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二十話 スキル「安産」で異世界を渡る方法
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シーグルが産まれて一ヶ月が経った。
俺はこの日王都にいて、沢山の祝福の前にいる。
俺の体に合わせて作ったという白いタキシードは、やっぱり少し大きくて結局『ジャスト』の魔法が大活躍。けれど、光沢のある白に薄紫の裏地、銀の刺繍がされた衣服は豪華すぎるものだった。
対してユーリスの衣服は黒。伝統的な王族の格好らしく、丈の長い黒いローブに金糸の刺繍が施されている。長身だからこれがまた似合う。あまりにかっこよくて見惚れてしまった。
お祝いに駆けつけてくれたロシュやリュミエール、ランセルさんとガロンさんもいて、改めて祝福の言葉をくれた。
シーグルが産まれて少しして、この皆は集まってくれた。俺にねぎらいの言葉をくれて、シーグルを可愛がってくれた。ついでに何か色んな呪いをかけてくれたらしい。ほら、眠り姫に魔女達が祝福をするみたいに。呪いじゃないよ!
ロシュは「元気ですくすく育つように」リュミエールは「賢く穏やかな気性であるように」ランセルさんは「誰からも愛されるように」ガロンさんは「光が常に行く先を照らすように」と言ってくれた。俺、けっこうこの時感激した。
シーグルは皆の願い通りスクスク育っている。ランセルさんの奥さんとはママ友になった。かっこいい感じの狐の獣人さんで、しかも銀色だった。その子も銀髪だけれど竜人の子だった。
「僕がお兄ちゃんだね」と、二歳のランセルジュニアが言うのはあまりに微笑ましくて、ユーリスと二人で思わず笑ってしまった。
王都で結婚式をする。決まって王都にシーグルを連れてきて、俺は真っ先にマーサさんとモリスンさんに会いに行った。勿論ユーリスとシーグルも連れてだ。
二人は涙を流して喜んでくれて、沢山祝福もしてくれて、シーグルのことも可愛がってくれる。改めてこっちの両親はこの二人だって、俺は思えた。
教会の絨毯の上、俺を祭壇の前までつれて行くのはモリスンさんだ。最初断られたけれど、俺はモリスンさんにしてもらいたかったから譲らなかった。
一歩を踏みしめるみたいに、俺は進んで行く。大好きな人が見つめ、祝福してくれる沢山の人の視線を受けて、噛みしめるみたいに。
最初、どうしてこんな不幸が俺にと思った。どこかも分からない森の中で、訳のわからない植物に襲われて。
でも直ぐにそれを忘れた。ユーリスがいて、親切に世界の事を教えてくれて、守ってくれて。
思えばこの時にはもう惚れていたんじゃないかな。初めてだったから分からなかっただけだ。そうじゃなきゃ、いくら薬でビッチになってても男はご免だと思ったはずだ。それにあの時、俺はユーリスが助けてくれる事だけを考えていた。
だからこそ、ダメダメな俺の能力が悲しかった。唯一あったのが「安産」て、どうなのよって思った。勿論、一番ユーリスが必要としてくれるのも分かってた。でも、言い出す事ができなかった。
怪我をさせて、俺のせいで、とにかく情けなくて苦しかった。何でもいいから有益でないと。そんな風に思って迫って、撃沈して逃げた。あの時の俺、ダメダメな。
でもおかげで、俺はこの世界で親のように思える人と出会った。過ごした一ヶ月は宝物だ。親の愛情なんて知らない俺が、こっちで知らない人と家族になれた。これはある意味で勇気を貰えた。
ユーリスと気持ちが繋がって、躊躇いなくこの人の子を産みたいと思えて、それが叶った。色々焦ったし、正直しんどかった。あの苦しみはもうしばらく避けたい。俺の願いを言ってみたら、ユーリスは目を丸くして「勿論だよ」と笑ってくれた。
俺の旦那、いい人だよな。一ヶ月を過ぎたら乳止まったし、そうしたら次の子供作れるようになるんだって。俺は子作りの機械じゃないっての。
そんな俺の気持ちも分かってくれるし、何より俺の苦しみようはユーリスも側で感じてくれていて「あんなに辛いのなら、子供は一人でいい」なんて言い出したくらいだ。優しすぎる。
でも俺は、もう少しシーグルが育てばもう一人か二人いてもいいと思ってる。寂しい子供時代だったから、子沢山とか憧れる。屋敷では俺ばかりじゃなくてメイドさんや婆さんもシーグルの面倒みてくれるから、俺もそこまで追われたりしてない。
なんにしても、俺は今幸せなんだろうな。
ユーリスの隣に立って、モリスンさんの手からユーリスの手に手を重ねて、教会の祭壇の前に立っている。見上げると黒い瞳が柔らかく微笑んでくれて安心する。
「これより、ユーリス・フェン・フィアンサーユ殿下と、マコト・ツキシロの誓いの儀を行います」
王城の一番偉い司祭さんが厳かに宣言して、神に祈りを捧げている。それを黙って聞く間も、ユーリスの手は俺の手を握っている。少し強く握れば、柔らかく返してくる反応。俺はそれを感じて前を向いた。
「それでは、誓いの言葉を」
祭壇の前で互いに向き直ると妙に恥ずかしい。他の人の視線も感じている。けれど、目の前の人がどこまでも甘く微笑むから、俺はそこから目を外せなくなっている。
「マコト、俺はこの先も君だけを愛している。君と、君と共に作る家族を生涯愛し、慈しんでいく」
そんな事を言われると口から心臓飛び出るって。俺は真っ赤になりながら、それでも何か言わなければと口を開いた。
「俺は、ユーリスの事が好きです。俺は本当に何も出来ないかもしれないけれど、ただひたすら愛してるって事だけ本当だから。この気持ちだけしか渡せないけれど、今後も一緒にいてくれるかな?」
これでいいのだろうか。決まった言葉はなくて、気持ちを伝え合うのが誓いの言葉だって教えてもらったからそのようにした。でもこれ、公開プロポーズみたいですんごい恥ずかしい。
頬も耳も首も真っ赤だろうなってくらい熱くなる。そんな俺に、ユーリスも真っ赤になって頷いた。
「勿論、それで構わない。君を生涯幸せにする。この気持ちに嘘はないと誓って言える」
「ユーリス」
抱き合って、嬉しくて笑った。そんな俺達の前にすかさず司祭さんが指輪を差し出してくる。銀の指輪に黒い宝石のはまったその指輪を、ユーリスは丁寧の俺の左手薬指にはめる。俺も同じくした。
身につける揃いのアクセサリーを結婚式で贈り合うのが通例。けれどアクセサリーの種類はみんなバラバラでいい。そんな緩い事でいいのかと思ったが、いいらしい。唯一既婚者のランセルさんなんて首輪を贈ったらしい。奥さん、凄く嫌な顔をしてたけれど……これ、外れないんだって。凄いよね。
ユーリスは拘りがないって言って、俺の世界の結婚式の事を聞いてきた。だから俺は日本らしい指輪の交換の話をして、いたく気に入られた。石は互いの瞳の色ってことで、二人とも黒になった。でも石の種類が違う。俺の指輪にはまっているのは黒曜石で、ユーリスの指輪にはまっているのはブラックサファイア。
「では、誓いのキスを」
司祭が笑い、俺は恥ずかしながら顔を上向かせる。どうしたって身長差がありすぎて、俺は背伸びしても届かない。
ユーリスは少し屈んで、俺の唇に柔らかく触れるだけのキスをする。瞬間、鳴り響く鐘の音と祝砲の音にビクッと肩を震わせた。
「ここに、二人を夫婦と認めます。末永く幸せに生きなさい」
参列者の歓声と祝福の花びらが舞う中、俺は少し潤んだ目でユーリスを見る。ユーリスも俺を見て笑って頷いてくれる。肩を抱かれながらバージンロードを進み、重厚な教会の扉を開ければ外は明るく、多くの歓声が響き渡っている。
異世界トリップで何もない俺が掴んだものは、かけがえのない幸せと愛情と、この先も続いていくだろう明るい未来。嫌がらせみたいなスキル「安産」も、きっと俺には一番必要なスキルなんだろうな。
こんな世界の歩き方するのって、俺だけなのかもしれないけれど。
END
俺はこの日王都にいて、沢山の祝福の前にいる。
俺の体に合わせて作ったという白いタキシードは、やっぱり少し大きくて結局『ジャスト』の魔法が大活躍。けれど、光沢のある白に薄紫の裏地、銀の刺繍がされた衣服は豪華すぎるものだった。
対してユーリスの衣服は黒。伝統的な王族の格好らしく、丈の長い黒いローブに金糸の刺繍が施されている。長身だからこれがまた似合う。あまりにかっこよくて見惚れてしまった。
お祝いに駆けつけてくれたロシュやリュミエール、ランセルさんとガロンさんもいて、改めて祝福の言葉をくれた。
シーグルが産まれて少しして、この皆は集まってくれた。俺にねぎらいの言葉をくれて、シーグルを可愛がってくれた。ついでに何か色んな呪いをかけてくれたらしい。ほら、眠り姫に魔女達が祝福をするみたいに。呪いじゃないよ!
ロシュは「元気ですくすく育つように」リュミエールは「賢く穏やかな気性であるように」ランセルさんは「誰からも愛されるように」ガロンさんは「光が常に行く先を照らすように」と言ってくれた。俺、けっこうこの時感激した。
シーグルは皆の願い通りスクスク育っている。ランセルさんの奥さんとはママ友になった。かっこいい感じの狐の獣人さんで、しかも銀色だった。その子も銀髪だけれど竜人の子だった。
「僕がお兄ちゃんだね」と、二歳のランセルジュニアが言うのはあまりに微笑ましくて、ユーリスと二人で思わず笑ってしまった。
王都で結婚式をする。決まって王都にシーグルを連れてきて、俺は真っ先にマーサさんとモリスンさんに会いに行った。勿論ユーリスとシーグルも連れてだ。
二人は涙を流して喜んでくれて、沢山祝福もしてくれて、シーグルのことも可愛がってくれる。改めてこっちの両親はこの二人だって、俺は思えた。
教会の絨毯の上、俺を祭壇の前までつれて行くのはモリスンさんだ。最初断られたけれど、俺はモリスンさんにしてもらいたかったから譲らなかった。
一歩を踏みしめるみたいに、俺は進んで行く。大好きな人が見つめ、祝福してくれる沢山の人の視線を受けて、噛みしめるみたいに。
最初、どうしてこんな不幸が俺にと思った。どこかも分からない森の中で、訳のわからない植物に襲われて。
でも直ぐにそれを忘れた。ユーリスがいて、親切に世界の事を教えてくれて、守ってくれて。
思えばこの時にはもう惚れていたんじゃないかな。初めてだったから分からなかっただけだ。そうじゃなきゃ、いくら薬でビッチになってても男はご免だと思ったはずだ。それにあの時、俺はユーリスが助けてくれる事だけを考えていた。
だからこそ、ダメダメな俺の能力が悲しかった。唯一あったのが「安産」て、どうなのよって思った。勿論、一番ユーリスが必要としてくれるのも分かってた。でも、言い出す事ができなかった。
怪我をさせて、俺のせいで、とにかく情けなくて苦しかった。何でもいいから有益でないと。そんな風に思って迫って、撃沈して逃げた。あの時の俺、ダメダメな。
でもおかげで、俺はこの世界で親のように思える人と出会った。過ごした一ヶ月は宝物だ。親の愛情なんて知らない俺が、こっちで知らない人と家族になれた。これはある意味で勇気を貰えた。
ユーリスと気持ちが繋がって、躊躇いなくこの人の子を産みたいと思えて、それが叶った。色々焦ったし、正直しんどかった。あの苦しみはもうしばらく避けたい。俺の願いを言ってみたら、ユーリスは目を丸くして「勿論だよ」と笑ってくれた。
俺の旦那、いい人だよな。一ヶ月を過ぎたら乳止まったし、そうしたら次の子供作れるようになるんだって。俺は子作りの機械じゃないっての。
そんな俺の気持ちも分かってくれるし、何より俺の苦しみようはユーリスも側で感じてくれていて「あんなに辛いのなら、子供は一人でいい」なんて言い出したくらいだ。優しすぎる。
でも俺は、もう少しシーグルが育てばもう一人か二人いてもいいと思ってる。寂しい子供時代だったから、子沢山とか憧れる。屋敷では俺ばかりじゃなくてメイドさんや婆さんもシーグルの面倒みてくれるから、俺もそこまで追われたりしてない。
なんにしても、俺は今幸せなんだろうな。
ユーリスの隣に立って、モリスンさんの手からユーリスの手に手を重ねて、教会の祭壇の前に立っている。見上げると黒い瞳が柔らかく微笑んでくれて安心する。
「これより、ユーリス・フェン・フィアンサーユ殿下と、マコト・ツキシロの誓いの儀を行います」
王城の一番偉い司祭さんが厳かに宣言して、神に祈りを捧げている。それを黙って聞く間も、ユーリスの手は俺の手を握っている。少し強く握れば、柔らかく返してくる反応。俺はそれを感じて前を向いた。
「それでは、誓いの言葉を」
祭壇の前で互いに向き直ると妙に恥ずかしい。他の人の視線も感じている。けれど、目の前の人がどこまでも甘く微笑むから、俺はそこから目を外せなくなっている。
「マコト、俺はこの先も君だけを愛している。君と、君と共に作る家族を生涯愛し、慈しんでいく」
そんな事を言われると口から心臓飛び出るって。俺は真っ赤になりながら、それでも何か言わなければと口を開いた。
「俺は、ユーリスの事が好きです。俺は本当に何も出来ないかもしれないけれど、ただひたすら愛してるって事だけ本当だから。この気持ちだけしか渡せないけれど、今後も一緒にいてくれるかな?」
これでいいのだろうか。決まった言葉はなくて、気持ちを伝え合うのが誓いの言葉だって教えてもらったからそのようにした。でもこれ、公開プロポーズみたいですんごい恥ずかしい。
頬も耳も首も真っ赤だろうなってくらい熱くなる。そんな俺に、ユーリスも真っ赤になって頷いた。
「勿論、それで構わない。君を生涯幸せにする。この気持ちに嘘はないと誓って言える」
「ユーリス」
抱き合って、嬉しくて笑った。そんな俺達の前にすかさず司祭さんが指輪を差し出してくる。銀の指輪に黒い宝石のはまったその指輪を、ユーリスは丁寧の俺の左手薬指にはめる。俺も同じくした。
身につける揃いのアクセサリーを結婚式で贈り合うのが通例。けれどアクセサリーの種類はみんなバラバラでいい。そんな緩い事でいいのかと思ったが、いいらしい。唯一既婚者のランセルさんなんて首輪を贈ったらしい。奥さん、凄く嫌な顔をしてたけれど……これ、外れないんだって。凄いよね。
ユーリスは拘りがないって言って、俺の世界の結婚式の事を聞いてきた。だから俺は日本らしい指輪の交換の話をして、いたく気に入られた。石は互いの瞳の色ってことで、二人とも黒になった。でも石の種類が違う。俺の指輪にはまっているのは黒曜石で、ユーリスの指輪にはまっているのはブラックサファイア。
「では、誓いのキスを」
司祭が笑い、俺は恥ずかしながら顔を上向かせる。どうしたって身長差がありすぎて、俺は背伸びしても届かない。
ユーリスは少し屈んで、俺の唇に柔らかく触れるだけのキスをする。瞬間、鳴り響く鐘の音と祝砲の音にビクッと肩を震わせた。
「ここに、二人を夫婦と認めます。末永く幸せに生きなさい」
参列者の歓声と祝福の花びらが舞う中、俺は少し潤んだ目でユーリスを見る。ユーリスも俺を見て笑って頷いてくれる。肩を抱かれながらバージンロードを進み、重厚な教会の扉を開ければ外は明るく、多くの歓声が響き渡っている。
異世界トリップで何もない俺が掴んだものは、かけがえのない幸せと愛情と、この先も続いていくだろう明るい未来。嫌がらせみたいなスキル「安産」も、きっと俺には一番必要なスキルなんだろうな。
こんな世界の歩き方するのって、俺だけなのかもしれないけれど。
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