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10章:HappyBirthday!
2話:準備
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翌日から、ゼロス達の話題はもっぱらランバートの誕生日をいかに盛り上げるかが焦点となった。ウェインが乗ってくれた事ですぐにチェスター経由で正確な日付がわかった。
「十二日って、一週間くらいしか時間ないか」
レイバンが珍しく真剣な顔でそんな事を言う。こいつも時々意味が分からないが、基本的にやるときは徹底的に楽しむ奴だ。それに、ランバートの事は珍しく気に掛けている。
「ラウンジの使用許可は取っておくよ」
ボリスがやる気満々に胸を叩く。それに、俺はただ頷いた。
「どうした、ゼロス。何か気がかりがあるのか?」
コンラッドが問いかけるのに、ゼロスは苦笑した。昨日の様子を見て、話を聞いて、ゼロスはずっと浮かない顔をしている。それを気に掛けたのだろう。
「なに? ゼロスは反対なの?」
「そうじゃない。……いや、むしろ昨日の話を聞いたら是が非でもやろうと思ったんだ」
ランバートはどこか不思議な奴だ。人よりも達観しているし、頼ってきた者に優しい。嫌な顔をしながらも誰とでも付き合い、悪乗りも楽しそうにしている。頭だっていいだろうし、容姿も能力も恵まれている。
なのにとても不憫なんだ。とても小さなズレを多く感じてきた。それは普通なら受け取っていいはずの親切や愛情という部分。温かなものから手を引っ込める傾向があるように思える。
「ランバートの事、気にしてるんでしょ?」
ボリスが察するように言った。それにゼロスは、ただ頷いた。
「ランバートって、ちょっとズレがあるっていうか……寂しい感じがするよね」
ぽつりと呟く言葉は皆が感じているのだろう。この言葉を否定する者はない。
「壁までいかないんだけど、少しだけ距離がある感じかな。ほんの少しなんだろうけれど」
「そのほんの少しが大きいな。あいつ、好意を恐れている節がある」
ボリスの言葉をコンラッドが拾う。
好意を恐れる。それは分かる。与える事に惜しみないのに、差し出すと手をこまねく。拒絶ではないだろうが、どうしたらいいか分からない。そんな顔をするのだ。
「経済的にも能力的にも恵まれてるのにね、ランバート。貧乏没落家庭の俺から見ても、時々可哀想に見える事があるよ」
レイバンが珍しくそんな事を言った。
「誕生日ってさ、どんな子供でも特別だろ? 俺の家は貧乏だったけど、貧乏なりに特別だったよ。楽しい気持ちがちゃんと残るし、嬉しい記憶がちゃんとある。普通はそう感じるはずなのに、あいつはその辺が欠落してるんじゃないかな」
的を射た発言だろう。そう思い、ゼロスは息を吐いた。
「何をもって恵まれていると思うかだな。ランバートは随分、寂しい子供時代を送ったんだろう」
寂しい事を『寂しい』と認識しないくらいに。
少し遠くで、ランバートは淡々と食事をしている。側にいるファウストも穏やかに会話をしている。その側でシウスやオスカルは賑やかだ。
「楽しい思い出になればいい」
思わず呟いたゼロスの言葉に、周囲の友人達が目を丸くし、次には笑顔で頷いた。
「おっ、集まってるね」
「ウェイン様?」
ニコニコと近づいてきたウェインに、一同は驚いて姿勢を正す。すると彼は「やめてよー」なんて言って側に座った。
「昨日の話、詰めてるの?」
「はい」
「どの辺まで進んだの?」
「場所はラウンジで、料理なんかは持ち寄りにするつもりです。後、プレゼントは多すぎるのもなんなので、各師団で一つにと」
「かなり具体的になったんだね」
ニコニコ笑いながら機嫌良くしているウェインは、ちょこっと体を前に倒して秘密の話をするように囁いた。
「僕も一枚噛む。それと、オリヴァーも参加したいって。ハリーとコナンには伝えておくって言ってたよ」
「いいのですか?」
師団長まで参加となるともう少ししっかりと話を揃える必要がありそうだ。特に料理と飲み物、プレゼントについては被ると困る。それぞれ担当を決めようか。
「後ね、オリヴァーがケーキは任せてって言ってたよ。パティシエにツテがあるからって」
「パティシエにツテ、ですか」
第四師団師団長オリヴァー、謎の多い人だ。
「持ち寄る料理も各師団で決めた方がいいだろうか」
「そうだな。へたをすると肉ばかりが並んだりするぞ」
「肉パーティーになるね」
なんて、ボリスが苦笑して言った。肉パーティーは流石にない。
「ちなみに、ゼロス達は何を持ってこようとしてたの?」
「ローストビーフ。コンラッドは料理が上手いんだ」
今朝方少し話してそう決めた。勿論自分たちで作りたいと思っている。
「レイバンは何の予定だった?」
「果物の盛り合わせ。俺達に料理は高等スキルだからな。切って盛り付けるだけならできる」
「トレヴァーは?」
「一品料理を適当にオードブルにしてもらおうと思ってたんだ。前にみんなで打ち上げした店でさ。ランバートけっこう食べてたし」
「チェスターは?」
「俺は酒。叔父が表通りで酒屋やってた関係で、割安で手に入るんだ」
案外バランス良く揃いそうだ。これなら任せていいかもしれない。
「じゃあ、各その予定で料理は持ち寄るか」
「余興いる?」
「いらん。結局酒が入れば全部が余興みたいだろ」
酔って歌う、踊るは当たり前だ。これ以上のものなんていらない。
「じゃあ、僕はチェスターに乗ろうかな。代金折半でね」
「え? いいんですか?」
「勿論! 沢山楽しくして、みんなで祝おうね」
元気印が似合う上官のご機嫌な笑みに、この場にいる皆が力強く頷いたのは、言うまでもないことだった。
◆◇◆
ウェインからランバートの誕生日を尋ねられ、ファウストは十二日であることを伝えた。昨夜の様子が気になって経歴書を出してきたばかりだった。案外近い。
頭の痛い事は、あいつが自分の誕生日を認識していなかったことだ。話を聞くと溜息しか出ない。本当に自分に無関心なんだと思い知らされる。
「本当に、色々な意味でぶっ飛んだやつよ」
夜、シウスとオスカルに話すと彼らも溜息をついた。そして、気遣わしい目だ。
「まさか自分の誕生日を知らないなんてね。そんなのいる?」
「周囲が忙しすぎ、本人は遠慮が過ぎたんだろ」
そんな事だろうと思う。病気を誰にも言えなかった事、兄たちにも遠慮をしたこと。そんな奴だ、自身の思いを伝える事を覚える前に遠慮が先に来ているようにおもう。
「ねぇ、僕たちもやろうよ!」
楽しそうにオスカルは言ってあれこれと提案してくる。イベントプロデュースとなると一番張り切るのがこいつだ。
「よいの。こう、明るい話はいくらでもじゃ」
「だよね!」
「お前ら、ちゃんと話を聞いていたか? 当日は先約があるぞ」
「えー」
不満そうな声でブーイングしているオスカルに溜息をつき、ファウストは苦笑する。やっぱり色んな事をすっ飛ばしていたようだ。
「ラウンジでやるのであったな?」
「あぁ」
「ラウンジでは、我らは遠慮した方がよいの。我らが行くと変に気を使わせる。和気藹々という空気を邪魔してはならぬ」
「じゃあ、いつやるのさ」
口を尖らせて不平を口にしているが、シウスの言うことが正解だ。せっかく楽しくしているところで悪目立ちするのは避けたい。
「幸い、奴の誕生日は安息日前日じゃ。翌日でよかろう」
「ぶー」
「オスカル、子供みたいな事を言うな」
窘めているが、シウスが「一日パーティーだぞ」と囁くと再びやる気になったらしい。あれこれと計画しているが、流石に忙しすぎる。夕刻から招いて食事や酒を楽しもう。そういうことになった。
「いつもの酒宴と変わらない」
「ケーキを買ってやる故、そう拗ねるでない」
「僕ケーキ苦手だもん」
「我が儘言うな。一日中付き合わせると疲れるだろうが」
大体朝一で連れだしての日帰り旅行なんて体力的に辛い。翌日も仕事があるというのに。
「問題は、あやつの勘が鋭い事か。我らが動けば察するかもしれぬ」
「遠慮するだろうな」
十中八九「お気遣いいただかなくても」なんて言われるだろう。困ったように眉を下げる姿は想像に難くない。
「そんなの簡単。ファウストがランバートを連れ出せばいいんだよ」
「俺が?」
突然向いた矛先に声を上げると、オスカルばかりではなくシウスまで頷いている。
「なんで俺が」
「一番自然じゃん。安息日の朝は一緒に修練するでしょ? その時にさ、なんか誘って連れ出せばいいんだよ」
「三時間は稼ぐのだぞ」
なんて言われても、どうしたものだ。
だいいち誕生日祝いをした翌日に連れ出せば、何か察するだろうに。
「お祝いしたくないの?」
「そういうわけじゃない」
祝ってやりたい気持ちはおおいにある。空気も以前と変わらないくらいになった。昨日の礼もしたい。
何より、多くの者に祝われることであいつが自分を愛せるといい。自分を大事に思えるといい。自己愛がないのなら、誰かの大切な者であると認識してもらいたい。そういう意識が芽生えれば、簡単に命を投げるような事はしなくなるだろう。
「そうだな。昨日仕事を手伝ってもらった。おかげで決算書が問題なく通ったし、その礼と俺の気晴らしに誘うか」
「やはりあれはあの坊やが作ったものかえ。相変わらず完璧な」
「そうとなれば準備しよう!」
指を鳴らし楽しそうなオスカルにあれこれと任せる事にして、ファウストは部屋に戻った。
でも気持ちは、少し楽しみになっている。あれだけ自分の気持ちに蓋をしておきながら、楽しいのだ。どこに誘おうか、どのように数時間を過ごそうか。
「プレゼントか」
二十歳という節目に何を用意しよう。贈り物はあまり得意ではないが、何かを渡したいとは思う。記念になるものをと考える。そうする内に笑みが穏やかに浮かぶ。楽しいのだ、純粋に。赤くなったり遠慮したり、恥ずかしそうにしたりするランバートの姿を思い浮かべて笑う。その中で幸せに笑ってくれれば、十分だ。
時間の猶予は一週間。随分楽しい時間が続きそうで、ファウストはあれこれと考えながら眠りについた。
「十二日って、一週間くらいしか時間ないか」
レイバンが珍しく真剣な顔でそんな事を言う。こいつも時々意味が分からないが、基本的にやるときは徹底的に楽しむ奴だ。それに、ランバートの事は珍しく気に掛けている。
「ラウンジの使用許可は取っておくよ」
ボリスがやる気満々に胸を叩く。それに、俺はただ頷いた。
「どうした、ゼロス。何か気がかりがあるのか?」
コンラッドが問いかけるのに、ゼロスは苦笑した。昨日の様子を見て、話を聞いて、ゼロスはずっと浮かない顔をしている。それを気に掛けたのだろう。
「なに? ゼロスは反対なの?」
「そうじゃない。……いや、むしろ昨日の話を聞いたら是が非でもやろうと思ったんだ」
ランバートはどこか不思議な奴だ。人よりも達観しているし、頼ってきた者に優しい。嫌な顔をしながらも誰とでも付き合い、悪乗りも楽しそうにしている。頭だっていいだろうし、容姿も能力も恵まれている。
なのにとても不憫なんだ。とても小さなズレを多く感じてきた。それは普通なら受け取っていいはずの親切や愛情という部分。温かなものから手を引っ込める傾向があるように思える。
「ランバートの事、気にしてるんでしょ?」
ボリスが察するように言った。それにゼロスは、ただ頷いた。
「ランバートって、ちょっとズレがあるっていうか……寂しい感じがするよね」
ぽつりと呟く言葉は皆が感じているのだろう。この言葉を否定する者はない。
「壁までいかないんだけど、少しだけ距離がある感じかな。ほんの少しなんだろうけれど」
「そのほんの少しが大きいな。あいつ、好意を恐れている節がある」
ボリスの言葉をコンラッドが拾う。
好意を恐れる。それは分かる。与える事に惜しみないのに、差し出すと手をこまねく。拒絶ではないだろうが、どうしたらいいか分からない。そんな顔をするのだ。
「経済的にも能力的にも恵まれてるのにね、ランバート。貧乏没落家庭の俺から見ても、時々可哀想に見える事があるよ」
レイバンが珍しくそんな事を言った。
「誕生日ってさ、どんな子供でも特別だろ? 俺の家は貧乏だったけど、貧乏なりに特別だったよ。楽しい気持ちがちゃんと残るし、嬉しい記憶がちゃんとある。普通はそう感じるはずなのに、あいつはその辺が欠落してるんじゃないかな」
的を射た発言だろう。そう思い、ゼロスは息を吐いた。
「何をもって恵まれていると思うかだな。ランバートは随分、寂しい子供時代を送ったんだろう」
寂しい事を『寂しい』と認識しないくらいに。
少し遠くで、ランバートは淡々と食事をしている。側にいるファウストも穏やかに会話をしている。その側でシウスやオスカルは賑やかだ。
「楽しい思い出になればいい」
思わず呟いたゼロスの言葉に、周囲の友人達が目を丸くし、次には笑顔で頷いた。
「おっ、集まってるね」
「ウェイン様?」
ニコニコと近づいてきたウェインに、一同は驚いて姿勢を正す。すると彼は「やめてよー」なんて言って側に座った。
「昨日の話、詰めてるの?」
「はい」
「どの辺まで進んだの?」
「場所はラウンジで、料理なんかは持ち寄りにするつもりです。後、プレゼントは多すぎるのもなんなので、各師団で一つにと」
「かなり具体的になったんだね」
ニコニコ笑いながら機嫌良くしているウェインは、ちょこっと体を前に倒して秘密の話をするように囁いた。
「僕も一枚噛む。それと、オリヴァーも参加したいって。ハリーとコナンには伝えておくって言ってたよ」
「いいのですか?」
師団長まで参加となるともう少ししっかりと話を揃える必要がありそうだ。特に料理と飲み物、プレゼントについては被ると困る。それぞれ担当を決めようか。
「後ね、オリヴァーがケーキは任せてって言ってたよ。パティシエにツテがあるからって」
「パティシエにツテ、ですか」
第四師団師団長オリヴァー、謎の多い人だ。
「持ち寄る料理も各師団で決めた方がいいだろうか」
「そうだな。へたをすると肉ばかりが並んだりするぞ」
「肉パーティーになるね」
なんて、ボリスが苦笑して言った。肉パーティーは流石にない。
「ちなみに、ゼロス達は何を持ってこようとしてたの?」
「ローストビーフ。コンラッドは料理が上手いんだ」
今朝方少し話してそう決めた。勿論自分たちで作りたいと思っている。
「レイバンは何の予定だった?」
「果物の盛り合わせ。俺達に料理は高等スキルだからな。切って盛り付けるだけならできる」
「トレヴァーは?」
「一品料理を適当にオードブルにしてもらおうと思ってたんだ。前にみんなで打ち上げした店でさ。ランバートけっこう食べてたし」
「チェスターは?」
「俺は酒。叔父が表通りで酒屋やってた関係で、割安で手に入るんだ」
案外バランス良く揃いそうだ。これなら任せていいかもしれない。
「じゃあ、各その予定で料理は持ち寄るか」
「余興いる?」
「いらん。結局酒が入れば全部が余興みたいだろ」
酔って歌う、踊るは当たり前だ。これ以上のものなんていらない。
「じゃあ、僕はチェスターに乗ろうかな。代金折半でね」
「え? いいんですか?」
「勿論! 沢山楽しくして、みんなで祝おうね」
元気印が似合う上官のご機嫌な笑みに、この場にいる皆が力強く頷いたのは、言うまでもないことだった。
◆◇◆
ウェインからランバートの誕生日を尋ねられ、ファウストは十二日であることを伝えた。昨夜の様子が気になって経歴書を出してきたばかりだった。案外近い。
頭の痛い事は、あいつが自分の誕生日を認識していなかったことだ。話を聞くと溜息しか出ない。本当に自分に無関心なんだと思い知らされる。
「本当に、色々な意味でぶっ飛んだやつよ」
夜、シウスとオスカルに話すと彼らも溜息をついた。そして、気遣わしい目だ。
「まさか自分の誕生日を知らないなんてね。そんなのいる?」
「周囲が忙しすぎ、本人は遠慮が過ぎたんだろ」
そんな事だろうと思う。病気を誰にも言えなかった事、兄たちにも遠慮をしたこと。そんな奴だ、自身の思いを伝える事を覚える前に遠慮が先に来ているようにおもう。
「ねぇ、僕たちもやろうよ!」
楽しそうにオスカルは言ってあれこれと提案してくる。イベントプロデュースとなると一番張り切るのがこいつだ。
「よいの。こう、明るい話はいくらでもじゃ」
「だよね!」
「お前ら、ちゃんと話を聞いていたか? 当日は先約があるぞ」
「えー」
不満そうな声でブーイングしているオスカルに溜息をつき、ファウストは苦笑する。やっぱり色んな事をすっ飛ばしていたようだ。
「ラウンジでやるのであったな?」
「あぁ」
「ラウンジでは、我らは遠慮した方がよいの。我らが行くと変に気を使わせる。和気藹々という空気を邪魔してはならぬ」
「じゃあ、いつやるのさ」
口を尖らせて不平を口にしているが、シウスの言うことが正解だ。せっかく楽しくしているところで悪目立ちするのは避けたい。
「幸い、奴の誕生日は安息日前日じゃ。翌日でよかろう」
「ぶー」
「オスカル、子供みたいな事を言うな」
窘めているが、シウスが「一日パーティーだぞ」と囁くと再びやる気になったらしい。あれこれと計画しているが、流石に忙しすぎる。夕刻から招いて食事や酒を楽しもう。そういうことになった。
「いつもの酒宴と変わらない」
「ケーキを買ってやる故、そう拗ねるでない」
「僕ケーキ苦手だもん」
「我が儘言うな。一日中付き合わせると疲れるだろうが」
大体朝一で連れだしての日帰り旅行なんて体力的に辛い。翌日も仕事があるというのに。
「問題は、あやつの勘が鋭い事か。我らが動けば察するかもしれぬ」
「遠慮するだろうな」
十中八九「お気遣いいただかなくても」なんて言われるだろう。困ったように眉を下げる姿は想像に難くない。
「そんなの簡単。ファウストがランバートを連れ出せばいいんだよ」
「俺が?」
突然向いた矛先に声を上げると、オスカルばかりではなくシウスまで頷いている。
「なんで俺が」
「一番自然じゃん。安息日の朝は一緒に修練するでしょ? その時にさ、なんか誘って連れ出せばいいんだよ」
「三時間は稼ぐのだぞ」
なんて言われても、どうしたものだ。
だいいち誕生日祝いをした翌日に連れ出せば、何か察するだろうに。
「お祝いしたくないの?」
「そういうわけじゃない」
祝ってやりたい気持ちはおおいにある。空気も以前と変わらないくらいになった。昨日の礼もしたい。
何より、多くの者に祝われることであいつが自分を愛せるといい。自分を大事に思えるといい。自己愛がないのなら、誰かの大切な者であると認識してもらいたい。そういう意識が芽生えれば、簡単に命を投げるような事はしなくなるだろう。
「そうだな。昨日仕事を手伝ってもらった。おかげで決算書が問題なく通ったし、その礼と俺の気晴らしに誘うか」
「やはりあれはあの坊やが作ったものかえ。相変わらず完璧な」
「そうとなれば準備しよう!」
指を鳴らし楽しそうなオスカルにあれこれと任せる事にして、ファウストは部屋に戻った。
でも気持ちは、少し楽しみになっている。あれだけ自分の気持ちに蓋をしておきながら、楽しいのだ。どこに誘おうか、どのように数時間を過ごそうか。
「プレゼントか」
二十歳という節目に何を用意しよう。贈り物はあまり得意ではないが、何かを渡したいとは思う。記念になるものをと考える。そうする内に笑みが穏やかに浮かぶ。楽しいのだ、純粋に。赤くなったり遠慮したり、恥ずかしそうにしたりするランバートの姿を思い浮かべて笑う。その中で幸せに笑ってくれれば、十分だ。
時間の猶予は一週間。随分楽しい時間が続きそうで、ファウストはあれこれと考えながら眠りについた。
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