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2章:放浪の民救出作戦

14話:帰郷

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 砦に戻ってからは、少し慌ただしかった。
 予想以上に人がいて、護送用の馬車を手配したり先々の砦に連絡を入れて泊まれるように確保したり。妊婦さんや子供を中心にしっかり休んでもらって、男陣は近くで野宿なんて日もあった。
 それでも数日をかけてようやく王都へと辿り着いた。
 エルの人達は一旦、王都に留まる事になった。その辺もしっかり手配していて、全ての人を受け入れる場所を作ってくれていた。新年明けてすぐに、少数部族の保護と保証に関する法律を制定するらしい。
 何にしてもまずは一段落。そんな感じがした。

「久しいな」

 部屋に戻ってきて、冷え切った室内を見回しながらシウスは呟く。旅の間にシウスの体調は完全に回復し、現在はまったく問題ない状態になっている。
 十一月もあと十日ほど。寒い中、小さな暖炉に火を入れつつ旅装を解き始めるシウスの背に、ラウルはぴったりと耳を当てた。

「どうしたえ?」
「シウス様に、甘えたくなりました」

 今回の遠征は辛かった。シウスが死んでしまうと思ったら、怖くて何も見えなくなってしまった。何も出来ないことがもどかしくて辛かった。そんな思いが、帰ってくると溢れてしまうのだ。
 シウスは穏やかに微笑んで、そっと頭を撫でてくれる。甘やかすその指先に、ラウルは切ない思いがした。

「辛い思いをさせたなえ」
「いえ」
「正直に言うてもよいよ」
「……僕、医学知識も学びます」

 悔しくて、歯がゆくて、そんなふうに言っていた。薄い水色の瞳が驚いたように丸くなって、次には楽しそうに声を出して笑うシウスがいた。

「よいよ、そこは。応急処置はできるであろう? それ以上など必要になる事の方が珍しい」
「今回は必要になりました」
「ラウル」

 困った様な笑みは、そのくせ嫌じゃないんだと分かる。苦笑するシウスはしゃがんで、ラウルと目線を合わせてくる。

「情けなかったんです、僕。シウス様が辛い時に何も出来ないのも。あの暗殺者を取り逃がしてしまった事も。僕にもっと力があれば、ちゃんとできたのにって」

 シウスの護衛なのに、全然役に立てなかった。それが悔しくてならない。力の弱い奴だって思えてきてしまって、たまらない。このままじゃいつか愛想をつかされてしまうんじゃないか。そんな気持ちまでわき上がってきてしまう。
 ヨシヨシと、シウスの手がラウルの頭を撫でる。何故か少申し訳なさそうに。

「今回は私も相当ダメであった。皆の荷物となってしまったのだ。反省すべき点が多いのは同じじゃ。その中で、ラウルはとても良くやってくれた」
「ダメでしたよ?」
「では、あいことしよう」

 クツクツと笑い、シウスはラウルを抱き寄せた。背を撫でるその手がとても心地よくて、悔しさや辛さを溶かしていく。苦しさが溢れて、涙になって出ていった。
 そっと力が緩まって、唇が触れた。薄い唇が柔らかく触れ、優しく甘やかしてくれる。変わらないシウスの優しさが嬉しく、そして少しもどかしい。

「ラウル?」

 手を伸ばして、ラウルから触れた。舌を這わせて入り込み、舌を絡ませるような少し乱暴なキスだった。でも、欲しかった。もっと触れて欲しかった。優しさではないもので求めて欲しかった。
 ランバートと話をして、羨ましいと思ってしまったのだ。強く求められる事も、隣に堂々と立とうとする事も、それをファウストも尊重してくれることも。
 分かっている、優しさや愛情のかけかたには違いがある。シウスは甘やかしたいんだ。でもそれは子供だって言われているようで、いつまでも庇護の対象であるような気がして、隣に立ちたいのにそうはできなくて。
 苦しくて、切なくて、泣いてしまう。深く唇を塞ぎ舌を交えながら、泣いていた。

「ラウル」
「欲しいです」

 服のボタンに手をかけて、ラウルは一つずつ衣服を脱いだ。驚いた顔をしたシウスは顔を真っ赤にした。暖炉の前のラグの上で、ラウルは全ての衣服を脱ぎ捨ててシウスの体に触れた。

「求めて、貰えないのですか? 僕のような子供では、満足してもらえませんか? 激しく愛されるには、足りませんか?」

 必死なんだ、いつも。大人なこの人の隣にならびたくて、甘やかされるのではなく必要とされたくて必死なんだ。役に立ちたいと思うのに、所属も年齢も立場も違い過ぎて思うようにいかない。今は必要としてくれるけれど、そのうち必要としてくれなくなったら。甘い言葉で囁かれながら、どこかで不安だった。
 見つめるシウスの目が、驚きではなくスッと細く鋭くなった。怒っているのかと不安になれば、今度はシウスから激しい口づけをしてくれる。腕の中で身じろぎも許されないほどに深く絡まる舌に、ラウルは熱に目を潤ませながら受け入れていた。

「抑えるのに苦労するというに、困った子じゃ」
「え?」
「求めぬはずがなかろう。満足などしてはおらぬよ。欲しくてたまらぬ。故に不安じゃ。負担になりはせぬか、傷付けはせぬかといつも思っておる。激しくなど……しても良いかいつも分からぬ。このような激情、そなた以外に抱いた事もないのだぞ」

 そう言いながら、シウスの唇はラウルの首筋に触れ、跡を残すように強く吸い付く。更にそこに歯が立ち、甘く噛みつかれる。痛みが僅かにあるが、それは甘く痺れていくように思えた。

「引くなよ、ラウル。誘ったはそなたぞ」
「引くなんて」

 初めて見るかもしれない、欲に濡れる瞳なんて。この人はいつもどこか余裕で、どこまでも優しくて、果てる時ですらも穏やかだから。
 ニッと口元が笑う。薄い青い瞳が射止めるようにラウルを見て、耳元に「よう言うた」と熱っぽい声が囁いてきた。

◆◇◆

 暖炉の側のソファーにシウスの服を敷いてラウルは座っているシウスの膝の上に正面を向いて抱き合っている。唇や舌が胸の突起に吸い付き、甘噛みされて切なく声が上がった。痛みを伴うような行為をされたことがなかったから、なんだか刺激が強く思えている。
 それと同時に腰から回った手が後ろをグチュグチュと解している。割り開かれた膝の上に乗っているから、秘部も露わになってしまう。指の一本を咥え込み、熱い粘膜を押し上げられながら、ラウルは熱い吐息を溢していた。

「随分体が熱くなっておる。ローションなどつけずとも、トロリと絡みつくようじゃ」
「ふっ、あぁ!」

 一度ズルリと抜けた指が倍になって潜り込む。グズグズに解されていたとはいえ、圧迫が二倍になれば多少痛みがある。でもそれは直ぐに薄れ、引き延ばされるように中で指を広げられて震えながら喘いだ。

「具合が良さそうじゃ。ラウル、淫らじゃよ」

 嬉しそうに、少し鋭く囁きかけられる言葉にすらも反応する。シウスはラウルの反応を楽しむように囁きかけてくる。恥ずかしさと同時に淫らな熱が体の中から生まれ、たまらずシウスの指を締め付けている。
 唇が触れていく。指が背を撫でる。些細な刺激は今日に限ってそうではない。敏感になっているのか全身が震える。肩で息をして、それでも息苦しい。

「シウス様は、気持ちいい?」

 何度も息を継ぎながら問いかけてみた。キスだけで、ラウルは今日シウスに触れていない。既に二人とも一糸まとわぬ姿だというのに、ラウルは自分だけで手一杯だ。
 ふふっとシウスは笑い、体を支えるのに精一杯の手を取って高ぶりへと導いていく。触れたシウスのそこは既に熱く、完全ではないものの硬く濡れていた。

「愛しい者に求められ、これほどの痴態を前に欲情せぬほど私はお綺麗ではない」

 いつもの交わりでは絶対に言わない言葉を吹きかけられる。ラウルを一番に考えて、良いところを丁寧に愛撫してくれる普段とは違う。

 シウスも、欲情してくれている。

 嬉しくて、気持ちがよくて、ラウルは涙目のままで微笑んだ。そして、しゃぶりつくようにキスをする。受け入れ、深く絡まっていくのが気持ちいい。
 そのキスの合間に指が三本に増えた。痛みはあったけれど、呻きもしなかった。嬉しいが大半を占めていて痛みよりも勝っている。指が内部を犯し、狭い部分を寛げていく。切ない熱が集まってきて、ラウルは腰を揺り動かした。

「シウス様、欲しぃ」
「ラウル、おねだりはどうするのであった?」

 意地悪に笑うシウスが要求する。こんな顔、初めてみる。同時に腹の底からゾクゾクしたものが駆け上がってくる。不思議だ、意地悪なのにとても好きだ。

「お願いです、欲しいです、セヴェルス」

 これがこの人の要求。今日から抱き合う時、この名で呼ぶこと。そのかわり、おねだりには応える。

 ズルッと指が抜けて、体を持ち上げられる。そしてシウスの熱い高ぶりの上にゆっくりと腰が落とされた。

「はぁ、あっ……あぁぁ!」

 ピッタリと切っ先を当てられ、そこからズブズブと飲み込んでいく。痛みが強い交わりなんて初めてだ。けれど、これでいい。欲しかったのはこういうものだ。気遣いじゃなくて、この人の欲情なんだ。
 ビタンッと、薄く引き延ばされた結合部にシウスの下生えが触れる。自らの重みの分、シウスの強張りを深く飲み込んだそこは震えている。まだ受け入れただけ、それなのに気持ちよくてたまらない。熱いそれを内襞で包み込みながら、ラウルは我慢出来ずに腰を揺する。

「ふっ、んぅ、はっ……あぁ」
「淫らな事ぞ。それほどに私のものは良いのかえ?」

 コクコクと頷くと、瞳から熱に濡れた涙が落ちていく。中の良い部分を擦りつけるように腰を揺らめかせていると、不意にシウスが軽い力でトンと突き上げた。

「はぁぁ!」

 背が反り上がって心臓が音を立てる。あまりの気持ちよさに震えてしまう。シウスはとても的確にラウルの良い部分を突き上げている。自重で沈み込んでいる分もあって普段よりも強く抉られるような快楽が走って、ラウルは腰を立てている事すらままならない。

「もう二年じゃ。そなたの体に触れて、それだけの歳月がたっておる。私が知らぬ事などないぞ。気持ちの良い場所、好きな行為。背を撫でられるのが好みであるな?」

 下から緩く突き上げられながら腰骨の辺りを撫でられ、ラウルはたまらず嬌声を上げた。同時に体の全てでシウスを食い絞めてしまう。奥が柔らかく包み、抜けるのを嫌がって吸いついているように思う。実際、シウスの瞳はより濡れて欲情を深くし、肌はしっとりと汗ばんでいる。
 同時に胸の突起を、首筋をと責め立てられ、ラウルは耐えられずに熱を吐き出した。腹を汚す白濁を見て恥ずかしくなる。シウスは未だ果てていないというのに、一人だけ我慢ができなかった。
 いつもならここで「気持ちよかったか?」と問われて抜かれてしまう。負担になってはいけないと、この後はラウルの手を借りたりして熱を出してしまう。でも、今日はそうはして欲しくない。このまま奥に吐き出して貰いたい。

「セヴェルス」
「よもや、終わったと思うか?」
「え?」

 ギラリと光る瞳が笑う。抱え上げられ、ソファーの上に仰向けにされたまま膝を持ち上げられて深く埋め込まれる。それに、ラウルは声を上げた。

「よう絡む。いつもこれを我慢するのに苦労する。犯し倒してよいのか、随分な葛藤があったぞ」
「セヴェルス」
「付き合い始めた時はまだ幼かった。少年の域を出ぬ子に、このように浅ましく己の欲を突きつけてもよいのか。それでも触れたくて、触れた事を何度後悔したか。触れれば欲しくなってしまう。無体を働く己を叱責しながら、欲情もしてしまう。己が実に醜く思えた」

 そんな風に思っていたのかと、ラウルは驚いてしまう。確かにここに入った時は小さかった。食べる事もそこそこにしていたから、細く痩せて小さかった。今でも小さい事は小さい。それでも日々の鍛錬や食事で体は大人のそれになっている。

「だが、それも今日限りじゃ。私はそなたを求めるよ、ラウル。つきおうてくれるかえ?」

 頬に唇が触れて涙の粒を舐める。ポタリと汗が落ちて、見れば色香を含む瞳が見下ろしている。濡れた唇が目に入る。欲しくて片腕を伸ばして、その唇に重ねた。ねっとりと絡ませながら繋がりはより深くなっていく。いい部分を狙うように抉られて、一度放ったはずなのにラウルもまた熱くなっていた。

「欲しいです、セヴェルス」
「あぁ、いくらでもやろう。愛しい者の要求はいくらでもきこう」

 うっとりと微笑みながら、シウスはより深くを突き崩すように激しく腰を打ち付ける。受けた事のない激しさに揺さぶられながら、ラウルは己を解放した。そしてその直ぐあとに、深い部分に熱を受け止めた。

 抜け落ちればトロリと、放たれたものがこぼれ落ちていく。それが内股を汚す事すらも淫らに思え、力の入らないまま身もだえてしまう。
 シウスは水差しから水を持ってきて、腰砕けのラウルを抱き起こすと唇に当ててくれた。

「無理をさせたなえ」
「平気です」
「腰が立たぬぞ」
「遠征上がりなので、明日から三日はお休みです」

 遠征の疲れを十分に癒やす為に、そこに参加した隊員は三日の休みが与えられる。だから今無理をしても、仕事までには十分に回復できる。

「セヴェルス」

 秘密の名前を口にすれば、シウスは少し恥ずかしそうに微笑む。この顔が好きになりそうだ。

「僕を、大人として扱ってください。もう、小さなラウルではありません」
「あぁ、そうさな。もう立派な大人じゃ」
「では、手加減しないでください」
「今日は加減などせなんだぞ?」

 言われ、恥ずかしく頬を染める。シウスの手がラウルの秘部へと触れ、クプッとまだ柔らかな孔を開いた。

「え!」
「心配せずともよい。出した物を掻き出さねばならぬよ」

 ヒョイと膝の上に乗せられ、向かい合ってキスをする。膝を割り開いた状態で柔らかな後ろを指で広げられると、ポタリと放たれたものが落ちてくる。それがとても恥ずかしくてキュッと目を瞑っていると、シウスは楽しげにクツクツと笑った。

「淫らな姿に、初心な表情などせぬことぞラウル。目の前にいるのは案外、狐の皮を被った狼やもしれぬ。食われてしまうぞえ」

 これを冗談に取れないのは、その声が濡れているから。色を含み、熱を孕み、執拗に中を寛げるように触れるから。

「あの」
「ん?」
「欲しい……ですか?」

 顔を真っ赤にしながら問えば、驚いた目が見上げてくる。そして次には少し苦しそうな笑みだ。案外正直だ。

「いい、ですよ?」
「ラウル?」
「セヴェルス、僕は求められるのが好きみたいです」

 赤くなりながらもニッコリと言えば、目の前の人は再び瞳に色を浮かべ、しゃぶりつくように肌を味わい始めるのだった。
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