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第1章 ボーイミーツプリンセス
第5話 異世界武器の脅威
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「いくぞ! “金剛鉄鬼《こんごうてっき》”ゴルガス様の鎖斧をとくと味わえい!!」
ゴルガスは、例の鎖付き斧をぶんぶん頭上で振り回す。そして、ファンローラ目がけて斧を飛ばす。両刃のその斧の重さ、三〇斤(約18kg)。当たれば、当然骨まで砕ける。ましてか細いファンローラなら尚更だ。
ずどんと地響きを立て、ファンローラの元いた足元を斧の刃が抉る。
一般男子の競技用砲丸球の重さは一個約7.2kg、その約二個半分の重さがあると考えれば、この斧刃の威力もわかろう。
しかも、太い腕による怪力でもってすぐに鎖を引き抜き、短く振り回して二撃、三撃と放ってくる。
見るからに使い勝手の悪そうな武器の欠点を、途方もない腕力で補っている。
無論、それだけではない。
“金剛鉄臂”なる武侠の二つ名を名乗るだけあって、手の内で鎖の長さを調整する巧みさも備えているのだ。
中国には、流星鎚、縄鏢という武器がある。縄に重りや刃をつけた得物だ。あるいは日本にも、鎖分銅や鎖鎌がある。
これらは、扱いに十分な鍛錬が必要であるが、それだけに熟達者が使えば変幻自在、蛇のように動き回る恐るべき武器となるのだ。
さすがの“無双烈姫”も、間合いの扱いに慎重にならざるを得ない。
「……ゴルガス、それほどの使い手が、何故野盗の頭目などを」
「知れたこと。王国が滅んでより、力がすべての世の中であろうが!」
ごおんと風を巻き、鎖斧がまた放たれる。
狙いは、すばしっこく跳ね回るファンローラの足元だ。だが、これを待っていた。
短く飛び跳ね、斧の刃を躱す。
そして、着地とともにその刃を両足で蹴った。
鎖斧の刃が、地面にめり込む。そしてその反動で一気に間合いを詰める。
「むう!?」
ゴルガスがその怪力で埋まった斧を引き抜こうと鎖を引くが、そこに一拍の隙ができる。ファンローラはここに狙いを定めていたのだ。
「はああああああああっ!」
空中から、隼《やはぶさ》のごとく舞い降りるファンローラ。
両足で飛び、両足で蹴る。まさに飛鷹《ひよう》さながらの技であった。
だが、なんということか――。
ゴルガスの分厚い胸板に、真正面から受け止められてしまう。
そこには歴然とした質量の差がある。蹴ったときの感触、これが違った。
まるでゴムに包まれた岩を蹴ったかのような感触。
鍛え上げた肉体のうえに、脂肪を重ねるとこのようになる。
巨漢の肥満に打撃は効きずらい、闘争の鉄則があった。
「はっはあっ! そう来るのを待っておったのだ!」
「あっ――!?」
受け止めたファンローラの両足に、ぐるりとすばやく鎖を巻いた。
こうも一瞬で巻き取ったのは、ゴルガスが罠として準備していたからである。
ぶんっとファントーラをくくりつけ、勢いよく鎖を振り回す。なんという怪力か。
ゴルガスの頭上で、ファンローラが風車のように回った。
「そおら、“金剛鉄鬼”の人間風車よぉ!」
一回転、二回転、三回転四回転五回転……為す術もなく、ファンローラは苦悶の表情を浮かべて耐えるしかない。
遠心力で血が頭に向かって逆流し、平行感感覚も失われた。
ファンローラの気が遠くなりかけたとき、勢いよく地面に叩きつけられる。
こうなっては、まともに受け身も取れない。
壮絶にして容赦のない攻撃であった。常人なら、この衝撃で絶命もあり得た。
軽功の応用で衝撃を和らげたが、華奢なファンローラの身体が砕け散っていないのがおかしいほどであった。
「あ……う……」
肺腑から、かすかに息が漏れる。したたたに叩きつけれられた衝撃で、横隔膜も正常に機能しそうにない。か弱い声が漏れるばかりだ。
「ファンローラ!?」
思わず、アマトはその名を叫んだ。
この異世界に転移してきて、まだわずかな時間しか経っていない。
その間に、ゴブリンとオーク、そしてモヒカンを山ほど蹴散らしたファンローラであったが、その彼女が大きなダメージを負わされたのは始めてだ。
ゴルガスが鎖を手繰ると、ずるずるとファンローラが引きずられる。
「さあて、“無双烈姫”の生け捕りだ。どう扱ってくれようか」
仮面の下で、ゴルガスが満足げに笑う。
“神眼魔王”とやらに売りつけると言っていたが、それでだけではすみそうもない。
可憐なその身は、遠慮なしに蹂躙されれるかもしれない。
どう見ても、残虐な扱いを躊躇する要素のない集団なのだ。
「あの」
「ん? なんだ」
「や、やめ……やめろ、ください……」
ガクガク震えながら、アマトは言っていた。
膝もまともに機能しない。立っているのもやっとだ。それくらい怖い。
後半、あまりの恐怖に蚊の鳴くような声になっている。
「……小僧、何か言ったか?」
「あの、その……暴力、よ、よくないと、思います、けど」
「刃を構えておるが、それを本気でいうか?」
ゴルガスの血走った目が、アマトに向く。
思わず、握っていた短剣に目をやった。
怖すぎたから結果的になっただけで、逆らうつもりはまるでないのである。
「い、いや、その……。これは、ですね。あ……?」
震えていたせいで、取り繕った形になってしまう。
逃げていたモヒカンたちが戻ってきて、にやにや笑っている。
弱者が取り乱すさまは、彼らにとっては嬲りものにしていい娯楽だ。
落とした短剣を、慌てて拾おうとする。
「それを拾うということは、わしに刃向かう気があるということだぞ」
「違っ、違います! ……え、えと。べつに、ですね。そういうつもりは……」
「はっきり言えい!!」
「ひいっ――!?」
ゴルガスの怒号に思わず身をすくめ、短剣から手を引っ込める。
肝が潰れるほどの恐怖であった。
ファンローラが勇者様、勇者様と呼んだだけで、アマトはごく普通の一般的な男子高校生である。不良から凄まれるとビビるし、まして相手はそこらにいる不良や犯罪者とは比べ物にならないくらいに乱暴で強い。
だから、アマトがビビって戦えなくても仕方がない、仕方がないのだ。
「ゆ……しゃさま……げて」
ゴルガスは、例の鎖付き斧をぶんぶん頭上で振り回す。そして、ファンローラ目がけて斧を飛ばす。両刃のその斧の重さ、三〇斤(約18kg)。当たれば、当然骨まで砕ける。ましてか細いファンローラなら尚更だ。
ずどんと地響きを立て、ファンローラの元いた足元を斧の刃が抉る。
一般男子の競技用砲丸球の重さは一個約7.2kg、その約二個半分の重さがあると考えれば、この斧刃の威力もわかろう。
しかも、太い腕による怪力でもってすぐに鎖を引き抜き、短く振り回して二撃、三撃と放ってくる。
見るからに使い勝手の悪そうな武器の欠点を、途方もない腕力で補っている。
無論、それだけではない。
“金剛鉄臂”なる武侠の二つ名を名乗るだけあって、手の内で鎖の長さを調整する巧みさも備えているのだ。
中国には、流星鎚、縄鏢という武器がある。縄に重りや刃をつけた得物だ。あるいは日本にも、鎖分銅や鎖鎌がある。
これらは、扱いに十分な鍛錬が必要であるが、それだけに熟達者が使えば変幻自在、蛇のように動き回る恐るべき武器となるのだ。
さすがの“無双烈姫”も、間合いの扱いに慎重にならざるを得ない。
「……ゴルガス、それほどの使い手が、何故野盗の頭目などを」
「知れたこと。王国が滅んでより、力がすべての世の中であろうが!」
ごおんと風を巻き、鎖斧がまた放たれる。
狙いは、すばしっこく跳ね回るファンローラの足元だ。だが、これを待っていた。
短く飛び跳ね、斧の刃を躱す。
そして、着地とともにその刃を両足で蹴った。
鎖斧の刃が、地面にめり込む。そしてその反動で一気に間合いを詰める。
「むう!?」
ゴルガスがその怪力で埋まった斧を引き抜こうと鎖を引くが、そこに一拍の隙ができる。ファンローラはここに狙いを定めていたのだ。
「はああああああああっ!」
空中から、隼《やはぶさ》のごとく舞い降りるファンローラ。
両足で飛び、両足で蹴る。まさに飛鷹《ひよう》さながらの技であった。
だが、なんということか――。
ゴルガスの分厚い胸板に、真正面から受け止められてしまう。
そこには歴然とした質量の差がある。蹴ったときの感触、これが違った。
まるでゴムに包まれた岩を蹴ったかのような感触。
鍛え上げた肉体のうえに、脂肪を重ねるとこのようになる。
巨漢の肥満に打撃は効きずらい、闘争の鉄則があった。
「はっはあっ! そう来るのを待っておったのだ!」
「あっ――!?」
受け止めたファンローラの両足に、ぐるりとすばやく鎖を巻いた。
こうも一瞬で巻き取ったのは、ゴルガスが罠として準備していたからである。
ぶんっとファントーラをくくりつけ、勢いよく鎖を振り回す。なんという怪力か。
ゴルガスの頭上で、ファンローラが風車のように回った。
「そおら、“金剛鉄鬼”の人間風車よぉ!」
一回転、二回転、三回転四回転五回転……為す術もなく、ファンローラは苦悶の表情を浮かべて耐えるしかない。
遠心力で血が頭に向かって逆流し、平行感感覚も失われた。
ファンローラの気が遠くなりかけたとき、勢いよく地面に叩きつけられる。
こうなっては、まともに受け身も取れない。
壮絶にして容赦のない攻撃であった。常人なら、この衝撃で絶命もあり得た。
軽功の応用で衝撃を和らげたが、華奢なファンローラの身体が砕け散っていないのがおかしいほどであった。
「あ……う……」
肺腑から、かすかに息が漏れる。したたたに叩きつけれられた衝撃で、横隔膜も正常に機能しそうにない。か弱い声が漏れるばかりだ。
「ファンローラ!?」
思わず、アマトはその名を叫んだ。
この異世界に転移してきて、まだわずかな時間しか経っていない。
その間に、ゴブリンとオーク、そしてモヒカンを山ほど蹴散らしたファンローラであったが、その彼女が大きなダメージを負わされたのは始めてだ。
ゴルガスが鎖を手繰ると、ずるずるとファンローラが引きずられる。
「さあて、“無双烈姫”の生け捕りだ。どう扱ってくれようか」
仮面の下で、ゴルガスが満足げに笑う。
“神眼魔王”とやらに売りつけると言っていたが、それでだけではすみそうもない。
可憐なその身は、遠慮なしに蹂躙されれるかもしれない。
どう見ても、残虐な扱いを躊躇する要素のない集団なのだ。
「あの」
「ん? なんだ」
「や、やめ……やめろ、ください……」
ガクガク震えながら、アマトは言っていた。
膝もまともに機能しない。立っているのもやっとだ。それくらい怖い。
後半、あまりの恐怖に蚊の鳴くような声になっている。
「……小僧、何か言ったか?」
「あの、その……暴力、よ、よくないと、思います、けど」
「刃を構えておるが、それを本気でいうか?」
ゴルガスの血走った目が、アマトに向く。
思わず、握っていた短剣に目をやった。
怖すぎたから結果的になっただけで、逆らうつもりはまるでないのである。
「い、いや、その……。これは、ですね。あ……?」
震えていたせいで、取り繕った形になってしまう。
逃げていたモヒカンたちが戻ってきて、にやにや笑っている。
弱者が取り乱すさまは、彼らにとっては嬲りものにしていい娯楽だ。
落とした短剣を、慌てて拾おうとする。
「それを拾うということは、わしに刃向かう気があるということだぞ」
「違っ、違います! ……え、えと。べつに、ですね。そういうつもりは……」
「はっきり言えい!!」
「ひいっ――!?」
ゴルガスの怒号に思わず身をすくめ、短剣から手を引っ込める。
肝が潰れるほどの恐怖であった。
ファンローラが勇者様、勇者様と呼んだだけで、アマトはごく普通の一般的な男子高校生である。不良から凄まれるとビビるし、まして相手はそこらにいる不良や犯罪者とは比べ物にならないくらいに乱暴で強い。
だから、アマトがビビって戦えなくても仕方がない、仕方がないのだ。
「ゆ……しゃさま……げて」
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