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ユメは異次元の現実(いま)
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「新月くん!新月くん!」
なんだよ。人が気持ちよく寝てたのに起こすなんて。
「大声出してうるさいなぁ...もうご飯なのか?」
「寝ぼけているのにもほどがある。」
寝ぼけてるって。ご飯前に寝て起こされたら夕食出来たと思うのは普通だろ。それともそのまま朝にでもなってしまったのだろうか?
「とにかく起きて!今大変なことになっているんだ新月くん!」
そういえば親なら絶対に下の名前で呼ぶよな?なんで苗字で呼ばれてんだ?
「やっと起きたよ。ゴメンな寝ているところ。緊急事態だから起こさないわけにはいかなくて。」
「なんで委員長がうちにいるの?」
「よく見てみろ。ここは君の家かい?」
ボヤけが消えた目を覚まさせてくれた光景は殺風景な建物の中だった。
「おい。どこだよここ?」
街の中の工場?それとも倉庫か?
「確か俺は家で寝てたはずだが...」
確かに学校から帰ってきてからベッドにダイブした。だからこれは夢なのか?
夢にしては起きている感覚が強い。頬を引っ張っても痛覚しか感じない。
「やっぱり君も家に帰って仮眠してたのか。」
「やっぱりって委員長も?」
「部屋に入った瞬間異様な眠気に襲われてね。夕飯前に少し寝ようと思って、目が覚めたらここにいたってわけ。」
「委員長がそんな不規則な生活をするとは思えんな。」
「僕だけじゃない。ここにいる人全員強い眠気に襲われたらしい。」
「ここにいる人は他にもいるんだ。」
「他ってレベルじゃない。クラス全員だ!」
「まさかここに30人も集まるなんて......」
辺りを見渡すと制服姿の人が数十人いた。
目を擦って不思議そうにどこかを見る人。まだ寝ている人。それを起こそうとする人。
「た、確かにクラスの奴らが集まっている。」
「とりあえず全員起こそう!新月くんも手伝って!」
「わ、分かった!」
俺は目の前で寝ている中田を起こすことにした。
「おい中田。起きろ。」
「ん~?なんで新月がここにいるの~?」
俺と同じ反応をしてやがる。ま、家で寝ていると思っているから当然か。
「とりあえず起きろ。」
「んだよ仕方ねぇな。あれ?なぜクラスのみんながいる?今日修学旅行だっけ?」
「修学旅行だったとしても女子が同じ部屋にいるわけないだろ。」
「だよな。なんなら女子に起こして欲しかったぜ。なんでこんなブサメン男子に...」
「うるせぇ目を覚ませ!」
なんか欲望丸出しの人がいたから軽く頭を叩いてやった。
たいして力も入れてないはずだが、頭をおさえて痛がっている中田を無視して、次の人を起こす。
「行灯さん。行灯さん!起きて!」
「あれ?新月くんではないですか。ということは何か起こりましたか?」
「何か起こったと言えば起こった。起こってないといえば起こってないな。」
「そうですか。起こしてくれてもありがとうございます。」
この調子でどんどん起こしていく。全員起きるまではそう時間はかからなかった。
「1回誰がいるか確認したいので順番に名前を言って下さい!」
「なんでこんなところまで出席取るんだよ?」
「お願いします!」
「ッチ。だりぃな!!」
こんな状況でも不良達は歯向かうのかよ。こいつら災害が起きた時でもお荷物になりそうだな。まぁ既にお荷物だけど。
それに比べてこんな状況でも指揮を執れる委員長はさすがだ。
「よし!いや、良くないか。とりあえずこの中にはクラス全員いることが分かった。」
「ところでここはどこなの?」
三星さんが委員長に聞く。
「それは僕にも分からない。」
「これは誘拐なの?」
誘拐かぁ...寝ている間に知らないところに運ばれたなら一理ある。でも、
「30人も誘拐できるのか?」
「それはないですね。」
「行灯さん?」
「起きている昼間ならいくらでも方法はあります。しかし眠った中学生を運ぶことは大人でも一苦労することです。それを30回もやる意味が考えられません。」
「で、でもグループの犯行の可能性もあるでしょ?しかも強い眠気はきっと睡眠薬を盛られたわ!」
「複数人なら必ず見張りがいます。こんだけ騒ぎになっていれば下っ端が駆けつけるでしょう。ところが駆けつけるところか外に人がいる気配すら知りません。」
「それは鍵掛けて、防音対策してればいい話でしょ?」
「見た感じ壁が薄いので、外に音が漏れるでしょう。それに睡眠薬を盛られた可能性はありません。私は今日給食を食べてから一切飲み食いしてません。睡眠薬を盛られたとしても、飲食後すぐに強い眠気に襲われたわけではありませんので可能性が低いです。」
三星さんのあらゆる可能性を行灯さんが否定している。
でも行灯さんの推測は納得出来る。睡眠薬を盛られたとしても、自分も給食のあとは何も口にしていない。ガスだとしても、変な気体を吸った記憶がない。それに誘拐だとしても、30人集めるメリットが分からない。金目当てならもっと効率のいいやり方があるはずだし、恨み目的でも大人数で集めて復讐する意図が分からないのだ。
しばらく女子2人があーだこーだ言ってると、三星さんがキッと行灯さんを睨み初めてこう言った。
「あの時行灯さんが変なこと言ったからこうなったんじゃないの?」
まだ根に持ってたのか。
「え、なに?行灯さんなんて言ったの。」
「かぐみ教えてよ。」
今まで黙っていた不良組や反クラス組織が聞いてきた。そして三星さんは時折こっちを見ながら下校の時の話をした。
「マジで~!行灯さん最ッ低!!」
「え、なんで...」
「じゃあこれは行灯の仕業かよ!?さっさと何とかしろ!!アニキ達が来ちまうだろーがよ!!!」
「いえ、私は何も知らない...」
「嘘つけや!こんなドッキリシラケるだけだからさっさとやめろ!!」
こいつら行灯さんのせいにしている。普通に考えて1人の女子中学生には出来ないことなのに......
「お前らやめろ。行灯さんを責めても何も始まらないだろ?」
「なんだお前?こんなホラー陰キャの味方すんのかよあぁっ!?」
「いくらホラー好きでもやっていいことと悪いことがある。行灯さんはそれぐらいの常識はあるよ。」
「んだとコラ?誰が常識ないアホだって?」
「そんなこと一言も言ってないだろ。」
「上等だコラァ!!ツラ貸せや!一発ぶちかまさねーと気がすまんわ!表出ろや!!」
「おいやめろよ!ここでケンカしても無駄なだけだ!」
「そうだ中田くんの言う通りだ!1回状況を確認して冷静になろう!」
危うく殴られるところを中田と委員長が止めてくれた。不良も舌打ちして俺から離れていった。
「ありがと中田。流石に殴られるかと思ったときはビビったよ。」
「ほんっとあいつら単細胞だから。こんなところで殴っても意味ねーし。」
「あの新月くん。さっきは私を庇ってくれてありがとうございました。」
「いいよいいよ。行灯さんは悪くないのに人のせいにするのが腹が立っただけだから。」
「あの、行灯さんゴメンなさい。あなたのせいだとわかっていたのに......気が動転してキツく当たってしまったわ。」
「いいえ。私こそ不安を植え付けてしまってごめんなさい。」
「いいの。行灯さんが教えてくれなかったら何も知らずにここに来て、もっと混乱してたと思うから。新月くんもゴメンなさい。怪我はなかった?」
「大丈夫さ。中田と委員長のおかげでな!」
お互いのお礼&謝罪合戦を委員長が優しく見ていた。
「フッ...そっちは解決したみたいだな。では今から手分けして散策しよう!」
委員長が眼鏡をクイッと整えると、クラスのみんなに今からやる指示を出し始めた。
改めて見るとここは不思議な場所だ。
入り口だと思うところには大きなシャッターがある。その横には暗い廊下があってその奥にも進めそうだ。
上を見上げると天井は高く、おそらく3階か4階ぐらいの建物だと推測できる。
そして一番不思議なのが正面にある大きな丸い穴だ。この穴は直径10m近くある丸で、今は蓋で閉められている。
「それでは出口がないか探してみよう!もしこれが誘拐なら犯人がいると思う。行動は自由にするから、なるべく慎重に行くこと!そして何かあったら僕に知らせてくれ!」
なるほど。委員長だから集団行動をこだわるものだと思ったが、効率を優先させたのか。
「なんで俺らも行くんだよ!」
「え?それはクラスのみんなで協力して...」
「別にクラスとか関係なくなーい?あんたらが行けばそれでいいっしょ?」
「でもみんなでやれば早く...」
「いいよ委員長ほっとこ。ギャルの言う通りここはクラスじゃない。歯向かう奴まで気にかける必要はないよ。」
「いや......だけど、」
「さっすが新月くーん!話がわかるぜ。俺たちはゆっくりして、テメーらが見つけたら俺達も付いて行けばいいってわけ。」
「ばっかじゃねーの?なんで協力しないお前らにまで出口を教えなきゃならんだ。自分らで何とかしろ。」
「中田はそうかもしれんが、そこのお人好し委員長様が見捨てるかどうかだよなぁ。」
「...............」
「いいよ委員長。気にしないで行こう。」
「ありがと新月くん。中田くん。」
人の優しさを利用するなんて人間の屑にもほどがある。行灯さんの何かが起きるってことは死亡フラグもあるはずだ。
(なんならこいつらから死んでくれないかな。)
そんなちょっぴり黒い感情を抱くと、反クラス組織の女子が「そういえば」と言って携帯だす。
さすがの反クラス組織も不良達と果報は寝て待て状態と一緒にならなかったか。
「うちらスマホ持ってるからこれで連絡したら良くなーい?」
「それは盲点だったな。」
基本学校では携帯、スマートフォンの持ち込みは禁止だ。だけど毎日持ち物検査するわけじゃないからこっそり持ってきてもバレることはない。
その女子も休み時間トイレでSNSや動画サイトのいいねを常にチェックしているそうだ。いつもそんな必要あるのかと俺は思っていたが、ここでは超ファインプレーだ!
多分スマホをポケットに入れたまま寝たんだろう。制服を触って膨らんだポケットに違和感を覚えてスマホが入っていたことを思い出したのだろう。
スマホがあれば、誰かに電話できるし、地図で居場所を確認できる!
「とりあえずどこに電話しよっか?」
「何かの犯罪に巻き込まれている可能性があるから警察に掛けてくれないかな?」
「おっけーってあれ?ここ圏外だ。」
電話ができませんでした。
「なら地図で場所確認しようよ。」
「さすがかぐみん!冴えてる~ってあれ?」
「どうしたの?」
「もう充電なくなった......」
スマホがただの薄い金属と化した。
「なんでこんな時に限って使い混んでるの!?」
「いやいや!さっきまで半分はあったよ!」
「どんだけ古い機種なん?」
「最新モデルなんですけど!あんたも知ってるだろ!」
反クラス組織内で揉め事が発生しているのを横目で見て、行灯さんに問いかける。
「ここって本当に山奥なのかな?」
「いいえ。その可能性は低いです。なぜならここがさっきまでの時間ならもう冷え込んでいるはずです。」
「確かに寒くない。だからと言って暑くもない。」
「まぁ異世界なら話は変わってきますけどね。」
俺たちは廊下の方に歩くと、階段と小さな部屋が見えてきた。
「先にこの階から見て回った方が良さそうだな。」
「その方が良さそうですね。」
小さな部屋に入ると、そこは食堂になっていた。意外にも奥行きがあって中々広い。
「こっちにはロッカーもあるぞ!」
先に調べてた中田が声をかけた。
「残念ながら食材はないらしい。」
委員長は厨房を調べている。他の人も机やポスターを見ている。
「ねぇ新月くん。この窓開かないの。」
「窓が開かない?」
「開かないってよりは開けれない?鍵がないの。」
三星さんが指す窓は確かに開けれないような一枚窓だ。その窓からは不気味なむらさき色の空が見える。ガラスは特殊なもので、外の風景はよく見えない。
「これ窓割れるか?」
「そんな無茶な。」
中田投手が椅子を思いっきり投げる。
「これでどうだ!」
しかし窓は割れず、椅子は大きな音を立てて転がった。しかもヒビすら入ってない。
「窓から脱出という線はなさそうですね。」
委員長が呟いた時、遠くから何か開く音がした。
「もしかしてシャッターが開いた?」
「まさか。あんな大きいシャッターが円滑に動くわけがない。」
中田と話した瞬間。いきなり強い風が吹いてきた。
(なんで風が......これ風じゃない!吸い込まれる!!)
食堂の入り口から掃除機のような吸引力で俺たちを吸い込もうとしている。
「みんな、何かに捕まるんだ!!」
体が浮くほどの強さだ!
ワンテンポ反応が遅れた俺は何も掴むことが出来なかった。
(ダメだ!吸い込まれる!!)
「新月!俺に捕まれ!」
いち早く反応して柱に捕まっている中田の手を俺は掴む。
「サンキュ中田!死ぬかと思ったぜ!」
「絶対離すなよ!!」
「誰か助けて~!!」
前から三星さんが飛んでくる。それをもう一つの手で捕まえる。
「あ、ありがとう新月くん。」
間一髪だった。他のみんなも何とか柱などに捕まって吸い込まれないようにしている。
「やべ。俺腕が限界だ!」
2人にも引っ張られたらそりゃキツいわ。でも頑張って貰わないと...
「何とか根性で乗り切ろ中田ァァ!!」
「負荷のお前が言うか!?」
しばらくすると風は収まった。
「みんな大丈夫だったか!?」
少し前に隣の部屋に行っていた委員長が様子を見に来たようだ。
「こっちは大丈夫。」
「そうか。あとは広場の人達だ。」
広場には掴むものはない。予め警戒しないとすぐ飛ばされてそう。
「難しいですね。さっき助け声が聴こえてきたので。」
「行灯さんも無事なんですね。」
「とりあえず広場に行ってみよう!」
一度全員合流して広場に向かう!
「君たち大丈夫か!えっ......」
「委員長!あいつらは.........いない?」
確かに不良達が居座っていた場所には誰もいなかった。そして微かに鉄の匂いが漂っていた。
なんだよ。人が気持ちよく寝てたのに起こすなんて。
「大声出してうるさいなぁ...もうご飯なのか?」
「寝ぼけているのにもほどがある。」
寝ぼけてるって。ご飯前に寝て起こされたら夕食出来たと思うのは普通だろ。それともそのまま朝にでもなってしまったのだろうか?
「とにかく起きて!今大変なことになっているんだ新月くん!」
そういえば親なら絶対に下の名前で呼ぶよな?なんで苗字で呼ばれてんだ?
「やっと起きたよ。ゴメンな寝ているところ。緊急事態だから起こさないわけにはいかなくて。」
「なんで委員長がうちにいるの?」
「よく見てみろ。ここは君の家かい?」
ボヤけが消えた目を覚まさせてくれた光景は殺風景な建物の中だった。
「おい。どこだよここ?」
街の中の工場?それとも倉庫か?
「確か俺は家で寝てたはずだが...」
確かに学校から帰ってきてからベッドにダイブした。だからこれは夢なのか?
夢にしては起きている感覚が強い。頬を引っ張っても痛覚しか感じない。
「やっぱり君も家に帰って仮眠してたのか。」
「やっぱりって委員長も?」
「部屋に入った瞬間異様な眠気に襲われてね。夕飯前に少し寝ようと思って、目が覚めたらここにいたってわけ。」
「委員長がそんな不規則な生活をするとは思えんな。」
「僕だけじゃない。ここにいる人全員強い眠気に襲われたらしい。」
「ここにいる人は他にもいるんだ。」
「他ってレベルじゃない。クラス全員だ!」
「まさかここに30人も集まるなんて......」
辺りを見渡すと制服姿の人が数十人いた。
目を擦って不思議そうにどこかを見る人。まだ寝ている人。それを起こそうとする人。
「た、確かにクラスの奴らが集まっている。」
「とりあえず全員起こそう!新月くんも手伝って!」
「わ、分かった!」
俺は目の前で寝ている中田を起こすことにした。
「おい中田。起きろ。」
「ん~?なんで新月がここにいるの~?」
俺と同じ反応をしてやがる。ま、家で寝ていると思っているから当然か。
「とりあえず起きろ。」
「んだよ仕方ねぇな。あれ?なぜクラスのみんながいる?今日修学旅行だっけ?」
「修学旅行だったとしても女子が同じ部屋にいるわけないだろ。」
「だよな。なんなら女子に起こして欲しかったぜ。なんでこんなブサメン男子に...」
「うるせぇ目を覚ませ!」
なんか欲望丸出しの人がいたから軽く頭を叩いてやった。
たいして力も入れてないはずだが、頭をおさえて痛がっている中田を無視して、次の人を起こす。
「行灯さん。行灯さん!起きて!」
「あれ?新月くんではないですか。ということは何か起こりましたか?」
「何か起こったと言えば起こった。起こってないといえば起こってないな。」
「そうですか。起こしてくれてもありがとうございます。」
この調子でどんどん起こしていく。全員起きるまではそう時間はかからなかった。
「1回誰がいるか確認したいので順番に名前を言って下さい!」
「なんでこんなところまで出席取るんだよ?」
「お願いします!」
「ッチ。だりぃな!!」
こんな状況でも不良達は歯向かうのかよ。こいつら災害が起きた時でもお荷物になりそうだな。まぁ既にお荷物だけど。
それに比べてこんな状況でも指揮を執れる委員長はさすがだ。
「よし!いや、良くないか。とりあえずこの中にはクラス全員いることが分かった。」
「ところでここはどこなの?」
三星さんが委員長に聞く。
「それは僕にも分からない。」
「これは誘拐なの?」
誘拐かぁ...寝ている間に知らないところに運ばれたなら一理ある。でも、
「30人も誘拐できるのか?」
「それはないですね。」
「行灯さん?」
「起きている昼間ならいくらでも方法はあります。しかし眠った中学生を運ぶことは大人でも一苦労することです。それを30回もやる意味が考えられません。」
「で、でもグループの犯行の可能性もあるでしょ?しかも強い眠気はきっと睡眠薬を盛られたわ!」
「複数人なら必ず見張りがいます。こんだけ騒ぎになっていれば下っ端が駆けつけるでしょう。ところが駆けつけるところか外に人がいる気配すら知りません。」
「それは鍵掛けて、防音対策してればいい話でしょ?」
「見た感じ壁が薄いので、外に音が漏れるでしょう。それに睡眠薬を盛られた可能性はありません。私は今日給食を食べてから一切飲み食いしてません。睡眠薬を盛られたとしても、飲食後すぐに強い眠気に襲われたわけではありませんので可能性が低いです。」
三星さんのあらゆる可能性を行灯さんが否定している。
でも行灯さんの推測は納得出来る。睡眠薬を盛られたとしても、自分も給食のあとは何も口にしていない。ガスだとしても、変な気体を吸った記憶がない。それに誘拐だとしても、30人集めるメリットが分からない。金目当てならもっと効率のいいやり方があるはずだし、恨み目的でも大人数で集めて復讐する意図が分からないのだ。
しばらく女子2人があーだこーだ言ってると、三星さんがキッと行灯さんを睨み初めてこう言った。
「あの時行灯さんが変なこと言ったからこうなったんじゃないの?」
まだ根に持ってたのか。
「え、なに?行灯さんなんて言ったの。」
「かぐみ教えてよ。」
今まで黙っていた不良組や反クラス組織が聞いてきた。そして三星さんは時折こっちを見ながら下校の時の話をした。
「マジで~!行灯さん最ッ低!!」
「え、なんで...」
「じゃあこれは行灯の仕業かよ!?さっさと何とかしろ!!アニキ達が来ちまうだろーがよ!!!」
「いえ、私は何も知らない...」
「嘘つけや!こんなドッキリシラケるだけだからさっさとやめろ!!」
こいつら行灯さんのせいにしている。普通に考えて1人の女子中学生には出来ないことなのに......
「お前らやめろ。行灯さんを責めても何も始まらないだろ?」
「なんだお前?こんなホラー陰キャの味方すんのかよあぁっ!?」
「いくらホラー好きでもやっていいことと悪いことがある。行灯さんはそれぐらいの常識はあるよ。」
「んだとコラ?誰が常識ないアホだって?」
「そんなこと一言も言ってないだろ。」
「上等だコラァ!!ツラ貸せや!一発ぶちかまさねーと気がすまんわ!表出ろや!!」
「おいやめろよ!ここでケンカしても無駄なだけだ!」
「そうだ中田くんの言う通りだ!1回状況を確認して冷静になろう!」
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「ありがと中田。流石に殴られるかと思ったときはビビったよ。」
「ほんっとあいつら単細胞だから。こんなところで殴っても意味ねーし。」
「あの新月くん。さっきは私を庇ってくれてありがとうございました。」
「いいよいいよ。行灯さんは悪くないのに人のせいにするのが腹が立っただけだから。」
「あの、行灯さんゴメンなさい。あなたのせいだとわかっていたのに......気が動転してキツく当たってしまったわ。」
「いいえ。私こそ不安を植え付けてしまってごめんなさい。」
「いいの。行灯さんが教えてくれなかったら何も知らずにここに来て、もっと混乱してたと思うから。新月くんもゴメンなさい。怪我はなかった?」
「大丈夫さ。中田と委員長のおかげでな!」
お互いのお礼&謝罪合戦を委員長が優しく見ていた。
「フッ...そっちは解決したみたいだな。では今から手分けして散策しよう!」
委員長が眼鏡をクイッと整えると、クラスのみんなに今からやる指示を出し始めた。
改めて見るとここは不思議な場所だ。
入り口だと思うところには大きなシャッターがある。その横には暗い廊下があってその奥にも進めそうだ。
上を見上げると天井は高く、おそらく3階か4階ぐらいの建物だと推測できる。
そして一番不思議なのが正面にある大きな丸い穴だ。この穴は直径10m近くある丸で、今は蓋で閉められている。
「それでは出口がないか探してみよう!もしこれが誘拐なら犯人がいると思う。行動は自由にするから、なるべく慎重に行くこと!そして何かあったら僕に知らせてくれ!」
なるほど。委員長だから集団行動をこだわるものだと思ったが、効率を優先させたのか。
「なんで俺らも行くんだよ!」
「え?それはクラスのみんなで協力して...」
「別にクラスとか関係なくなーい?あんたらが行けばそれでいいっしょ?」
「でもみんなでやれば早く...」
「いいよ委員長ほっとこ。ギャルの言う通りここはクラスじゃない。歯向かう奴まで気にかける必要はないよ。」
「いや......だけど、」
「さっすが新月くーん!話がわかるぜ。俺たちはゆっくりして、テメーらが見つけたら俺達も付いて行けばいいってわけ。」
「ばっかじゃねーの?なんで協力しないお前らにまで出口を教えなきゃならんだ。自分らで何とかしろ。」
「中田はそうかもしれんが、そこのお人好し委員長様が見捨てるかどうかだよなぁ。」
「...............」
「いいよ委員長。気にしないで行こう。」
「ありがと新月くん。中田くん。」
人の優しさを利用するなんて人間の屑にもほどがある。行灯さんの何かが起きるってことは死亡フラグもあるはずだ。
(なんならこいつらから死んでくれないかな。)
そんなちょっぴり黒い感情を抱くと、反クラス組織の女子が「そういえば」と言って携帯だす。
さすがの反クラス組織も不良達と果報は寝て待て状態と一緒にならなかったか。
「うちらスマホ持ってるからこれで連絡したら良くなーい?」
「それは盲点だったな。」
基本学校では携帯、スマートフォンの持ち込みは禁止だ。だけど毎日持ち物検査するわけじゃないからこっそり持ってきてもバレることはない。
その女子も休み時間トイレでSNSや動画サイトのいいねを常にチェックしているそうだ。いつもそんな必要あるのかと俺は思っていたが、ここでは超ファインプレーだ!
多分スマホをポケットに入れたまま寝たんだろう。制服を触って膨らんだポケットに違和感を覚えてスマホが入っていたことを思い出したのだろう。
スマホがあれば、誰かに電話できるし、地図で居場所を確認できる!
「とりあえずどこに電話しよっか?」
「何かの犯罪に巻き込まれている可能性があるから警察に掛けてくれないかな?」
「おっけーってあれ?ここ圏外だ。」
電話ができませんでした。
「なら地図で場所確認しようよ。」
「さすがかぐみん!冴えてる~ってあれ?」
「どうしたの?」
「もう充電なくなった......」
スマホがただの薄い金属と化した。
「なんでこんな時に限って使い混んでるの!?」
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「どんだけ古い機種なん?」
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反クラス組織内で揉め事が発生しているのを横目で見て、行灯さんに問いかける。
「ここって本当に山奥なのかな?」
「いいえ。その可能性は低いです。なぜならここがさっきまでの時間ならもう冷え込んでいるはずです。」
「確かに寒くない。だからと言って暑くもない。」
「まぁ異世界なら話は変わってきますけどね。」
俺たちは廊下の方に歩くと、階段と小さな部屋が見えてきた。
「先にこの階から見て回った方が良さそうだな。」
「その方が良さそうですね。」
小さな部屋に入ると、そこは食堂になっていた。意外にも奥行きがあって中々広い。
「こっちにはロッカーもあるぞ!」
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「残念ながら食材はないらしい。」
委員長は厨房を調べている。他の人も机やポスターを見ている。
「ねぇ新月くん。この窓開かないの。」
「窓が開かない?」
「開かないってよりは開けれない?鍵がないの。」
三星さんが指す窓は確かに開けれないような一枚窓だ。その窓からは不気味なむらさき色の空が見える。ガラスは特殊なもので、外の風景はよく見えない。
「これ窓割れるか?」
「そんな無茶な。」
中田投手が椅子を思いっきり投げる。
「これでどうだ!」
しかし窓は割れず、椅子は大きな音を立てて転がった。しかもヒビすら入ってない。
「窓から脱出という線はなさそうですね。」
委員長が呟いた時、遠くから何か開く音がした。
「もしかしてシャッターが開いた?」
「まさか。あんな大きいシャッターが円滑に動くわけがない。」
中田と話した瞬間。いきなり強い風が吹いてきた。
(なんで風が......これ風じゃない!吸い込まれる!!)
食堂の入り口から掃除機のような吸引力で俺たちを吸い込もうとしている。
「みんな、何かに捕まるんだ!!」
体が浮くほどの強さだ!
ワンテンポ反応が遅れた俺は何も掴むことが出来なかった。
(ダメだ!吸い込まれる!!)
「新月!俺に捕まれ!」
いち早く反応して柱に捕まっている中田の手を俺は掴む。
「サンキュ中田!死ぬかと思ったぜ!」
「絶対離すなよ!!」
「誰か助けて~!!」
前から三星さんが飛んでくる。それをもう一つの手で捕まえる。
「あ、ありがとう新月くん。」
間一髪だった。他のみんなも何とか柱などに捕まって吸い込まれないようにしている。
「やべ。俺腕が限界だ!」
2人にも引っ張られたらそりゃキツいわ。でも頑張って貰わないと...
「何とか根性で乗り切ろ中田ァァ!!」
「負荷のお前が言うか!?」
しばらくすると風は収まった。
「みんな大丈夫だったか!?」
少し前に隣の部屋に行っていた委員長が様子を見に来たようだ。
「こっちは大丈夫。」
「そうか。あとは広場の人達だ。」
広場には掴むものはない。予め警戒しないとすぐ飛ばされてそう。
「難しいですね。さっき助け声が聴こえてきたので。」
「行灯さんも無事なんですね。」
「とりあえず広場に行ってみよう!」
一度全員合流して広場に向かう!
「君たち大丈夫か!えっ......」
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