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二章
29話 防衛戦①
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時はミナトが防壁の上から飛び降りた時に遡る。
「馬鹿じゃないの……」
襲撃の知らせを聞いたセツが到着したと同時、ミナトは防壁の上から飛び降りた。
その無茶な行動にセツは背筋が寒くなるが、彼女の優秀な狩人としての理性がすぐに冷静さを取り戻させる。
すこしでもミナトの生存確率あげるため、盗賊達に生まれた隙をつくためセツは矢を放つ。
それに続いて防壁の上に集まった狩猟衆達が弓を構えて矢を放っていく。
ミナトが飛び出したことで、敵が足を止めた数十秒間はセツ達が防壁の上に布陣するには十分な時間だった。
防壁の上で防御に当たる人数は盗賊の約半分である。
そもそもの数で負けている上に、盗賊達の全身を覆い隠すほどの巨大な盾に阻まれ、弓矢では有効打を与えることは出来ない。
地の利があるとはいえ形勢は完全に不利だった。
ズンズンと盗賊達は力強く歩みを進める。
盗賊の隊列は一糸乱れることはなく、前進しても盾と盾の間に隙間が開くことはない。
このまま乱戦に持ち込まれるのが数で劣る防衛側にとっての最悪のパターンだ。
なんとか近づかれる前に戦力を削りたいとセツが考えていたその時、ミナトが盾による壁を作る盗賊の一人を押し込んで隊列に穴をあけた。
セツはすかさずそこに弓を射る。
一人いなくなったことで出来た僅かな射線をセツは見事に通し、矢は盗賊のわき腹を貫いた。
盾を構える事で上げられた腕と鎧の隙間に命中した矢は、深々と盗賊に穴をあけ戦闘不能に至らしめた。
これはたまたまだ。
セツは弓の扱いは上手いが、ジークのように人間離れした腕はしていない。
だがセツのはたまたまでも、何十本も矢を射かければどれかは当たるものである。
セツに続いて狩猟衆が一人欠けたことで出来た斜めから見える盗賊の体に一斉に矢を射かけた。
そうするとまた一人盗賊は傷を負って膝をついた。
「……堅い」
これで流れがこちらに傾くかに思えたが、盗賊は冷静に隊列を組みなおして再び鉄壁の構えを取ったのを見て思わずセツが内心を漏らした。
相当な練度だ。
盗賊がこのまま進めば落とし穴や、木の杭が飛び出すブービートラップを仕掛けたエリアに到達する。
襲撃を予告されていたため、それくらいの準備は当然している。
その上、前日は雪が降ったためより深く積もっており、盗賊の機動力を奪いって罠を覆い隠す。
そう簡単には村にたどり着けないはずだった。
一人の盗賊が盾の隙間から腕を突き出すと、突風が噴き出し、雪が舞い散った。
そこにもう一人の盗賊が同調するように腕を突き出すと、今度は炎が噴き出す。
突風により大量の酸素を得た炎は大きな炎の渦となって雪面を溶かし出した。
矢を撃って邪魔しようにも風で狙いが定まらず見ている事しかできない。
また、雪と炎で出来た突風は盗賊達の姿が見えなくなる効果もある。
セツの隣でシオが盗賊の行動にため息を吐いた。
「苦労したんだけどな」
そう言いながらセツの隣に立つシオは苦笑いを浮かべた。
接敵前に削れた戦力はほとんどない。
精々ジークが最初に射抜いた森の奥で倒れているであろう女だけだ。
「ちょっとこれは不味いかもしれませんねぇ」
セリアがその魔法の威力を見て盗賊達の強さに暑さからではない冷や汗を垂らす。
決定打を与えるほどの魔法を使える女はそれほど多くない。
風や水を生み出してぶつけたところでダメージを与えることは難しく、斬った方が早いからだ。
そのため魔法は多くの場合、目くらましに用いられる。
だがあの二人の盗賊はどうだ。
風を生み出す魔法と、炎を生み出す魔法。
どちらも威力、規模、セリアが見てきたどの魔法よりも強力だった。
間違いなく殺傷力を持っている。
そんな魔法の成り行きをなすすべなく防壁の上で見守ったセツ達。
やがて魔法が消えると、そこにはむき出しになった地面と罠があった。
熱で雪は蒸発し、突風でカモフラージュの土や藁は吹き飛ばされている。
それを見た盗賊は、今までの一糸乱れぬ隊列を捨てて突然走り出した。
罠の場所さえわかれば怖いものなどないと言わんばかりの突撃だ。
狩猟衆達がそれに矢を射かけるが、風の魔法使いが再び突風を巻き起こして無力化してしまう。
進軍から突撃へと歩みを変えた盗賊達が防壁にたどり着くのは一瞬だった。
一人が防壁にとりつくと、くるりと後ろを向いて盾を斜めに構える。そこに別の盗賊が大盾を踏みつけて壁の上へと飛び上がる。
身の丈ほどもある盾は、壁を登るための足場となった。
防壁の上に飛び上がった盗賊達は盾を捨て、守りを固める狩猟衆達の方へ落ちながら剣を抜く。
「この罠は見えませんでしたぁ?」
だが、爆音と共に数人の盗賊が元居た地面へと送り返された。
セリアの炸裂魔法である。
彼女の魔法は触れれば爆発する粒子を広範囲にばらまける上、人相手なら一撃で戦闘不能に至らしめる威力を持つ魔法だ。
その威力はトラップを無効化した盗賊達にも決して引けを取ることはない。
今の爆発を起こした主を見つけたのだろう。炸裂魔法を抜けて二人の盗賊がセリアの横に降り立った。
一人は突風によりセリアの炸裂魔法を吹き飛ばし、もう一人は炎を前方に吐き出すことで自分の体に当たる前に炸裂魔法を爆発させる事で突破してきた。
それを見てセリアは剣と盾を構え全身のマナを活性化させる。
「魔法勝負は初めてですねぇ」
セリアにとって自分と同等の破壊力を持った魔法使いと出会うのは初めての事だった。
「馬鹿じゃないの……」
襲撃の知らせを聞いたセツが到着したと同時、ミナトは防壁の上から飛び降りた。
その無茶な行動にセツは背筋が寒くなるが、彼女の優秀な狩人としての理性がすぐに冷静さを取り戻させる。
すこしでもミナトの生存確率あげるため、盗賊達に生まれた隙をつくためセツは矢を放つ。
それに続いて防壁の上に集まった狩猟衆達が弓を構えて矢を放っていく。
ミナトが飛び出したことで、敵が足を止めた数十秒間はセツ達が防壁の上に布陣するには十分な時間だった。
防壁の上で防御に当たる人数は盗賊の約半分である。
そもそもの数で負けている上に、盗賊達の全身を覆い隠すほどの巨大な盾に阻まれ、弓矢では有効打を与えることは出来ない。
地の利があるとはいえ形勢は完全に不利だった。
ズンズンと盗賊達は力強く歩みを進める。
盗賊の隊列は一糸乱れることはなく、前進しても盾と盾の間に隙間が開くことはない。
このまま乱戦に持ち込まれるのが数で劣る防衛側にとっての最悪のパターンだ。
なんとか近づかれる前に戦力を削りたいとセツが考えていたその時、ミナトが盾による壁を作る盗賊の一人を押し込んで隊列に穴をあけた。
セツはすかさずそこに弓を射る。
一人いなくなったことで出来た僅かな射線をセツは見事に通し、矢は盗賊のわき腹を貫いた。
盾を構える事で上げられた腕と鎧の隙間に命中した矢は、深々と盗賊に穴をあけ戦闘不能に至らしめた。
これはたまたまだ。
セツは弓の扱いは上手いが、ジークのように人間離れした腕はしていない。
だがセツのはたまたまでも、何十本も矢を射かければどれかは当たるものである。
セツに続いて狩猟衆が一人欠けたことで出来た斜めから見える盗賊の体に一斉に矢を射かけた。
そうするとまた一人盗賊は傷を負って膝をついた。
「……堅い」
これで流れがこちらに傾くかに思えたが、盗賊は冷静に隊列を組みなおして再び鉄壁の構えを取ったのを見て思わずセツが内心を漏らした。
相当な練度だ。
盗賊がこのまま進めば落とし穴や、木の杭が飛び出すブービートラップを仕掛けたエリアに到達する。
襲撃を予告されていたため、それくらいの準備は当然している。
その上、前日は雪が降ったためより深く積もっており、盗賊の機動力を奪いって罠を覆い隠す。
そう簡単には村にたどり着けないはずだった。
一人の盗賊が盾の隙間から腕を突き出すと、突風が噴き出し、雪が舞い散った。
そこにもう一人の盗賊が同調するように腕を突き出すと、今度は炎が噴き出す。
突風により大量の酸素を得た炎は大きな炎の渦となって雪面を溶かし出した。
矢を撃って邪魔しようにも風で狙いが定まらず見ている事しかできない。
また、雪と炎で出来た突風は盗賊達の姿が見えなくなる効果もある。
セツの隣でシオが盗賊の行動にため息を吐いた。
「苦労したんだけどな」
そう言いながらセツの隣に立つシオは苦笑いを浮かべた。
接敵前に削れた戦力はほとんどない。
精々ジークが最初に射抜いた森の奥で倒れているであろう女だけだ。
「ちょっとこれは不味いかもしれませんねぇ」
セリアがその魔法の威力を見て盗賊達の強さに暑さからではない冷や汗を垂らす。
決定打を与えるほどの魔法を使える女はそれほど多くない。
風や水を生み出してぶつけたところでダメージを与えることは難しく、斬った方が早いからだ。
そのため魔法は多くの場合、目くらましに用いられる。
だがあの二人の盗賊はどうだ。
風を生み出す魔法と、炎を生み出す魔法。
どちらも威力、規模、セリアが見てきたどの魔法よりも強力だった。
間違いなく殺傷力を持っている。
そんな魔法の成り行きをなすすべなく防壁の上で見守ったセツ達。
やがて魔法が消えると、そこにはむき出しになった地面と罠があった。
熱で雪は蒸発し、突風でカモフラージュの土や藁は吹き飛ばされている。
それを見た盗賊は、今までの一糸乱れぬ隊列を捨てて突然走り出した。
罠の場所さえわかれば怖いものなどないと言わんばかりの突撃だ。
狩猟衆達がそれに矢を射かけるが、風の魔法使いが再び突風を巻き起こして無力化してしまう。
進軍から突撃へと歩みを変えた盗賊達が防壁にたどり着くのは一瞬だった。
一人が防壁にとりつくと、くるりと後ろを向いて盾を斜めに構える。そこに別の盗賊が大盾を踏みつけて壁の上へと飛び上がる。
身の丈ほどもある盾は、壁を登るための足場となった。
防壁の上に飛び上がった盗賊達は盾を捨て、守りを固める狩猟衆達の方へ落ちながら剣を抜く。
「この罠は見えませんでしたぁ?」
だが、爆音と共に数人の盗賊が元居た地面へと送り返された。
セリアの炸裂魔法である。
彼女の魔法は触れれば爆発する粒子を広範囲にばらまける上、人相手なら一撃で戦闘不能に至らしめる威力を持つ魔法だ。
その威力はトラップを無効化した盗賊達にも決して引けを取ることはない。
今の爆発を起こした主を見つけたのだろう。炸裂魔法を抜けて二人の盗賊がセリアの横に降り立った。
一人は突風によりセリアの炸裂魔法を吹き飛ばし、もう一人は炎を前方に吐き出すことで自分の体に当たる前に炸裂魔法を爆発させる事で突破してきた。
それを見てセリアは剣と盾を構え全身のマナを活性化させる。
「魔法勝負は初めてですねぇ」
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