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 会場が、ざわざわとし始める。

 王のお出ましか。

 「可愛いエレノール」
芝居のように大袈裟に手を広げ語りかける。

 叔父上と顔を見合わせ苦笑する。

 「ご機嫌よう。お義父様」
わたくしも芝居がかって応答する。

 お義父様、意味に気付いたかしら。モーリスくん?
 貴族ならば気付く。気付かねば欠陥品。

 王とわたくしの父は悪友である。父亡き後、わたくしの後見は王がする事となる。
 王は、自分の息子とわたくしの婚姻を望む。
 当然だろう。
 アキテーヌ領を誰もが欲しいと思うのは。
 まだまだ不安定なカペー(王)家。
 国土の1/3をにもなるアキテーヌ領。
 しかし、父を無くし歳若い女が当主となったこと。ポワティエ家も後見が欲しい。
 両家の思惑が一致する。


 遅れて気弱そうな、いい人そうな青年が現れる。
 ルイ王太子である。
 第一王子フィリップが落馬事故により急逝。不幸なことに、教会に入っていた第二王子ルイが、俗世に連れ戻される。兄の代替品として王家へ戻る。
 還俗しても、僧侶の性質は脱ぎ捨てられぬようだ。辛気臭い…
 ちょうどマーガレットの断罪に教会関係者が沢山居たのは、ルイの関係者だから。

 わたくしの本当の婚約者。


「お義父様、わたくしの婚約者は、誰でしょう?」
さあ、小芝居を始めよう。
「もちろん、私の息子。ルイ王太子だ」
ルイに視線をやる。ダメだ。使えない。何の感情も無く、ただそこにある。
 ならば王とわたくしの二人芝居ね。
「偽物が出ましたわ」
「おお。それは怖かったであろう。可哀相に。こちらへおいで」
王に招かれ、叔父上とわたくしが檀上へ上がる。
「皆に今一度、伝える。知っている者も多いが、我が息子ルイ王太子の婚約者は、エレノール ダキテーヌ。結婚式も予定通り来月に行われる。心せよ」

 モーリスは、立っているのがやっとの有様だ。
 発言も許されぬ。
 状況が悪くなる一方。
 土気色の顔、涙の跡、震える膝。

 モーリスの父親は青ざめ床に座ったままだ。
 神に祈る様に手を組む。
 神は罪人を助けない。

 ふん。ざまぁ。
 お前如きが婚約者では無い。
 ポワティエ家へ求婚すら出来るわけがない。
王家が怖い。アキテーヌ領も怖い。他の貴族も怖い。教会も怒る。誰が手伝うものか。
 結納金だって払えまい。
 床入りの後の伝統の贈り物は?
 
 婚約破棄?
 そもそも婚約すら出来るわけないでしょう。フフフフ

 ねえ?
 本気で貴方程度が、わたくしと結婚出来ると思ったの?

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