつては住んでいた者がいたようなのだが。では、その人物は一体どこに行ってしまったのだろう。

「聞いても、いいですか?」

 躊躇いながらも問うと、亀は静かに頷いてくれた。

「竜王様がこちらへ来られて直ぐ、とある人魚が番として側におりました。お優しい方で、綻ぶような笑顔が愛らしい人で、竜王様もそれはそれは大切になさっておりました」
「…………」

 分かっていたのに、気が沈む。愛しい人の前妻の話を聞くようなものだ。
 だが、知りたいと思ったのだ。先ほど「愛している」と言ってくれた人の事。そのような相手がなぜ、今はいなくなってしまったのかを。

「ですが……今から六百年ほど前でしょうか。散歩に出られたその方はぷっつりと姿を消してしまったのです」
「え?」
「方々を探し回った結果、どうやら人間に捕まり食べられてしまったのではないかと」
「え!」
「人魚の肉は不老不死の秘薬だと、人間達の間では囁かれておりましたし。何より、人魚の肉を食ったという者がその人魚の事を話しているのを聞いてしまいました。特徴から、あの方だと」
「そんな……」

 驚きと恐ろしさに震えが走る。そんな罪な事、誰がしたのか。
 だが、ふと記憶にひっかかった。浦島のいた村に古くから残されている昔話に、人魚に纏わるものがあったのだ。人魚の肉を食った網元とその息子が、人魚の呪いで発狂し家族を殺し、自らは姿が変容して海に落ちた。故に、人魚の肉など食べてはならぬと。

「竜王様はそれは悲しみ嘆き怒り、海は大荒れに荒れ、魚たちも一時姿を消すほどでした」

 不意に、苦しさが募る。押し潰されそうな苦しさに息が詰まってくる。
 竜王はどれだけ悲しんだのだろう。優しく浦島を見る目から、どれだけ涙をこぼしたのか。怒り狂っただろう人の深い悲しみや喪失感を思うと、酷くやるせない思いがする。

「周囲がどうにか宥めましたが、それ以来竜王様はこの屋敷に閉じこもりっぱなし。治める海域を自由に泳いだり、
他の海域にいらっしゃるご友人ともお会いになっていたのに、それすらも拒む始末」
「そうだったのですね」
「はい。ですので、浦島様がここにいらしてくれて、皆喜んでいるのですよ」
「え?」

 亀を見れば、彼は申し訳なさそうに笑う。喜んでいるという言葉とはずれた表情に、浦島は多少困惑してしまった。

「竜王様が、楽しそうにしております。笑う事も多くなりましたし、何より海がとても穏やかです」
「そう、なんですか?」
「はい。日が入り明るく、温かく穏やかです。全て、浦島様がここにきてからのこと。この竜宮が再びこのような明るさを取り戻した事を、皆が喜んでおります」

 それならよかった。純粋にそう思えた。

「あっ、この話は竜王様にはご内密に!」
「え! あっ、そうですよね。あの……でも俺、隠し事が苦手で!」
「え! あっ、そうですよね。そんな気がいたします」

 焦った亀に焦る浦島。互いに焦った後で肩を落として……二人して笑った。

「まぁ、バレてしまうのでしょうね。僕、竜王様に隠し事ができた試しがありません」
「俺もそんな気がします。それに亀さんは俺に負けないほど、隠し事が苦手そうですよ」
「そうなんですよ! いっつも顔に出るって鯛に怒られてしまって」
「鯛さんはちょっと特別な気もしますが」

 笑ってそんな事を話て、胸の支えはいつの間にかなくなった。
 が、それとは別の問題を思い出してしまった。あっちはどうしたらいいものか。

「そういえば、浦島様は何やら悩みがおありのようでしたが。いかがなさいましたか?」
「え! あっ……えっと……」
「ん?」
「あ……はははははっ……はぁ……」

 亀が首を傾げる。そんな彼を見て、浦島はふっと溜息をついた。一応、ちょっとだが知恵を働かせたのだ。

「実は、蛸さんを探そうかと」
「蛸に何か御用ですか?」
「あ、えっと…………実は」

 観念し、浦島は亀に先ほどの事をかなり簡略化して伝えた。
 竜王へ恋心を抱いていたこと。それが先ほど成就したこと。ごにょごにょあって、その時に竜王に触れて、今のままでは到底彼を受け入れる事などできないと感じた事。
 これを聞く間、亀は喜んだり顔を赤くしたりと忙しく。最終的にとても疲れたように項垂れた。

「あの……大丈夫ですか?」
「はい、なんとか……」

 ぱたぱたと手で顔を扇ぎながら亀は頷く。それでようやく話が戻ってきた。

「ですが、その要件で蛸をお探しとは?」
「えっと……今のままでは竜王様をお慰めできませんが、練習すればもう少しなんとかできないかと。それで、蛸さんの蛸足の太い部分まで受け入れられればきっとと思い! ……あー、その…………」

 亀の目が死んでいる。これでは蛸と何があったかを伝えるようなものだ!

「あっ、あの、違うんですこれは! 蛸さんには以前夜伽をして頂いた事があってですね! 竜王様の命だって言ってましたから無理矢理とかではなくてですね!」
「あの、存じておりますので落ち着いてください! そう手配したのは僕と鯛なので、ちゃんと分かっておりますから」
「…………へ? そうなんですか?」
「はい……」

 なんとも気まずい空気が流れた瞬間だった。

「え……っと…………お気遣いを頂いて」
「恥ずかしいのでもうその件は止めてください、浦島様!」

 顔を真っ赤にした亀がプルプルするので、これに関してはこれで終わりになった。
 まだ恥ずかしげな亀が一つ咳払いをして、浦島に向き合う。少し真剣そうな様子に浦島も居住まいを正した。

「ですが、これに関して蛸を頼るのはあまり得策ではないかと」
「え?」
「竜王様を受け入れるほど孔を広げるとなれば、相当深くまで彼の足を受け入れる事となります。そうなれば腹のどこまで達するのか。正直、苦痛を通り越して命の危険を感じます」
「…………そういえば」

 確かに前回蛸と致したとき、彼の足はそれほど入っていない。先っぽという範囲内ではないだろうか。それでも腹の奥の行き止まり、その先まで到達したのだ。
 これがもっと太い部分まで受け入れるとなると先端は……。

「うっ」
「おおよそ、現実的ではありません」

 思わず吐き気が襲う想像に、浦島は顔を青くした。
 だがそうなるとどうしようか。いっそ大根で練習しようか。自分の後ろに大根を突き入れる様子を想像してみる。
 …………恥ずかしすぎる!

「……あの」
「え?」

 一人で悩み百面相をしている浦島に、亀が遠慮がちに声をかけてくる。そちらを見ると亀は何故かとても赤くなってぷるぷる震えながら口を開いた。

「その悩み、僕が解決できるかもしれません」
「え?」

 思わぬ申し出に、浦島は目を丸くした。

◆◇◆

 その夜、浦島はいつも以上に緊張して部屋にいた。布団の上で正座をしているなんて妙な感じだ。
 そこに声がかかり、返事をすると亀が頭を下げて入ってくる。きっちりと夜着を着て、何やら袋を持って入ってきた彼の方が緊張している様子だった。

「あの、この度はその」
「あっ、そんな堅苦しい挨拶は必要ないので! むしろお願いしたの、俺の方ですし」
「そう、ですか?」

 布団の上で二人とも夜着のまま正座。これで向かい合って硬い顔で話をしている。なんとも言えない緊張感と無音に浦島は耐えかねて笑った。

「亀さんまで緊張しないでくださいよ」
「そうなんですが。こういうことは慣れないというか、どういう顔をしていいものか分からなくてですね」
「それも分かりますが。お互いこのままじゃ進みませんよ」
「そう、ですね」

 自然と笑うとちょっと楽になる。力も程よく抜けた浦島はひょいと視線を亀の持ち物に移した。

「ところでそれは、何ですか?」

 浦島の視線に気づいた亀が顔を赤くしながら袋を開ける。中には簪のような物と、輪っかが二つ入っていた。

「これは?」
「これは射精を止める為の物です。竜王様に事の次第をお話し、お願いして貰った物です」
「え!」

 ということは、竜王にこの事が知れた事になる。
 焦る浦島だが、亀は浦島を宥めて苦笑した。

「申し訳ないと、仰っていましたよ」
「え?」
「竜王様。貴方のそのお気持ちを嬉しく思うと。本来ならばご自身が相手をすべき所ですが、間違いなく傷つけてしまうだろうと。貴方の悩みに関しては僕が適任だと竜王様もお認め下さり、これを賜ったのです」

 亀は恥ずかしげに笑い、おもむろに帯を解く。褌を着けていなかった彼の体が露わになり、浦島はマジマジとそれを見た。
 思ったほどの質量はなく、むしろつるんと滑らかな気がする。これまで色んな事があった浦島にとってはむしろ物足りないくらいのものだ。

「流石にこの状態ではつけられないので、しばしお待ちを。お見苦しいものをお見せするので、背を向けて頂けると助かるのですが」
「え? でも……」

 この状態ではつけられない? 先ほど出された器具を見ても使い方がいまいち分からない。
 首を傾げている浦島に苦笑しながら、亀が自ら扱き出す。他人のそうした行為をこんなに間近で見る事などない浦島は驚いたが、なぜだか目が離せなかった。

「あっ、あっ……見られると恥ずかしくて、困ります……っ」
「っ!」

 白い肌が僅かに染まり、目元は恥ずかしげに潤み、表情は色香を纏う。何かいけないものを見ている感じが浦島の体にも火をつける。知らず後が濡れている気がする。自らも帯を解き、夜着を脱いだ浦島の体を見て、亀は更に顔を赤くした。

「浦島様も、辛そうですね」

 亀の前に裸体を晒した浦島のそこは、僅かに熱くなっていた。すっかり淫乱になった男茎がひょこひょこと持ち上がり、透明な先走りをこぼしている。
 亀はやんわりと笑い、浦島を手招く。そして自らのものと一緒くたに握ると、上下に擦り合わせた。

「あっ! なに、これぇ!」
「んっ、気持ちいいですね」
「あっ、やだ……これ、気持ちいい」

 他人の熱と、互いに擦れる感覚。亀の手が気持ちいい部分を扱き上げてくる。慣れない刺激と視覚の淫靡さに刺激され、二つの昂ぶりは形を変えていく。
 亀のそれは大きく形を変え、いまや赤子の腕くらいある。これがこれから自分の中を掻き回すのかと思うとゾクリと背に痺れが走り、先端からは白濁が少量吐き出された。

「軽く達しましたか? 僕の方も準備ができましたので」

 軽く体を震わせ余韻を味わっている。亀はまだ達していないが浦島から少し離れ、まずはと簪のような物を手にした。
 つるんと滑らかな棒状のものは先端が丸くなっている。その反対側には輪がついているという、なんとも見慣れないものだった。
 亀は自らの昂ぶりをしっかりと手で握ると、慎重に丸い先端の方を鈴口に中に埋めていく。それを目の当たりにし、浦島は驚いて声を上げた。

「亀さん!」
「っ! 大丈夫、痛くないですから」

 とは言っても、これの狂いそうな快楽を知っているのだ。海蛇が同じようにしたのを思い出して、ぞくりとする。が、亀は輪の辺りまで棒を入れてしまうとふっと息を吐き、今度は少し大きめの輪を手にした。
 あまり太くはない輪は何で出来ているのか。紐などとも違うように見える。それを亀はそそり立つ剛直に通して根元まで嵌めた。すると直後、輪は独りでにギュッと縮んで亀の根元を戒めてしまう。軽く食い込むそれは痛そうで、浦島は亀を案じてしまった。

「どうしてこんな!」
「貴方の中に、出す訳にはいかないのです」

 ほんの少し痛そうな亀だが、動きに躊躇いはない。最後に小さな輪を手にするとそれを亀頭の根元に嵌める。するとこちらも同じように戒めるが、同時に透明な何かが先端全体を丸く包み込んでいった。

「これで、準備ができました。浦島様、四つん這いになっていただけますでしょうか?」
「あの……これ、大きくなったら……」

 食い込んで、ちぎれてしまうのでは。心配になって問うと、亀は首を横に振った。

「多少食い込みはしますが、その時の大きさに合わせて勝手に伸びるのです。締め付ける感覚も変わりませんので、お気になさらずに」

 苦笑する亀に促され、浦島は心配しながらも言われた通り四つん這いになる。少し恥ずかしいのだが、これが一番楽に受け入れられるのだと亀に言われては従わざるをえない。浦島だって辛いのは嫌だ。
 手が尻を撫で、濡れていそうな後ろに触れる。菊座を指で軽く解す動きにムズムズする。もどかしい動きに焦れてしまうのだ。

「あの、も……」
「ですが、傷つけては」
「もっ、大丈夫ですから!」

 確かに亀のそれは大きいが、蛸の足に比べれば平気だ。長さを入れて許容できる範囲なのだ。
 亀は少し困ったようだが、「分かりました」という緊張気味な声の後で背に体重がかかる。菊座に触れる体温というのは初めての経験だ。蛸の足はあまり熱というものを感じなかったから。
 それが少しずつ、ミチミチと押し入ってくる。異物感と圧迫感は強いが、亀が丁寧にしてくれるので苦痛は感じていない。少しずつ入口が引き延ばされていくのを感じて、浦島は上手く息を吐いた。

「あっ、浦島様……凄く気持ちいい」
「亀さん、俺も……俺も、気持ちいいですっ」

 熱を感じ、肉を感じ取れる。魔羅は程よく柔らかくて、でも芯はあって。そういうものが内壁に触れるのは初めてだ。
 自然とゾクゾクと気持ち良くなってきて、腹の中を意識してしまう。感覚が鋭くここで感じる事を覚えてしまった浦島にとっては自然と出来てしまう事だった。
 ゆっくりと揺さぶられ、押し入っては引かれてと、亀の丁寧な挿入によって根元まで飲み込む事ができた。深く息を吐くと腹の中が締まってよりその形と大きさを知る事となる。挿入前からそれほど大きさは変わっていないように思う。
 だが、これで竜王のものを受け入れる事ができるようになるのだろうか?
 疑問に思っていると、亀がグッと腰を進めて奥へと入り込む。程よく気持ち良い奥へ届いて、浦島は甘い声で鳴いた。

「少し、動きますね。僕も気持ち良くならないと、目的が達成できませんので」
「は、い……あっ、はぁ……」

 どこまでも緩やかに、優しく押し込まれる。亀は引くことはあまりせず、ぐっぐっと腰を突き上げるようにするだけ。奥を突きはするが、激しさはない。それを物足りないと感じもするが、同時に安心感もある。激しすぎるものが多かっただけに、浦島は心地よく身を任せていた。
 その間に亀は手を前に回して乳首を摘まんだり、項の辺りに唇を寄せたりと、浦島を気持ち良くさせる事もしてくれる。焦れったいが、なんだか大事にされてもいる。
 だがその様子は少しして変わった。腹の中で亀のものが大きく太く育ってきて、徐々にみっちりと埋めるようになってきたのだ。

「あ? あぐ! あっ、ふと……ぃ」
「まだですよ」
「まだ! あっ! やっ、動くとだめぇ」

 ミチミチと中も入口も押し広げるようにゆっくり太くなる亀の逸物に苦しさが増す。薄い皮膚が引き延ばされて悲鳴を上げるが、ギリギリ裂けてはいない。赤子の腕くらいだったそれは今、子供の腕くらいには膨張しただろうか。

「……っ、止まりましたね。また、動きますよ」
「えっ? まっ……あぐぅ!」

 前と同じように引くことはせず押し込まれた瞬間、内臓を下から殴り上げられるような衝撃に吐き気がした。目眩もする。そのくらいの衝撃があるのだ。
 「あぐっ」という、到底気持ちいいとは違う声が吐き出される。亀は動きを緩やかにし、同時に浦島の前を握って扱いた。少しでも腹の中の質量を減らそうというのか、亀が奥を突き上げる度に先端からはぴゅるっと少量の白濁が漏れて布団に染みこんでいく。それも感じつつ、浦島は目の裏側がチカチカする気がした。
 最奥を拳で殴られている感じがする。ずっしりと重い亀の逸物に突き上げられる度、腹の中全部を揺さぶられる。欲しい部分に強烈な刺激を受け、その度に腹の中が濡れた。潤滑油となったそれが動きを滑らかにしてくれる。

「すみませ、浦島様……また……っ!」
「へ? はっ! あっ、もうダメ! 裂けるぅ!」

 大根どころの話ではない。熱い焼け串のような剛直が更に膨らんでいく。入口がピリピリして裂ける寸前だ。更に中も膨らんでいく。これで動かれたら……腸が抜けてしまう!
 怖くて涙で濡れる頬を、亀が丁寧に拭ってくれる。彼の方が戒められて辛そうなのに気遣ってくれる。その優しさが身に染みるようで、浦島は深く息をして緩めるようにと努めた。

「しばらく動かないので、慣れてください」
「は、い……っ」

 亀は確かにジッと耐えてくれた。そのおかげで、薄く伸びた入口もゆっくりと太さに慣れて痛みは薄れていく。中も拡張されていくのか、どうにか受け止められた。
 そして慣れるに従って、そこは何かしらの快楽を得ようと亀の剛直をきゅむきゅむと締め、吸い上げるように蠢き始める。何もしなくても最奥に先端が当たっていて刺激される。苦しさと痛み、それに快楽が混ざり合っていくうち、また前からとろりと透明な液がしたたり落ちた。

「動いても、大丈夫そうですね」
「はい。ゆっくり、お願いします」

 亀が僅かに腰を引き、ゆっくりと押し込める。濡れて幾分滑る剛直が奥底を叩くのは苦しいが、徐々にそれだけではなくなった。

「あ、あ……うそ……なん、で?」

 少しだけ、気持ちいい。腰が痺れて溶けそう。重怠い感じもする。

「あっ、浦島様そんな……っ! 絡まって、これではっ」
「亀、さん……。んぅ、奥、気持ちいいですぅ」

 いつしか浦島はこの亀の太く硬いものに奥底を叩かれる事に快楽を得るようになっていた。そして亀もまた、キュウキュウと締め付ける浦島の肉壺に腰を揺らめかせ、気持ちよさげに熱い息を吐いて背にのしかかってくる。
 その体重すらも心地よく感じる。ちゅっちゅっと首の後ろに唇が触れるのも好きだ。

「やっ、く……る。亀さん、もう無理っ!!」
「ぼ、くも……浦島様ぁっ」
「ひぅ! ふぅうぅぅ!」

 ほぼ同時に二人は果てていた。出し切る勢いの浦島と、出さずにジッと耐えるように震える亀と。浦島の中で亀の剛直はその質量を保ったまま膨れている。それを感じたまま、浦島は急激な眠気に引きずられて目を閉じた。
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