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終章:月は夜に抱かれて
終話:語り部
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詩人が語る最後の音が響き、観衆は割れんばかりの拍手を送る。立ち上がり、丁寧にお辞儀をした詩人はそのジェードの瞳に人々を映した。
どれほどかいつまんでも二時間はかかる建国の物語を子供達まで聞いてくれた。一生懸命手を叩きながら「王様かっこいい!」と声を上げている。
「ねぇ詩人さん。この国の王様は二人いるの?」
「えぇ、そうですよ」
「黒い王様しか私知らないわ」
「私は知ってるよ! 白い王様」
はしゃぐ子供の声に、詩人は柔らかく微笑む。
「白い王様は、少しだけ恥ずかしがり屋なのですよ」
「そうなの?」
「えぇ」
子供達が「可愛い」なんて言うのを聞いて、大人達も笑っている。そして詩人も笑っている。
「最初の歌は間違いなの?」
少し年齢が高そうな少女が問いかける。それに詩人は笑って頷いた。
「最初の歌は傷つき倒れた黒の王と白の王を歌ったものです。そこを乗り切った今、この話の最後はこのような歌で締めくくられるのですよ」
詩人は竪琴を奏でる。これまでの波瀾など思わせぬほど優しく美しく、抱くように。
「国に二王並び立ち
泰平の世は祝福を得る
願わくば末永く
月は夜に抱かれて」
互いを思い側にある、二人の王が欠けぬようにと願った歌は建国の物語の最後を飾る。女性は二人の王の恋物語を自分に置き換えうっとりと憧れ、男性は英雄である王の勇に憧れる。
詩人は真っ直ぐ前をみた。ラインバール。かつての戦場は今、最も栄えた都となった。建国後五年、王城から伸びたこの噴水広場は多くの人で賑わっている。
「このような悲しい戦いを経て、今があります。故に建国の夜は花を捧げ、国の為に散った者達に祈りを捧げるのですよ」
多くの人が倒れた。数多の命が消えていった。この事実は変えられない。だからこそ、忘れてはならない。この日は祝いであり、戒めだ。過去を忘れてはいけないのだという、為政者達への戒めの日だ。
「さぁ、子供達。今一度花を手向けてあげてください。この平和ができるだけ長く続くよう、祈りを込めて。貴方たちが、この平和を維持していくのだと胸に秘めて」
詩人の言葉に促され、子供達は駆けていく。大人達もそれにつられ散っていく。人のいなくなった噴水の縁に腰を落ち着けた詩人の隣に、黒衣の旅人が一人腰を下ろした。
「まったく、姿が見えないと思ったらこんな所にいたのか、ユリエル」
言われ、詩人ユリエルは楽しく笑った。
「懐かしい格好ですね、ルーカス。初めて出会ったあの夜の再現かと思いましたよ」
「俺も同じ事を思った。今日は良い月だ。こんな日は月より使者が舞い降りる」
「そして隣に、夜がある」
かつてタニスと呼ばれた国の王都で、二人の王はこうして出会った。人のいない噴水の縁に腰を下ろした詩人を、夜を纏う旅人が見つけた。
「よい光景ですね」
「あぁ」
子が笑い、大人がつられて笑い、手を取り合って歩いていく。声が溢れるその中を、祈りの炎がパチリと爆ぜる。
決して平坦ではなかった。夢見た先に広がったものは困難の方が多かった。それでも、支えてくれた人々がいる。手を取り合って共に歩んだ人がいる。そうして今、ここにある。
ユリエルは穏やかにジェードの瞳を細めた。その隣でルーカスもまた、穏やかに人々を見ていた。
「行こう。明日は本格的に祝賀の儀式やパレードもある。シリルやレヴィン、ヨハンも明日の朝一にこちらで到着する」
それぞれの仕事や任務を得て、数ヶ月顔を合わせていない人々が明日は一堂に会する。それを心待ちにしている。
立ち上がり、手を取って歩き出すその手をユリエルは見つめて強く思う。
願わくば、この手をずっと離さぬまま、永久にこの日々が続きますように。
END
どれほどかいつまんでも二時間はかかる建国の物語を子供達まで聞いてくれた。一生懸命手を叩きながら「王様かっこいい!」と声を上げている。
「ねぇ詩人さん。この国の王様は二人いるの?」
「えぇ、そうですよ」
「黒い王様しか私知らないわ」
「私は知ってるよ! 白い王様」
はしゃぐ子供の声に、詩人は柔らかく微笑む。
「白い王様は、少しだけ恥ずかしがり屋なのですよ」
「そうなの?」
「えぇ」
子供達が「可愛い」なんて言うのを聞いて、大人達も笑っている。そして詩人も笑っている。
「最初の歌は間違いなの?」
少し年齢が高そうな少女が問いかける。それに詩人は笑って頷いた。
「最初の歌は傷つき倒れた黒の王と白の王を歌ったものです。そこを乗り切った今、この話の最後はこのような歌で締めくくられるのですよ」
詩人は竪琴を奏でる。これまでの波瀾など思わせぬほど優しく美しく、抱くように。
「国に二王並び立ち
泰平の世は祝福を得る
願わくば末永く
月は夜に抱かれて」
互いを思い側にある、二人の王が欠けぬようにと願った歌は建国の物語の最後を飾る。女性は二人の王の恋物語を自分に置き換えうっとりと憧れ、男性は英雄である王の勇に憧れる。
詩人は真っ直ぐ前をみた。ラインバール。かつての戦場は今、最も栄えた都となった。建国後五年、王城から伸びたこの噴水広場は多くの人で賑わっている。
「このような悲しい戦いを経て、今があります。故に建国の夜は花を捧げ、国の為に散った者達に祈りを捧げるのですよ」
多くの人が倒れた。数多の命が消えていった。この事実は変えられない。だからこそ、忘れてはならない。この日は祝いであり、戒めだ。過去を忘れてはいけないのだという、為政者達への戒めの日だ。
「さぁ、子供達。今一度花を手向けてあげてください。この平和ができるだけ長く続くよう、祈りを込めて。貴方たちが、この平和を維持していくのだと胸に秘めて」
詩人の言葉に促され、子供達は駆けていく。大人達もそれにつられ散っていく。人のいなくなった噴水の縁に腰を落ち着けた詩人の隣に、黒衣の旅人が一人腰を下ろした。
「まったく、姿が見えないと思ったらこんな所にいたのか、ユリエル」
言われ、詩人ユリエルは楽しく笑った。
「懐かしい格好ですね、ルーカス。初めて出会ったあの夜の再現かと思いましたよ」
「俺も同じ事を思った。今日は良い月だ。こんな日は月より使者が舞い降りる」
「そして隣に、夜がある」
かつてタニスと呼ばれた国の王都で、二人の王はこうして出会った。人のいない噴水の縁に腰を下ろした詩人を、夜を纏う旅人が見つけた。
「よい光景ですね」
「あぁ」
子が笑い、大人がつられて笑い、手を取り合って歩いていく。声が溢れるその中を、祈りの炎がパチリと爆ぜる。
決して平坦ではなかった。夢見た先に広がったものは困難の方が多かった。それでも、支えてくれた人々がいる。手を取り合って共に歩んだ人がいる。そうして今、ここにある。
ユリエルは穏やかにジェードの瞳を細めた。その隣でルーカスもまた、穏やかに人々を見ていた。
「行こう。明日は本格的に祝賀の儀式やパレードもある。シリルやレヴィン、ヨハンも明日の朝一にこちらで到着する」
それぞれの仕事や任務を得て、数ヶ月顔を合わせていない人々が明日は一堂に会する。それを心待ちにしている。
立ち上がり、手を取って歩き出すその手をユリエルは見つめて強く思う。
願わくば、この手をずっと離さぬまま、永久にこの日々が続きますように。
END
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完結おめでとうございます 💐長編お疲れ様でした
ユリエルがはにかみ、退場する姿が浮かびます
横に素敵な黒の王😃
年末に読み返して、二人の奇跡を味わい直したい😋です
有り難うございます(^▽^)
大変長いので、読者さんも大変だろうと思いますが、ついてきてくれて嬉しいです😆
きっと優雅に一礼して退場するのでしょうね、ユリエルはw
勿論隣にルーカスがいて💕
是非是非、お時間のある時にまた😊
こちらは来年、紙媒体にしてみようかと計画中ですw
それでもこちらは下げないので、どうぞ心ゆくまでご堪能下さればと思います!
読んで頂き、感想まで頂き、有り難うございました<(_ _)>
(/▽\)♪お気に入り100越えおめでとうございます🌹🌹🌹🌹🌹🌹🌹 追い付いてきたら、あれ🎉日々増えてると、😁
二王とは、統制上よく考えられてると、感心した🙄
若い人物が多いですけど、かっけえオバハンとかの描写好きです⁉️
なんだか凛々しいお兄ちゃんばかりか、逞しい女性もちらほらいてなかなか賑やかですね
進むと、普通エロくなるがファンタジー小説なのが、いいと思います❗ストーリーに重きですね✨
もう、二人がこっそり会うのはないでしょうけど、
裏で皆大変だったんだよ、移転できないんだから‼️みたいなおこぼれはないでしょうか?
たくさんの素敵な人たち産まれた長編の😋終幕に立ち会えそうです🤗
いつもマメな更新ありがとうございます😃
有り難うございます!
長いし糖度低めだしでファンタジーBLとしては少し毛色の違う話なので、なかなか難しいと思う作品です。
そのなかでお気に入り100越えは嬉しい限りです😆
そして、もう少しで完結です。
どっちが引いても角が立つ。ならばいっそのこと二人とも王様でw
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まぁ、ダメ元で挑戦していますから、参加して色んな人の目に触れただけでも楽しかったですね😊
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