161 / 167
13章:君が欲しいと言える喜び
おまけ1:報告
しおりを挟む
ファウストに食事を作り、薬を飲ませた。長くまっとうに食事をしていなかったことから心配したが、しっかり完食してしまった。そして逞しくも直ぐに寝入った。よほど疲れたのかもしれない。
同時にあの人は精神面が安定すれば何も恐れる事はないのではないかと思う。安心して寝入った顔を思いだし、ランバートは笑みを浮かべた。
その足で、ランバートはアシュレーの部屋へと向かった。そこには案の定師団長が勢揃いだ。
「ランバート、ファウスト様は?」
心配そうなウェインが問いかけてくる。それに、緩く笑って頷いた。
「食事も完食して、薬も飲んで眠りました。もう心配ないと思います」
「よかったぁ」
心底安心したという様子の人に、ランバートは心から笑う。
「その様子なら、丸く収まったな」
「はい。本当に、お手数をかけました」
「構わない。だが、まさか一週間も粘るとは思わなかった。もう少し早く陥落すると思ったんだが」
アシュレーは苦笑している。これにはランバートも苦笑が漏れた。
アシュレーとの一週間は気が紛れたが、やはり違った。というか、疲れた。なんだかんだで遊ばれた。不意打ちで耳に息を吹き込まれたり、恥ずかしい事を言われたり。その度に反応するのが腹立たしくもあった。
だが、この人なりに気を紛らわせてくれたのだと思うと文句もない。こんな痴話喧嘩のようなものに付き合ってくれたのだから。
「お、よかったな」
「ふふっ、本当に。ファウスト様はどのように口説かれたのでしょうか」
とても楽しそうにオリヴァーが言う。けれどその言葉に、ランバートは体がカッと熱くなる。思いだしたのだ、色々と。
真っ直ぐに見つめて言われた「愛している」という言葉や、「抱きたい」と言われた言葉。あの鋭さのある瞳に見つめられると、どうにも心臓が煩くなる。
カッと顔が熱くなる。同時にとても恥ずかしくて、言葉が継げなくなる。そのうちに顔を見せる事もできなくなって、片手で隠すけれど意味があまりない。
「あらあら、これはまた愛らしい」
「思いっきり惚気だね」
オリヴァーとウルバスに微笑ましい表情で言われると余計にいたたまれなくて、ランバートは逃げたい気持ちで一杯だった。
「さて、これで一つ懸案事項が解決した。ランバート、あの方のケアを任せる」
「あぁ、はい」
「ケアと言いますか……人身御供?」
「その言い方は止めて下さい」
生け贄にされたような気分だ。
「それにしても、いいなー。恋人ができるって、やっぱりこの世の春なんだろうなぁ」
うっとりとウェインが言う。ランバートとオリヴァーの視線が、自然とアシュレーへと向かった。
「なんだ?」
「いえ、なんでも」
「ふふっ、こっちも本当に困ったさんです」
アシュレーと時間を共にしていると、ふと気づいたのだ。視線がウェインに向かう回数が多い。妙に構いたがる。しかも一番嫌がる子供扱いで。拗ねたように怒る顔を見て楽しげにしたり、それでもご機嫌を取れるツボを知っていたり。だからこそ、分かったのだ。
「どうしたの?」
「いいえ、何でもありません」
この恋は実るのか? とも思うが、とりあえずアシュレーは今が楽しそうだし、ウェインは全く気づいていないので問題なしとした。
「ねぇ、二人でどこか行かないの? 恋人になったならさ、旅行とか行きたいでしょ」
「ファウスト様の誕生日って、確か十月だったね。二人で過ごさないのかい?」
「あ……」
正直その辺をあまり考えていない。とりあえず気持ちを伝えて、受け入れられた事に満足してしまった。
そしてハタと気づく。ランバートは、お付き合いの仕方がわからない。
「おや、どうしました?」
「あの……お付き合いとか、その……デートって、どうしたらいいのでしょうか?」
「「……は?」」
師団長一同、固まりました。
ランバートは素直に、今まで本気のお付き合いをしたことがないこと。先の事などノープランである事を伝えた。何か特別にしなければならないのかと頭を巡らせるが、よく分からないままだ。
「お前、二十歳の初恋は遅すぎるだろう」
「ファウスト様だってそうだ。今年で二十七だから、遅すぎるな」
「初々しいのですね。甘酸っぱいお付き合い、もどかしい感じがたまりませんね」
「オリヴァー、また病気出てるよ」
そんな風にからかわれるが、反論のしようもない。すっかりしょげた。
「あまり、特別なんて意識しなくていいんじゃないのかな?」
ウルバスがはにかみながらそんな事を言う。頼りなく見れば、彼も小さく頷いてくれる。
「一緒に食事したり、同じ時間を過ごしたり。今まで通りでいいと思うんだ。たまには特別に旅行に行ったり、いいレストランで食事なんてのもいいけれど」
「それでいいんでしょうか?」
「後はまぁ、夜の勝負だな」
グリフィスの一言が、またランバートを焦らせた。ただこっちは実際問題があって、時間の猶予もない。
冷や汗が出る。サラッと、遠出がしたいと言われた。多分あの口振りだと旅行だろう。近場で行く気なんだ。あまり気にもせず、それを受けてしまった。
あの人の体力って、どのくらいだろう。保つのか?
「あ? どうした?」
青い顔をしてワナワナしているランバートを全員が見る。その目の前で少し泣きそうになりながら、ランバートは頭を下げた。
「グリフィス様、俺に体力トレーニングつけてください。ファウスト様が復活するまでにお願いします」
「あぁ……おう、そうだな。そのくらいしか助けられんか」
「お願いします。本当にお願いします。生死かかってそうです」
「そんなに飢えてたのかあの人!」
随分とギラギラと、飢えた獣のように見たあの視線と色香のある「抱きたい」という言葉に、ランバートはしばし怯えながら時間外トレーニングを重ねる日々を送るのでした。
同時にあの人は精神面が安定すれば何も恐れる事はないのではないかと思う。安心して寝入った顔を思いだし、ランバートは笑みを浮かべた。
その足で、ランバートはアシュレーの部屋へと向かった。そこには案の定師団長が勢揃いだ。
「ランバート、ファウスト様は?」
心配そうなウェインが問いかけてくる。それに、緩く笑って頷いた。
「食事も完食して、薬も飲んで眠りました。もう心配ないと思います」
「よかったぁ」
心底安心したという様子の人に、ランバートは心から笑う。
「その様子なら、丸く収まったな」
「はい。本当に、お手数をかけました」
「構わない。だが、まさか一週間も粘るとは思わなかった。もう少し早く陥落すると思ったんだが」
アシュレーは苦笑している。これにはランバートも苦笑が漏れた。
アシュレーとの一週間は気が紛れたが、やはり違った。というか、疲れた。なんだかんだで遊ばれた。不意打ちで耳に息を吹き込まれたり、恥ずかしい事を言われたり。その度に反応するのが腹立たしくもあった。
だが、この人なりに気を紛らわせてくれたのだと思うと文句もない。こんな痴話喧嘩のようなものに付き合ってくれたのだから。
「お、よかったな」
「ふふっ、本当に。ファウスト様はどのように口説かれたのでしょうか」
とても楽しそうにオリヴァーが言う。けれどその言葉に、ランバートは体がカッと熱くなる。思いだしたのだ、色々と。
真っ直ぐに見つめて言われた「愛している」という言葉や、「抱きたい」と言われた言葉。あの鋭さのある瞳に見つめられると、どうにも心臓が煩くなる。
カッと顔が熱くなる。同時にとても恥ずかしくて、言葉が継げなくなる。そのうちに顔を見せる事もできなくなって、片手で隠すけれど意味があまりない。
「あらあら、これはまた愛らしい」
「思いっきり惚気だね」
オリヴァーとウルバスに微笑ましい表情で言われると余計にいたたまれなくて、ランバートは逃げたい気持ちで一杯だった。
「さて、これで一つ懸案事項が解決した。ランバート、あの方のケアを任せる」
「あぁ、はい」
「ケアと言いますか……人身御供?」
「その言い方は止めて下さい」
生け贄にされたような気分だ。
「それにしても、いいなー。恋人ができるって、やっぱりこの世の春なんだろうなぁ」
うっとりとウェインが言う。ランバートとオリヴァーの視線が、自然とアシュレーへと向かった。
「なんだ?」
「いえ、なんでも」
「ふふっ、こっちも本当に困ったさんです」
アシュレーと時間を共にしていると、ふと気づいたのだ。視線がウェインに向かう回数が多い。妙に構いたがる。しかも一番嫌がる子供扱いで。拗ねたように怒る顔を見て楽しげにしたり、それでもご機嫌を取れるツボを知っていたり。だからこそ、分かったのだ。
「どうしたの?」
「いいえ、何でもありません」
この恋は実るのか? とも思うが、とりあえずアシュレーは今が楽しそうだし、ウェインは全く気づいていないので問題なしとした。
「ねぇ、二人でどこか行かないの? 恋人になったならさ、旅行とか行きたいでしょ」
「ファウスト様の誕生日って、確か十月だったね。二人で過ごさないのかい?」
「あ……」
正直その辺をあまり考えていない。とりあえず気持ちを伝えて、受け入れられた事に満足してしまった。
そしてハタと気づく。ランバートは、お付き合いの仕方がわからない。
「おや、どうしました?」
「あの……お付き合いとか、その……デートって、どうしたらいいのでしょうか?」
「「……は?」」
師団長一同、固まりました。
ランバートは素直に、今まで本気のお付き合いをしたことがないこと。先の事などノープランである事を伝えた。何か特別にしなければならないのかと頭を巡らせるが、よく分からないままだ。
「お前、二十歳の初恋は遅すぎるだろう」
「ファウスト様だってそうだ。今年で二十七だから、遅すぎるな」
「初々しいのですね。甘酸っぱいお付き合い、もどかしい感じがたまりませんね」
「オリヴァー、また病気出てるよ」
そんな風にからかわれるが、反論のしようもない。すっかりしょげた。
「あまり、特別なんて意識しなくていいんじゃないのかな?」
ウルバスがはにかみながらそんな事を言う。頼りなく見れば、彼も小さく頷いてくれる。
「一緒に食事したり、同じ時間を過ごしたり。今まで通りでいいと思うんだ。たまには特別に旅行に行ったり、いいレストランで食事なんてのもいいけれど」
「それでいいんでしょうか?」
「後はまぁ、夜の勝負だな」
グリフィスの一言が、またランバートを焦らせた。ただこっちは実際問題があって、時間の猶予もない。
冷や汗が出る。サラッと、遠出がしたいと言われた。多分あの口振りだと旅行だろう。近場で行く気なんだ。あまり気にもせず、それを受けてしまった。
あの人の体力って、どのくらいだろう。保つのか?
「あ? どうした?」
青い顔をしてワナワナしているランバートを全員が見る。その目の前で少し泣きそうになりながら、ランバートは頭を下げた。
「グリフィス様、俺に体力トレーニングつけてください。ファウスト様が復活するまでにお願いします」
「あぁ……おう、そうだな。そのくらいしか助けられんか」
「お願いします。本当にお願いします。生死かかってそうです」
「そんなに飢えてたのかあの人!」
随分とギラギラと、飢えた獣のように見たあの視線と色香のある「抱きたい」という言葉に、ランバートはしばし怯えながら時間外トレーニングを重ねる日々を送るのでした。
10
お気に入りに追加
496
あなたにおすすめの小説
からっぽを満たせ
ゆきうさぎ
BL
両親を失ってから、叔父に引き取られていた柳要は、邪魔者として虐げられていた。
そんな要は大学に入るタイミングを機に叔父の家から出て一人暮らしを始めることで虐げられる日々から逃れることに成功する。
しかし、長く叔父一族から非人間的扱いを受けていたことで感情や感覚が鈍り、ただただ、生きるだけの日々を送る要……。
そんな時、バイト先のオーナーの友人、風間幸久に出会いーー
祝福という名の厄介なモノがあるんですけど
野犬 猫兄
BL
魔導研究員のディルカには悩みがあった。
愛し愛される二人の証しとして、同じ場所に同じアザが発現するという『花祝紋』が独り身のディルカの身体にいつの間にか現れていたのだ。
それは女神の祝福とまでいわれるアザで、そんな大層なもの誰にも見せられるわけがない。
ディルカは、そんなアザがあるものだから、誰とも恋愛できずにいた。
イチャイチャ……イチャイチャしたいんですけど?!
□■
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです!
完結しました。
応援していただきありがとうございます!
□■
第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m
国王様は新米騎士を溺愛する
あいえだ
BL
俺はリアン18歳。記憶によると大貴族に再婚した母親の連れ子だった俺は5歳で母に死なれて家を追い出された。その後複雑な生い立ちを経て、たまたま適当に受けた騎士試験に受かってしまう。死んだ母親は貴族でなく実は前国王と結婚していたらしく、俺は国王の弟だったというのだ。そして、国王陛下の俺への寵愛がとまらなくて?
R18です。性描写に★をつけてますので苦手な方は回避願います。
ジュリアン編は「騎士団長は天使の俺と恋をする」とのコラボになっています。
[離婚宣告]平凡オメガは結婚式当日にアルファから離婚されたのに反撃できません
月歌(ツキウタ)
BL
結婚式の当日に平凡オメガはアルファから離婚を切り出された。お色直しの衣装係がアルファの運命の番だったから、離婚してくれって酷くない?
☆表紙絵
AIピカソとAIイラストメーカーで作成しました。
【BL】【完結】神様が人生をやり直しさせてくれるというので妹を庇って火傷を負ったら、やり直し前は存在しなかったヤンデレな弟に幽閉された
まほりろ
BL
八歳のとき三つ下の妹が俺を庇って熱湯をかぶり全身に火傷を負った。その日から妹は包帯をぐるぐるに巻かれ車椅子生活、継母は俺を虐待、父は継母に暴力をふるい外に愛人を作り家に寄り付かなくなった。
神様が人生をやり直しさせてくれるというので過去に戻ったら、妹が俺を庇って火傷をする寸前で……やり直すってよりによってここから?!
やり直し前はいなかったヤンデレな弟に溺愛され、幽閉されるお話です。
無理やりな描写があります。弟×兄の近親相姦です。美少年×美青年。
全七話、最終話まで予約投稿済みです。バッドエンド(メリバ?)です、ご注意ください。
ムーンライトノベルズとpixivにも投稿しております。
「Copyright(C)2020-九十九沢まほろ」
表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
釣った魚、逃した魚
円玉
BL
瘴気や魔獣の発生に対応するため定期的に行われる召喚の儀で、浄化と治癒の力を持つ神子として召喚された三倉貴史。
王の寵愛を受け後宮に迎え入れられたかに見えたが、後宮入りした後は「釣った魚」状態。
王には放置され、妃達には嫌がらせを受け、使用人達にも蔑ろにされる中、何とか穏便に後宮を去ろうとするが放置していながら縛り付けようとする王。
護衛騎士マクミランと共に逃亡計画を練る。
騎士×神子 攻目線
一見、神子が腹黒そうにみえるかもだけど、実際には全く悪くないです。
どうしても文字数が多くなってしまう癖が有るので『一話2500文字以下!』を目標にした練習作として書いてきたもの。
ムーンライト様でもアップしています。
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる