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14章:宴という名の暴露大会

3話:春を待ちわびて(クリフ)

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 なんだか凄い事になっている気がする。
 クリフはコナンの側でシュンとしているドゥーガルドを見ている。側にはピアースもいてくれて、少し心強い。

「ドゥー、平気?」
「平気だ馬鹿野郎。なんだよぉ、俺だって」

 平気といいながら、ドゥーガルドの目はトロンとしているし、どこかシュンとしている。酔っ払っているのは明らかだ。

「平気かな?」

 不安になってコナンに聞いてみたら、苦笑しながらも頷いた。

「多分平気。ドゥーは弱いけれど、流石に一杯で潰れたりはしないから」

 流石慣れている。コナンは甲斐甲斐しくコップに水を持って来て、それをドゥーガルドに手渡した。

「うぅ、コナンは本当に良い奴だなぁ。去年の昇級試験で俺、お前に悪い事したのに優しいなんて……天使か」
「あの時は試験だし、本当のドゥーは怖い人じゃないって分かったから平気だよ」
「コナンぅぅ」

 目を潤ませてガバッとコナンに抱きついたドゥーガルドは、どう見ても小動物に襲いかかる猛獣なのだが、その後が頬擦りなのであまり危機感は感じない。

「二人は付き合ってるのか?」

 ふと、ピアースがそんな事を言う。それに、コナンは目をまん丸にして首を横に振り、ドゥーガルドは真っ赤になってぺたんと乙女のように座った。

「「違う」」
「あっ、ごめん。何か凄く仲良く見えたから」
「違うよぉ!」

 コナンが真っ赤になって目を潤ませて否定している。ドゥーガルドも必死になって頷いている。二人とも全力の否定だった。

「いや、うん分かった……」
「二人のお相手は違うもんね」

 ピアースが謝っている所で、妙な所から声がかかった。見上げれば酒を持ったままのボリスがこちらへと来て、側に座った。

「どうしたの、ボリス?」
「あっちが何か幸せ一杯だからこっちきたんだ」

 あっちというのは、ランバート達のほうだ。確かに見ていれば、あの周囲はどこか柔らかくて甘い雰囲気になっている。

「惚気を聞くのは平気だけど、流石にちょっと寂しくなったの。だから、未満の皆さんと遊びたい」
「未満?」
「コナンもドゥーも、今言い寄られてるんだよね?」

 ボリスの指摘に、目の前の二人はギクリと肩を震わせる。だから、本当なんだと分かってちょっと驚いた。

「え、そうなの!」
「コナンは有名だよ。相手が相手だから」
「ちょっと、ボリス!」

 コナンは可愛い顔を真っ赤にして止めようとしているけれど、ボリスの方が絶対に上。必死でも簡単にはいかない。

「コナン、そうなのかぁ?」
「おや、ドゥーは本当に何にも知らないんだな。もう一年以上口説かれてるよ」
「一年以上!」
「誰に!」

 一年以上も口説かれているなんて、そんな素振りは全然なかったのに。クリフもピアースも驚いてコナンを見るけれど、コナンはドキマギしたままオロオロしている。

「二人は知らなくて当然かな。近衛府のルイーズ先輩だよ」
「ボリス!!」

 ようやくボリスの口を手で塞ぐも後の祭り。ドゥーガルドはポカンとしている。
 けれどクリフにもピアースにも相手が分からない。まだ来て間もないから、騎兵府の人達でさえちゃんと分かっていないのに他府の人なんて余計に。

「あ、その顔はわかんないか。近衛府副官をしている人でね、見た目にもキラキラしてるよ。フェミニストぽいけれど案外男で挑発的な先輩なんだけれどね」
「そんな人が、コナンの事が好きなの?」

 クリフはまじまじとコナンを見てしまう。一方のコナンは顔を真っ赤にして俯いてしまった。湯気が出そう。

「一昨年の年末パーティーでコナンが女装した後だよね、誘われたの」
「あ、アレは違うんだよ! なんていうか、その……」
「一部では有名な話だから気にしなくていいんじゃない? 『ドレス姿が可愛かった。また着て欲しい』って言われたんでしょ」
「「なにそれ!」」

 思わず叫んだ後は絶句だった。ピアースもクリフも呆然。ドゥーガルドに至っては言葉もない。

「変態じゃないかコナン! ダメだぞそんな男!」
「ドゥーは黙ってる。確かに特殊な性癖だとは思うけれどねぇ」

 ボリスはニヤリと笑う。その前で、コナンは顔から火が出そうになっている。

「コナン、それで断り続けてるの?」

 聞いてみたら、遠慮がちにコクンと頷く。でもどうしてだろう? 断っているわりに嫌そうじゃないんだ。
 どういう気持ちなんだろう。嫌いなのかな? それとも、やっぱり女装は受け入れられない?

「嫌いなんじゃないよ! 尊敬できるし、優しいし、気遣ってくれるし。でもお相手は、僕よりずっと年上の地位のある人だし、そんな人が僕に告白なんて……気の迷いかからかわれてるとしか」
「いやいや、流石に一年以上告白するような悪戯って根気いりすぎるから」

 ボリスのツッコミに、クリフもピアースも頷いた。流石にそんな年単位の悪戯はしないだろう。

「でもよぉ、好きならいいんじゃないのかぁ?」

 大人しくしていたドゥーガルドが、突然口を挟んだ。顔を真っ赤にした彼は、コナンをジッと見ている。

「好きなら付き合ってみてもいいだろうよぉ。地位とか、あんま迷わなくても。だいたい、あっちの三人みてみろよぉ。ファウスト様、クラウル様、ジェイクさんだぜ」
「「あ……」」

 そう言われると、コナンの気にする相手の地位なんて小さく見える。むしろあの三人が度胸ありすぎる気がするけれど。

「ちっちゃい事だろ?」
「ドゥーもたまにはいい事言うね」

 ボリスが感心したように言った。
 コナンはそれでも躊躇いがあるのか、モジモジしている。あまり大胆ではなさそうだから、無理に周囲がすすめたら壊れてしまいそうだった。

「コナン、コナンの思う通りでいいと僕は思うよ」
「クリフ」
「色々あるんだから、無理しなくていいよ。今は楽しい事を考えよう」

 言えば、コナンは顔を赤くしながらもにっこりと笑った。

「そういうクリフはどうなの?」
「え?」
「ピアースと、いい感じでしょ?」
「!」

 ボリスはどうしてこんなに人の事を見ているんだろう。思わず言葉を無くして焦ってしまったら、隣でピアースも赤くなっている。
 でも、なんだか様子が変だ。ジッとこちらを見て、その目がとても凜々しい。

 向き直ったピアースが、クリフの手を握る。そして、とてもしっかりした声で言った。

「俺は、クリフの事が好きだ」
「!!」

 突然過ぎる告白に心臓が壊れそうになる。案外気合いの入った声に、それぞれ視線が集まってくる。これはどんな状況なんだろう。なんか、公開告白をされている?

「あの、流されたとかじゃなくて本当はずっと! ロッカーナの時から」
「え?」
「怖がりで弱虫のクリフが、努力して変わろうとしてて、それで…。そんな姿を見ていたら、俺も励まされるし、頑張ろうと思えて。頑張るクリフを支えていけたらって、思っててそれで! あぁ、もう! もっとしっかりしてから言うつもりだったのに!」

 ガシガシっと頭をかいて真っ赤になって、でもその目はとても真っ直ぐに見てくる。それに、ドキドキする。
 クリフだってピアースの事が好きだった。辛い時に支えてもらった。だからこそ頑張れたし、今も頑張れてくる。ピアースが側にいてくれれば、今後もしっかり立っていられそうなんだ。

「あの……ダメ?」
「ううん。あの、僕でいいの?」
「勿論!」

 真っ赤になったピアースが、とても嬉しそうに笑う。どこか爽やかで、子供っぽさも残るその笑顔がとても眩しくて、クリフはコクンと頷いた。

「ちっ、やぶ蛇だった」
「ボリス、やさぐれてる」

 目を逸らして悪態をつくボリスの背中を、コナンがポンポンと叩いている。そうなるともう、嬉しいやら恥ずかしいやらだった。

「ドゥーも手を伸ばせば直ぐにでも恋人できるしさ。どうしてドゥーに出来て俺にできないんだろう?」
「「……え?」」

 突然の爆弾投下に、ドゥーガルドはなんだか妙な汗をかきはじめた。金の髪は今や完全に力を失っている。目は完全に挙動不審だ。

「あれ、知らないの? ドゥーは今、一年目の可愛い子に猛烈アタック食らってるんだよ」
「何それ!」

 コナンまでもがドゥーガルドを見ている。当然他も同じだ。レイバンなんて新しい獲物を見つけた目だ。

「ドゥーも隅に置けないね。どれ、お兄さんに詳しく話してご覧なさい? 美味しく料理してあげる」
「レイバン、悪い癖が出ているぞ。未満を弄るな」
「拗れたら責任取れないんだから、今の所はそっとしておけよ」
「その気遣いがむしろ嫌だぁぁ!」

 吠えるように言ったドゥーガルドは突然と走り出し、何所へ行くのかと思えば……寝た。

「寝たよ、あいつ」
「信じらんねぇ」
「追求されたくなかったんだね」

 全員が言葉をなくし、次には一気に笑い出す。その間も、ドゥーガルドがこちらを見る事はなかった。
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