41 / 167
2章:ロッカーナ演習事件
10話:ウォルシュ家
しおりを挟む
翌日、朝食を終えたくらいの時間にウェインはとある屋敷を訪れていた。通された執務室には、五十を過ぎたくらいの男性が待っていた。
「このような時間しか空きが取れず、申し訳ありませんウェイン隊長」
「いえ、こちらこそ急な面会をお願いしてしまい、申し訳ありませんウォルシュ伯爵」
互いに硬い表情のまま握手を交わし、ソファーに腰を下ろす。執事がお茶を出して退出すると、先にウォルシュ氏が重く息をついた。
「愚息の事ですかな?」
単刀直入な問いかけには、どこか確信めいたものがある。ウェインは曖昧に笑って、お茶を濁した。
「まだ、分からない事だらけです。調べる為にもお話を伺いたくて、失礼を承知で訪ねて参りました。伯爵、ロディという少年をご存じですか?」
ウェインがロディの名を出した途端、ウォルシュ氏の瞳が驚きに見開かれ、次には悲しみに歪んだ。
「ロディの事は小さな頃から知っています。あの子の母の事も。あの子が死んだと聞かされて、どれ程驚いたか。芯の強い、優しい子だったのに何があったのか。……まさか、うちの息子が何か関わっているのですか?」
「まだ、確証はありません。ですが、どうやら隊内で虐めがあったらしく、そこにダレル君が関わっているという噂があります。何か、息子さんから聞いてはいませんか?」
ウォルシュ氏の項垂れた頭は、なかなか上がらなかった。たっぷりと時間が経ったような感覚があって、ようやく顔が上がった。
「あれから、そうした話を聞いた事はありません。ただ、そうした事をする可能性は十分にあるかと思います」
重く、苦々しい顔をして語るウォルシュ氏は、言葉をだいぶ選んだだろう。多少の親心を持って、話を続けた。
「少し、甘やかしてしまったのかもしれません。特にあれの母親は、一人息子に甘かった。いつの間にか他者を見下すようになり、家柄や身分でのみ人を判断する子に育ってしまった。自分に従順な相手を懐柔し、弱い者を攻撃する。ロディは、あれの目から見れば弱い存在です」
「ジェームズという子は?」
「ジェームズは昔から、あれの取り巻きでした。あの子に何か?」
「昨夜、何者かに襲われました。彼だけではありません。ロディの自殺に関わった疑いのある隊員が、襲われています」
「そんな、まさか!」
事の大きさを知って、ウォルシュ氏は思わず立ち上がった。そして、顔を手で覆って力なくソファーに座り直す。
「可哀想なロディだけではなく、あれの愚かな行為で他の子まで怪我をしているなんて」
「まぁ、ロディ以外は無罪とは言えない奴らですから、あまりお気になさらずに。それに、傷も軽微です。今後の生活や仕事に支障が出るようなものではありません」
それを聞いて、ウォルシュ氏は多少表情を緩めた。
「一つ、伺いたいのです。僕達はこの事件の犯人を追っていますが、どうしてもロディの事件と切り離すことができません。犯人はロディと関係の深い人物だと考えています。そうした相手を、ご存じではありませんか?」
「なぜ、それを私に?」
「貴方はこの町の名士。情報が自然と集まると聞いています。それに、入団前のロディの事も知っているようですし」
ウォルシュ氏は考えて、首を横に振った。
「おそらく、騎士団に入ってからの相手でしょう。あの子は穏やかな子で、人づきあいの多い子ではありませんでした。同い年のクリフとは仲が良かったようですが、あの子はロディ以上に臆病な子です。とてもそんな恐ろしい事はできません。ロディが町に来るときは決まって、母親の療養所でしたし」
「一緒に誰か連れているような事は?」
「いいや、そんな話は聞いたことがありません。あの子はあれで目立つ子なんですよ。可愛かったですし、母親思いの優しい子だと評判でした。そういう子というのは、大人の目には必ず留まるものです。ですが、あの子が誰かを母親に会わせているなんて、聞いたことがありません」
「そうですか……」
ウェインは残念そうに項垂れた。もう少し情報が得られるかと期待していたのだが。
まぁ、そう上手くはいかないだろう。ここでウジウジしても仕方がない。
顔を上げて、ロディの母親がいた療養所の場所を聞いて、ウェインはその場を後にすることにした。
◆◇◆
「で、結局それ以上の事は分からずじまいです。少なくとも、ロディは誰かと一緒に町に行った事はない。店にも聞き込みましたが、いつも一人だったそうです」
夜の報告会で、ウェインは今日の成果を報告した。まぁ、概ね予想通りではあったが。
「ジェームズの方はどうだ?」
ファウストに話を振られたオーソンは、首を横に振る。
「怯えています、色々と。ただ、ロディの事件から日が経ち、冷静に自分の行いを後悔し始めているのか、聞くと歯切れが悪くなっています。ですが、自分の軽率な裏切りが家にも迷惑をかけるのではと考えているようで、しきりに『俺だけではすまなくなる』と言って拒み続けています」
「そうか……」
裏切れば報復がある。そうなれば家にまで迷惑をかけると考えているのなら、口を割らせるのは至難の業だろう。どんなクズでも、後ろに大事なものを背負うと途端に別人になる。
「ファウスト様」
ウェインの重々しい声にファウストが視線を向けると、妙にギラギラしたウェインがファウストを見ていた。
「ジェームズに、取引を持ち込みたいと思います。彼だけではなく、これまでの被害者全員を、個別にまわって」
「何を取引する?」
「ロディの事件の真相と、黒幕に関する証言を条件に、本人たちの罪の軽減を」
「それだけで応じると思うか?」
「もう一つ、免罪符を貰ってありますから」
そう言ってウェインが取り出したのは、一枚の羊皮紙だった。そこには緻密で几帳面な文字で、こう書かれていた。
『愚息、ダレルの行いによって他の者に何らかの制裁、及び不利益を負わせることは一切ないと、ここに誓う。
アーロン・ウォルシュ』
「これで、家の事を気にする必要はなくなります」
「輸送は?」
「明日から全員を説得し、応じた段階で随時王都に護送します」
「分かった、約束しよう。ただし、口添えが出来る程度だ。今回の事は俺も立場が悪い。軍法を逃れる事は出来ないし、そこで下った判決は覆せない。奴らには自らの罪を悔い改め、真摯な態度で過ごすように言っておけ」
「はい」
丁寧に礼を取ったウェインは、早速動き出す為にオーソンと小声で打ち合わせを始めている。
そのやり取りを見ていたクリフが、こっそりと隣のランバートの袖を引いた。
「あの……みんな罪に問われるの?」
「まぁ、無罪放免とはいかないだろうな。それでも、ファウスト様から直々に口添えとなればかなりいいと思う。本人たちが反省して、正直に真実を述べれば減刑にはなるよ」
「この犯人も?」
その質問には、ランバートは答えが見つからなかった。
「……ロディ、亡くなる半年前くらいから、休みの前日とか、当日に出かけてたよ。いつもじゃないけど、時々見てた」
「え?」
ぼそぼそとランバートにしか聞こえない声で言うクリフに、ランバートは驚いて目を見開く。思わず出てしまった声に、ファウストの視線が止まった。
「どうした?」
「いえ、少し。クリフが、彼らはどうなるのか心配したようで」
ファウストの視線がクリフに向かう。とても穏やかで優しい眼差しだ。
「絶対とは言えないが、減刑できるよう取り合う。王都で一から叩き直す予定だ」
「てことは、あいつら王都勤務になるんですか?」
当然のようにランバートは嫌な顔をする。だがファウストはそれに頷くばかりで、譲る気はないようだ。
「下働きから雑用まで、みっちりやってからこっちに戻す。今の所、そう簡単に人を辞めさせられる状況じゃない。万年人不足だ」
「それは、そうですけれど……」
「何ならお前の下につけようか?」
「何の嫌がらせですか! 俺はあんなのいりません」
キッパリと断わるランバートに、楽しげに笑うファウスト。そんな二人を見てオロオロするクリフの頭を、ファウストがくしゃりと撫でた。
「そういう事だ、心配はいらない。俺の責任で、しっかりと指導しなおす。次にここに戻ってくる時には、別人のようになっているさ」
そう言われて、クリフも頷いた。
報告は以上とのことで、ランバートとクリフは自室に戻ってきた。
戻ってきてすぐ、ランバートは部屋に鍵をかける。そして、クリフに真剣な目を向けた。
「さっきの話の続きなんだけど、どういう事だ? 誰かに会っている様子だったのか?」
「多分。とても幸せそうな感じがしたから。でも、いつも一人で行って一人で帰ってきてたと思う。見かける時は必ず一人だったから。相手は分からない。それに、どこに行っていたのかも。でも決まって、森のほうに行ってた」
「森って、訓練用の?」
問うと、クリフはしっかりと頷いた。
「訓練用の森は、そのまま本当の森に通じているんだ。途中に敷地を表す柵があるけれど、その先も森は続いてる」
「何があるか、分かるか?」
その問いには、首を横に振った。
「行ったことがないから。道がないし、遠くまで行くと帰りが心配だし。それに、野盗も出るって噂があるんだ。捨てられた教会とか、村があるらしいよ」
「教会や、村か」
ランバートは暫く考え込む仕草をしたが、やがて一つ確かに頷いて笑ってみせた。
「明日、確かめてくる」
「でも、明日も訓練が」
「腹の具合が悪い事にするよ」
「……ファウスト様に言わなくて、よかったのかな?」
その言葉には、ランバートも曖昧に笑って頷いた。
「いいんじゃないのかな。色々考えて、あの人には言いたくなかったんだろ?」
「うん。勘違いかもしれないし、偶然かもしれない。何もない可能性の方が高いのに、お忙しい人を煩わせるのは気が引けて」
「それなら、俺が確かめてくる。必要そうなら、報告しておくから」
「ランバート、怒られない?」
「怒られ慣れてるから大丈夫」
そう言って笑ったランバートに、クリフは目を丸くして、その後でふにゃりと笑った。
「このような時間しか空きが取れず、申し訳ありませんウェイン隊長」
「いえ、こちらこそ急な面会をお願いしてしまい、申し訳ありませんウォルシュ伯爵」
互いに硬い表情のまま握手を交わし、ソファーに腰を下ろす。執事がお茶を出して退出すると、先にウォルシュ氏が重く息をついた。
「愚息の事ですかな?」
単刀直入な問いかけには、どこか確信めいたものがある。ウェインは曖昧に笑って、お茶を濁した。
「まだ、分からない事だらけです。調べる為にもお話を伺いたくて、失礼を承知で訪ねて参りました。伯爵、ロディという少年をご存じですか?」
ウェインがロディの名を出した途端、ウォルシュ氏の瞳が驚きに見開かれ、次には悲しみに歪んだ。
「ロディの事は小さな頃から知っています。あの子の母の事も。あの子が死んだと聞かされて、どれ程驚いたか。芯の強い、優しい子だったのに何があったのか。……まさか、うちの息子が何か関わっているのですか?」
「まだ、確証はありません。ですが、どうやら隊内で虐めがあったらしく、そこにダレル君が関わっているという噂があります。何か、息子さんから聞いてはいませんか?」
ウォルシュ氏の項垂れた頭は、なかなか上がらなかった。たっぷりと時間が経ったような感覚があって、ようやく顔が上がった。
「あれから、そうした話を聞いた事はありません。ただ、そうした事をする可能性は十分にあるかと思います」
重く、苦々しい顔をして語るウォルシュ氏は、言葉をだいぶ選んだだろう。多少の親心を持って、話を続けた。
「少し、甘やかしてしまったのかもしれません。特にあれの母親は、一人息子に甘かった。いつの間にか他者を見下すようになり、家柄や身分でのみ人を判断する子に育ってしまった。自分に従順な相手を懐柔し、弱い者を攻撃する。ロディは、あれの目から見れば弱い存在です」
「ジェームズという子は?」
「ジェームズは昔から、あれの取り巻きでした。あの子に何か?」
「昨夜、何者かに襲われました。彼だけではありません。ロディの自殺に関わった疑いのある隊員が、襲われています」
「そんな、まさか!」
事の大きさを知って、ウォルシュ氏は思わず立ち上がった。そして、顔を手で覆って力なくソファーに座り直す。
「可哀想なロディだけではなく、あれの愚かな行為で他の子まで怪我をしているなんて」
「まぁ、ロディ以外は無罪とは言えない奴らですから、あまりお気になさらずに。それに、傷も軽微です。今後の生活や仕事に支障が出るようなものではありません」
それを聞いて、ウォルシュ氏は多少表情を緩めた。
「一つ、伺いたいのです。僕達はこの事件の犯人を追っていますが、どうしてもロディの事件と切り離すことができません。犯人はロディと関係の深い人物だと考えています。そうした相手を、ご存じではありませんか?」
「なぜ、それを私に?」
「貴方はこの町の名士。情報が自然と集まると聞いています。それに、入団前のロディの事も知っているようですし」
ウォルシュ氏は考えて、首を横に振った。
「おそらく、騎士団に入ってからの相手でしょう。あの子は穏やかな子で、人づきあいの多い子ではありませんでした。同い年のクリフとは仲が良かったようですが、あの子はロディ以上に臆病な子です。とてもそんな恐ろしい事はできません。ロディが町に来るときは決まって、母親の療養所でしたし」
「一緒に誰か連れているような事は?」
「いいや、そんな話は聞いたことがありません。あの子はあれで目立つ子なんですよ。可愛かったですし、母親思いの優しい子だと評判でした。そういう子というのは、大人の目には必ず留まるものです。ですが、あの子が誰かを母親に会わせているなんて、聞いたことがありません」
「そうですか……」
ウェインは残念そうに項垂れた。もう少し情報が得られるかと期待していたのだが。
まぁ、そう上手くはいかないだろう。ここでウジウジしても仕方がない。
顔を上げて、ロディの母親がいた療養所の場所を聞いて、ウェインはその場を後にすることにした。
◆◇◆
「で、結局それ以上の事は分からずじまいです。少なくとも、ロディは誰かと一緒に町に行った事はない。店にも聞き込みましたが、いつも一人だったそうです」
夜の報告会で、ウェインは今日の成果を報告した。まぁ、概ね予想通りではあったが。
「ジェームズの方はどうだ?」
ファウストに話を振られたオーソンは、首を横に振る。
「怯えています、色々と。ただ、ロディの事件から日が経ち、冷静に自分の行いを後悔し始めているのか、聞くと歯切れが悪くなっています。ですが、自分の軽率な裏切りが家にも迷惑をかけるのではと考えているようで、しきりに『俺だけではすまなくなる』と言って拒み続けています」
「そうか……」
裏切れば報復がある。そうなれば家にまで迷惑をかけると考えているのなら、口を割らせるのは至難の業だろう。どんなクズでも、後ろに大事なものを背負うと途端に別人になる。
「ファウスト様」
ウェインの重々しい声にファウストが視線を向けると、妙にギラギラしたウェインがファウストを見ていた。
「ジェームズに、取引を持ち込みたいと思います。彼だけではなく、これまでの被害者全員を、個別にまわって」
「何を取引する?」
「ロディの事件の真相と、黒幕に関する証言を条件に、本人たちの罪の軽減を」
「それだけで応じると思うか?」
「もう一つ、免罪符を貰ってありますから」
そう言ってウェインが取り出したのは、一枚の羊皮紙だった。そこには緻密で几帳面な文字で、こう書かれていた。
『愚息、ダレルの行いによって他の者に何らかの制裁、及び不利益を負わせることは一切ないと、ここに誓う。
アーロン・ウォルシュ』
「これで、家の事を気にする必要はなくなります」
「輸送は?」
「明日から全員を説得し、応じた段階で随時王都に護送します」
「分かった、約束しよう。ただし、口添えが出来る程度だ。今回の事は俺も立場が悪い。軍法を逃れる事は出来ないし、そこで下った判決は覆せない。奴らには自らの罪を悔い改め、真摯な態度で過ごすように言っておけ」
「はい」
丁寧に礼を取ったウェインは、早速動き出す為にオーソンと小声で打ち合わせを始めている。
そのやり取りを見ていたクリフが、こっそりと隣のランバートの袖を引いた。
「あの……みんな罪に問われるの?」
「まぁ、無罪放免とはいかないだろうな。それでも、ファウスト様から直々に口添えとなればかなりいいと思う。本人たちが反省して、正直に真実を述べれば減刑にはなるよ」
「この犯人も?」
その質問には、ランバートは答えが見つからなかった。
「……ロディ、亡くなる半年前くらいから、休みの前日とか、当日に出かけてたよ。いつもじゃないけど、時々見てた」
「え?」
ぼそぼそとランバートにしか聞こえない声で言うクリフに、ランバートは驚いて目を見開く。思わず出てしまった声に、ファウストの視線が止まった。
「どうした?」
「いえ、少し。クリフが、彼らはどうなるのか心配したようで」
ファウストの視線がクリフに向かう。とても穏やかで優しい眼差しだ。
「絶対とは言えないが、減刑できるよう取り合う。王都で一から叩き直す予定だ」
「てことは、あいつら王都勤務になるんですか?」
当然のようにランバートは嫌な顔をする。だがファウストはそれに頷くばかりで、譲る気はないようだ。
「下働きから雑用まで、みっちりやってからこっちに戻す。今の所、そう簡単に人を辞めさせられる状況じゃない。万年人不足だ」
「それは、そうですけれど……」
「何ならお前の下につけようか?」
「何の嫌がらせですか! 俺はあんなのいりません」
キッパリと断わるランバートに、楽しげに笑うファウスト。そんな二人を見てオロオロするクリフの頭を、ファウストがくしゃりと撫でた。
「そういう事だ、心配はいらない。俺の責任で、しっかりと指導しなおす。次にここに戻ってくる時には、別人のようになっているさ」
そう言われて、クリフも頷いた。
報告は以上とのことで、ランバートとクリフは自室に戻ってきた。
戻ってきてすぐ、ランバートは部屋に鍵をかける。そして、クリフに真剣な目を向けた。
「さっきの話の続きなんだけど、どういう事だ? 誰かに会っている様子だったのか?」
「多分。とても幸せそうな感じがしたから。でも、いつも一人で行って一人で帰ってきてたと思う。見かける時は必ず一人だったから。相手は分からない。それに、どこに行っていたのかも。でも決まって、森のほうに行ってた」
「森って、訓練用の?」
問うと、クリフはしっかりと頷いた。
「訓練用の森は、そのまま本当の森に通じているんだ。途中に敷地を表す柵があるけれど、その先も森は続いてる」
「何があるか、分かるか?」
その問いには、首を横に振った。
「行ったことがないから。道がないし、遠くまで行くと帰りが心配だし。それに、野盗も出るって噂があるんだ。捨てられた教会とか、村があるらしいよ」
「教会や、村か」
ランバートは暫く考え込む仕草をしたが、やがて一つ確かに頷いて笑ってみせた。
「明日、確かめてくる」
「でも、明日も訓練が」
「腹の具合が悪い事にするよ」
「……ファウスト様に言わなくて、よかったのかな?」
その言葉には、ランバートも曖昧に笑って頷いた。
「いいんじゃないのかな。色々考えて、あの人には言いたくなかったんだろ?」
「うん。勘違いかもしれないし、偶然かもしれない。何もない可能性の方が高いのに、お忙しい人を煩わせるのは気が引けて」
「それなら、俺が確かめてくる。必要そうなら、報告しておくから」
「ランバート、怒られない?」
「怒られ慣れてるから大丈夫」
そう言って笑ったランバートに、クリフは目を丸くして、その後でふにゃりと笑った。
10
お気に入りに追加
505
あなたにおすすめの小説
願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい
戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。
人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください!
チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!!
※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。
番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」
「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824
子ども扱いしないでください! 幼女化しちゃった完璧淑女は、騎士団長に甘やかされる
佐崎咲
恋愛
旧題:完璧すぎる君は一人でも生きていけると婚約破棄されたけど、騎士団長が即日プロポーズに来た上に甘やかしてきます
「君は完璧だ。一人でも生きていける。でも、彼女には私が必要なんだ」
なんだか聞いたことのある台詞だけれど、まさか現実で、しかも貴族社会に生きる人間からそれを聞くことになるとは思ってもいなかった。
彼の言う通り、私ロゼ=リンゼンハイムは『完璧な淑女』などと称されているけれど、それは努力のたまものであって、本質ではない。
私は幼い時に我儘な姉に追い出され、開き直って自然溢れる領地でそれはもうのびのびと、野を駆け山を駆け回っていたのだから。
それが、今度は跡継ぎ教育に嫌気がさした姉が自称病弱設定を作り出し、代わりに私がこの家を継ぐことになったから、王都に移って血反吐を吐くような努力を重ねたのだ。
そして今度は腐れ縁ともいうべき幼馴染みの友人に婚約者を横取りされたわけだけれど、それはまあ別にどうぞ差し上げますよというところなのだが。
ただ。
婚約破棄を告げられたばかりの私をその日訪ねた人が、もう一人いた。
切れ長の紺色の瞳に、長い金髪を一つに束ね、男女問わず目をひく美しい彼は、『微笑みの貴公子』と呼ばれる第二騎士団長のユアン=クラディス様。
彼はいつもとは違う、改まった口調で言った。
「どうか、私と結婚してください」
「お返事は急ぎません。先程リンゼンハイム伯爵には手紙を出させていただきました。許可が得られましたらまた改めさせていただきますが、まずはロゼ嬢に私の気持ちを知っておいていただきたかったのです」
私の戸惑いたるや、婚約破棄を告げられた時の比ではなかった。
彼のことはよく知っている。
彼もまた、私のことをよく知っている。
でも彼は『それ』が私だとは知らない。
まったくの別人に見えているはずなのだから。
なのに、何故私にプロポーズを?
しかもやたらと甘やかそうとしてくるんですけど。
どういうこと?
============
番外編は思いついたら追加していく予定です。
<レジーナ公式サイト番外編>
「番外編 相変わらずな日常」
レジーナ公式サイトにてアンケートに答えていただくと、書き下ろしweb番外編をお読みいただけます。
いつも攻め込まれてばかりのロゼが居眠り中のユアンを見つけ、この機会に……という話です。
※転載・複写はお断りいたします。
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼第2章2025年1月18日より投稿予定
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
おデブだった幼馴染に再会したら、イケメンになっちゃってた件
実川えむ
恋愛
子供のころチビでおデブちゃんだったあの子が、王子様みたいなイケメン俳優になって現れました。
ちょっと、聞いてないんですけど。
※以前、エブリスタで別名義で書いていたお話です(現在非公開)。
※不定期更新
※カクヨム・ベリーズカフェでも掲載中
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる