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第1章 ボーイミーツプリンセス
第3話 異世界ヒャッハー
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「な、何あれ……!?」
「ですから、盗賊団です」
勇者アマトは絶句した。
荒野を突っ切ってやってくるのは、盗賊団にしても想像と違っていた。
「ヒャハアアアアアアッ!!」
わかりやすい雄叫びを上げ、モヒカン頭に刈り上げた男たちが群れをなしている。
肩パットにはスパイクがつき、荷台にターレットつきの機関銃を積載したピックアップトラックを中心に馬やバイク、わけのわからない牛みたいなクリーチャーが数匹並走している。
その訳のわからないクリーチャーは、なんか厳しい車輪つきの玉座を牽引しており、鉄の仮面をかぶった巨漢が鎮座しているのだ。よく見ると、玉座には髑髏とか肋骨のオブジェが飾られている。本物でないことを祈りたい。
「剣と魔法はどこ行ったの、これ……」
思わず、ツッコんだ。
《剣と魔法の異世界》に、ヒャッハーな連中が出現するとは思うまい。
特に、機関銃を搭載したピックアップトラックとか釘バットにトゲ付き肩当て、武装バイクはカテゴリーエラーと言っていい。
普通、アフターホロコースト物に登場する類のものだ。
「勇者様。あの盗賊たち、異世界からの漂着物で武装してます。ちょっとやっかいかもしれません」
「そういうのも流れ着くんだ、ここ……」
アマトが転移したように、ピックアップトラックやバイクも転移してくるのかもしれない。モヒカンもその可能性がある。
「逃げても、追ってきそうです。なので迎え撃ちます」
「マジで!?」
ファンローラは強い。ゴブリンとオークの群れを文字通り蹴散らした。
しかし、あのヒャッハー軍団はそれより倍くらいは多い。
例の鉄の仮面をつけた屈強な男が頭目だろう。立ち上がると二メートル近くあるのは間違いない。上半身は鋲つきの革バンドと獣の毛皮というスタイルだ。
「あ、あれと戦うの? 無理、だよ……」
「大丈夫です、勇者様はわたしがお守りしますから」
また、ファンローラは屈託なく笑った。
やった、かわいい! ……が、あんまり嬉しくはなかった。こんな場面じゃなきゃ喜んだのに。
現状、姫と勇者という称号からするとわりとありえない関係となっている。
それも仕方がない、アマトには戦う術がまったくないのだ。
さっきゴブリンから剥ぎ取った剣を持ってみたものの、ステータスアップしたわけでもなく腕力はそのままだ。スキルもなければ魔法も使えない、たぶん。
せめて勇敢さがあれば最低限勇者と呼べたかもしれないかもしれない。
しかし、それもないので、勇が取れてただの者である。文字通り只者だ。
……で、そうこう言っているうちに盗賊団が周囲を取り囲んだ。
近隣の村でも襲ったのか、首に縄をつけた女性を数珠つなぎにして運んでいるし、バイクはボロボロになった何かを引きずっている。死体だろう、たぶん。
アマトは見た、ファンローラの眉がわずかに釣り上がったのを。
「ほおお! 見てみりゃあなんか可愛いらしいのがふたりいますぜ」
盗賊団の先触れが、アマトとファンローラをみるなり嬉しそうに言う。
略奪品に見えるのだろう。
「あ、あの……。僕、男なんですけど」
「あん? ンなこたぁわかってんだよ! どっちでもいいんだ!」
あ、地雷踏んだ。アマトは思った。
ツッコめればどっちでもいい、そういうアレな連中だと理解した。
モヒカンどもの舐め回すような視線で、だいたいのことを察する。
「下がりなさい、下郎。勇者様に向かって無礼ですよ」
「ああん? 勇者だぁぶべらっ……!?」
――バン! と小気味よい音がした。
顔を近づけて凄んでくるモヒカンを、ファンローラが手の甲で打ち、遮ったのだ。
結構いい威力だったらしく、勢いよくぶっ飛ばされいる。
「……だ、だにひゃがる、このズベタぁって……!?」
頬を押さえて口からダラダラ血を流し、不明瞭な言葉で叫んでいる。
さっきので顎を砕かれたのか、口も開きっぱなしだ。
ファンローラはちらりと冷たい視線だけ送ると、そいつから興味を失った。
吠えるだけの犬畜生を、高貴な身分の者は目に入れないのである。
モヒカンの顎を砕いた手をぶんと振ると、コロンと白い破片が落ちる。
手の甲に、モヒカンの折れた歯が刺さっていたっぽい。
モヒカンより喧嘩慣れしているプリンセスとか、普通ありえない。
仲間の盗賊どもが色めき立つが、ファンローラは動じる様子もなく、下等な生き物を見下すかのような態度を崩していない。
「どけ――」
例の鉄仮面の巨漢が、手下どもを押しのけてやってくる。
相撲取りもかくやという肥満体だが、二の腕の盛り上がりがただ太っているだけではなく、鍛えていることを物語っている。
腕の太さがファンローラの腰よりふた回りはあるので、遠近感が狂う。
「で、でもよ、ゴルガスの親分……」
「――どけ、わしはそう言ったぞ?」
仮面の下から血走った目で睨むと、手下どもは震え上がって道を開ける。
ゴルガスというのが、この仮面の男の名だろう。この盗賊団を束ねる頭目なもの、引き連れた連中の態度でわかった。
携えているのは、両刃の斧だろうか。柄の代わりに、鎖が繋いである。
「あなたが頭目ですか」
「ゴルガスだ。名乗ったのだから、姫さんの氏素性も聞かせい」
「では、ゴルガスとやら、下郎の分際で名乗ってから我が名を問うたこと、最底辺の礼儀だけは弁えているとして許しましょう」
ファンローラは、自分の三~四倍は質量があろうかという大兵肥満の巨漢を前にしても、恐れを覚えた様子はない。
「問われたからには名乗ります。我が名はファンローラ、人呼んで“無双烈姫”――」
ただ、揺るがぬ尊厳と気品をもって、みずからの名とその二つ名を告げる。
その途端、盗賊団に戦慄が走り、ざわめきが上がった。
「“無双烈姫”!? 千からなる軍団を壊滅させたっていう、あの……!?」
「ドラゴンも蹴り殺したっていうぜ……」
「魔法も通用しねえって話だ」
「オリハルコンの剣を片手で捻じ曲げたって聞いたぞ」
「ミノタウロスをステーキにしたとか」
「炊きたてご飯を踏みにじったそうだ」
「お好み焼きをソースなしで平らげたそうだ」
後半、ちょっとおかしくないかとツッコミを入れたくなる。
確かに神をも恐れぬ所業だが。
ピックアップトラックがあるくらいだから、炊きたてご飯やお好み焼きも伝播しているのかもしれない。
アマトもツッコミたくてしょうがない。しょうがないが、相手が相手だけに黙っていた。このモヒカンどもの機嫌を損ねたら、何をされるかわからない。
ツッコミを入れた結果、ヘンなところにツッコまれたりとか勘弁である。
「やはりそうか。こんなところに王族の格好をした姫がおるとなったら、“無双烈姫”くらいだろうと思っていたわ」
一方、このゴルガスという鉄仮面の頭目は動じた様子はない。
よほど自信があるのだろう。
見るからに乱暴そうな盗賊団をその体格と腕力で支配してるようだし、当然といえば当然だろう。
「わたしを“無双烈姫”と知って退く気はない、と?」
「もちろんよ。“神眼魔王”に“無双烈姫”の身柄を献上したとなれば、さぞかし値打ちのある褒美をくれるだろう。いいか、野郎ども、雄叫びを上げろ! 上げねえやつぁぶっ殺す!」
――“神眼魔王”って誰……?
と思うアマトをよそに、一団から「ヒャッハー!!」と雄叫びが上がった。
「ですから、盗賊団です」
勇者アマトは絶句した。
荒野を突っ切ってやってくるのは、盗賊団にしても想像と違っていた。
「ヒャハアアアアアアッ!!」
わかりやすい雄叫びを上げ、モヒカン頭に刈り上げた男たちが群れをなしている。
肩パットにはスパイクがつき、荷台にターレットつきの機関銃を積載したピックアップトラックを中心に馬やバイク、わけのわからない牛みたいなクリーチャーが数匹並走している。
その訳のわからないクリーチャーは、なんか厳しい車輪つきの玉座を牽引しており、鉄の仮面をかぶった巨漢が鎮座しているのだ。よく見ると、玉座には髑髏とか肋骨のオブジェが飾られている。本物でないことを祈りたい。
「剣と魔法はどこ行ったの、これ……」
思わず、ツッコんだ。
《剣と魔法の異世界》に、ヒャッハーな連中が出現するとは思うまい。
特に、機関銃を搭載したピックアップトラックとか釘バットにトゲ付き肩当て、武装バイクはカテゴリーエラーと言っていい。
普通、アフターホロコースト物に登場する類のものだ。
「勇者様。あの盗賊たち、異世界からの漂着物で武装してます。ちょっとやっかいかもしれません」
「そういうのも流れ着くんだ、ここ……」
アマトが転移したように、ピックアップトラックやバイクも転移してくるのかもしれない。モヒカンもその可能性がある。
「逃げても、追ってきそうです。なので迎え撃ちます」
「マジで!?」
ファンローラは強い。ゴブリンとオークの群れを文字通り蹴散らした。
しかし、あのヒャッハー軍団はそれより倍くらいは多い。
例の鉄の仮面をつけた屈強な男が頭目だろう。立ち上がると二メートル近くあるのは間違いない。上半身は鋲つきの革バンドと獣の毛皮というスタイルだ。
「あ、あれと戦うの? 無理、だよ……」
「大丈夫です、勇者様はわたしがお守りしますから」
また、ファンローラは屈託なく笑った。
やった、かわいい! ……が、あんまり嬉しくはなかった。こんな場面じゃなきゃ喜んだのに。
現状、姫と勇者という称号からするとわりとありえない関係となっている。
それも仕方がない、アマトには戦う術がまったくないのだ。
さっきゴブリンから剥ぎ取った剣を持ってみたものの、ステータスアップしたわけでもなく腕力はそのままだ。スキルもなければ魔法も使えない、たぶん。
せめて勇敢さがあれば最低限勇者と呼べたかもしれないかもしれない。
しかし、それもないので、勇が取れてただの者である。文字通り只者だ。
……で、そうこう言っているうちに盗賊団が周囲を取り囲んだ。
近隣の村でも襲ったのか、首に縄をつけた女性を数珠つなぎにして運んでいるし、バイクはボロボロになった何かを引きずっている。死体だろう、たぶん。
アマトは見た、ファンローラの眉がわずかに釣り上がったのを。
「ほおお! 見てみりゃあなんか可愛いらしいのがふたりいますぜ」
盗賊団の先触れが、アマトとファンローラをみるなり嬉しそうに言う。
略奪品に見えるのだろう。
「あ、あの……。僕、男なんですけど」
「あん? ンなこたぁわかってんだよ! どっちでもいいんだ!」
あ、地雷踏んだ。アマトは思った。
ツッコめればどっちでもいい、そういうアレな連中だと理解した。
モヒカンどもの舐め回すような視線で、だいたいのことを察する。
「下がりなさい、下郎。勇者様に向かって無礼ですよ」
「ああん? 勇者だぁぶべらっ……!?」
――バン! と小気味よい音がした。
顔を近づけて凄んでくるモヒカンを、ファンローラが手の甲で打ち、遮ったのだ。
結構いい威力だったらしく、勢いよくぶっ飛ばされいる。
「……だ、だにひゃがる、このズベタぁって……!?」
頬を押さえて口からダラダラ血を流し、不明瞭な言葉で叫んでいる。
さっきので顎を砕かれたのか、口も開きっぱなしだ。
ファンローラはちらりと冷たい視線だけ送ると、そいつから興味を失った。
吠えるだけの犬畜生を、高貴な身分の者は目に入れないのである。
モヒカンの顎を砕いた手をぶんと振ると、コロンと白い破片が落ちる。
手の甲に、モヒカンの折れた歯が刺さっていたっぽい。
モヒカンより喧嘩慣れしているプリンセスとか、普通ありえない。
仲間の盗賊どもが色めき立つが、ファンローラは動じる様子もなく、下等な生き物を見下すかのような態度を崩していない。
「どけ――」
例の鉄仮面の巨漢が、手下どもを押しのけてやってくる。
相撲取りもかくやという肥満体だが、二の腕の盛り上がりがただ太っているだけではなく、鍛えていることを物語っている。
腕の太さがファンローラの腰よりふた回りはあるので、遠近感が狂う。
「で、でもよ、ゴルガスの親分……」
「――どけ、わしはそう言ったぞ?」
仮面の下から血走った目で睨むと、手下どもは震え上がって道を開ける。
ゴルガスというのが、この仮面の男の名だろう。この盗賊団を束ねる頭目なもの、引き連れた連中の態度でわかった。
携えているのは、両刃の斧だろうか。柄の代わりに、鎖が繋いである。
「あなたが頭目ですか」
「ゴルガスだ。名乗ったのだから、姫さんの氏素性も聞かせい」
「では、ゴルガスとやら、下郎の分際で名乗ってから我が名を問うたこと、最底辺の礼儀だけは弁えているとして許しましょう」
ファンローラは、自分の三~四倍は質量があろうかという大兵肥満の巨漢を前にしても、恐れを覚えた様子はない。
「問われたからには名乗ります。我が名はファンローラ、人呼んで“無双烈姫”――」
ただ、揺るがぬ尊厳と気品をもって、みずからの名とその二つ名を告げる。
その途端、盗賊団に戦慄が走り、ざわめきが上がった。
「“無双烈姫”!? 千からなる軍団を壊滅させたっていう、あの……!?」
「ドラゴンも蹴り殺したっていうぜ……」
「魔法も通用しねえって話だ」
「オリハルコンの剣を片手で捻じ曲げたって聞いたぞ」
「ミノタウロスをステーキにしたとか」
「炊きたてご飯を踏みにじったそうだ」
「お好み焼きをソースなしで平らげたそうだ」
後半、ちょっとおかしくないかとツッコミを入れたくなる。
確かに神をも恐れぬ所業だが。
ピックアップトラックがあるくらいだから、炊きたてご飯やお好み焼きも伝播しているのかもしれない。
アマトもツッコミたくてしょうがない。しょうがないが、相手が相手だけに黙っていた。このモヒカンどもの機嫌を損ねたら、何をされるかわからない。
ツッコミを入れた結果、ヘンなところにツッコまれたりとか勘弁である。
「やはりそうか。こんなところに王族の格好をした姫がおるとなったら、“無双烈姫”くらいだろうと思っていたわ」
一方、このゴルガスという鉄仮面の頭目は動じた様子はない。
よほど自信があるのだろう。
見るからに乱暴そうな盗賊団をその体格と腕力で支配してるようだし、当然といえば当然だろう。
「わたしを“無双烈姫”と知って退く気はない、と?」
「もちろんよ。“神眼魔王”に“無双烈姫”の身柄を献上したとなれば、さぞかし値打ちのある褒美をくれるだろう。いいか、野郎ども、雄叫びを上げろ! 上げねえやつぁぶっ殺す!」
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