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第1章 ボーイミーツプリンセス
第2話 異世界よいとこ修羅の国
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「つまり、ここは《剣と魔法の異世界》……?」
「はい、そういうことです、勇者アマト様」
ちょっとアマトの理解が及ばないところである。
ファンローラ姫――。金髪にドレス姿の可愛らしい異世界のプリンセスだ。
とてもではないが、ゴブリンとオークの群れを文字通り蹴散らし、屍山血河を築いたとは思えない。
「ここは、勇者様がいた世界とは別の世界……《剣と魔法の異世界》です」
ファンローラが軽く説明してくれた。
とてもシンプルでわかりやすいのだが、さっそく違和感がある。
アマトは気が弱いが、ツッコミどころにはすぐ気がつく性質である。
「えっとさ。普通は自分のいる世界を“異世界”って言わないよね?」
「あっ、そうですよね」
ファンローラがこくりと頷く。こういう何気ないしぐさはいちいち可愛い。
しかし、である。
おそらく、この子は三秒もあればアマトを絶命させることができるだろう。
あの戦い方を見ていれば、そのくらいには強いのはわかる。
さておき、《剣と魔法の異世界》というのはちょっとおかしい。
いや、アマトにとっては全然おかしくないのだが、ファンローラ……というか、この世界の住人が自身の世界を“異世界”と呼ぶのは変だ。
ファンローラにとっては、この地、自分たちがいる世界こそが「世界」であり、それ以外の世界が「異世界」となるはず。彼女からすると、アマトが召喚される前にいた「世界」こそ、彼女にとって「異世界」でないとおかしい。
自分のいる世界を異世界とは普通言わないし、そう認識することはないはずだ。
異世界とは、文字通り自分たちのいる世界と“異なる世界”のことである。
「《剣と魔法の異世界》って、君たちは自分たちの世界を認識してるの?」
「それについては、神話と伝説があるんです」
「神話と伝説? どんな?」
「わたしたちの先祖は、かつて異なる世界で生きていました。ですから、わたしたちは、この剣と魔法の異世界に転生した者たちの末裔である、ここは仮初めの世界であり、いつか元の世界に戻るのだ……そういう伝説なんでです」
「あっ、そういうこと」
ちょっと納得した。
それなら、元の世界があるから、ファンローラたちにとってここは異世界だ。
「いくつも世界があって、さまざまな者たちの霊が漂流して……この世界で受肉して転生を果たすというのが、わたしたちの世界に伝わる神話と伝承なのです」
「うん、まあ理解したよ。僕、この世界に転生したわけじゃないけど」
アマトの場合は、トラックに撥ねられての異世界転移である。
女神の説明からすると、そのはずだ。
なんか勇者とか言われているが、勇者らしい装備もスキルもまだない。
アマトの姿といえば、いつものパーカ-にジーンズ、スニーカーである。
頼りにできそうなスマホは圏外で、これで無双するのは諦めたほうがよさそうだ。
ちょっとポケットを漁ると、イチゴ味のタブレット菓子が出てきた。
役に立つかわからないが、取り敢えずとっておく。
「……僕、どういう経緯で勇者ってことになってるの?」
「はい、女神様の神殿で託宣を受けたのです。この地、この時間に、別の世界から勇者が召喚されると。ですから、わたし嬉しくて」
「勇者って、やっぱり魔王とか倒せばいいのかな? ……ああ、キミの国って魔王軍とかの侵略にさらされてたりしてない? 内政とか運営で富国強兵するよ!」
「わたしの王国、滅んでるんです。十年前に……」
「あっ、ごめん」
しゅんと悲しげな顔をするファンローラであった。
滅んだ国を再興するという異世界モノのジャンルもあるだろうが、内政チートをするにも国があってこそなのである。
正直、勇者として魔王と直接戦うというのは、なるべく避けたかった。
戦えそうなスキルは、自分にはない。この世界に転生する際、女神にも会ったような記憶があるが、スキルは授けてくれなかった。
転生系のラノベはいろいろあるが、中でもアマトが好きなのな内政や運営で無双するものである。その次が、ゆるふわスローライフだ。
しかし、この《剣と魔法の異世界》では勇者は何をするのか。
底辺からの成り上がり系なのだろうか? それはちょっと勘弁してほしい。
努力展開はいろいろ苦手だ。
「その、僕って勇者なんだよね?」
「そうです! わたしの勇者様です!」
それはもう満開の花が咲いたかのように笑った。
デレデレ路線確定じゃないかと、激しく期待度が上がった。
しかし、これはこれで問題があった、おもにアマトの方に、だ。
「僕、何もできそうにないんですけど」
「大丈夫ですよ?」
「大丈夫って。この世界って、現代地球からやってきた者がパワーアップして十倍強くなるとか……そういう法則ないの?」
「んー、どちらかというと、元から強い人が選ばれて転移するのが多いみたいです」
「あっ、そうなんだ」
現代人はオーラ力に溢れているとか、そういう法則とかあれば楽でいいのだが、この辺は期待できそうもない。
「それで、魔王を倒せばいいのかな?」
「そうです! 一緒に魔王を倒して、奪われた四つの宝珠を取り返してほしいのです」
「宝珠……ああ、そういう設定なんだ! ひょっとして、地水火風あったりする?」
「よくご存知で! さすが勇者様」
「だって、定番だしね」
四大元素の宝珠とは、またベタだ。
これを巡ってなんか争いがあり、ファンローラの国が滅んだんじゃないだろうか?
アマトはそのように推測した。ゲームやラノベでありがちな設定である
「あとさ、転生してきたばかりで――いや転移かな、この場合――僕、装備もないし、いろいろ準備したいんだけど」
「なるほど、そのとおりですね。じゃ、ちょっと待っていてください」
そういうと、ファンローラはさきほど屠ったばかりのゴブリン、オークの死体を漁り、装備をひっぺがした。
「え? ちょ、何してんの?」
「何って、戦利品漁りですよ。勝者の権利です!」
「……えぇぇぇ~」
勇者アマトはドン引きした。
ファンタジーには、駄女神とかいろいろいるが、せめて可愛いプリンセスキャラは、行動も可愛いままでいてほしかった。
死体漁りするプリンセスはわりとありえないし、いくらなんでも初期装備がゴブリンの短剣とか錆びた鎧は嫌だ。返り血や脳漿もこびり付いてるし。
「砂で洗うと意外ときれいになるんですよ」
「そ、そうなんだ」
にっこり微笑んで、姫様はファンタジーミニ知識を教えてくれる。
水で洗うと鉄製の武具は錆びるので、チェインメイルとかの類は熱された砂や油で血脂を落とすのである。
まあ、気持ちいいものではないが、ないよりはましなのかもしれない。
そんなことをしていると、荒野の向こうから地響きと土煙が上がってくる。
「ねえ、姫様。あれは……?」
「盗賊団です。王国が滅亡してから、治安が悪くなって横行してるんです」
「盗賊団!?」
さっそく、バイオレンス展開が続く。
異世界転移してから一時間少々。《剣と魔法の異世界》は修羅の国のようだ。
「はい、そういうことです、勇者アマト様」
ちょっとアマトの理解が及ばないところである。
ファンローラ姫――。金髪にドレス姿の可愛らしい異世界のプリンセスだ。
とてもではないが、ゴブリンとオークの群れを文字通り蹴散らし、屍山血河を築いたとは思えない。
「ここは、勇者様がいた世界とは別の世界……《剣と魔法の異世界》です」
ファンローラが軽く説明してくれた。
とてもシンプルでわかりやすいのだが、さっそく違和感がある。
アマトは気が弱いが、ツッコミどころにはすぐ気がつく性質である。
「えっとさ。普通は自分のいる世界を“異世界”って言わないよね?」
「あっ、そうですよね」
ファンローラがこくりと頷く。こういう何気ないしぐさはいちいち可愛い。
しかし、である。
おそらく、この子は三秒もあればアマトを絶命させることができるだろう。
あの戦い方を見ていれば、そのくらいには強いのはわかる。
さておき、《剣と魔法の異世界》というのはちょっとおかしい。
いや、アマトにとっては全然おかしくないのだが、ファンローラ……というか、この世界の住人が自身の世界を“異世界”と呼ぶのは変だ。
ファンローラにとっては、この地、自分たちがいる世界こそが「世界」であり、それ以外の世界が「異世界」となるはず。彼女からすると、アマトが召喚される前にいた「世界」こそ、彼女にとって「異世界」でないとおかしい。
自分のいる世界を異世界とは普通言わないし、そう認識することはないはずだ。
異世界とは、文字通り自分たちのいる世界と“異なる世界”のことである。
「《剣と魔法の異世界》って、君たちは自分たちの世界を認識してるの?」
「それについては、神話と伝説があるんです」
「神話と伝説? どんな?」
「わたしたちの先祖は、かつて異なる世界で生きていました。ですから、わたしたちは、この剣と魔法の異世界に転生した者たちの末裔である、ここは仮初めの世界であり、いつか元の世界に戻るのだ……そういう伝説なんでです」
「あっ、そういうこと」
ちょっと納得した。
それなら、元の世界があるから、ファンローラたちにとってここは異世界だ。
「いくつも世界があって、さまざまな者たちの霊が漂流して……この世界で受肉して転生を果たすというのが、わたしたちの世界に伝わる神話と伝承なのです」
「うん、まあ理解したよ。僕、この世界に転生したわけじゃないけど」
アマトの場合は、トラックに撥ねられての異世界転移である。
女神の説明からすると、そのはずだ。
なんか勇者とか言われているが、勇者らしい装備もスキルもまだない。
アマトの姿といえば、いつものパーカ-にジーンズ、スニーカーである。
頼りにできそうなスマホは圏外で、これで無双するのは諦めたほうがよさそうだ。
ちょっとポケットを漁ると、イチゴ味のタブレット菓子が出てきた。
役に立つかわからないが、取り敢えずとっておく。
「……僕、どういう経緯で勇者ってことになってるの?」
「はい、女神様の神殿で託宣を受けたのです。この地、この時間に、別の世界から勇者が召喚されると。ですから、わたし嬉しくて」
「勇者って、やっぱり魔王とか倒せばいいのかな? ……ああ、キミの国って魔王軍とかの侵略にさらされてたりしてない? 内政とか運営で富国強兵するよ!」
「わたしの王国、滅んでるんです。十年前に……」
「あっ、ごめん」
しゅんと悲しげな顔をするファンローラであった。
滅んだ国を再興するという異世界モノのジャンルもあるだろうが、内政チートをするにも国があってこそなのである。
正直、勇者として魔王と直接戦うというのは、なるべく避けたかった。
戦えそうなスキルは、自分にはない。この世界に転生する際、女神にも会ったような記憶があるが、スキルは授けてくれなかった。
転生系のラノベはいろいろあるが、中でもアマトが好きなのな内政や運営で無双するものである。その次が、ゆるふわスローライフだ。
しかし、この《剣と魔法の異世界》では勇者は何をするのか。
底辺からの成り上がり系なのだろうか? それはちょっと勘弁してほしい。
努力展開はいろいろ苦手だ。
「その、僕って勇者なんだよね?」
「そうです! わたしの勇者様です!」
それはもう満開の花が咲いたかのように笑った。
デレデレ路線確定じゃないかと、激しく期待度が上がった。
しかし、これはこれで問題があった、おもにアマトの方に、だ。
「僕、何もできそうにないんですけど」
「大丈夫ですよ?」
「大丈夫って。この世界って、現代地球からやってきた者がパワーアップして十倍強くなるとか……そういう法則ないの?」
「んー、どちらかというと、元から強い人が選ばれて転移するのが多いみたいです」
「あっ、そうなんだ」
現代人はオーラ力に溢れているとか、そういう法則とかあれば楽でいいのだが、この辺は期待できそうもない。
「それで、魔王を倒せばいいのかな?」
「そうです! 一緒に魔王を倒して、奪われた四つの宝珠を取り返してほしいのです」
「宝珠……ああ、そういう設定なんだ! ひょっとして、地水火風あったりする?」
「よくご存知で! さすが勇者様」
「だって、定番だしね」
四大元素の宝珠とは、またベタだ。
これを巡ってなんか争いがあり、ファンローラの国が滅んだんじゃないだろうか?
アマトはそのように推測した。ゲームやラノベでありがちな設定である
「あとさ、転生してきたばかりで――いや転移かな、この場合――僕、装備もないし、いろいろ準備したいんだけど」
「なるほど、そのとおりですね。じゃ、ちょっと待っていてください」
そういうと、ファンローラはさきほど屠ったばかりのゴブリン、オークの死体を漁り、装備をひっぺがした。
「え? ちょ、何してんの?」
「何って、戦利品漁りですよ。勝者の権利です!」
「……えぇぇぇ~」
勇者アマトはドン引きした。
ファンタジーには、駄女神とかいろいろいるが、せめて可愛いプリンセスキャラは、行動も可愛いままでいてほしかった。
死体漁りするプリンセスはわりとありえないし、いくらなんでも初期装備がゴブリンの短剣とか錆びた鎧は嫌だ。返り血や脳漿もこびり付いてるし。
「砂で洗うと意外ときれいになるんですよ」
「そ、そうなんだ」
にっこり微笑んで、姫様はファンタジーミニ知識を教えてくれる。
水で洗うと鉄製の武具は錆びるので、チェインメイルとかの類は熱された砂や油で血脂を落とすのである。
まあ、気持ちいいものではないが、ないよりはましなのかもしれない。
そんなことをしていると、荒野の向こうから地響きと土煙が上がってくる。
「ねえ、姫様。あれは……?」
「盗賊団です。王国が滅亡してから、治安が悪くなって横行してるんです」
「盗賊団!?」
さっそく、バイオレンス展開が続く。
異世界転移してから一時間少々。《剣と魔法の異世界》は修羅の国のようだ。
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