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4章:国賊の巣
11話:深く暗く
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そこは暗く、重たい陰鬱な場所だった。冷たい床に布団が四組ある。天井が高く、窓もないくせにご丁寧に格子がはめられている。
ここに心はなかった。何かを思ってはいけなかった。それは無駄に苦しみを助長させるだけで、生きていけなくなる。だからまず覚えることは、思考回路を遮断し、感情を捨てる事だった。
「あいつ、帰ってこなかったな」
同室のグランが小さく呟いた。それに反応するのも億劫で蹲る。四組ある布団で眠るのは、今や三人だけになった。
「レヴィン、羽は何枚になったの?」
同室のフェリスが問いかける。虚ろながらも微笑を彼女は浮かべていた。ここにきてまだ表情があるのだから、彼女は精神的に強い。
「六枚」
抑揚のない声で言う。無表情が一番楽だし、感情らしい感情なんてもう捨てた。いや、元々持っていなかったのかもしれない。与えられる前に捨てられてしまった。
「私も、六枚になったの。グランも六枚だから、三人とも大天使だよ」
「そう」
それがどうした。そんなもの、何に誇る事ができる。むしろ忌むべき、悲しむべきことじゃないか。
「だからね」
彼女はなおも話を続ける。今日はよく話す。いつもなら会話らしい会話なんてない。しても辛いだけだ。捨てたはずの感情に、ほんの少し響くから。
「レヴィン、グラン、ここを壊して、一緒に出よう?」
その言葉を、今でも鮮明に覚えている。
◆◇◆
目が覚めたのは薄暗い部屋だった。一瞬、あの日がフラッシュバックする。僅かな頭痛がしてクラクラする。それでも、今が現実だと確信できた。手を握ってくれる温かな手があるから。
「レヴィンさん、大丈夫ですか?」
「シリル……」
心配そうな顔が覗き込んでくる。汚れなど無縁な少年は、反応の薄いレヴィンを心配するように瞳を細め、顔を近づけてくる。
「大丈夫ですか? うなされていたみたいで、直ぐに起こしたんですが」
「あぁ」
大丈夫、とは言い切れなかった。忘れていたものが血の臭いに引きずられて出てきた。途端に罪悪感に押しつぶされる。今こうしているのが不相応に思えてならなかった。
「レヴィンさん?」
「シリル」
起き上がり、戸惑っているシリルの体を抱きしめる。強く、離さないように。
「しばらく、このままで。今だけでいいから、お願い……」
みっともなく震えているだろう。罪の恐ろしさに足元をすくわれそうな予感がした。そんな手で触れる自分が許せなかった。でも、今のレヴィンを引き留めてくれるようで、この体を離すことができなかった。
察してくれたのか、哀れんだのか。シリルも背中に手を回して抱きしめてくれる。許されるなら、ここで全ての罪を泣いて詫びたい。抱える全てを曝け出してしまいたい。でもそれは恐ろしい。嘘をついて側にいることを選んだのだから。全てを知ったら離れて行ってしまうと、確信があったから。
どのくらいそうしていただろう。やっと精神的にも落ち着いたレヴィンはシリルの体を離すことができた。その後は、恥ずかしく笑うしかない。どうにかこの場をやり過ごそうとぼやける思考を回転させて、レヴィンはもう一度ベッドに体を埋めた。
「ごめん、驚いた?」
「あの……はい」
「嫌な夢を見てさ。それで、ちょっと。子供みたいかな?」
自嘲気味に笑い、レヴィンは顔を隠す。片手で目元を隠して、口元だけを見せて。これでどのくらい嘘がつけるだろうか。
「ごめんね、シリル」
「何がですか?」
「怖い思い、したでしょ」
そう言った途端に歪んだシリルの表情がなによりの証拠だ。それでも受け入れてくれるのか、シリルは真っ直ぐに見て首を横に振った。
「そうさせたのは僕です。貴方はああせざるを得なかった。だから、貴方がそんな顔をする必要はないんです」
くしゃりと歪んだ表情は、今にも泣いてしまいそうだった。恐る恐る手を伸ばして、柔らかな髪を撫でる。
謝るのはレヴィンだった。間に合わず、痛々しい傷をつけた。冷静になれずに、凄惨な光景を見せてしまった。それでも受け入れようとしてくれるこの子に、今苦しそうな顔をさせている。
「シリルは悪くないでしょ。手を下したのは俺なんだ。だから、そんな顔しないで」
「言ったじゃないですか、そうさせたのは僕だって。僕に罪がないわけがない。レヴィンさんは、少し自分を虐めすぎです」
「いや、シリル」
「レヴィンさん!」
きつい口調で言葉を遮られた。こんなシリルは初めてかもしれない。目が怒っている。でも与えられたのは、温かく柔らかな抱擁だった。
「もう少し、他人を責めて下さい。僕を叱って。無謀な事をしたんだと。無茶をしたからだと。貴方は優しすぎます」
押し殺した声音のシリルは、ほんの少し震えていた。その体を抱きしめて、レヴィンは深く瞳を閉じた。
「好きな子には、怪我なんてさせたくない。傷ついてほしくない。優しいシリルを、俺は失いたくない。その為なら何だってするんだよ。でも今回、俺はシリルに沢山怪我をさせて、怖い思いもさせた。自分が情けなくて、どうしようもなく腹が立つ」
「違う」
「俺の中ではそうなの」
「僕は、謝りたかったのに」
「ごめんなさいより、怒ってもらいたい。そうじゃないなら、有り難うがいい」
薄らと涙を浮かべる少年の、頼りない瞳が揺れている。レヴィンはその唇に触れた。やんわりと、言葉に乗せられないものを乗せて。シリルもそれに応じて瞳を閉じた。長い睫毛が違う意味で震えている。だからレヴィンは体を押し返した。
「さっ、もう寝なきゃね。忙しくなるでしょ?」
「レヴィンさん」
「シリル、部屋に戻ってお休み。もう危険は無いと思うから」
シリルは何かを言おうとした。けれどそれを飲み込んだように拳を握り、やがて「おやすみなさい」と元気のない声で言って出ていってしまった。
残されたレヴィンは窓の外を見た。綺麗な月が出ている。そして、静かに背後に立った女性へと声をかけた。
「フェリス、俺が眠ってどのくらいだ?」
「一晩。出血が多かったみたいね。ちなみに、腕と足の傷は塞がってると思うわよ」
その物言いに、レヴィンは薄く笑う。そして苦しそうな顔をしてみせた。
「あんたね、無理をするのもいいけれどそれだけ寿命縮めてんの自覚しなさい。このまま無理を続けたら、あんたあの子が王様になる前に墓の下よ」
「その方がいいだろ? 俺はほんの少し夢を見せてもらえればそれでいいしさ。それに、無理だよ。あの子が大変な目にあってるのに、それを無視するなんて」
自分を捨ててもシリルを優先しよう。レヴィンはそう考え、それを実行している。
フェリスは近づいて、窓の外に視線を向けるレヴィンの胸ぐらを掴み上げる。そして頬を強かに打った。小気味良い音がして、レヴィンの頬が赤くなる。それでもフェリスはレヴィンを離しはしなかった。
「バカな事を言うんじゃないの! それがどれだけ残酷な事か、あんた分かってないの? あんたにとってあの子が大切な者であるのと同じように、あの子にとってもあんたは特別になってるのよ。それが何? あんた、はなからあの子を幸せにする気はないっていうの!」
「言うなよ、それを。俺達にどれだけの時間が残ってるっていうんだ。この翼をつけられた時に、俺達の運命は奈落に向かってる。こいつに命を食われてんのに、どうして見えない未来を夢見られる。今の幸せに縋るしかないだろ」
憎らしい過去に唾を吐くように言う。背中にある六枚の羽。それは消えない過去の罪の数。決して許されないものだ。そしてこれは、モルモットの証でもある。
フェリスはいらだたしげにレヴィンをベッドに投げ捨てる。そして背を向けた。その肩が僅かに震えているように思える。でもそれがどうしてか、レヴィンには理解できなかった。
「バカ。たとえどんな事をしても過去は消えない。それでも、過去は消せなくてもね、未来は築けるのよ。あんただけが背負うものじゃないわ。あの子にも、背負わせてあげればいい」
「重すぎるでしょ」
「それでもあの子は嬉しいはずよ。何も知らずに失うより、知って傷つく方を選ぶわ。選ばせてあげなさいよ、せめて」
本当に、そう思ってくれるだろうか。レヴィンはそうは思えなかった。シリルの暗い顔なんて見たくない。真実は残酷で、嘘は優しいのだから。
「もう、いいわ。あんたと話してても気分は晴れないもの。それより、今後の話をしましょう」
フェリスは再びレヴィンを見る。その表情は既に仕事モードだ。それを見て、レヴィンもやっと調子を取り戻すことができた。
「必要なら、あんた達の目的地に先回りするわよ」
「いや、俺達の方はもういい。どうやら離れてシャスタ族の連中もついてきてくれるらしい。フェリスは堂々と、ユリエル陛下に会いに行ってくれないか?」
「ユリエル陛下って……王様?」
ほんの少し嫌な顔をするフェリスに、レヴィンは頷く。そして素早く紙を用意して、手紙を書いて封をした。
「案内状、書いたから。これですんなり通してもらえるよ」
「私、暗殺はもう嫌よ」
「分かってる。ユリエル陛下に必要なのは暗殺じゃなくて、裏で使える情報だ」
フェリスの変装と潜入の能力は三人の仲間の中で一番だった。その力がきっと役に立つだろう。こっちは少し時間がかかりそうだから、動けないあの人は困るだろう。勿論、ルーカス関係でユリエルに危険が迫る事はないだろうと思うが。
「いいわ。なんでも、絶世の美人だって噂だしね」
「確かに綺麗な顔はしてるけど、絶世か?」
「女の噂は嘘つかないのよ」
「確かに、俺が一瞬気圧されるくらいには綺麗で迫力あるけど」
「十分じゃない……」
微苦笑を浮かべて、フェリスは手を振って消えていく。
見送ったレヴィンは、ほんの少し遠くを見てしまう。考える事が多い。考えなければいけない事が多い。考えたくない事が多い。シリルは全てを知りたいと望むだろうか。望まれたら、言えるだろうか……。
レヴィンはそのまま、眠れない夜を過ごす事になった。
ここに心はなかった。何かを思ってはいけなかった。それは無駄に苦しみを助長させるだけで、生きていけなくなる。だからまず覚えることは、思考回路を遮断し、感情を捨てる事だった。
「あいつ、帰ってこなかったな」
同室のグランが小さく呟いた。それに反応するのも億劫で蹲る。四組ある布団で眠るのは、今や三人だけになった。
「レヴィン、羽は何枚になったの?」
同室のフェリスが問いかける。虚ろながらも微笑を彼女は浮かべていた。ここにきてまだ表情があるのだから、彼女は精神的に強い。
「六枚」
抑揚のない声で言う。無表情が一番楽だし、感情らしい感情なんてもう捨てた。いや、元々持っていなかったのかもしれない。与えられる前に捨てられてしまった。
「私も、六枚になったの。グランも六枚だから、三人とも大天使だよ」
「そう」
それがどうした。そんなもの、何に誇る事ができる。むしろ忌むべき、悲しむべきことじゃないか。
「だからね」
彼女はなおも話を続ける。今日はよく話す。いつもなら会話らしい会話なんてない。しても辛いだけだ。捨てたはずの感情に、ほんの少し響くから。
「レヴィン、グラン、ここを壊して、一緒に出よう?」
その言葉を、今でも鮮明に覚えている。
◆◇◆
目が覚めたのは薄暗い部屋だった。一瞬、あの日がフラッシュバックする。僅かな頭痛がしてクラクラする。それでも、今が現実だと確信できた。手を握ってくれる温かな手があるから。
「レヴィンさん、大丈夫ですか?」
「シリル……」
心配そうな顔が覗き込んでくる。汚れなど無縁な少年は、反応の薄いレヴィンを心配するように瞳を細め、顔を近づけてくる。
「大丈夫ですか? うなされていたみたいで、直ぐに起こしたんですが」
「あぁ」
大丈夫、とは言い切れなかった。忘れていたものが血の臭いに引きずられて出てきた。途端に罪悪感に押しつぶされる。今こうしているのが不相応に思えてならなかった。
「レヴィンさん?」
「シリル」
起き上がり、戸惑っているシリルの体を抱きしめる。強く、離さないように。
「しばらく、このままで。今だけでいいから、お願い……」
みっともなく震えているだろう。罪の恐ろしさに足元をすくわれそうな予感がした。そんな手で触れる自分が許せなかった。でも、今のレヴィンを引き留めてくれるようで、この体を離すことができなかった。
察してくれたのか、哀れんだのか。シリルも背中に手を回して抱きしめてくれる。許されるなら、ここで全ての罪を泣いて詫びたい。抱える全てを曝け出してしまいたい。でもそれは恐ろしい。嘘をついて側にいることを選んだのだから。全てを知ったら離れて行ってしまうと、確信があったから。
どのくらいそうしていただろう。やっと精神的にも落ち着いたレヴィンはシリルの体を離すことができた。その後は、恥ずかしく笑うしかない。どうにかこの場をやり過ごそうとぼやける思考を回転させて、レヴィンはもう一度ベッドに体を埋めた。
「ごめん、驚いた?」
「あの……はい」
「嫌な夢を見てさ。それで、ちょっと。子供みたいかな?」
自嘲気味に笑い、レヴィンは顔を隠す。片手で目元を隠して、口元だけを見せて。これでどのくらい嘘がつけるだろうか。
「ごめんね、シリル」
「何がですか?」
「怖い思い、したでしょ」
そう言った途端に歪んだシリルの表情がなによりの証拠だ。それでも受け入れてくれるのか、シリルは真っ直ぐに見て首を横に振った。
「そうさせたのは僕です。貴方はああせざるを得なかった。だから、貴方がそんな顔をする必要はないんです」
くしゃりと歪んだ表情は、今にも泣いてしまいそうだった。恐る恐る手を伸ばして、柔らかな髪を撫でる。
謝るのはレヴィンだった。間に合わず、痛々しい傷をつけた。冷静になれずに、凄惨な光景を見せてしまった。それでも受け入れようとしてくれるこの子に、今苦しそうな顔をさせている。
「シリルは悪くないでしょ。手を下したのは俺なんだ。だから、そんな顔しないで」
「言ったじゃないですか、そうさせたのは僕だって。僕に罪がないわけがない。レヴィンさんは、少し自分を虐めすぎです」
「いや、シリル」
「レヴィンさん!」
きつい口調で言葉を遮られた。こんなシリルは初めてかもしれない。目が怒っている。でも与えられたのは、温かく柔らかな抱擁だった。
「もう少し、他人を責めて下さい。僕を叱って。無謀な事をしたんだと。無茶をしたからだと。貴方は優しすぎます」
押し殺した声音のシリルは、ほんの少し震えていた。その体を抱きしめて、レヴィンは深く瞳を閉じた。
「好きな子には、怪我なんてさせたくない。傷ついてほしくない。優しいシリルを、俺は失いたくない。その為なら何だってするんだよ。でも今回、俺はシリルに沢山怪我をさせて、怖い思いもさせた。自分が情けなくて、どうしようもなく腹が立つ」
「違う」
「俺の中ではそうなの」
「僕は、謝りたかったのに」
「ごめんなさいより、怒ってもらいたい。そうじゃないなら、有り難うがいい」
薄らと涙を浮かべる少年の、頼りない瞳が揺れている。レヴィンはその唇に触れた。やんわりと、言葉に乗せられないものを乗せて。シリルもそれに応じて瞳を閉じた。長い睫毛が違う意味で震えている。だからレヴィンは体を押し返した。
「さっ、もう寝なきゃね。忙しくなるでしょ?」
「レヴィンさん」
「シリル、部屋に戻ってお休み。もう危険は無いと思うから」
シリルは何かを言おうとした。けれどそれを飲み込んだように拳を握り、やがて「おやすみなさい」と元気のない声で言って出ていってしまった。
残されたレヴィンは窓の外を見た。綺麗な月が出ている。そして、静かに背後に立った女性へと声をかけた。
「フェリス、俺が眠ってどのくらいだ?」
「一晩。出血が多かったみたいね。ちなみに、腕と足の傷は塞がってると思うわよ」
その物言いに、レヴィンは薄く笑う。そして苦しそうな顔をしてみせた。
「あんたね、無理をするのもいいけれどそれだけ寿命縮めてんの自覚しなさい。このまま無理を続けたら、あんたあの子が王様になる前に墓の下よ」
「その方がいいだろ? 俺はほんの少し夢を見せてもらえればそれでいいしさ。それに、無理だよ。あの子が大変な目にあってるのに、それを無視するなんて」
自分を捨ててもシリルを優先しよう。レヴィンはそう考え、それを実行している。
フェリスは近づいて、窓の外に視線を向けるレヴィンの胸ぐらを掴み上げる。そして頬を強かに打った。小気味良い音がして、レヴィンの頬が赤くなる。それでもフェリスはレヴィンを離しはしなかった。
「バカな事を言うんじゃないの! それがどれだけ残酷な事か、あんた分かってないの? あんたにとってあの子が大切な者であるのと同じように、あの子にとってもあんたは特別になってるのよ。それが何? あんた、はなからあの子を幸せにする気はないっていうの!」
「言うなよ、それを。俺達にどれだけの時間が残ってるっていうんだ。この翼をつけられた時に、俺達の運命は奈落に向かってる。こいつに命を食われてんのに、どうして見えない未来を夢見られる。今の幸せに縋るしかないだろ」
憎らしい過去に唾を吐くように言う。背中にある六枚の羽。それは消えない過去の罪の数。決して許されないものだ。そしてこれは、モルモットの証でもある。
フェリスはいらだたしげにレヴィンをベッドに投げ捨てる。そして背を向けた。その肩が僅かに震えているように思える。でもそれがどうしてか、レヴィンには理解できなかった。
「バカ。たとえどんな事をしても過去は消えない。それでも、過去は消せなくてもね、未来は築けるのよ。あんただけが背負うものじゃないわ。あの子にも、背負わせてあげればいい」
「重すぎるでしょ」
「それでもあの子は嬉しいはずよ。何も知らずに失うより、知って傷つく方を選ぶわ。選ばせてあげなさいよ、せめて」
本当に、そう思ってくれるだろうか。レヴィンはそうは思えなかった。シリルの暗い顔なんて見たくない。真実は残酷で、嘘は優しいのだから。
「もう、いいわ。あんたと話してても気分は晴れないもの。それより、今後の話をしましょう」
フェリスは再びレヴィンを見る。その表情は既に仕事モードだ。それを見て、レヴィンもやっと調子を取り戻すことができた。
「必要なら、あんた達の目的地に先回りするわよ」
「いや、俺達の方はもういい。どうやら離れてシャスタ族の連中もついてきてくれるらしい。フェリスは堂々と、ユリエル陛下に会いに行ってくれないか?」
「ユリエル陛下って……王様?」
ほんの少し嫌な顔をするフェリスに、レヴィンは頷く。そして素早く紙を用意して、手紙を書いて封をした。
「案内状、書いたから。これですんなり通してもらえるよ」
「私、暗殺はもう嫌よ」
「分かってる。ユリエル陛下に必要なのは暗殺じゃなくて、裏で使える情報だ」
フェリスの変装と潜入の能力は三人の仲間の中で一番だった。その力がきっと役に立つだろう。こっちは少し時間がかかりそうだから、動けないあの人は困るだろう。勿論、ルーカス関係でユリエルに危険が迫る事はないだろうと思うが。
「いいわ。なんでも、絶世の美人だって噂だしね」
「確かに綺麗な顔はしてるけど、絶世か?」
「女の噂は嘘つかないのよ」
「確かに、俺が一瞬気圧されるくらいには綺麗で迫力あるけど」
「十分じゃない……」
微苦笑を浮かべて、フェリスは手を振って消えていく。
見送ったレヴィンは、ほんの少し遠くを見てしまう。考える事が多い。考えなければいけない事が多い。考えたくない事が多い。シリルは全てを知りたいと望むだろうか。望まれたら、言えるだろうか……。
レヴィンはそのまま、眠れない夜を過ごす事になった。
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(他サイトに2021年〜掲載済)
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