男が英雄でなければならない世界 〜男女比1:20の世界に来たけど簡単にはちやほやしてくれません〜

タナん

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二章

16話 男らしさとは

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 危なかった。
 技量では完全に負けていた。
 なんとか腕力の差で勝ちを拾う事ができたが、もしタロウにもう少しの腕力があれば俺の腕は使えなくなっていただろうし、俺の掴みを振り解くことができただろう。
 俺がこの世界にきて半年ほどだが通用してよかった。
 だけど産まれた時からこの厳しい世界で育てられてきた男が、たった半年鍛えた俺に腕力で負けるものなのだろうか?

「俺も男だ潔くフランの事は諦める。ミナト、彼女の事をよろしく頼んだぞ。」
「待って!そんなものをかけて勝負した覚えはないですよ!やる前に求婚は断ったっていいましたよね?!」

 拘束を解かれたタロウが変な事を言い出した。
 たしかタロウの力を示すための決闘だったはずだ。
 彼の目的を達成することはできなかった訳だが、だからといって俺に託されても困る。
 そんな事を話していると俺に求婚してきたタロウの婚約者、フランが近づいてきた。

「タロウやっぱり負けちゃったんだね。」
「フラン……」
「ごめんね。私達婚約してたけどやっぱりなしで!」
「ああ、オレに力が足りなかっただけのことだ。気に病む必要はない。」
「ありがとうねタロウ。」
 
 不味い、俺のせいでタロウの婚約破棄が決まってしまった。
 タロウは潔い答えを返してるが、落胆の色を隠せていない。
 そんな落ち込むなら俺に結婚の責任なんて背負わせないでほしい。
 俺はなんとか二人の婚約破棄を止めなければと思い、声をかけようとしたらフランがくるりとこっちに振り向いた。

「やっぱり強いんだね。私、さっき貴方に振られたばっかりだけど益々興味持っちゃった。」

 タロウの方をチラリと見てみると、目を瞑り我関せずという様子。
 しつこく決闘しろと行ったり落ち込んだりしてるわりに、いらない所で潔さを出さないでほしい。
 とにかくもう一度しっかりと断ろう。

「ごめんなさい。さっきも言いましたが俺には好きな人がいるんです。
 それに戦いはギリギリでした。
 タロウさんは決して弱くありませんし、考え直されては?」
「そうなの?でも戦士になれないようじゃねー。
 職人とか別の仕事でも始めてくれたらいいんだけど……」
「戦士になれない?それってどういうことなんですか?」
「そろそろ家帰って手伝いしないとお母さんに怒られるからもう行くね。結婚の件考えといてね。」

 フランはそう言うと走り去ってしまった。
 なんと言うか…本当に逞しい女性だった。
 それにしても戦士になれないとはどういう事なんだろうか。
 俺とタロウの実力差はそれ程でない様に感じる。
 もしタロウが筋トレをしっかり頑張ればそれだけで俺は負けてしまう自信がある。
 そんなタロウが戦士になれないとしたら、俺も戦士になれるか不安になってくる。

「取り敢えず一旦落ち着いて話しましょうか。」

 さすがにこのまま別るのは後味が悪すぎる。
 事情を聴こうとした提案をタロウは受け入れ、彼の自宅に案内された。

「お兄ちゃんお帰りなさい!」
「おっと!ただいま。」

 10歳くらいだろうか。
 ポニーテールにした黒髪を元気に跳ねさせた女の子がタロウに飛びついてきた。
 タロウは女の子を受け止めるとくるりと回転して抱き上げる。

「カオリ、お客さんだ挨拶しなさい。」

 タロウが優しくカオリと呼ばれた女の子を地面に降ろす。
 カオリは俺のほうに向きなおり、ペコリと頭を下げる。

「お客様いらっしゃいませ、私はカオリと言います。」
「お邪魔します。俺はミナトっていいます。よろしくねカオリちゃん。」
「俺の妹のカオリだ。
 カオリ、お兄ちゃんはこの人と話があるから部屋にいく。」
「わかった!」

 カオリは二パっと笑い元気のいい返事をする。
 カオリの元気な返事にタロウは優しく笑いかけ、待ってなさいとカオリの頭をなでた。
 仲のいい兄妹のようだ。

 俺はタロウについていき奥の部屋に入る。
 部屋にはいるとタロウは帯びていた剣と、被っていた皮の帽子を外して、十字にして建てられている棒に引っ掛ける。
 タロウの髪はカオリと同じように短い黒髪で、目は切れ長でまつげが長い。
 見た目だけでいうなら王子様キャラだろうか?
 歳は俺とそう変わらないように見える。
 黙っていれば女がほっとかなさそうだが……

「フランさん諦めてもいいんですか?俺に決闘を申し込まずにはいられないくらいには好きだったんですよね?」

 とにかくまずは単刀直入に状況を聞こう。
 多分であって間もないがこの男なら気を悪くすることはないはずだ。

「その決闘の結果、俺の弱さが証明されて愛想をつかされただけのことだ。
 俺に勝ったお前なら彼女を安心して任せられる。」

 潔い性格なのはわかったが、もっと詳しいことを言ってほしい。
 多分言い訳は嫌だというタイプなんだろう。

「あの…タロウさん。フランさんが言ってた戦士になれないってどういう……」
「俺は力が弱いからまだ男の武器を扱えないだけで戦士になれないと決まったわけじゃない。」
「力が弱いって…なにか理由があるんですか?
 正直戦ってて俺も気になってたんです。
 これだけの技量がある人が鍛錬してない筈がないですし……」

 俺の渾身の一撃を反らしたタロウの技量は中々のものだと思う。
 あれだけの技量は鍛錬をしないと身につかない。
 そして筋肉は剣を振っていれば嫌でも身につくはずだ。
 彼の腕力はセツ達狩猟衆の女性達より低い気がする。
 
「俺は産まれつき力が弱いんだ。」
「産まれつき……」
「戦士に向いていないと師からいわれている。
 だけど俺は師のような戦士になりたい、諦めるつもりもない。
 だから俺は村の誰よりも鍛錬を積んでいる。
 まあ結果は見てのとおりだがな。」

 そう語るタロウの目は一点も曇りもない強い意志を宿して俺の目を真っ直ぐ見ている。
 自分が戦士になると信じて疑っていない目だ。
 タロウは婚約者であるフランのことも戦いの結果のことも潔さを見せていた。
 だが戦士になるという夢に関しては何処までも泥臭くやってやろうという決意を感じる。

「同じ戦士見習いであるミナトと戦って分かった。
 まだまだ俺の努力が足りていないということが。」
「そんなこと……」

 ないと言おうとしたが、この男にはそれは侮辱でしかないだろう。
 まだ言葉は数えるほどしか数えていないがわかる。
 この男もまた戦士と呼ぶにふさわしい覚悟を持っているのだ。

「ではフランさんの事は諦めるんですか?」
「それは仕方がない事だ。
 むしろなかなか戦士見習いから卒業できない俺を今までよく待っていてくれた。
 他の女はとうの昔に愛想を尽かしてしまって、彼女が最後の一人だったんだぞ。」

 さっき迄の強い意志を秘めた目とは打って変わって寂しそうな表情になる。
 彼はあっさりフランの事を諦めてしまったようだが、恐らく未練があるのだろう。
 他の女に逃げられたとはいえ、ハーレムが当たり前のこの世界において一人の女にこんな表情を見せるなんて、少なからず彼女の事を好きだったんではないのだろうか。
 それを今回の俺との決闘で分かれることになってしまった。
 正直いい気分はしない。

 もし俺が決闘に負け、セツがその相手に目の前で求婚したとしたらどうだろうか?
 悔しさで憤死してしまうかもしれない。
 もし男がこの世界で情けない所を見せればどうなるか?
 その答えが目の前の男が体現している。
 俺も一歩間違えばこの男のようになる未来が待っているのだ。

(なんとかできないのか?)

 俺も一人の女を愛する男だ。
自分で言ってて恥ずかしくなるが、なんとかしてやりたい気持ちが湧いてくる。
 
「強くなればいいんですよ。」
「なに?」

 タロウの顔が目が釣り上がり、苛立ちを見せた。
 当然だろう。そんなこと他人に言われずとも彼は分かっている。

「フランさんが他の男に取られる前に、戦士になって彼女に結婚を申し込むんです。」
「俺はもうその資格はない。
 それにミナトお前は彼女を受け入れるつもりはないと言うつもりか?」

 徐々にタロウの語気が荒くなる。
 俺は求婚をずっと断ってるはずだが、彼の中ではフランと俺が結婚する事は決定事項なのだろう。
 いい方にも悪い方にも思い込みが強い男だ。

「最初からそう言っているでしょう。
 それにタロウさん、何を男らしくない事を言ってるんです?」
「なに?」

 でも俺には関係ない。
 文化の違い?考え方の違い?女が決めること?
 そんなの知らない。理解したくもない。

「好きな女に逃げられたから諦める?何言ってんですか。
 逃げられたならもう一回惚れさせれば良いだけでしょうが。
 知らなかったんですか?戦士は戦いを諦めたら駄目なんですよ?
 相手が敵だろうが女だろうか諦めるなんて許されませんよ。」

 多分俺は滅茶苦茶言ってるんだろう。
 でも俺なら諦めない。
 セツの気持ちを確かめるのが怖い俺が言うのもおかしいかもしれない。
 でも目の前でセツが他の男の元に行こうとしていたら絶対に止める。

「た…たしかに……」

 反論してくるかと思ったが、納得してしまった。
 純粋すぎて、すこし心配だな……。

「俺もこの村にいる間、時間があるときは手伝いますから強くなりましょう。」
「そう…か…そうだな……ミナト、図々しいお願いだが頼む、俺が強くなるのに協力してくれ!」
「もちろんです!」

 俺達はガシッと手を握る。
 今日会ったばっかりの男だが、たしかに今心が通じ合った。
 会ったばかりとはいえ喧嘩して、恋バナしたのだ。
 漫画でもここまですればもう友達だろう。
 そうと決まれば、問題である彼の腕力についてなんとか考えてみよう。

「力が弱いのなんですが、人の血を飲んで見るのはどうでしょうか?」
「なんだと?!」
「俺も実は少し前まで力が弱かったんです。
 でもある時、獣に襲われて命の危機に陥りました。
 その時一緒にいた女の子の怪我した腕が目の前にあって、その怪我から血を飲むと急に力が湧いてきて、それ以来俺の力は今のようになったんです。」

 紅い猩々との死闘、ジークさんが来るまで俺が時間を稼ぐ事ができたのは間違いなく、セツの血を飲んだからだ。
 それまで非力だった俺が一気に腕力が強くなり、奴に傷を与えられるようになった。
 タロウももしかしたら同じ方法で何とかなるかもしれない。

「お前…体はなんともないのか?!」
「?それ以来凄く調子がいいですけど……」
「他人の血を飲むことは禁忌だ。
 人の血を飲むと大地の加護が失われ、大量に飲むと最悪死に至る。」
「死……」

「人の血はマナを狂わせる猛毒だ。」
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