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14章:春色アラカルト

8話:ウチの嫁の変態なお願い(グリフィス)

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「グリフィス、何も言わずにこれで俺をブチ犯してください」

 久々に過ごすリッツとの夜。グリフィスは現在、全裸で土下座するリッツを前に呆然としている。正直、色んな意味で言葉がない。まず服を着ろ。そして手に持っている怪しげなケースはなんだ。

「あ……まぁ、そのつもりではあるが…………それ、なんだ」

 この際全裸なのはもういい。わりとあることだ。土下座も百歩譲ろう。
 そうなると一番気になるのは手にしているケースだ。

 リッツはススッとケースをグリフィスの前に持ってくる。ケース自体は細長いもので、ペンや小量のカトラリーでも入っていそうな感じだ。
 それを開け、速攻で閉め、沈黙の後に溜息をついた。

 中身は形の違う三種類の尿道ブジーだった。

 プラグのように入り口を塞ぐような短いものじゃない。おそらく尿道から前立腺刺激なんかもできる長さだ。安全に配慮されているだろう滑らかな金属ではあった。エッジもない。先端も丸くなっている。
 が! 形状がえげつない。先端が丸くなっていて長い部分がドリルのように螺旋しているもの。逆にツルンとしているもの。棒の部分がボール状になっているもの。

 これを、使えってか?

 グリフィスはプルプルしたままリッツを見るが、未だ土下座状態だ。どうする、これ。

「お前、これ……」
「特注しました」
「あぁ、いや、ちが……なに、して欲しいわけか?」
「最近読んだエロ本で興奮した。グリフィスにされたら俺、昇天すると思う」
「おいぃぃぃ!」

 なんて本読んでやがるんだ!!

 色々突っ込みどころが多すぎて頭を抱えたグリフィスは、まずリッツを落ち着けて毛布を肩に掛けてから、その本とやらを出させた。

 その本というのは薄く、何人かの素人が趣味で書いたもののようだった。なので、読み物としてストーリーがどっしりあったりはしない。その分、欲望を剥き出しにしたような感じだ。
 リッツが読んだのは主人と従者のお仕置き物で……ハードだった。

「おい」
「ダメ?」
「……お仕置きされたいのかよ」

 もう、何からツッコもうか分からないが、突っ込むのは後だ。

 溜息をついたグリフィスはリッツと向き合い、両手で頬を挟むとそのままグリグリする。痛いと言うが、とりあえず暫く無心でそうしていた。

「ほっぺが痛いぃ」
「俺の心はもう少し痛い」
「ダメ? 俺、興味あるんだけど」
「あのなぁ……」

 グリフィスは溜息をついた。
 リッツのこうしたぶっ飛んだお願いは過去にもあり、大抵は叶えた。だがそれはリッツが怪我をしない範囲での事だ。これは……下手をしたら怪我をするように思う。
 何より、ハードプレイでなければいけないのだろうか。

「リッツ、俺はこれでも恋人には優しくしたい男なんだぞ」
「絶倫でやりまくって結局俺落ちるけれど? 俺が女だったらきっと今頃お腹大きいよ? 全部中出しだし」
「悪かった! じゃあ、外に出す」
「やだ」
「じゃあ言うんじゃねぇ!」

 冷静な目で見てくるリッツを、時々もの凄く殴りたい時がある。それもグッと押し殺すのが男ってものだと最近理解した。
 それに、今日は随分食い下がる。こんな道具まで準備して、そんなにして欲しいプレイなのだろうか。それとも、他にもっとあるのだろうか。

 グリフィスは手を伸ばして、ほんの少し赤いリッツの頬に触れた。

「寂しいのか?」

 聞いたら、キャラメル色の瞳がふいっと反らされた。

「会えなくて悪かったな。新人入れたりで、忙しかったからな」
「……分かってるよ、他の理由も。あの二人に会わないように避けてるんだよね?」

 言われて、ドキリとした。グリフィスはその事を特に伝えたわけではない。それでも、リッツはちゃんと察していた。

 今、リッツの実家にはサバルドの王子ラティーフと、その従者ジャミルがいる。
 これはリッツの父が二人の一時的な保護を、現サバルド国王から頼まれたからでもある。ここが繋がっていて、危険なときには頼るよう言っていたなんて流石に思わなかった。
 あの二人には会えない。会うべきではない。グリフィスの父を追いやった男の息子だ。
 これに恨みがあるわけじゃない。とっくに忘れた昔だし、母は今の父と幸せにしている。グリフィスも十分に育ててもらい、恩を感じている。その後の出会いも宝物だった。
 だからだろう。グリフィスは今の生活を捨てたくない。あの二人の前に顔を出せば、きっとややこしいことが起こる。それほどこの容姿は、あの国の王族である証が沢山あるのだ。

 そんな事から、リッツの所を訪ねるのも少し遠慮していた。回数を減らし、デートはやめて家の中だけで会い、家の中で別れる。それを、物足りなく思っていたのかもしれない。

「俺だってグリフィスが厄介ごとに巻き込まれるのは望んでない。だから無理は言わない。言わないけど! ……寂しいんだ。気持ちが寂しいから、体だけでも忘れられないくらい激しく求められたくて、それで……ごめん」

 しょぼくれてしまったリッツを見ると、グリフィスの方が申し訳なくなってしまう。避けているのは色んな配慮があるが、だからといって恋人に寂しい思いをさせるのはどうかとも思う。
 ここは、望むプレイをしてやるのがいいのか? 何よりリッツは言いだしたらきかない部分もある。久しぶりにゆっくりと会いにきたのに、こんな悲しい顔をさせておくのはしのびない。

「謝るなよ、リッツ」
「だって、俺……」
「あー、なんだ。これ、本当に大丈夫なのか?」

 側にあるブジーを手にしてグリフィスは唸る。確かに細いし滑らかだが、こんなのが入るのは想像ができない。
 だがリッツは頷いた。

「はいるはず」
「試してないのかよ」
「だって、俺がグリフィスにあげられる処女って、もうこれしかないからさ!」
「こんな部分の処女貰って喜ぶか!」

 思わずツッコまずにはいられない。それがリッツという生き物。
 そしてそこを知って、そこを含めてこいつの事が好きなんだ。

「……お前、お仕置きされたいのか? それともこれはご褒美か?」
「ご褒美です!」
「力説かよ。んじゃ……」

 羽織らせた毛布をゆっくりと落とし、頬にキスをする。しょぼくれていた顔に驚きと僅かな期待を浮かべたリッツの唇に、グリフィスは改めてキスをした。

「待てが出来た偉い子には、欲しいご褒美をあげないとな?」
「! 欲しい!」

 飛びついたリッツの嬉しそうな顔を見るだけで、とりあえず満たされるのも確かなグリフィスだった。


 優しくベッドに寝かせ、体中にキスをする。見える所にキスマークをつけるとリッツは喜ぶ。だから首筋に跡が残るようにキスをする。擽ったそうに身じろぎ、微かな声を上げるリッツは可愛いと思う。これだけとんでもない事を要求するくせに、小さな事に喜ぶガキっぽさもあるんだ。

 快楽慣れした体は期待しただけで小さく反応する。ろくに触ってもいない乳首が既に硬くなりかけている。そこを指の腹で押し込むと、気持ち良さそうな息が漏れた。

「お前、淫乱すぎるぞ。もう硬くなってんぞ」
「グリフィスにして欲しかったんだもん」

 あざとい。けれどこれに気を良くしているのも事実だ。こちらを見る潤んだ瞳がいつもより甘いのは、きっと気のせいじゃない。

 指で押し潰すように刺激していると、ぷっくりと膨れて誘ってくる乳首はどうなんだ。やらしすぎるだろ。本当に美味しそうになるもんだ。
 もう片方は一切触っていないのに同じように大きくなっている。ぷりっと弾力があり、跳ね返してくる生意気な粒をコリコリと摘まんで苛めながら、グリフィスはたっぷりとリッツの口を吸ってやった。

「はんぅ、グリフィス、もっとキスしてぇ」
「激しいのか?」
「ねちっこいの」
「はいはい」

 激しいのが好きと言うが、本当は甘えながらのドロドロねっとりが好きなんだろう。本当に欲求不満な時はこうなる。
 たっぷりと唾液を絡めて舌を舐り、唇をしゃぶり、口腔を擽る。鼻にかかる甘ったれた声にグリフィスの欲も疼いてくる。全身を使って包むようにすると、無意識かリッツが腹に自分の昂ぶりを擦りつけてくる。ヌルヌルと滑らせながら腰を振っている姿は滑稽なのだろうが、可愛くもある。

「あ、あっ、きもひぃい」
「出ちまうぞ」
「らってぇ」
「ったく、こらえ性がねーな」

 すぐにプラグで栓をしようかとも思ったが、止めた。そして自分のも一緒に合わせて握り、上下に扱いた。

「んあぁ! やっ、出ちゃうぅ! 出ちゃうよぉ!」
「一度イッとけ。例のやつ入れんのはその後だ。お前、本当にもうイキそうじゃねーか」

 硬く熱くなっていて、腰が止められない。目がトロンと気持ち良さそうに熱を持っている。わりと早漏だがその分何度も達する事ができるリッツの、これは一つのサインだ。
 それに、グリフィスも十分に興奮している。忙しかったり、他の事情があったりで間が空いて自己処理もしていなかった。だから、恋人の痴態にこんなにも煽られる。

「はぁ、はぁ、グリフィ、スぅっ!」
「ほら、イッてみせろ」
「やんっ、んぁ、あぁ!」

 先端のツルンとした部分を二人分の先走りを伸ばすようにグリグリ撫で回した瞬間、リッツは一度目を放った。白くて濃い精液が手を汚し、尿道口はパクパクと口を開けている。
 ここにこれから、あんなものを入れるのか……。気が引けるのと同時に、妙な興奮もあるから困ったものだ。

「大丈夫か?」
「だい、じょうぶ」
「随分濃いな」
「してな、くて……」
「自分では?」
「少しだけ。だって、グリフィスのがいいんだもん」
「っ」

 おそらく天然で言っているんだろうが、これは煽られる。あれだけ毎日のように男を誘い込み咥えていた奴が、今じゃグリフィスだけ。しかもグリフィスがいなければ自慰もあまりしなくなったなんて。
 可愛くて、嬉しくて煽られる。

「偉いな、リッツ。そんなに俺がいいか?」
「グリフィスじゃないと、もう満足できない。お尻弄っても足りない」
「自分でケツ弄ってるのかよ」
「前だけじゃ足りないんだもん。ディルド使って、それでも寂しい」
「あのディルド、使ってるのかよ……」

 以前、、リッツが他の男とセックスしない約束でディルドの型を取られた事がある。そしてそれを元にしたものも見た。正直自分のものなのにこれが尻を犯してるのかと思うと罪悪感が凄かった。
 そんな代物をリッツは使用しているらしい。よくやるよ。

 苦笑いして、それでも自分を求めてくれる事に喜びもあって、グリフィスは嬉しそうに嘆息する。しかたがないなと、嬉しさも含めて思うのだ。こんな体にしたのだから、最後まで面倒をみるつもりだ。

 抱き上げて、ベッドの縁に腰を下ろしてその間にリッツを座らせる。背中から包むように前に手を伸ばしたグリフィスは一番シンプルな形の尿道ブジーを手にすると、それにたっぷりの香油をまぶした。

「あっ」
「息、止めんなよ」

 息を飲んだのが伝わったから伝え、尿道口にブジーの先端を僅かに入れる。先っぽが丸みを帯びた矢印型になっているから、少しずつだが中へと入っていった。

「あっ、あぅ、はぁ、あっ」
「痛くないか?」
「痛く、ない。けど、変な感じがする」

 一度出したその残りもあって、比較的スムーズに入っていく。傷つけないように丁寧にズブズブと中へと入れていくと、やがて先端が柔らかいものに微かに触れた。

「ひぐぅ! あっ、そこ!」
「ん? ここか?」

 突然痙攣したリッツの様子を見て、もう一度触れたふにゃりとする部分を優しく突く。するとその度にリッツは激しく悶えながら目を白黒させている。

「そうか、前立腺かここ」
「やぁ! あっ、だめぇ、イッッくぅぅ!」

 硬く筋を浮かせている昂ぶりだが、なにせ栓をされている。出したくても出せないだろう。それでもリッツはお構いなしに絶頂したらしい。背が仰け反って体を使って息をしながら、出せない部分を大きく震わせている。

「あっ、あっ、何これぇ。中、入れて貰ってないのにメスイキするぅ。お尻締まるよぉ」
「お前なぁ……」
「グリフィス、その玉のがいぃ。それ、入れてぇ」
「……エンジンかかったな」

 お強請りに応えて玉が連なったような形のプラグを手にする。先端もボールで、今入れているものよりも尖っていない。その分棒の部分も玉になっている。
 今入っているものを引き抜くと、ぬとっとした体液が絡まって出てきた。鈴口はぽっかりと口を開けて物欲しげにパクパクしている。
 そこに今度はボール状のものを宛がい、ゆっくりと沈めていく。

「んぉ! おぁ! あっ、気持ちいい……ポコポコのが、気持ちいぃ」
「お前、さっきまで感じてなかったよな?」
「イッ……たら、癖になってとまんないんだよぉ」

 少し入れては引き抜き、また少し奥まで入れてを繰り返しながらさっきの部分まで到達する。さっきのやつよりも丸くて滑る様な感じがあるが、これがいいらしい。あっという間に出さないままでイッている。

「グリ、フィス……中、入れてぇ」
「これでか!」
「らってぇ」
「慣らしてもないのに入るか! 一端抜くぞ」
「あっ、らめぇぇ!」

 こんなのつけたまま体位変えるとか不安でたまらない。ゆっくりと気を付けながら抜き去ると、リッツは震えながら大いに焦っている。そうして先っぽまで全部抜いた瞬間、透明な液が吹き上がって床を大いに濡らした。

「……潮噴くなよ」
「らから、まっでっでぇ」
「待ったからってどうにかなるもんでもないだろうよ」

 そんなに癖になるほど気持ちいいのだろうか? 濡れ光る金属の細い棒を、グリフィスは呆然と見ていた。

 一度体を拭いてやってベッドに寝かせ、足を抱え上げる。香油でしっかり濡らし、指二本をゆっくり後孔に差し込んだ。

「んぁ……グリフィスの指、好き」
「一気に指二本楽勝って……お前、緩くなったか?」
「失礼な! 緩くなってないし!」

 ムッとしながら後ろ指をキュゥゥッと締めつける。確かに締めつけはいい。相変わらず絡むようにうねり、熱く吸い上げるようだ。

「これ、もう完全に本来の目的外になってるよな?」
「グリフィスがしたんだよ?」
「……責任取ります」
「うん、お願いね」

 せっせと指を動かして中を刺激しながら、グリフィスは幸せそうなリッツに頭をかかえる。が、嫌な訳じゃない。躾けには苦慮するだろうが、愛情はちゃんとあるのだから。

 指三本を深々と受け入れるまで時間はそうかからない。既に何度かイッているせいか柔らかく解れるのが早かった。しかも、良い具合に出来上がっている。

「さっきの体勢でいいのか?」
「んっ、いい、よ。で、あのボールの入れて?」
「まだ欲しいのか……」
「後ろと前からの快楽待ちです」

 こんな事をキリッといい顔で言うこいつはいいんだろうか……。いいか、リッツだから。

 指を引き抜き、しっかり臨戦態勢の自身の剛直にも香油をたっぷりまぶして、グリフィスはリッツの体を持ち上げる。
 背面状態でリッツを持ち上げ、剛直の上にゆっくりと下ろしていく。後孔がゆっくりと飲み込んで、熱い内襞が絡みついてくる。この瞬間、いつも気合をいれないとすぐに放ってしまいそうで汗が出る。そのくらい、リッツの後ろは気持ちがいい。

「あっ、あぅ、ふっ……はぁぁん」
「美味そうに飲み込むよな、お前」
「んぅ、気持ちいい……グリフィスの、太くて熱くて硬くて……腹の奥まで、入るぅ」
「普通嫌うんだがな」

 グリフィスは苦笑し、リッツの腹を撫でる。腹のけっこう深い部分まで入ってるのが、外から撫でただけで分かった。

 グリフィスの男性器は平均よりもかなりでかい。手慣れた娼婦だって一瞬尻込みされたし、やはり苦しくて辛いらしい。それが男だ、受け入れはかなり苦しく辛い。
 リッツは元々そういう相手を選んで食ってきた経緯があるが、それでもグリフィスのは特に大きかっただろう。こんなにすんなり受け入れる奴は今までいなかった。

「グリフィスぅ」
「お強請りがえげつないっての」

 言いながらも叶えるグリフィスもそれなりだ。たっぷり香油をリッツの昂ぶりに垂らし、さっき入れたボール状のブジーを差し込む。ボール部分が尿道口を通り抜ける度、リッツは熱っぽい声で小さく喘いでいた。

「そら、入ったぞ」

 後ろから圧迫したままブジーを弄る。その度に中がうねって締めつけるのがたまらなく気持ちいい。正直、暴発覚悟だ。

「っ! リッツ、こっちは自分でやれ。加減しろよ? 動くからな」
「あ……あぁ! はぁぁ!」

 そうとう気持ちよかったのか、浮いた顔をしているリッツの目がぱっと見開かれ潤んだ目から涙がこぼれる。下から僅かに突き上げる度、リッツの体が浮き上がりまた沈む。先端が奥にゴツゴツ当たり、強くしたら抜けてしまいそうだ。

 リッツは自分で前を握って緩く動かしている。それでも相当だろう。というか、ずっとイキっぱなしだ。中が締めつけながらうねって絡む。熱くなって乱暴にしたら本当に体おかしくしてしまう。理性が切れないように繋いでおくのがしんどい。

「くそ……お前ほんと、今日は随分だぞっ!」

 理性が切れて滅茶苦茶にしてしまう前に我慢を捨てた。下から突き上げつつ深く入らないように腰を掴んで支えながら、グリフィスは深い部分に熱を注ぎ込む。それと一緒に一気にプラグを抜き去ると、堰き止められていた白濁が勢いよく吹き上がった。

「っ!!」

 締まりがキツくてしんどい。収まりはつかないが一端抜いて、リッツをベッドに寝かせた。キャラメル色の瞳に涙が浮かんでいる。手の平で拭ってやると、その手に甘えてキスをしてくる。

「……そんなに寂しかったのか?」
「寂しいよ。毎日会えるわけじゃないのに、半月放置だもん。俺、頑張ったよ?」
「悪かった」
「好きだよ、グリフィス。忘れられてるんじゃないかって、怖かった」
「悪かった」

 仕事じゃ大人顔負けの商人のくせに、普段は甘えたがりのリッツだ。激しいのを好む時も大抵、日が空くときだ。こまめに会える時はわりと落ち着きがある。全部が寂しい時を埋める為なんだろう。

 恋人にすると言ったのはグリフィスからだ。大事にしてやるのもそのつもりだ。こいつと、ちゃんと考えていくと思ったのも本当だ。
 なのに、こんなに乱れるほど寂しがらせちゃいかんだろうよ。

「リッツ」
「なに?」
「少し落ち着いたら、纏めて休みとる。そうしたら、一緒に旅行に行かないか? 宿の離れとか借りて、他に気兼ねなんかしないでよ」

 旅行なんてした事がない。そもそものんびりというのがグリフィスは苦手だ。
 それでもリッツと過ごす時間は欲しい。やってる以外の思い出が欲しいのだ。

 リッツはキョトッとして、その後時間をかけてジワジワ表情が綻んで……笑いながら泣いた。

「おい!」
「うれ、しい。グリフィス、俺と旅行してくれんの?」
「嬉しいか?」
「勿論! 俺、仕事頑張る! 兄貴の仕事も手伝ってるし、自分の仕事も。旅行、楽しみにする!」

 頑張り屋のリッツは兄や家の仕事もやっている。そして自分の仕事も手を抜いていない。本来はそういう、努力家でもあるんだ。
 頬を撫でて、笑って、グリフィスはリッツを抱きしめる。あやすように頭を撫でるとリッツは涙を流したまま嬉しそうに笑った。

「どこ行きたいか、考えとけよ」
「うん! グリフィスと一緒なら、俺どこでも嬉しい」
「俺もだよ」

 激しい夜は穏やかに。抱き合ったまま暫くして、室内には二人の穏やかな寝息だけが聞こえてくるのだった。
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