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破滅する侯爵家
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教会という言葉を聞いた途端、侯爵は顔を蒼褪めさせ、ブルブル震えて答えることが出来ないようだった
「アメリという娘はナタリーは年が離れているようには見えないな」
「同い年ですわ」
『この流れでどうしてそんなに能天気なのよ……』
「つまり不義の子というわけか」
「酷い!王子様だからって言っていいことと悪いことがあるわ!」
あっけらかんと答えた少女が、勝手に傷ついて勝手に泣いている。己の不利にまだ気づかないようだ。美しい顔立ちをしているとは思うが、頭の中は空洞なのだろうか。
「侯爵。我が国が信仰するカエルム教は一夫一妻が望ましいとされているのを知っているか?」
「……」
「カエルム教は離婚も姦通も認めていない。配偶者の死後に再婚は認められているが、実子と同い年の不義の子がいるのだから、そなたは恐らくは姦通罪に問われることになるだろう」
「……」
「名門侯爵家の名を汚したばかりか、私に不義の子を娶せて教会から破門されるように仕向けるつもりだったか?」
教義に反すれば破門される。それは王族であっても変わらない。
教会に破門されれば、全ての権利が失われる。冠婚葬祭に限らず、仕事も住む場所さえ奪われてしまうのだ。王族が破門されたなら、諸侯は王家への従属を拒み、反旗を翻す恐れさえ生まれる。そして教会は嬉々として目障りな王族よりも自分達の都合の良い者に頭を挿げ替えようとするだろう。
侯爵の行動は、ルリジオン王家を破滅させる内乱罪に他ならない。
「愛人の娘を溺愛するあまり、目が曇ってしまったようだな」
尤も、正妻の娘と同じ年に愛人にも子供を産ませるような愚か者は目が曇っているというよりも、そもそも役に立たない目なのかもしれないが。
『ボンクラ王子かと思ったけど、意外とやるじゃない』
すっかり存在を忘れていたが、この場には自称聖女もいたことを思い出す。げんなりしそうになるのを抑えながら、指示を出す。
「この件について、国王陛下に報告させてもらう。しかるべき処分が下るだろうが、馬鹿な真似は慎むように」
恐らく家自体は取り潰しにはならないだろう。侯爵家が取り潰しになれば大事になる。大事になれば侯爵の姦通罪も公にせざるを得なくなる。そうなれば強制的にカエルム教会からの介入を余儀なくされる。それは王国側も不本意だ。隠居という形で表舞台から退場させられるのだろう。
「私は侯爵令嬢よ!!お姉様よりも美しくて、この国の王妃に相応しいのは私よ!!」
彼女は確かに侯爵の血を引いているのかもしれない。だが、カエルム教の教義だけでなく王国法においても、ナタリーよりもアメリが相応しい理由など無い。アメリは両親の間違った教育によって歪んでしまったのだろう。
女達は騒ぎ立てたが、自室で謹慎させるようにと言いつけた。
「それよりナタリーはどこだ!」
改めてナタリーを呼び出すと、侯爵達に部屋に閉じ込められていたナタリーが連れて来られた。
「テオフィル殿下!?」
まさか私が訪問するとは思わなかったナタリーは酷く驚いた様子だった。だが、私もまた彼女の腫れた頬を見て動揺を隠すことは出来なかった。
「その頬は……誰か、冷やすものを!!」
「殿下の御心を煩わせて申し訳ございません。ですが、私は大丈夫ですので……」
心底申し訳なさそうに言う姿に私は居た堪れなくなった。
「ナタリー。私のせいで侯爵から叱責されたのだろう。すまなかった」
「で、殿下?」
「その上、私は噂に踊らされて君自身のことを見ようともしなかった。仮に君が噂通りの悪女だったとしても、更生するように支えていくのが私の役目だったというのに。本当に申し訳ない」
私が頭を下げるとナタリーは酷く恐縮して慌てている。
『プライドの塊みたいな男に頭を下げられるなんてイイ迷惑よね』
隣で何か言っている者がいるが無視だ、無視。
「許す、というのは烏滸がましいことでしょうが、殿下の御心が晴れるのであれば、私は殿下を許します」
「ナタリー……」
「さぁ、殿下。御顔を上げてください」
顔を上げれば、ナタリーの顔がよく見えた。涼やかな顔立ちだが、優し気に微笑んでくれている。私はこれまでずっとナタリーの顔をちゃんと見たことがなかったのだと今更気づかされた。
「そ、そんなまじまじと御覧にならないでくださいませ」
「あ、いや、そんなつもりでは……」
頬の傷を恥ずかし気に隠そうとするナタリーは愛らしかった。
「アメリという娘はナタリーは年が離れているようには見えないな」
「同い年ですわ」
『この流れでどうしてそんなに能天気なのよ……』
「つまり不義の子というわけか」
「酷い!王子様だからって言っていいことと悪いことがあるわ!」
あっけらかんと答えた少女が、勝手に傷ついて勝手に泣いている。己の不利にまだ気づかないようだ。美しい顔立ちをしているとは思うが、頭の中は空洞なのだろうか。
「侯爵。我が国が信仰するカエルム教は一夫一妻が望ましいとされているのを知っているか?」
「……」
「カエルム教は離婚も姦通も認めていない。配偶者の死後に再婚は認められているが、実子と同い年の不義の子がいるのだから、そなたは恐らくは姦通罪に問われることになるだろう」
「……」
「名門侯爵家の名を汚したばかりか、私に不義の子を娶せて教会から破門されるように仕向けるつもりだったか?」
教義に反すれば破門される。それは王族であっても変わらない。
教会に破門されれば、全ての権利が失われる。冠婚葬祭に限らず、仕事も住む場所さえ奪われてしまうのだ。王族が破門されたなら、諸侯は王家への従属を拒み、反旗を翻す恐れさえ生まれる。そして教会は嬉々として目障りな王族よりも自分達の都合の良い者に頭を挿げ替えようとするだろう。
侯爵の行動は、ルリジオン王家を破滅させる内乱罪に他ならない。
「愛人の娘を溺愛するあまり、目が曇ってしまったようだな」
尤も、正妻の娘と同じ年に愛人にも子供を産ませるような愚か者は目が曇っているというよりも、そもそも役に立たない目なのかもしれないが。
『ボンクラ王子かと思ったけど、意外とやるじゃない』
すっかり存在を忘れていたが、この場には自称聖女もいたことを思い出す。げんなりしそうになるのを抑えながら、指示を出す。
「この件について、国王陛下に報告させてもらう。しかるべき処分が下るだろうが、馬鹿な真似は慎むように」
恐らく家自体は取り潰しにはならないだろう。侯爵家が取り潰しになれば大事になる。大事になれば侯爵の姦通罪も公にせざるを得なくなる。そうなれば強制的にカエルム教会からの介入を余儀なくされる。それは王国側も不本意だ。隠居という形で表舞台から退場させられるのだろう。
「私は侯爵令嬢よ!!お姉様よりも美しくて、この国の王妃に相応しいのは私よ!!」
彼女は確かに侯爵の血を引いているのかもしれない。だが、カエルム教の教義だけでなく王国法においても、ナタリーよりもアメリが相応しい理由など無い。アメリは両親の間違った教育によって歪んでしまったのだろう。
女達は騒ぎ立てたが、自室で謹慎させるようにと言いつけた。
「それよりナタリーはどこだ!」
改めてナタリーを呼び出すと、侯爵達に部屋に閉じ込められていたナタリーが連れて来られた。
「テオフィル殿下!?」
まさか私が訪問するとは思わなかったナタリーは酷く驚いた様子だった。だが、私もまた彼女の腫れた頬を見て動揺を隠すことは出来なかった。
「その頬は……誰か、冷やすものを!!」
「殿下の御心を煩わせて申し訳ございません。ですが、私は大丈夫ですので……」
心底申し訳なさそうに言う姿に私は居た堪れなくなった。
「ナタリー。私のせいで侯爵から叱責されたのだろう。すまなかった」
「で、殿下?」
「その上、私は噂に踊らされて君自身のことを見ようともしなかった。仮に君が噂通りの悪女だったとしても、更生するように支えていくのが私の役目だったというのに。本当に申し訳ない」
私が頭を下げるとナタリーは酷く恐縮して慌てている。
『プライドの塊みたいな男に頭を下げられるなんてイイ迷惑よね』
隣で何か言っている者がいるが無視だ、無視。
「許す、というのは烏滸がましいことでしょうが、殿下の御心が晴れるのであれば、私は殿下を許します」
「ナタリー……」
「さぁ、殿下。御顔を上げてください」
顔を上げれば、ナタリーの顔がよく見えた。涼やかな顔立ちだが、優し気に微笑んでくれている。私はこれまでずっとナタリーの顔をちゃんと見たことがなかったのだと今更気づかされた。
「そ、そんなまじまじと御覧にならないでくださいませ」
「あ、いや、そんなつもりでは……」
頬の傷を恥ずかし気に隠そうとするナタリーは愛らしかった。
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