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七話 A級モンスター登場
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翌日の昼頃に俺達は町に到着した。馬屋にファイを預けて町のメイン通りにくると、様子の変化に俺は驚いた。
「凄い人ですね。お祭りでもあるんですか?」
町は中規模だろうが、人が沢山だ。隣のユーリスさんを見上げたが、ユーリスさんも訝しげに首を傾げている。
「そんな事はないはずだ。何かあったな」
言うと、ユーリスさんは俺を連れてとある建物の中に入っていった。
無骨な感じの建物だ。扉を開けると筋骨隆々という感じの人が一様にこちらを見る。俺は怯んでユーリスさんの腰に腕を回して抱きついてしまう。その俺の頭を、ユーリスさんは撫でてくれた。
「ユーリス!」
少し遅れて周囲からユーリスさんを歓迎するような声が上がる。さっきまでの殺伐とした感じはなく、とてもいい感じだ。
「良かった、お前がいれば奴を狩る事もできる!」
「何かあったのか?」
そう言いながら腰巾着の俺を連れ、ユーリスさんはカウンターへと向かっていく。そしてそこにいる男の人に視線を向けた。
多分、狼の獣人さんだ。猫耳のようだけれど尖って凜々しい。尻尾もふさふさだ。赤みがかった茶色の髪と同じ色の耳と尻尾の、五十代中頃のちょい悪親父だった。
「何があったんだ、マスター」
「ユーリスか、丁度いい所に来てくれた。街道にA級モンスターが出たんだ」
その言葉に、珍しくユーリスさんの表情が歪んだ。
「何が出たんだ」
「ティアマットだ」
側にいて、ユーリスさんが息を呑むのを俺は聞いた。
「それで、皆足止めをくらっていたのか」
「あぁ。宿屋は一杯だぞ」
「ここの上は?」
「空いてる。ただしシングルだ」
「構わない」
「え? ユーリスさん?」
俺が声を上げたことで、ようやく俺の存在に気づいたらしい狼の獣人さんが視線を向けた。
「何だお前、恋人連れか!」
「恋人?」
「違う!」
ニヤリと笑う狼さんに反論するように、ユーリスさんが赤くなって否定している。俺は首を傾げてしまった。
「お前が誰かを連れてるなんて初めてだろ。どこで拾ってきたんだ、そんな可愛い子」
「違う! 彼は保護したんだ。これから王都に向かう」
「保護?」
狼さんがカウンターから乗り出すようにズイッと俺に顔を向ける。そして、マジマジとみられた。
ユーリスさんが小声で事情を離すと、狼の獣人さんは腕を組んで頷いた。
「へぇ、そりゃ珍しい。あぁ、気をつけろよ。お前さんくらい可愛いと危ないぞ」
「あの、いや」
この世界で俺はどれだけ魅力的に見えるんだよ。色々普通だったはずなのに。
「マスター、部屋を頼む。マコトはここの部屋にいてくれ。誰が訪ねてきても絶対に部屋から出ないように」
「……え?」
それはどういう意味なんだろう。俺が首を傾げると、マスターさんは理解したように頷いていた。
「俺はこれから直ぐにモンスターを討伐してくる。そう日はかけないから、マコトはここで待っていてくれ」
「あぁ、うん。それはいいんだけど」
部屋から出ず、誰が訪ねてきても出るなってどういう意味だろう。俺が疑問を深めると、ユーリスさんが耳元に唇を寄せてきた。
「前の町で聞いただろ? 闇商人がいるかもしれないと」
「あっ」
俺の頭でも覚えている。俺は珍しいから、そういう人に需要があるそうだ。捕まったらそれこそ大変な目にあうだろうって。
「闇商人に商品を売り渡すのは大抵が道を外れた冒険者だ。そういう輩がここにいる可能性もある。ここは冒険者がクエストを受ける為のギルドだからな」
そう言われると俺は怖くなる。周囲を見回して、俺を見ている人が全員そう見えてしまう。身を固くした俺の頭をマスターさんがガシッと撫でた。
「心配すんな。こいつは腕のいいA級冒険者だ。直ぐに済ませて帰ってくるさ」
ユーリスさんに鍵を渡し、俺はそのまま二階へと上がっていく。そして、割り当てられた部屋を開けた。
部屋の中はごく普通のシングルの部屋だ。簡素だけど使いやすい。シャワーとトイレも完備だった。
「ここに結界を張っていく。マコトが扉を開けなければ誰も入ってこられない。だが、開けてしまうと招き入れた事になるから気をつけてくれ」
「あの、ユーリスさんは」
危険なモンスターを倒しに行くのだろうか。怪我はしないだろうか。無事に戻ってきてくれるだろうか。
昨日の事を思い出す。俺は怖くなってガタガタ震えた。俺は今ユーリスさんを失ったらどこにも行けない。この世界に独りぼっちになってしまう。
ユーリスさんの手が俺の頭を撫でる。優しく、穏やかに。
「今日は行かない。町に出て、マジックバッグを一つ買おう」
「あの」
「君が作ってくれた料理をそっちに少し移しておく。それで食いつないでくれ。飲み物も買いためておこう。あと、お金も」
「あの!」
「一週間たっても俺が戻らなかったら、もしくは部屋の結界が消えたらカウンターにいた狼の獣人の所に行ってくれ。無骨だが、面倒見のいい人だ。俺からも言付けていく」
「そんな!」
それは、絶対はないってことだろうか。危険だって事だろうか。
止めて欲しい、行かないで欲しい。俺は駄々をこねるように首を横に振って腰に抱きつく。どうして行かなきゃいけないんだ。そのうち倒されてしまうのを待ったっていいじゃないか。どうしてそれをしちゃいけないんだ。
「行かないで」
呟くように出た俺の言葉に、ユーリスさんは困った顔で微笑む。そしてとても優しく頭を撫でてくれた。
「放っておけば被害が大きくなる。街道に出るなんて珍しいが、だからこそ大変だ」
「だからって」
「人が死ぬばかりじゃない。人の流れも滞り、物流が止まる。大変な事になるんだ」
駄々っ子をあやすみたいにユーリスさんの手が背中を撫でる。俺は、なかなか離れられない。
「約束する、必ず王都へ連れて行く。だから今は離してくれ」
困らせてしまっている。それは分かっている。俺は何度か深呼吸をして、そっと腕を離した。
「戻ってきてくれますか?」
「あぁ」
「……それなら、お金はいりません。食べ物と飲み物だけ備蓄して、引きこもります。ユーリスさんが戻るまでこの部屋を出ません。ユーリスさんが戻らなかったら、俺ここで飢え死にします」
当てつけのように言うと困った顔。それでも頷いて約束してくれた。
宣言された通り、俺はユーリスさんと買い物に行った。そこでマジックバックを俺用に買ってもらい、そこに食べ物と飲み物を入れた。ついでに日々を退屈しないで過ごすための本を数冊。不思議な事に俺はこの世界の文字が読めたし、俺の文字はこの世界の文字に自動変換されていた。
翌日、ユーリスさんはモンスター討伐に行ってしまった。俺は部屋の中で一日を過ごしている。本当に何もなくて、外で大変な騒ぎが起こっているなんて想像もさせない穏やかさだ。
でも、落ち着かない。俺は何度も外を見て溜息をついている。本を読んでいても頭に入ってこない。思うのはユーリスさんの無事ばかりだ。
最近、夢を見る。うたた寝の時とかに見るのが最悪だ。ユーリスさんがモンスターに殺されてしまう夢。そんなのを見て、叫ぶようにして目が覚めてしまう。
俺はどうしたんだろう。顔見知りもいない、勝手も分からない世界で独りぼっちになるのが怖いのだろうか。だからユーリスさんに縋っているのだろうか。優しくて、強くて、憧れてしまうような人なのにどこか可愛くて。美味しそうに料理を食べる姿は清々しくてちょっと好き。目が輝くんだ、美味しいと。
「今頃、食べてくれてるかな」
彼のウエストポーチには俺の作った料理がたっぷり入っている。食べて少しでも元気になってくれるといい。俺の作ったものがあの人の力になってくれるといい。
「俺、なんか他に出来る事ないのかよ」
弱い自覚はある。体力も増えたりしてない。魔法……なんてどう使っていいか分からない。色んな事がまごついてしまう。
「俺の役立たず」
何か一つでもあの人の力になれるなら、俺は今頃あの人の側にいたのかな?
三日が過ぎた。俺はとうとう怖くなってしまった。強いモンスターだって聞いてたけれど、あの人が三日も帰ってこられないなんて。
もしかしたら、探すのに手間取ってるのかもしれない。意外と遠いところに行ってしまって見つからないのかもしれない。そうであればいい。
状況が分からない俺は、とにかく祈るしかできない。
ゴトン!
扉の外で音がして、俺はビクッと大げさに肩を震わせた。ドアの前を見ても何かがあるわけじゃない。暗い部屋の中は何の変哲もない。
けれど、そうじゃない。ドアに近づいて、俺は何か液体のようなものが部屋に侵入してきているのに驚いた。侵入なんて大げさか。誰かがドアの前で何かをこぼして、それが部屋の中にシミを作っている。そんな感じだ。
けれど次の瞬間、俺は驚いてドアから逃げた。液体は僅かに煙を上げ始めたのだ。可燃性の液体だったんだろうか。
「うっ……げほっ! ごほっ!」
煙たい。喉が痛くなりそうだ。窓を開けても煙はどんどん増えていく。でも、悲鳴が上がっているわけじゃない。火はまだ下に伝わっていない。
様子を見て誰かに知らせないと。火事なら大変だ。
開けるなと言われた。でも今は有事だ。俺は扉を開けて飛び出そうとする。けれどその体は直ぐに何かにぶつかった。
「むぅぅ!」
「大人しくしろ」
相手が誰だとか、何人だとか認識する暇もない。俺は口に布を押し当てられる。吸い込んだそれが薬臭い。そして途端にクラクラした。
……ユーリスさん。
意識が強制的に揺れて力が入らなくなる。彼とは違うゴツゴツした腕が俺を受け止める。俺はそのまま、意識を手放した。
「凄い人ですね。お祭りでもあるんですか?」
町は中規模だろうが、人が沢山だ。隣のユーリスさんを見上げたが、ユーリスさんも訝しげに首を傾げている。
「そんな事はないはずだ。何かあったな」
言うと、ユーリスさんは俺を連れてとある建物の中に入っていった。
無骨な感じの建物だ。扉を開けると筋骨隆々という感じの人が一様にこちらを見る。俺は怯んでユーリスさんの腰に腕を回して抱きついてしまう。その俺の頭を、ユーリスさんは撫でてくれた。
「ユーリス!」
少し遅れて周囲からユーリスさんを歓迎するような声が上がる。さっきまでの殺伐とした感じはなく、とてもいい感じだ。
「良かった、お前がいれば奴を狩る事もできる!」
「何かあったのか?」
そう言いながら腰巾着の俺を連れ、ユーリスさんはカウンターへと向かっていく。そしてそこにいる男の人に視線を向けた。
多分、狼の獣人さんだ。猫耳のようだけれど尖って凜々しい。尻尾もふさふさだ。赤みがかった茶色の髪と同じ色の耳と尻尾の、五十代中頃のちょい悪親父だった。
「何があったんだ、マスター」
「ユーリスか、丁度いい所に来てくれた。街道にA級モンスターが出たんだ」
その言葉に、珍しくユーリスさんの表情が歪んだ。
「何が出たんだ」
「ティアマットだ」
側にいて、ユーリスさんが息を呑むのを俺は聞いた。
「それで、皆足止めをくらっていたのか」
「あぁ。宿屋は一杯だぞ」
「ここの上は?」
「空いてる。ただしシングルだ」
「構わない」
「え? ユーリスさん?」
俺が声を上げたことで、ようやく俺の存在に気づいたらしい狼の獣人さんが視線を向けた。
「何だお前、恋人連れか!」
「恋人?」
「違う!」
ニヤリと笑う狼さんに反論するように、ユーリスさんが赤くなって否定している。俺は首を傾げてしまった。
「お前が誰かを連れてるなんて初めてだろ。どこで拾ってきたんだ、そんな可愛い子」
「違う! 彼は保護したんだ。これから王都に向かう」
「保護?」
狼さんがカウンターから乗り出すようにズイッと俺に顔を向ける。そして、マジマジとみられた。
ユーリスさんが小声で事情を離すと、狼の獣人さんは腕を組んで頷いた。
「へぇ、そりゃ珍しい。あぁ、気をつけろよ。お前さんくらい可愛いと危ないぞ」
「あの、いや」
この世界で俺はどれだけ魅力的に見えるんだよ。色々普通だったはずなのに。
「マスター、部屋を頼む。マコトはここの部屋にいてくれ。誰が訪ねてきても絶対に部屋から出ないように」
「……え?」
それはどういう意味なんだろう。俺が首を傾げると、マスターさんは理解したように頷いていた。
「俺はこれから直ぐにモンスターを討伐してくる。そう日はかけないから、マコトはここで待っていてくれ」
「あぁ、うん。それはいいんだけど」
部屋から出ず、誰が訪ねてきても出るなってどういう意味だろう。俺が疑問を深めると、ユーリスさんが耳元に唇を寄せてきた。
「前の町で聞いただろ? 闇商人がいるかもしれないと」
「あっ」
俺の頭でも覚えている。俺は珍しいから、そういう人に需要があるそうだ。捕まったらそれこそ大変な目にあうだろうって。
「闇商人に商品を売り渡すのは大抵が道を外れた冒険者だ。そういう輩がここにいる可能性もある。ここは冒険者がクエストを受ける為のギルドだからな」
そう言われると俺は怖くなる。周囲を見回して、俺を見ている人が全員そう見えてしまう。身を固くした俺の頭をマスターさんがガシッと撫でた。
「心配すんな。こいつは腕のいいA級冒険者だ。直ぐに済ませて帰ってくるさ」
ユーリスさんに鍵を渡し、俺はそのまま二階へと上がっていく。そして、割り当てられた部屋を開けた。
部屋の中はごく普通のシングルの部屋だ。簡素だけど使いやすい。シャワーとトイレも完備だった。
「ここに結界を張っていく。マコトが扉を開けなければ誰も入ってこられない。だが、開けてしまうと招き入れた事になるから気をつけてくれ」
「あの、ユーリスさんは」
危険なモンスターを倒しに行くのだろうか。怪我はしないだろうか。無事に戻ってきてくれるだろうか。
昨日の事を思い出す。俺は怖くなってガタガタ震えた。俺は今ユーリスさんを失ったらどこにも行けない。この世界に独りぼっちになってしまう。
ユーリスさんの手が俺の頭を撫でる。優しく、穏やかに。
「今日は行かない。町に出て、マジックバッグを一つ買おう」
「あの」
「君が作ってくれた料理をそっちに少し移しておく。それで食いつないでくれ。飲み物も買いためておこう。あと、お金も」
「あの!」
「一週間たっても俺が戻らなかったら、もしくは部屋の結界が消えたらカウンターにいた狼の獣人の所に行ってくれ。無骨だが、面倒見のいい人だ。俺からも言付けていく」
「そんな!」
それは、絶対はないってことだろうか。危険だって事だろうか。
止めて欲しい、行かないで欲しい。俺は駄々をこねるように首を横に振って腰に抱きつく。どうして行かなきゃいけないんだ。そのうち倒されてしまうのを待ったっていいじゃないか。どうしてそれをしちゃいけないんだ。
「行かないで」
呟くように出た俺の言葉に、ユーリスさんは困った顔で微笑む。そしてとても優しく頭を撫でてくれた。
「放っておけば被害が大きくなる。街道に出るなんて珍しいが、だからこそ大変だ」
「だからって」
「人が死ぬばかりじゃない。人の流れも滞り、物流が止まる。大変な事になるんだ」
駄々っ子をあやすみたいにユーリスさんの手が背中を撫でる。俺は、なかなか離れられない。
「約束する、必ず王都へ連れて行く。だから今は離してくれ」
困らせてしまっている。それは分かっている。俺は何度か深呼吸をして、そっと腕を離した。
「戻ってきてくれますか?」
「あぁ」
「……それなら、お金はいりません。食べ物と飲み物だけ備蓄して、引きこもります。ユーリスさんが戻るまでこの部屋を出ません。ユーリスさんが戻らなかったら、俺ここで飢え死にします」
当てつけのように言うと困った顔。それでも頷いて約束してくれた。
宣言された通り、俺はユーリスさんと買い物に行った。そこでマジックバックを俺用に買ってもらい、そこに食べ物と飲み物を入れた。ついでに日々を退屈しないで過ごすための本を数冊。不思議な事に俺はこの世界の文字が読めたし、俺の文字はこの世界の文字に自動変換されていた。
翌日、ユーリスさんはモンスター討伐に行ってしまった。俺は部屋の中で一日を過ごしている。本当に何もなくて、外で大変な騒ぎが起こっているなんて想像もさせない穏やかさだ。
でも、落ち着かない。俺は何度も外を見て溜息をついている。本を読んでいても頭に入ってこない。思うのはユーリスさんの無事ばかりだ。
最近、夢を見る。うたた寝の時とかに見るのが最悪だ。ユーリスさんがモンスターに殺されてしまう夢。そんなのを見て、叫ぶようにして目が覚めてしまう。
俺はどうしたんだろう。顔見知りもいない、勝手も分からない世界で独りぼっちになるのが怖いのだろうか。だからユーリスさんに縋っているのだろうか。優しくて、強くて、憧れてしまうような人なのにどこか可愛くて。美味しそうに料理を食べる姿は清々しくてちょっと好き。目が輝くんだ、美味しいと。
「今頃、食べてくれてるかな」
彼のウエストポーチには俺の作った料理がたっぷり入っている。食べて少しでも元気になってくれるといい。俺の作ったものがあの人の力になってくれるといい。
「俺、なんか他に出来る事ないのかよ」
弱い自覚はある。体力も増えたりしてない。魔法……なんてどう使っていいか分からない。色んな事がまごついてしまう。
「俺の役立たず」
何か一つでもあの人の力になれるなら、俺は今頃あの人の側にいたのかな?
三日が過ぎた。俺はとうとう怖くなってしまった。強いモンスターだって聞いてたけれど、あの人が三日も帰ってこられないなんて。
もしかしたら、探すのに手間取ってるのかもしれない。意外と遠いところに行ってしまって見つからないのかもしれない。そうであればいい。
状況が分からない俺は、とにかく祈るしかできない。
ゴトン!
扉の外で音がして、俺はビクッと大げさに肩を震わせた。ドアの前を見ても何かがあるわけじゃない。暗い部屋の中は何の変哲もない。
けれど、そうじゃない。ドアに近づいて、俺は何か液体のようなものが部屋に侵入してきているのに驚いた。侵入なんて大げさか。誰かがドアの前で何かをこぼして、それが部屋の中にシミを作っている。そんな感じだ。
けれど次の瞬間、俺は驚いてドアから逃げた。液体は僅かに煙を上げ始めたのだ。可燃性の液体だったんだろうか。
「うっ……げほっ! ごほっ!」
煙たい。喉が痛くなりそうだ。窓を開けても煙はどんどん増えていく。でも、悲鳴が上がっているわけじゃない。火はまだ下に伝わっていない。
様子を見て誰かに知らせないと。火事なら大変だ。
開けるなと言われた。でも今は有事だ。俺は扉を開けて飛び出そうとする。けれどその体は直ぐに何かにぶつかった。
「むぅぅ!」
「大人しくしろ」
相手が誰だとか、何人だとか認識する暇もない。俺は口に布を押し当てられる。吸い込んだそれが薬臭い。そして途端にクラクラした。
……ユーリスさん。
意識が強制的に揺れて力が入らなくなる。彼とは違うゴツゴツした腕が俺を受け止める。俺はそのまま、意識を手放した。
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