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5章:すれ違いもまたスパイス
3話:寂しい夜の過ごし方(リカルド)
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安息日前日、リカルドはできるだけ早く部屋に戻った。チェスターに会ってしまうのが怖かったからだ。
いつもより少し多めに酒を飲んで、温かな膝掛けを掛けて本を読むけれど内容は入ってこない。
あれから、チェスターとの時間を極力控えている。長くいるから我慢ができないんだと、自分に言い聞かせる毎日になっている。
部屋には入れないようにして、キスもしないようにして。
でも、そんな日はいつも切なく苦しい気持ちに胸が痛くなって、なかなか寝付けないのだ。
「はぁ……」
ダメだ、こんなんじゃ。年上なんだから、チェスターに負担をかけるような付き合い方をしてはいけない。休息もちゃんと取ってもらわないと。その為には我慢も覚えないといけないんだ。
思って、納得もしているのに苦しいのはどうしてなんだろう。理性ではそれでいいんだと思っているはずなのに。
その時、コンコンと部屋をノックする人があった。
「あ……」
思わず立ち上がり、ドアの前までいってノブに手をかけた。けれどそこで我に返ってノブを離した。
「先生、いるんでしょ? お願い、少し話をさせて」
「っ!」
声を聞いて、余計に苦しい。今すぐ顔を見たい。顔を見たら話をしたい。触れたくて、キスをしたくて……そうしたら、止まれなくなる。
「先生、お願い!」
「疲れているので、今日はもう休みます!」
開けちゃいけない。決死の思いで振り払おうとしたけれど、その背にかかった言葉に胸が痛くなった。
「俺のこと、嫌いになった?」
「え?」
どうしてそんな事になるんだろう。好きで、側にいて欲しくて、それがあまりに度が過ぎてしまって自重しようとしただけで、嫌いになんてなるはずがないのに。
「俺の事避けてるのは、俺の事が嫌いになったから? 長く側にいない間に、気持ちも冷めちゃった? それとも、頼りなくて嫌になった?」
「え? ちょっと待ってください! それは違う!」
慌てて振り向いてドアに向かって言った。
そんな事、思った事はない。会えない時間が長くて、寂しいけれど彼も頑張っているんだと思って踏ん張った。帰ってきた時、ちゃんと迎えられるようにと思ったのに。
でも、返ってきた言葉はそのままリカルドに突き刺さった。
「じゃあ、どうして避けるの? 俺、先生の側にいたい」
辛そうな声がする。その声に、体が動かない。側にいたいのはリカルドも同じだ。それじゃダメだって思った気持ちが、チェスターを悲しませて……
嫌われた?
思った途端、涙腺が壊れたみたいに涙が止まらなくなった。苦しくて息ができなくて、必死になって息を吸った。悲しすぎて、どうしていいか分からない。
「先生?」
「あ……っ」
まずい、息を吐かないと。思っても、体がいうことをきかない。膝から力が抜けて床に膝をついた。それでも涙は止まらないし、体は震えてしまう。
「先生!」
ガチャッと音がして、目の前にチェスターが立っている。招かないだけでドアは開けっぱなしだ。当然と言えば当然なのだ。
「先生!」
慌てて近づいて、頭を抱えるみたいにギュッと抱き寄せてくる。背中を撫でる手に少しずつ呼吸が整ってくる。涙は止まらないけれど、腕の中で落ち着いてきた。
「泣かないで先生。そんなに俺との事、辛いの?」
「ちが……違うんです、チェスター。私は……」
ただ、貴方に負担をかけたくなかった。自分の感情の変化についていけなかった。どんどん溺れていって、怖いくらいに依存してしまう。
背中を撫でる優しい温かさ。体に感じる彼の鼓動が近い。やっぱり、離せない。触れたらもう、手放す事を考えられない。
「我慢、して」
「我慢?」
「年上、なのに。チェスターの負担になることばかり」
「俺の負担? 何の話?」
驚いたように目を丸くしたチェスターを見上げて、リカルドは思った事を素直に話した。
年上なのにそんな余裕がなく、側にいれば甘えて、触れて、キスをして、その先もと求めてしまうこと。このままじゃいけないと感じていること。そして、その為には距離を置かなければと思っていたこと。
言えばスッキリした。そして涙も止まった。胸の中の苦しさは薄れて、チェスターの背中に腕を回して服を握っていた。
「そんな事、思ってたなんて」
チェスターは少し恥ずかしそうに顔を赤くしている。照れているのは明らかだ。
「すみません、余計に貴方を混乱させて。こんなんじゃいけませんよね。余裕がなくて、空回りして貴方を不安にさせて……こんなんじゃ、恋人失格で」
まずい、また泣きたくなってきた。ジワリと目頭が熱くなって、喉の奥がヒクつくのを感じて我慢しようとする。
けれど今度は泣く前に、チェスターがしっかりと抱きしめてくれた。
「先生が恋人で、俺は嬉しいよ」
「でも、こんな……」
「求めてくれていいんだよ、先生。俺、先生なら嬉しいし応じたいんだから」
「でも、疲れてるんじゃ……」
「例えそうでもしたい気持ちは同じだよ。無理に押さえ込もうとかされる方が苦しい。先生はもっと、我が儘言っていいんだよ」
我が儘? 今だって随分言っている気がする。これ以上なんて困らせてしまう。
思って見上げていると、人好きのする笑顔が返ってきて額にキスをされる。ジワリと、甘い痺れがあった。
「先生が心配しないくらい鍛えるから。体力つけて、毎日でも先生の相手ができるようになってみせる。寂しいなんて思わなくていいように、側にいるから。だからもう、辛そうな顔をしないで」
「チェスター……」
柔らかく背中に回していた腕を強くして抱き寄せて、リカルドは久しぶりに微笑んだ。そうして見つめ合い、どちらともなくキスをする。甘く優しいキスは体以上に、心を温かく包んでくれているようだった。
「先生」
「なんですか?」
「今日は泊まっていってもいいよね? 明日は安息日だし」
ツキンと胸に甘い痺れが走る。同時に鼓動が早くなる。断るつもりなんて一切ないのだと、はっきりと分かっている。
「その……俺、先生の側のほうが眠れる気がするんだ。ダメ、かな?」
「ダメと、言えるはずがないじゃないですか」
甘く見つめ、リカルドからキスをする。了承の合図を正しく受け取ったチェスターは、嬉しそうに屈託のない笑みを浮かべた。
全てを取り去り触れた体は、とても締まって逞しく感じる。足の筋肉も、引き締まった腹筋も、背中も。確かめるように触れて、身を任せると全てが落ち着いてきた。
「んぅ……ふっ……」
甘く優しいキスと柔らかく絡む舌の感触は懐かしくも思える。たった七日程度我慢しただけなのに。
「先生、気持ちいい?」
「んっ、気持ちいいですよ」
近くで見つめる瞳を覗き込んで伝えれば、嬉しそうな笑顔を浮かべる。少しずつ慣れた感じがあるのに、こういう表情はやっぱり人懐っこい犬のようだ。
「可愛い」
「え!」
「チェスター、可愛いですよ」
微笑んで、犬のように頭を撫でる。少し不服そうにしているけれど、リカルドはその表情も可愛く思える。
「犬みたい」
「先生、酷いよぉ」
「可愛いですよ」
よしよしと何度も頭を撫でると拗ねられる。笑って、ご機嫌取りのキスをすると元通りだ。
「続き、お願いしますね」
「勿論!」
嬉しそうに、そして元気に答えたチェスターは見えない尻尾を振っているみたいに思えた。
仰向けにされ、首筋にもキスをされて体が疼く。とても小さな疼きかもしれないけれど、今はとても響く感じがある。
「んぅぅ」
「声、色っぽい。先生感じてるの?」
囁くような甘い声が首筋でして、その吐息すらもくすぐったくて少し疼く。
指がほんの少し突起を撫でるとすぐにでも甘い痺れが走った。
「あ……」
体が少しずつ変わってきている。最初は触れられてもあまり感じなかったのに、少しずつ弄られて感じる様になった。今では自分でする時も物足りなくてそこを弄ってしまう。
「先生、ここで感じるようになったんだね」
「あぅん、はぁ、あっ」
クリクリと押し込まれ、擦られ、捏ねられて。すっかりぷっくりと硬くなった乳首を摘ままれると腰に響く。触れられていない昂ぶりが熱くなっていく。
愛しそうにチェスターは体のそこここにキスをする。それが赤く熟れた胸元に触れると、強い刺激に腰が浮いた。指だけですっかり硬く尖っている部分から全身に甘い痺れが走って、クラクラと目眩がする。
「先生、凄いよ……」
真っ赤になったチェスターが下肢へと視線を向ける。つられるように見たリカルドも恥ずかしさに顔が熱くなっていく。
触られていない昂ぶりはパンパンに張りつめて蜜を流している。ヒクヒクと鈴口を開ける姿なんて、卑猥としか言いようがない。
「あっ、見ない、で……」
恥ずかしさから腕で目を隠して見ないようにした。これではあまりにはしたなくて、どういう顔をしていいか分からなかった。
けれど次に走ったのは、予想していない甘い刺激だった。
「あんぅ! あっ、やぁぁ!」
膝を軽く抱えられ、後孔へと添えられた指が僅かに入り込む。それはとても簡単に飲み込み、緩くだが弱い部分を押し上げている。
一瞬真っ白になって、背がしなった。中だけで軽くイッたのだと、バクバクいう心臓が物語っている。
「先生、イッた?」
「あっ、だめ……ぇ!」
イッてるのに弱い部分を刺激されて下肢から痺れて頭は真っ白になる。前はトロトロと蜜をこぼすばかりで出せていない。中イキだけが止まらないのだ。
「柔らかい……もしかして、自分でしてた?」
「そんな、きかな、でっ」
恥ずかしい秘密を一つずつ暴かれていくようでいたたまれない。もうまともに顔が見られない。
ここ最近寂しくて、自分で慰める事もしてみた。数は少ないがチェスターとの夜を思い浮かべて、その行為を追いかけるようにして。
胸を弄ってみたり、前を触ったり。でもそれだけじゃどうしても足りないのだ。自然と手は後ろへと伸びて、いけないと思いながらも弄ってしまう。それが癖になっているのかもしれない。
指の間から見たチェスターは真っ赤だった。でも、嫌いになったとかそういう感じは受けない。むしろなんだか、嬉しそうだ。
「あの……」
「先生……ううん、リカルド愛してる!」
「え!」
もの凄く突然の告白に違う意味で心臓が煩くなっていく。しかも「先生」ではなくて「リカルド」と呼んでくれた。それだけで、ジワリと胸の内が熱くなるのだ。
「ごめん、でも加減がきかないかも」
「え? えぇ……」
体に触れているチェスターの昂ぶりは熱く張りつめている。若いということもあるだろうが、それでもだ。
リカルドは柔らかく笑い、頭を撫でる。こういうところも可愛いと思えるのだから。
「ください。明日はお休みですから」
手を伸ばしてキスを強請れば応じてくれる。これで安心できるのだから、リカルドも案外チョロいのだろう。
指が増えて後孔を広げていく。その間、リカルドは何度達したかわからない。もう体から力が抜けて腰が立たない。一緒に乳首まで攻められて、痛いくらいだ。
「もっ、きて! これ以上は無理です!」
今の段階で訳が分からないのだから、これ以上なんて考えられない。でも、ちゃんと繋がっている事は感じたい。
リカルドの切ない訴えで指が抜けて、かわりに逞しく育ったチェスターの熱杭が当てられる。それがゆっくりと入ってくるだけで、リカルドは達してしまっていた。
「リカルド、大丈夫……じゃ、ないよね?」
「はぁ、あっ、あぁ……んぅぅ」
腹に溢れた白濁をチェスターの指が撫でて、ペロリと舐められる。美味しくないのに、妙に興奮もしている。
「ごめん、俺も保たないと思うから少しだけ付き合って」
しっとりと汗をかくチェスターの体を抱きしめたくて手を伸ばす。そこに収まった彼の背中にしがみついて、リカルドはあられもなく鳴いた。もう声を上げる程の体力も残っていないのに、それでも止められなかった。
深く感じれば感じる程に溢しているのは分かっている。何も分からなくなっているのに心地よくて、腕の中にある人だけが愛しくて信じられる。
首筋に、唇に触れてくれる。その柔らかな感触だけで幸福に満たされていく。
そうして最奥へと流される熱い滴りが体に染みていくのを感じると、何かが満たされていった。
「ごめん、リカルド……止められなくて無理させちゃった」
切なげに眉を寄せ、労るように髪を撫でるチェスターの指を取って、その指先一つ一つにキスをする。正直体は泥のように重く、疲れ果てて明日は動けないと思う。けれど有り余るだけの幸せは貰った。
「先生、煽らないでよ」
「え?」
「凄い、蕩けた顔でそんな事されたら俺、また我慢できなくなるよ」
困ったように眉根を下げるチェスターを見上げて、リカルドは笑う。そして上がらない腕に無理をさせて、首元に抱きついた。
「抱き潰していいですよ、チェスター」
「!」
だって明日は、お休みなのだから。
いつもより少し多めに酒を飲んで、温かな膝掛けを掛けて本を読むけれど内容は入ってこない。
あれから、チェスターとの時間を極力控えている。長くいるから我慢ができないんだと、自分に言い聞かせる毎日になっている。
部屋には入れないようにして、キスもしないようにして。
でも、そんな日はいつも切なく苦しい気持ちに胸が痛くなって、なかなか寝付けないのだ。
「はぁ……」
ダメだ、こんなんじゃ。年上なんだから、チェスターに負担をかけるような付き合い方をしてはいけない。休息もちゃんと取ってもらわないと。その為には我慢も覚えないといけないんだ。
思って、納得もしているのに苦しいのはどうしてなんだろう。理性ではそれでいいんだと思っているはずなのに。
その時、コンコンと部屋をノックする人があった。
「あ……」
思わず立ち上がり、ドアの前までいってノブに手をかけた。けれどそこで我に返ってノブを離した。
「先生、いるんでしょ? お願い、少し話をさせて」
「っ!」
声を聞いて、余計に苦しい。今すぐ顔を見たい。顔を見たら話をしたい。触れたくて、キスをしたくて……そうしたら、止まれなくなる。
「先生、お願い!」
「疲れているので、今日はもう休みます!」
開けちゃいけない。決死の思いで振り払おうとしたけれど、その背にかかった言葉に胸が痛くなった。
「俺のこと、嫌いになった?」
「え?」
どうしてそんな事になるんだろう。好きで、側にいて欲しくて、それがあまりに度が過ぎてしまって自重しようとしただけで、嫌いになんてなるはずがないのに。
「俺の事避けてるのは、俺の事が嫌いになったから? 長く側にいない間に、気持ちも冷めちゃった? それとも、頼りなくて嫌になった?」
「え? ちょっと待ってください! それは違う!」
慌てて振り向いてドアに向かって言った。
そんな事、思った事はない。会えない時間が長くて、寂しいけれど彼も頑張っているんだと思って踏ん張った。帰ってきた時、ちゃんと迎えられるようにと思ったのに。
でも、返ってきた言葉はそのままリカルドに突き刺さった。
「じゃあ、どうして避けるの? 俺、先生の側にいたい」
辛そうな声がする。その声に、体が動かない。側にいたいのはリカルドも同じだ。それじゃダメだって思った気持ちが、チェスターを悲しませて……
嫌われた?
思った途端、涙腺が壊れたみたいに涙が止まらなくなった。苦しくて息ができなくて、必死になって息を吸った。悲しすぎて、どうしていいか分からない。
「先生?」
「あ……っ」
まずい、息を吐かないと。思っても、体がいうことをきかない。膝から力が抜けて床に膝をついた。それでも涙は止まらないし、体は震えてしまう。
「先生!」
ガチャッと音がして、目の前にチェスターが立っている。招かないだけでドアは開けっぱなしだ。当然と言えば当然なのだ。
「先生!」
慌てて近づいて、頭を抱えるみたいにギュッと抱き寄せてくる。背中を撫でる手に少しずつ呼吸が整ってくる。涙は止まらないけれど、腕の中で落ち着いてきた。
「泣かないで先生。そんなに俺との事、辛いの?」
「ちが……違うんです、チェスター。私は……」
ただ、貴方に負担をかけたくなかった。自分の感情の変化についていけなかった。どんどん溺れていって、怖いくらいに依存してしまう。
背中を撫でる優しい温かさ。体に感じる彼の鼓動が近い。やっぱり、離せない。触れたらもう、手放す事を考えられない。
「我慢、して」
「我慢?」
「年上、なのに。チェスターの負担になることばかり」
「俺の負担? 何の話?」
驚いたように目を丸くしたチェスターを見上げて、リカルドは思った事を素直に話した。
年上なのにそんな余裕がなく、側にいれば甘えて、触れて、キスをして、その先もと求めてしまうこと。このままじゃいけないと感じていること。そして、その為には距離を置かなければと思っていたこと。
言えばスッキリした。そして涙も止まった。胸の中の苦しさは薄れて、チェスターの背中に腕を回して服を握っていた。
「そんな事、思ってたなんて」
チェスターは少し恥ずかしそうに顔を赤くしている。照れているのは明らかだ。
「すみません、余計に貴方を混乱させて。こんなんじゃいけませんよね。余裕がなくて、空回りして貴方を不安にさせて……こんなんじゃ、恋人失格で」
まずい、また泣きたくなってきた。ジワリと目頭が熱くなって、喉の奥がヒクつくのを感じて我慢しようとする。
けれど今度は泣く前に、チェスターがしっかりと抱きしめてくれた。
「先生が恋人で、俺は嬉しいよ」
「でも、こんな……」
「求めてくれていいんだよ、先生。俺、先生なら嬉しいし応じたいんだから」
「でも、疲れてるんじゃ……」
「例えそうでもしたい気持ちは同じだよ。無理に押さえ込もうとかされる方が苦しい。先生はもっと、我が儘言っていいんだよ」
我が儘? 今だって随分言っている気がする。これ以上なんて困らせてしまう。
思って見上げていると、人好きのする笑顔が返ってきて額にキスをされる。ジワリと、甘い痺れがあった。
「先生が心配しないくらい鍛えるから。体力つけて、毎日でも先生の相手ができるようになってみせる。寂しいなんて思わなくていいように、側にいるから。だからもう、辛そうな顔をしないで」
「チェスター……」
柔らかく背中に回していた腕を強くして抱き寄せて、リカルドは久しぶりに微笑んだ。そうして見つめ合い、どちらともなくキスをする。甘く優しいキスは体以上に、心を温かく包んでくれているようだった。
「先生」
「なんですか?」
「今日は泊まっていってもいいよね? 明日は安息日だし」
ツキンと胸に甘い痺れが走る。同時に鼓動が早くなる。断るつもりなんて一切ないのだと、はっきりと分かっている。
「その……俺、先生の側のほうが眠れる気がするんだ。ダメ、かな?」
「ダメと、言えるはずがないじゃないですか」
甘く見つめ、リカルドからキスをする。了承の合図を正しく受け取ったチェスターは、嬉しそうに屈託のない笑みを浮かべた。
全てを取り去り触れた体は、とても締まって逞しく感じる。足の筋肉も、引き締まった腹筋も、背中も。確かめるように触れて、身を任せると全てが落ち着いてきた。
「んぅ……ふっ……」
甘く優しいキスと柔らかく絡む舌の感触は懐かしくも思える。たった七日程度我慢しただけなのに。
「先生、気持ちいい?」
「んっ、気持ちいいですよ」
近くで見つめる瞳を覗き込んで伝えれば、嬉しそうな笑顔を浮かべる。少しずつ慣れた感じがあるのに、こういう表情はやっぱり人懐っこい犬のようだ。
「可愛い」
「え!」
「チェスター、可愛いですよ」
微笑んで、犬のように頭を撫でる。少し不服そうにしているけれど、リカルドはその表情も可愛く思える。
「犬みたい」
「先生、酷いよぉ」
「可愛いですよ」
よしよしと何度も頭を撫でると拗ねられる。笑って、ご機嫌取りのキスをすると元通りだ。
「続き、お願いしますね」
「勿論!」
嬉しそうに、そして元気に答えたチェスターは見えない尻尾を振っているみたいに思えた。
仰向けにされ、首筋にもキスをされて体が疼く。とても小さな疼きかもしれないけれど、今はとても響く感じがある。
「んぅぅ」
「声、色っぽい。先生感じてるの?」
囁くような甘い声が首筋でして、その吐息すらもくすぐったくて少し疼く。
指がほんの少し突起を撫でるとすぐにでも甘い痺れが走った。
「あ……」
体が少しずつ変わってきている。最初は触れられてもあまり感じなかったのに、少しずつ弄られて感じる様になった。今では自分でする時も物足りなくてそこを弄ってしまう。
「先生、ここで感じるようになったんだね」
「あぅん、はぁ、あっ」
クリクリと押し込まれ、擦られ、捏ねられて。すっかりぷっくりと硬くなった乳首を摘ままれると腰に響く。触れられていない昂ぶりが熱くなっていく。
愛しそうにチェスターは体のそこここにキスをする。それが赤く熟れた胸元に触れると、強い刺激に腰が浮いた。指だけですっかり硬く尖っている部分から全身に甘い痺れが走って、クラクラと目眩がする。
「先生、凄いよ……」
真っ赤になったチェスターが下肢へと視線を向ける。つられるように見たリカルドも恥ずかしさに顔が熱くなっていく。
触られていない昂ぶりはパンパンに張りつめて蜜を流している。ヒクヒクと鈴口を開ける姿なんて、卑猥としか言いようがない。
「あっ、見ない、で……」
恥ずかしさから腕で目を隠して見ないようにした。これではあまりにはしたなくて、どういう顔をしていいか分からなかった。
けれど次に走ったのは、予想していない甘い刺激だった。
「あんぅ! あっ、やぁぁ!」
膝を軽く抱えられ、後孔へと添えられた指が僅かに入り込む。それはとても簡単に飲み込み、緩くだが弱い部分を押し上げている。
一瞬真っ白になって、背がしなった。中だけで軽くイッたのだと、バクバクいう心臓が物語っている。
「先生、イッた?」
「あっ、だめ……ぇ!」
イッてるのに弱い部分を刺激されて下肢から痺れて頭は真っ白になる。前はトロトロと蜜をこぼすばかりで出せていない。中イキだけが止まらないのだ。
「柔らかい……もしかして、自分でしてた?」
「そんな、きかな、でっ」
恥ずかしい秘密を一つずつ暴かれていくようでいたたまれない。もうまともに顔が見られない。
ここ最近寂しくて、自分で慰める事もしてみた。数は少ないがチェスターとの夜を思い浮かべて、その行為を追いかけるようにして。
胸を弄ってみたり、前を触ったり。でもそれだけじゃどうしても足りないのだ。自然と手は後ろへと伸びて、いけないと思いながらも弄ってしまう。それが癖になっているのかもしれない。
指の間から見たチェスターは真っ赤だった。でも、嫌いになったとかそういう感じは受けない。むしろなんだか、嬉しそうだ。
「あの……」
「先生……ううん、リカルド愛してる!」
「え!」
もの凄く突然の告白に違う意味で心臓が煩くなっていく。しかも「先生」ではなくて「リカルド」と呼んでくれた。それだけで、ジワリと胸の内が熱くなるのだ。
「ごめん、でも加減がきかないかも」
「え? えぇ……」
体に触れているチェスターの昂ぶりは熱く張りつめている。若いということもあるだろうが、それでもだ。
リカルドは柔らかく笑い、頭を撫でる。こういうところも可愛いと思えるのだから。
「ください。明日はお休みですから」
手を伸ばしてキスを強請れば応じてくれる。これで安心できるのだから、リカルドも案外チョロいのだろう。
指が増えて後孔を広げていく。その間、リカルドは何度達したかわからない。もう体から力が抜けて腰が立たない。一緒に乳首まで攻められて、痛いくらいだ。
「もっ、きて! これ以上は無理です!」
今の段階で訳が分からないのだから、これ以上なんて考えられない。でも、ちゃんと繋がっている事は感じたい。
リカルドの切ない訴えで指が抜けて、かわりに逞しく育ったチェスターの熱杭が当てられる。それがゆっくりと入ってくるだけで、リカルドは達してしまっていた。
「リカルド、大丈夫……じゃ、ないよね?」
「はぁ、あっ、あぁ……んぅぅ」
腹に溢れた白濁をチェスターの指が撫でて、ペロリと舐められる。美味しくないのに、妙に興奮もしている。
「ごめん、俺も保たないと思うから少しだけ付き合って」
しっとりと汗をかくチェスターの体を抱きしめたくて手を伸ばす。そこに収まった彼の背中にしがみついて、リカルドはあられもなく鳴いた。もう声を上げる程の体力も残っていないのに、それでも止められなかった。
深く感じれば感じる程に溢しているのは分かっている。何も分からなくなっているのに心地よくて、腕の中にある人だけが愛しくて信じられる。
首筋に、唇に触れてくれる。その柔らかな感触だけで幸福に満たされていく。
そうして最奥へと流される熱い滴りが体に染みていくのを感じると、何かが満たされていった。
「ごめん、リカルド……止められなくて無理させちゃった」
切なげに眉を寄せ、労るように髪を撫でるチェスターの指を取って、その指先一つ一つにキスをする。正直体は泥のように重く、疲れ果てて明日は動けないと思う。けれど有り余るだけの幸せは貰った。
「先生、煽らないでよ」
「え?」
「凄い、蕩けた顔でそんな事されたら俺、また我慢できなくなるよ」
困ったように眉根を下げるチェスターを見上げて、リカルドは笑う。そして上がらない腕に無理をさせて、首元に抱きついた。
「抱き潰していいですよ、チェスター」
「!」
だって明日は、お休みなのだから。
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