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5章:親愛をこめて
3話:大切な人
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とうとう聖リマの日がやってきた。仕事終わりに予定通り誘われたラウルはシウスと一緒に劇場にいた。今日開かれる音楽会に行ったのだ。
「素敵な演奏でしたね」
公演が終わって多くの恋人達が帰る中、ラウルは満足な笑みでシウスを見上げる。暖かなコートを着た人はとても柔らかな笑みで頷いた。
「小さな音楽会だったが、良い演奏であった」
「はい」
小さな室内楽だったけれど、それが良かった。二人掛けのソファ-が鑑賞者の数だけ置いてあり、そこに少しの料理とお酒が置かれてある。恋人だけの演奏会だったので二人で一つのソファーに座り、寄り添って柔らかな演奏を聴いていた。
シウスが恋人になって、ラウルはこうした場によく足を運ぶようになった。シウスは音楽や演劇、オペラの鑑賞が趣味でよくラウルを誘ってくれるから、勉強したのだ。
「シウス様は、何か楽器をされるのですか?」
問いかけたが、シウスは難しい顔をして首を横に振った。
「あいにく、経験がない。じゃが、おそらく苦手だろうの。私はあまり器用ではない故」
不器用とは言わないあたりが、シウスのプライドに見えた。
夜の街へと歩き出したラウルは、少しだけドキドキしている。作ったマフラーを隠して持ってきた。けれどこれをいつ渡そうか、そのタイミングが掴めなかった。このままでは騎士団宿舎まで戻ってしまう。なんとかしなければ。
そんな気持ちで焦っていると、不意に冷たいものが首筋に触れた。
「あっ」
「ほぉ、降り出したの」
夜の空を白い綿毛のような雪が彩る。見上げたシウスが手を差し伸べて、雪を受ける。その姿はとても綺麗で、見とれるくらいだ。
未だにこの人の恋人だなんて、信じられない。ひょんな事からこのような関係になったけれど、本当に良かったのだろうか。どう頑張っても、この人には釣り合わないように思える。
不意に冷たい手が頬に触れた。見上げると、薄い水色の瞳が優しく見ていた。
「寒くはないかえ?」
「はい、平気です」
こんなことをこの人に悟られたら、きっと悲しませてしまう。いつも通りに笑って言ったラウルを見る瞳は、ほんの少し悲しそうだった。
「シウス様、肩に雪がついてます」
手で払い、ラウルは隠していた包みを開けてマフラーを出して、その首に掛けた。驚いたように見開かれた水色の瞳が、ジッとラウルを見ている。
「あの、僕からの贈り物です。寒いので、どうぞ」
なんて言えばいいんだろう。渡した途端に不安になった。気に入ってくれなかったら? 案外不格好になってしまっていたら?
「あの、今だけでも! 気に入らなかったら、返してくれてもいいので」
俯いてしまう。自信がなくなってしまう。思いを込めて作ってみたけれど、お店の物のようにはいかないと思う。
途端に驚いた顔をされて、次にギュッと抱きしめられる。ラウルは驚いて身を固くした。
「気に入らぬ訳がないであろう。これは、ラウルが作ってくれたのかえ」
「え? はい」
「嬉しい贈り物じゃ。どんな物にも変えられぬ宝ぞ」
本当に嬉しそうに言ってくれる言葉に、胸が熱くなる。嬉しくて、幸せで笑みが浮かんだ。
抱きしめられたまま、チョンと頬にキスをされる。人前ではあまりこのような事をしない人が、とても幸せそうに。
「有り難う、ラウル。これに見合う物が見つからぬのが心苦しいが」
「あの、本当にそんな! 喜んでもらえただけで、嬉しいです」
本当にそのままだ。こんなに喜んでもらえるなら、それだけで嬉しい。お返しなんて求めていない。
シウスの手が頭についた雪を払う。徐々に冷え込みが厳しくなる中で、やんわりと笑う人の笑みをただ見つめた。
「では、食事に行こう。その後は、私の部屋へおいで」
「はい」
甘い甘い笑みを見上げて、ラウルは微笑む。そっと寄り添って歩く道は、どこも輝いているように見えた。
「素敵な演奏でしたね」
公演が終わって多くの恋人達が帰る中、ラウルは満足な笑みでシウスを見上げる。暖かなコートを着た人はとても柔らかな笑みで頷いた。
「小さな音楽会だったが、良い演奏であった」
「はい」
小さな室内楽だったけれど、それが良かった。二人掛けのソファ-が鑑賞者の数だけ置いてあり、そこに少しの料理とお酒が置かれてある。恋人だけの演奏会だったので二人で一つのソファーに座り、寄り添って柔らかな演奏を聴いていた。
シウスが恋人になって、ラウルはこうした場によく足を運ぶようになった。シウスは音楽や演劇、オペラの鑑賞が趣味でよくラウルを誘ってくれるから、勉強したのだ。
「シウス様は、何か楽器をされるのですか?」
問いかけたが、シウスは難しい顔をして首を横に振った。
「あいにく、経験がない。じゃが、おそらく苦手だろうの。私はあまり器用ではない故」
不器用とは言わないあたりが、シウスのプライドに見えた。
夜の街へと歩き出したラウルは、少しだけドキドキしている。作ったマフラーを隠して持ってきた。けれどこれをいつ渡そうか、そのタイミングが掴めなかった。このままでは騎士団宿舎まで戻ってしまう。なんとかしなければ。
そんな気持ちで焦っていると、不意に冷たいものが首筋に触れた。
「あっ」
「ほぉ、降り出したの」
夜の空を白い綿毛のような雪が彩る。見上げたシウスが手を差し伸べて、雪を受ける。その姿はとても綺麗で、見とれるくらいだ。
未だにこの人の恋人だなんて、信じられない。ひょんな事からこのような関係になったけれど、本当に良かったのだろうか。どう頑張っても、この人には釣り合わないように思える。
不意に冷たい手が頬に触れた。見上げると、薄い水色の瞳が優しく見ていた。
「寒くはないかえ?」
「はい、平気です」
こんなことをこの人に悟られたら、きっと悲しませてしまう。いつも通りに笑って言ったラウルを見る瞳は、ほんの少し悲しそうだった。
「シウス様、肩に雪がついてます」
手で払い、ラウルは隠していた包みを開けてマフラーを出して、その首に掛けた。驚いたように見開かれた水色の瞳が、ジッとラウルを見ている。
「あの、僕からの贈り物です。寒いので、どうぞ」
なんて言えばいいんだろう。渡した途端に不安になった。気に入ってくれなかったら? 案外不格好になってしまっていたら?
「あの、今だけでも! 気に入らなかったら、返してくれてもいいので」
俯いてしまう。自信がなくなってしまう。思いを込めて作ってみたけれど、お店の物のようにはいかないと思う。
途端に驚いた顔をされて、次にギュッと抱きしめられる。ラウルは驚いて身を固くした。
「気に入らぬ訳がないであろう。これは、ラウルが作ってくれたのかえ」
「え? はい」
「嬉しい贈り物じゃ。どんな物にも変えられぬ宝ぞ」
本当に嬉しそうに言ってくれる言葉に、胸が熱くなる。嬉しくて、幸せで笑みが浮かんだ。
抱きしめられたまま、チョンと頬にキスをされる。人前ではあまりこのような事をしない人が、とても幸せそうに。
「有り難う、ラウル。これに見合う物が見つからぬのが心苦しいが」
「あの、本当にそんな! 喜んでもらえただけで、嬉しいです」
本当にそのままだ。こんなに喜んでもらえるなら、それだけで嬉しい。お返しなんて求めていない。
シウスの手が頭についた雪を払う。徐々に冷え込みが厳しくなる中で、やんわりと笑う人の笑みをただ見つめた。
「では、食事に行こう。その後は、私の部屋へおいで」
「はい」
甘い甘い笑みを見上げて、ラウルは微笑む。そっと寄り添って歩く道は、どこも輝いているように見えた。
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