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32章:シヴの誕生

おまけ3:責任取ってくださいな

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 明け方の王都を、リッツは項垂れたまま歩いていた。そうして向かったのはメインにしている服飾店。そこの二階に部屋を作ってある。
 裏口を開ければ直で台所になっている。そしてそこに、一人の男が暢気にコーヒーを淹れていた。

「お帰りなさいませ、リッツ様。お楽しみだったのでしょ?」
「……うん」

 気合など皆無の男の出迎えに、それ以上に気の無い返事を返すリッツ。流石に男もこれには疑問を感じたようで、首を傾げて見ていた。
 リッツはトボトボと歩を進め、椅子にどっかり座る。その後は声をかけるのも気の毒な程に項垂れてしまった。

「え? どうしましたリッツ様。もしかして、やりすぎて病気……」
「んなわけあるか!」

 失礼千万な男の言葉を全力で否定したリッツは、それでも元気がなかった。

「どうしたというのです。ウキウキで出て行ったではありませんか。ジンさんの所で傭兵引っかけるって……あっ、引っかけられなかった?」
「入れ食いだよ」
「それもどうなんですか」

 呆れた様子の男を睨み、リッツは重々しく溜息をつく。

「ルフラン、お前は俺をなんだと思ってるわけ?」
「商売のセンスはピカイチですが、下のゆるゆるな主人だと」
「下は緩んでない! むしろいつでもキュウキュウ締めつけが気持ちいいって評判なんだからな!」
「いや、貴方のケツの穴がどうとか興味ありませんが。いい加減奔放過ぎる下半身事情どうにかしませんか?」

 呆れた様子の部下ルフランに、リッツは更に溜息をついた。

 昨日は久しぶりにお楽しみだった。王都にいる間はよくジンの所に顔を出し、傭兵相手にいい夜を過ごすのが常だ。彼らは鍛えているだけあって逞しくていい。しかも見目のいいのもいる。
 なのに昨日は楽しめなかった。相手が下手くそとか、好みの相手がいなかったとか、そんなことじゃない。事態はもっと深刻なのだ。

「どうしたのですか、本当に」
「…………満足できなかった」
「は?」
「満足できなかったの! こう…ここで欲しいとか、こうして欲しいとか、そういうタイミングがずれて……欲しいプレイとも少しずれて。体はスッキリしたのに違う所がモヤモヤしてるの!」

 子供みたいにダダを捏ねているが、話題は下の話しである。

 ルフランは呆れた様子で腰に手を当てコーヒーを飲む。ここで主人のリッツの分を淹れないというのが、このルフランの仕様である。

「これも全部、グリフィスさんのせいだ」
「グリフィス?」

 リッツは思いきり頷く。実はこれが初めての不満ではないのだ。
 グリフィスと一夜を共にしてから、誰と気持ちのいいことをしても何処か満たされない、満足しない。一度なら相手が下手なんだと思った。二度目は自分の体調が悪いんだと言い聞かせた。だが流石に五人目ともなると外に考えられない。

「グリフィスさんって、アレックス様の結婚式でご一緒だったという騎士団の?」
「そう」
「一晩美味しく頂かれたのですよね」
「がっつり食べてもらったけれど」
「忘れられないと?」
「……そんなんじゃないし」

 そう言いながらも、リッツは顔が熱くなるのを感じていた。

 グリフィスとはとても相性がよかった。体臭、体つき、顔立ちも好きだったが、プレイとしても興奮した。厚い唇と舌が体中を愛撫し、血管の浮いた逞しい剛直に中を抉られ掻き回されて。あんなに乱れたのは初めてだと言えるくらい気持ちが良かった。
 ただ誤算は、彼とのプレイを知ってしまったが為に体が貪欲になってしまったことだった。

「ほら、俺って美食かなわけ。今までB級品を美味しいと思って食べてたのに、不意打ちでA級……ううん、S級品食べて美味さを知ったらそこから下げられなくて」
「妙な例え方しないでください」

 でも、これが一番しっくりくる感じだった。

「どうしよう、好きに楽しんでたのにこんなえり好みして……俺の楽しみぃ」
「その分の情熱を商売で昇華しましょう!」
「駄目。俺下半身事情充実したほうが仕事はかどる」
「どんだけ快楽漬けなんですか、その体。いい加減病気になりますよ」
「気持ちいい事を楽しみに仕事を頑張ってるの!」

 リッツはイライラしながらもしっかり主張する……が、情けない主張である。

「そんなにやりたいなら、騎士団に手紙でも書いたらいいじゃありませんか」
「……え?」

 手紙? 騎士団に?

「青紙出せばすぐにでも返事が来るでしょう。誘いに乗ってくれるかは別ですが」
「それだ!!」

 リッツは早速手紙を書き始める。最大限、彼の関心を引くように。


==============================グリフィス

 自分宛に青手紙が来たと聞いて、グリフィスは怪訝な顔をした。
 既に母も義父もグリフィスからは手を離している。それというのも母と義父の間には子があり、その子が家を継ぐことになっていて、グリフィスは晴れてお役御免で煩く言われる事がない。
 険悪でもないが、積極的にあれこれ言うわけでもない。そんな丁度いい距離だ。

 両親や弟以外で青手紙を送る相手に覚えがない。だからこそ送り主を見て更に首を捻った。

「リッツ? あいつ、何かあったのか?」

 オリヴァーの結婚式で知り合ったキャラメル色の青年を思い出し、グリフィスはひたすら怪訝だ。
 一晩を共にしたが、気持ちのいい相手で後腐れもなかったはずだ。だがたった一晩だ。緊急の手紙をもらうような間柄ではないはずなのだ。

 封を切り、中身を引っ張りだす。そこでグリフィスは思わず「あぁ?!」と声を上げた。

『告発状

 グリフィス殿、貴方との一夜があまりに情熱的過ぎて忘れる事ができません。すっかり他者で満足できなくなってしまいました。
 つきましては責任を取っていただきたく存じます。
 今夜貴方をお迎えしたく、こうして手紙を差しあげております。もしも応じてくださらない場合はお迎えにあがり、捨てられた場末の娼婦のように門前で泣きわめきます。
 どうか応じてくださいますよう願います。

リッツ』

「あいつ、脅しかよ……」

 ガックリと肩を落としながらも、グリフィスの表情はそうまで嫌ではない。
 グリフィスとしても、リッツは悪い相手ではない。後腐れないさっぱりとした性格で、人懐っこく明るい。強面を気にしているグリフィスにあんなにも馴れ馴れしくしな垂れ、気持ち良く酒を飲み、愚痴り、笑う。それを可愛いと思っていた。

「たく、しゃーないな」

 安息日前日、急いで着替え外泊届を出しにいく足取りは比較的軽かった。


==============================リッツ

 約束の時間、来てくれるか分からないまま待っていた。
 一瞥で終わってしまうような手紙にしたくなかった。だからこそ挑発的に、脅すように書いた。でも後であんな手紙、気を悪くするに違いないと思って落ち込んだ。あの時はとにかく来てほしくて必死だったんだ。

 どうしたっていうんだ。昔なら相手が来ようが来まいが気にもしなかった。「縁がなかった」で終わらせられた。
 今はこんなにも、落ち着かない。

「リッツ様、お客様です」

 ルフランの言葉に、リッツは勢いよく席を立つ。ブティックの奥にある会食用の小さなダイニングに、彼は飾らない格好で来てくれた。

「来たぜ」
「あ……有り難う」
「ったく、あんな手紙あるか? 流石にやめろよ」
「……ごめん」

 なんだ、嬉しい。泣きたくなるくらい嬉しい。そして反省した。溜息をついて腰に手を当てるグリフィスに嫌われたんじゃないか。そう思ったら不安になってもくる。

「おい、リッツ!」
「え?」
「お前、何泣いてんだ」

 指摘されて、自分の頬を撫でた。濡れていて、驚いたのはリッツの方だ。思わず乾いた笑いが起こった。

「ははっ、何これ。俺、何してんだ?」

 人前で商人が涙を流すものじゃない。弱い姿を見せたら相手に負けるんだ。

 けれど力強い手に引き寄せられ、ポンポンと頭を撫でられるともう止まらなかった。

「嫌われたかもしれないって、手紙出した後に後悔して」
「嫌わねーよ」
「脅した」
「それは反省しろ」
「うん」

 少し怒ったのかもしれない。でも来てくれた。それで良かった。

 その時、グウゥゥゥゥゥゥゥッという獣の低い唸り声のような音がする。驚いて涙は止まった。距離があいて、音の出所を見る。逞しく割れた腹筋の奥から、またグウゥゥゥと音がした。

「……だよね」
「言うな」
「ははっ、やっぱグリフィスさん好きだな」

 この状況でぶち壊しの腹の虫。赤面したグリフィスに笑い駆けて、リッツはグリフィスを席に誘った。

 飾らない料理を選んでみた。鶏のグリルはブラックペッパーで。パスタもペペロンチーノ。デザートは果物を使ったゼリーにした。肉の脂がさっぱりとするレモンのものだ。
 それにしても食べっぷりがいい。前も思ったが、グリフィスはとても良く食べる。主に肉が多いが、何気に炭水化物も。
 そこを指摘すると「お前は食わなすぎる」と言われた。ただの商人がその量を食べると、確実に太ると思う。


 程なくして二階の自室に上がり、フルランには出て行ってもらった。これ幸いと彼は逃げる。あくまでリッツのプライベートには関わらないという、有り難い奴だ。

「お前、まだ王都にいたんだな」

 ソファーに腰を下ろしたグリフィスに、リッツは苦笑して頷く。別れた時には次に会うのがこんなに早いと思わなかったから、言わなかったのだ。

「春くらいまでは王都とスノーネルを行ったりきたり。船には乗らないんだ」
「あぁ、潮目か」
「そう。海も荒れる季節だからさ。冬はスノーネルのニットと絨毯の取引」
「手広いな」
「商人に農閑期みたいなものはないの。自分の目で見た良いものを仕入れて、それを必死に売り歩く。作り手とも会話して、不足がないかちゃんと見て、それから。ここを上手くやってこそ、商人だよ」

 ここまで言って、少し照れる。こんな事を他人に話す事はない。当然のことをしているつもりだから。
 それでもグリフィスは聞いてくれている。変わらない態度に、ほっとした。

「あの……さ。グリフィスさん俺、俺……あんたじゃないと満足できなくなったっぽい」
「ん?」

 金の瞳が見下ろしてくる。その目に見つめられると一度の情事を思い出す。鋭いくせに優しく細くなる瞳が色を含んで笑うのを、思いだしてしまう。
 駄目だ、体の奥が熱くなる。淫乱を隠せない事に恥ずかしさを覚えてしまう。

「あの夜の事を思いだして、他の相手と比べて、その……満たされないんだ。グリフィスさんなら、とか。ここでこうして欲しいのに、とか。不満が出て、それで」
「あのなぁ。お前、本当に誰にでも掘らせてるのか?」
「!」

 ドキリと心臓が音を立てる。一瞬否定する言葉が浮かんだ。けれど、それは言い訳と嘘だ。
 項垂れる。どうしたんだ、いつもみたいに開き直ればいいものを。

 グリフィスの溜息が聞こえる。呆れられただろう……やっぱり嫌だろうな。

 そんな諦めが頭を過ぎる。だが、与えられたのはまるで犬でも撫でるような手の温もりだった。

「まぁ、人の事をとやかく言うつもりはない。けどよ、俺にあんな手紙送るなら少し整理しておけよ。俺は自分の獲物を横取りされるのは嫌いだからな」
「あ……」

 嫌ってない? 本当に?

「整理したら、また遊んでくれる?」
「遊びか?」
「だって俺、一ヶ月とかいないんだし。その間、疼くし。欲求抑えられるとは思えないし」
「素直すぎだろ」
「でも、でも! 王都ではグリフィスさんだけにする!」

 行く先々では遊ぶと言っているのと同義だが、それでも必死だ。リッツにしたらかなりの譲歩なのだ。

 溜息をつくグリフィスがガシガシと黒髪をかく。困った時の癖なんだろう。

「駄目?」
「捨てられた犬みたいな目ぇ、するんじゃねぇよ」
「捨てられる?」
「……捨てねぇが、躾けだな」
「……へ?」
「お利口に躾けるつもりはないが、流石に節操がねぇ。そうだな……次に船に乗るまでの間で、俺以外でイケねぇようにしてやろうか?」

 ニヤリと男臭く笑うグリフィスの瞳に捕まって、心臓が飛び跳ねた。



「んぅ! はぁ、やっ、こんな……っ」

 全裸に剥かれ、熱を背中に感じている。ソファーに座った状態で後ろから抱きとめられ、リッツは自身の昂ぶりを握り恥ずかしく扱いている。自分の手に、グリフィスの手が重なって自慰を強要されているのだ。

「嫌だと言うわりに興奮して、育ってるじゃないか」

 耳元に囁かれる熱を含む声にゾクゾクと脳が痺れる。気持ちよさに緩んだ口の端から唾液が溢れていくのを、グリフィスの厚い舌が舐めとった。

「はぁぁ!」

 ヌルヌルと自分の手を汚す程に溢れた先走りが、摩擦で濡れた音を立てる。自分でしているはずなのに、感じはまったく違う。上から重なっている手の熱さや適度な圧迫、擦れる場所の違い、緩急の付け方が違う。

「バキバキに勃ってるぞ。それに、しっかり溢してる」
「だって、気持ちいぃ…っ」
「片手空いてるだろ。もったいねぇぞ」
「ふうぅ!」

 グリフィスが手持ち無沙汰な片手を持ち上げ、触られていない乳首へと導いていく。手で平らな胸を撫でるようにされて、リッツはビクビクと背を震わせた。

「ほら、自分の手でも十分に気持ち良くなれるじゃねーか。乳首、立ててみろ」
「はぁ……いっ、嫌だったら……グリフィスさんしてぇ」
「上手くできたら挿れてやるよ」

 尻の辺りで感じている。グリフィスはこの痴態に興奮して、熱くしている。
 でも切なくてたまらない。まだキス一つしていない。いきなり脱がされて座らされ、この状態にもっていかれてしまった。

「はぁ、あっ、キスしたい……」
「俺の前で自慰ができたらな」
「変態!」
「躾だ。誰彼かまわず股広げる前に少しは自分で慰めろ。自分の手だけじゃ満足できないって、お前が言ったんだろうが」
「だってぇ! あぁぁ!」

 自分だけで高ぶって、自分だけでイッて、その後虚しくなるんだ。キスが欲しい、抱きついて眠りたい、熱を感じて、香を感じていたいのに。

 胸を触っていた手に引っかかりを感じる。撫でるだけだったのに、それでも十分に立ち上がってしまっている。ぷっくりと色を増して尖った事に羞恥を感じる。

「言う割りに、しっかり反応してやがる。どんだけ淫乱だよ、リッツ」
「あぁ、お願い、触ってぇ」
「こんなんで突っ込まれたら、解す間にイクぞ」
「お願いぃ」
「俺にお前の痴態を見せてみろ。分かるだろ? お前の色っぽい声とやらしい顔を見て、俺も興奮してるってこと」

 熱く脈打つ剛直を尻に押しつけられる。まだ完全に勃起したわけじゃないのに、もう熱く太く硬くなっている。
 これが、中を掻き回していく。気持ちのいい所を抉るようにしてくれる。突き上げられて、気持ち良くて、そして……。

「あっ、あっ! 駄目、イク! あぁぁ!!」
「おう、イケよ」
「やっ、ぅあぁぁぁ!!」

 想像しただけで腹の奥が痺れていって、リッツはたまらず吐精した。ビクンと手の中で脈を打ちながら飛んだ白濁が床を汚していく。背を駆け上がった痺れに脳まで痺れてビクビク震え、だらしなく緩んだ唇に、グリフィスの厚い唇が重なった。

「んぅ、ふっ……はぁ、ぁぁ」

 クチュッと唾液が混ざって舌が絡まって、深く喉奥まで暴かれそうな程に激しく混ぜられて、また手の中にある昂ぶりが芯を持ってしまう。朦朧としながら「欲しい」と思ってしまう。

「自分の手だけでイケただろ」
「これじゃ、切ない……グリフィスさんが欲しいんだったらぁ」
「あぁ、いいぜ。約束だからな」

 ふらつく体を前に押し出され、ソファーの前に置いてあったローテーブルに手をつく。そこにも自分が飛ばした白濁が散っていて、妙にやらしく感じてしまう。

「随分飛ばしたじゃないか」
「だって、我慢できなくなって……」
「なに想像してイッた?」
「!」

 かぁぁっと熱くなる。ないはずの羞恥心に耳まで熱い。

「言えよ、その通りにしてやる」
「あ……」
「こういうのは、プレイのスパイスだろ?」

 あぁ、そうだ。羞恥心を煽るのはこうしたプレイにはありがちの行為だ。
 想像する、それだけで感じる。寂しく後孔がひくつくのを感じる。喉の奥から、求められる言葉が掠れて出てくる。

「グリフィスさんの、剛直で俺の中を、混ぜられて……」
「ほぉ」
「ふあぁぁ!」

 ズブリと無遠慮に、二本の指がいきなり中を暴き立てる。太く節のある指が内壁を遠慮無く擦る。これだけで足が震えて心臓が壊れそうだ。出入しながら混ぜるように捻られて、それだけで何度もキュウキュウと襞が絡みついた。

「想像だけでイッてるのか?」
「ちがっ、んぅ! お願いもっとしてぇ!」
「焦らすのも好きだろ?」
「好き! あぁ、気持ちいぃ!」

 決定的な部分にはくれない。でも、ゾクゾクする。想像だけで重く痺れる。疼いてしまう。

「それで?」
「え?」
「俺ので中をかき混ぜられて、お前は気持ち良くなって自分でイッたのか?」
「んっ、そう…そうだよぉ! あんたの突っ込まれた時の事思いだして、気持ち良くなってイッたんだったらぁ! もぉ、ちょうだいよぉ!」

 誘う様に腰を振ったリッツは、指が抜けて行くのを感じる。そしてあてがわれた熱に、何処かほっとした。
 メリメリと音がしそうな程硬く熱いグリフィスの昂ぶりを飲み込んだ後孔が悲鳴を上げる。だがそれ以上にリッツは歓喜の悲鳴を上げた。
 やっぱり違う。他の奴なんて物足りなくて当たり前だ。質量も、硬さも、全然違う。欲しかったのはこれだ。圧倒的に、ある種暴力的に体の中を埋めていくものだ。

「あぅぅぅ! はっ、あぁぁ!」
「くっ、相変わらずいい締め付けだ。美味いか?」
「おい、しぃ! うんぅぅ! 苦しい……」
「だが流石だぞ。しっかり根本まで飲み込みやがる」
「ふぅぅ!」

 ズンッと後ろから突き上げられ、気持ち良くて気持ち悪い。下から拳で突き上げられるような強い衝撃に目眩がする。これが突き上げられる度にだからたまらない。
 テーブルに手をついているのも辛くなって、体が崩れてしまう。グリフィスの熱い手が片腕を掴み後ろへと強く引きつけられる。ついていたてまで離れ、不安定な体勢で後ろからグリフィスに揺さぶられた。

「相変わらず、突く度に出してるな。これは癖か?」
「ちが…グリフィスさんだけ。こんなん、しらな……」

 突き上げられ、奥を抉られる度にこみ上げる衝撃。そしてその度に白濁したものがコプリコプリと吐き出される。こんなのこの人相手だけだ。コントロールできずにどうしようもなく締め付けて、訳も分からなく吐き出すなんて。

 不意に、グリフィスの手が前に回ってそそり立ち吐き出している昂ぶりの根本を握る。強い戒めは痛みがあった。だが同時に、後ろが締め上げるようにグリフィスの剛直に吸い付いたのを感じた。

「うあぁ!」
「くっ、途端にこれか。少し我慢しろよ」
「駄目! あぁぁ、だめぇ!」

 脳みそが揺れる。痛いのに気持ちがいい。吐き出せなくてパンパンに腫れていくように思う。それで中を殴られている。
 後ろで感じるグリフィスの昂ぶりが、より硬く筋が浮いて脈を打っているように感じる。ズグリと亀頭が破裂しそうなほどに張りつめていく。

「グリフィス、さん……」

 キスして……

 懇願するように名を呼んで、分かっている様にキスをする。不安定なまま体を捻る苦しい体勢なのに、溺れていく。
 「んぅ! ふぅぅぅぅっ!」とい、絶頂の声はそのままグリフィスの唇の中。解放された昂ぶりからは我慢した分の大量の白濁が吐き出される。そして最奥を掻き回し、抉っていた剛直からも熱が吐き出される。
 体に力が入らない。ヘナヘナと気を失いそうな快楽に震えたまま倒れても、逞しい体は揺らがない。抱きとめられて、そのままもう一度キスをされる。今度は褒めるように、優しいものだ。

「一緒に寝てやるから、安心しろ」

 優しく低い声に、リッツはふにゃりと笑う。意識はそこまでだった。


 翌朝、逞しい体に縋ったまま目が覚めた。隣では気持ち良さそうに眠る人がいる。

 うっ、腰痛い……

 重く怠く痛む腰に手を当てるが、気持ちはもの凄く満たされている。ついでに言うと体もスッキリとすっからかんだ。これなら次の安息日までは欲しくならないかも。
 抱きついて、肌の匂いを存分に感じる。これに落ち着いて、これに欲情する。

 春まで長い。その間、この人だけで満たされるのもいいんじゃないか?

 リッツはひっそりと考えて笑う。誰が相手でも満たされなかったリッツの性欲は、ようやく一人を選んだのだった。
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