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6章:朋友

12話:祭りのあと

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 無事に全てが終わって、立食でのご苦労さん会。みんな自由に会話を楽しんでいるけれど、大抵がこの試験の事だった。

「まっ、何にしてもお疲れ」
「「お疲れ様」」

 ゼロスの音頭に全員が声を揃えて木製のグラスをぶつける。中身は流石に水だ。

「楽しかったな」
「なんか、ちょっと寂しい気もするけどね。このチームなら、何だってやれそうじゃないか?」

 レイバンの声に、トレヴァーが頷く。けれどコナンは少し複雑そうだ。

「どうした、コナン?」
「僕はもっと強くならないと。みんなにちゃんと、ついて行きたい」

 小さく呟いた言葉に、全員が笑って頭を撫でる。そして、頷いた。

「また手合わせしようぜ。俺ももっと強くなる!」
「トレヴァーはその前に単純バカを治さないとなー」
「単純バカってなんだよ、レイバン!」

 じゃれつく二人を見て、ゼロスと二人困ったように笑う。そして、どちらともなく乾杯だ。

「だが、本当にいいチームだったと思う。最初はどうなるかと思ったが」
「俺も思うよ。個性的な面子が多いし、意見一つまとまらない可能性もあった。けれど、それをまとめたのはゼロスだと思ってる」
「俺が?」

 心底意外という顔をするゼロスに、ランバートは笑った。こいつもまた、自分の力を理解していないんだ。

「ゼロスが方針を明確に打ち出していなければ、上手くいかなかっただろ」
「そんなものか?」
「あぁ。リーダーとしての才能があるんだと思うよ」

 手にしたサンドイッチを放り込むと、案外腹が減っていた事を知った。続けてもう一つつまむと、ゼロスが可笑しそうに笑った。

「ランバートも少し意外だった。お前、案外周囲を気にして気を使っているんだな」
「俺が?」
「あぁ。常にバランスを取ろうとしていた。それに、頼る奴を無下にしない。面倒見がいいんだな」

 それは少し意外な言葉だ。自分ではそんなに意識していなかったんだけれど。
 その時、こちらに向かって歩いてくるファウストの姿が見えた。こちらを見て、困った顔で笑っている。

「お疲れ。いい試合だったな」
「「お疲れ様です」」

 全員が頭を下げて一礼をする。それに苦笑したファウストは、ランバートとゼロス、そしてレイバンへと視線を投げた。

「様子の変だった隊員だが、正気に戻った。原因も判明したぞ」
「なんでしたか?」

 問いかけると、ファウストは少しだけ輪を縮めるように言う。周囲に聞かれるのを嫌ったんだろう。

「どうやら、集中するのに一人になる癖のある奴だったらしい。ここの管理小屋の裏に、木材を乱雑に積み重ねた場所があるのは知ってるか?」

 ここに出入りしているなら誰だって知っている。折れた枝や間伐の為に切った木を適当な大きさにして積み重ねている場所だ。あとで建材にしたり、薪にしたりするのに意外と使う。

「どうやらそこにあった木に、毒キノコが生えていたようだ。オリヴァーとエリオットが確認して、間違いないと言っていた。僅かな衝撃でも胞子を飛ばすもので、その胞子に幻覚を見せる効果があるようだ」
「意外と身近に危険物があるものですね」

 ゼロスがなんとも言えない顔で言うが、そんなに意外な事ではない。危険なものは身近にあることもある。綺麗だと思って触れる花、虫、生き物にも毒があることがある。知っているか知らないかの話だ。

「医療府と暗府でそこの木を全て運び出した。後で焼く事になっている」
「ファウスト様、あいつの処分は」

 硬い声でゼロスが問う。確か、その隊員もゼロスと同じ第一師団だったはずだ。仲間を心配しているのだろう。
 ファウストも複雑そうだ。だが厳しさはない。それにこの人は優しい人だから、そう酷い事にはならないとランバートは安心していられた。

「まったくお咎め無しとはできないが、大きな罰は考えていない。医療府の診察でも毒キノコによる意識の錯乱と幻覚が原因だと診断できた。怪我をした面々も説明を受けて、あまり大事にしないでほしいと言ってくれた。謹慎などの処分はあるが、厳しくはしない。何よりそんな危険な物が自然発生していた事に気づけて、ホッとした」

 確かに早めに気づけてよかった。悪用などされればとんでもない事になるだろう。
 ゼロスも安心したようだった。強ばっていた表情が緩んでいく。

「ランバート、お前が蹴り倒した奴もさっき目が覚めたぞ。挨拶にくるそうだ」
「え?」

 驚いて問い返すそこに、影が差す。そして次には思い切り腕を掴まれて顔が強ばった。咄嗟にもう一発蹴りそうになって、それを抑えるのに必死だ。
 ドゥーガルドと、彼らのチームがそこにいる。今は全員楽しげな笑みを浮かべていて、敵愾心もまったくない。そしてランバートは獣のような相手に手をつかまれ、ブンブンされている。

「お前強いな! 初めて世界が真っ白になった!」
「いや、そこはそんな興奮して言うような事じゃ……」
「俺は強い奴が好きだ! お前は逃げないし、強い。また改めて手合わせ願いたい」
「ウザいでしょ、この筋肉だるま。うちの大将も手を焼くんだよ」

 レイバンがうんざりと言うのに、内心ランバートは頷いた。

「でも俺も、こいつが浮いた所を初めて見たよ。蹴り一つで人間飛ぶんだね」
「ランバート」

 ファウストが怖い顔でこっちを見ているけれど、見なかった事にしよう。

「なんとか間に合ったみたいで、俺も安心したよ」

 ハリーが苦笑して握手を求めてくる。それに応じて、ランバートは素直に礼を言った。

「助かったよ、知らせてくれて。そうじゃなかったら、間に合わなかった」
「お役に立ててなにより」
「どういうこと?」

 コナンが不安そうに立っている。ランバートが事の経緯を話すと、意外そうな顔をしながらもペコリと頭を下げた。

「助かりました」
「ううん、いいよ。この猛獣に首輪つけとくこともできないし、暴れると俺じゃ止められないからさ。ランバートが止めてくれて助かった」

 そう言うと、ハリーは笑う。こちらもちょっと癖がありそうだ。

「今回の試合は、案外いい情報も得られた。ゼロスの隊、ボリスの隊、コンラッドの隊はこのまま小隊として組ませてもいいくらいだ。事案によっては、本当に組んで任務をして貰うこともあるかもしれない」

 ファウストが真面目な顔でそんな事を言う。この顔は、本当にそんな事を考えているだろう。ランバートは察して、そしてその日が楽しみだった。
 今の仲間が好きだし、一緒にいて楽しい。彼らとこなす任務はきっと、どんなものでも充実したものになるだろう。そんな予感がしている。

「よし、明日は休みなんだから今日は打ち上げいくぞ! 朝までOKな酒場兼宿屋知ってるんだ」

 トレヴァーの声にその場にいた二チームが声を大きく賛同を示す。ん? この二チームで行くのか?

「この人数で大丈夫なのか?」
「大部屋あるから大丈夫。あっ、終わったら俺先に行って部屋抑えとく」

 ウキウキとした表情のトレヴァーに、ゼロスとランバート、レイバンが顔を見合わせて溜息をつく。でも次には笑って頷くのだから、いい仲間だ。
 楽しい時間はこれからもまだ、今日の夜まで続く予定となったのだった。
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