14 / 35
運命の急変
しおりを挟む
スズと別れた後、アイヴァンは広間に戻って来た。
アイヴァンが広間に足を踏み入れると、周囲の貴族たちの視線が一斉に彼に向けられる。異様な雰囲気を感じ取ったものの、誰も近寄って来るようなことはない。遠巻きにしながら何かを囁き合っている。
「ソーンヒル伯爵令息が……」
「……王女殿下と婚約……」
囁き声の一部を耳にしたアイヴァンの心が一瞬で凍り付いた。その場を慌てて駆け抜け、急いで貴賓席へと向かう。リンレイ王女は既に退席したらしく、貴賓席には国王夫妻とサディアス王子だけが残っていた。そして父であるソーンヒル伯爵の姿もあった。
「おぉ、アイヴァン。ちょうど今、そなたを呼びに行かせようと思っていたところだ」
国王がアイヴァンに気づき、微笑みかける。周囲の視線がますます集中しているのを感じながらも、アイヴァンは国王の言葉を待った。
「先程、そなたの縁談が決まった」
アイヴァンは驚きのあまり言葉を失い、ただ国王を見つめた。
「お相手は鬼燈国のリンレイ王女殿下だ。これはヴェリアスタと鬼燈国の友好を更に深めるものとなる。そなたにとっても大きな栄誉となるだろう」
サディアス王子も満足げに微笑みを浮かべて続ける。
「アイヴァン、君の努力がこうして身を結んだのだ。王女殿下も君の働きを高く評価しておられる。これからもその忠誠心を持って、新たな使命に臨んでくれ」
王子の言葉の意味が理解できず、戸惑いながらも深く頭を下げた。そしてアイヴァンが返事をする前に、ソーンヒル伯爵が一歩前に出て、代わりに答えた。
「ありがとうございます。この上ない栄誉を賜り、感謝申し上げます。アイヴァンもご期待に応えることでしょう」
伯爵の言葉に王族たちはにこやかな笑みを浮かべて頷いた。
それから、いつの間にか貴賓席どころか広間からも出されていた。気づけば廊下に立っていた。あまりにも突然のことに理解が追いつかないまま、醜態を晒す前に父に追い出されたのだろう。
アイヴァンは茫然と立ち尽くし、動けずにいた。自分の運命が大きく変わってしまったことを理解しながらも、心は追いつかない。スズが鬼燈国に帰国すれば彼女を忘れ、ヴェリアスタの貴族として生きる覚悟を決めた矢先のことで混乱していた。
その時、廊下の向こうからエセルの姿が見えた。エセルが怒りと困惑を抱えてこちらに向かって歩いてくる。どうして彼女が目の前にいるか分からないが、その顔には怒りと困惑が入り混じっていた。
「さっきのアレは一体どういうことよ!!何で貴方が他国の王女の婿なんかになるのよ!!」
エセルはアイヴァンに詰め寄り、怒りをぶつけた。けれど、今のアイヴァンに同じ熱量で返せるほどの気力はなかった。
「私たちの婚約はどうなるの!?」
「恐らくは婚約解消、いや白紙になるのではないでしょうか……」
「白紙!?私たち、五年も婚約しているのよ!!」
エセルの叫びに、アイヴァンは淡々と答える。
「貴女の望み通りではありませんか」
その婚約期間中、エセルはアイヴァンを嫌い抜いてきた。婚約などしたくなかったと罵ったことなど数え切れない。悪評をばらまき、アイヴァンを貶めてきたのである。婚約が白紙になることを喜ばれることはあっても、アイヴァンには不満を言われる筋合いなどなかった。
エセルはアイヴァンの冷静な返答に一瞬言葉を詰まらせたが、すぐに反撃するように言い返した。
「そんなこと、私は一度も本気で言ったことはないわ!どうして分からないの!?」
アイヴァンは驚きのあまり目を見開いた。エセルの激しい感情が伝わってきたが、その意味を理解することはできなかった。
「貴方との婚約が白紙だなんて、貴方が他国に行くなんて……そんなの、私はッ!!」
言葉を続けようとするエセルの声は震えていた。
「ここで何をしている?」
そこへ突然、サディアス王子が二人の間に割り込んできた。
その冷たい声にエセルは驚き、アイヴァンは瞬時に背筋が凍り付いた。王子の目には冷酷な光が宿っている。
「エセル嬢、大丈夫ですか?」
「殿下……」
サディアス王子はエセルに微笑みながら問いかける。けれど、彼女は王子の態度の急変に戸惑っているようだった。王子はエセルの肩に軽く手を置き、安心させるように語りかける。
「エセル嬢、このアイヴァンとの件は私に任せてください。貴女にはもっと相応しい未来を御用意します」
予想もしない言葉にエセルは再び驚き、アイヴァンを見つめた。
「アイヴァン、来い」
王子は有無を言わさぬ様子で歩き始めた。アイヴァンは一瞬躊躇ったが、王子の命令には逆らえず、エセルを残してその場を離れた。サディアス王子の後ろを歩きながら、アイヴァンの心中は複雑な思いで渦巻いていた。
アイヴァンが広間に足を踏み入れると、周囲の貴族たちの視線が一斉に彼に向けられる。異様な雰囲気を感じ取ったものの、誰も近寄って来るようなことはない。遠巻きにしながら何かを囁き合っている。
「ソーンヒル伯爵令息が……」
「……王女殿下と婚約……」
囁き声の一部を耳にしたアイヴァンの心が一瞬で凍り付いた。その場を慌てて駆け抜け、急いで貴賓席へと向かう。リンレイ王女は既に退席したらしく、貴賓席には国王夫妻とサディアス王子だけが残っていた。そして父であるソーンヒル伯爵の姿もあった。
「おぉ、アイヴァン。ちょうど今、そなたを呼びに行かせようと思っていたところだ」
国王がアイヴァンに気づき、微笑みかける。周囲の視線がますます集中しているのを感じながらも、アイヴァンは国王の言葉を待った。
「先程、そなたの縁談が決まった」
アイヴァンは驚きのあまり言葉を失い、ただ国王を見つめた。
「お相手は鬼燈国のリンレイ王女殿下だ。これはヴェリアスタと鬼燈国の友好を更に深めるものとなる。そなたにとっても大きな栄誉となるだろう」
サディアス王子も満足げに微笑みを浮かべて続ける。
「アイヴァン、君の努力がこうして身を結んだのだ。王女殿下も君の働きを高く評価しておられる。これからもその忠誠心を持って、新たな使命に臨んでくれ」
王子の言葉の意味が理解できず、戸惑いながらも深く頭を下げた。そしてアイヴァンが返事をする前に、ソーンヒル伯爵が一歩前に出て、代わりに答えた。
「ありがとうございます。この上ない栄誉を賜り、感謝申し上げます。アイヴァンもご期待に応えることでしょう」
伯爵の言葉に王族たちはにこやかな笑みを浮かべて頷いた。
それから、いつの間にか貴賓席どころか広間からも出されていた。気づけば廊下に立っていた。あまりにも突然のことに理解が追いつかないまま、醜態を晒す前に父に追い出されたのだろう。
アイヴァンは茫然と立ち尽くし、動けずにいた。自分の運命が大きく変わってしまったことを理解しながらも、心は追いつかない。スズが鬼燈国に帰国すれば彼女を忘れ、ヴェリアスタの貴族として生きる覚悟を決めた矢先のことで混乱していた。
その時、廊下の向こうからエセルの姿が見えた。エセルが怒りと困惑を抱えてこちらに向かって歩いてくる。どうして彼女が目の前にいるか分からないが、その顔には怒りと困惑が入り混じっていた。
「さっきのアレは一体どういうことよ!!何で貴方が他国の王女の婿なんかになるのよ!!」
エセルはアイヴァンに詰め寄り、怒りをぶつけた。けれど、今のアイヴァンに同じ熱量で返せるほどの気力はなかった。
「私たちの婚約はどうなるの!?」
「恐らくは婚約解消、いや白紙になるのではないでしょうか……」
「白紙!?私たち、五年も婚約しているのよ!!」
エセルの叫びに、アイヴァンは淡々と答える。
「貴女の望み通りではありませんか」
その婚約期間中、エセルはアイヴァンを嫌い抜いてきた。婚約などしたくなかったと罵ったことなど数え切れない。悪評をばらまき、アイヴァンを貶めてきたのである。婚約が白紙になることを喜ばれることはあっても、アイヴァンには不満を言われる筋合いなどなかった。
エセルはアイヴァンの冷静な返答に一瞬言葉を詰まらせたが、すぐに反撃するように言い返した。
「そんなこと、私は一度も本気で言ったことはないわ!どうして分からないの!?」
アイヴァンは驚きのあまり目を見開いた。エセルの激しい感情が伝わってきたが、その意味を理解することはできなかった。
「貴方との婚約が白紙だなんて、貴方が他国に行くなんて……そんなの、私はッ!!」
言葉を続けようとするエセルの声は震えていた。
「ここで何をしている?」
そこへ突然、サディアス王子が二人の間に割り込んできた。
その冷たい声にエセルは驚き、アイヴァンは瞬時に背筋が凍り付いた。王子の目には冷酷な光が宿っている。
「エセル嬢、大丈夫ですか?」
「殿下……」
サディアス王子はエセルに微笑みながら問いかける。けれど、彼女は王子の態度の急変に戸惑っているようだった。王子はエセルの肩に軽く手を置き、安心させるように語りかける。
「エセル嬢、このアイヴァンとの件は私に任せてください。貴女にはもっと相応しい未来を御用意します」
予想もしない言葉にエセルは再び驚き、アイヴァンを見つめた。
「アイヴァン、来い」
王子は有無を言わさぬ様子で歩き始めた。アイヴァンは一瞬躊躇ったが、王子の命令には逆らえず、エセルを残してその場を離れた。サディアス王子の後ろを歩きながら、アイヴァンの心中は複雑な思いで渦巻いていた。
24
お気に入りに追加
133
あなたにおすすめの小説
ヴェルセット公爵家令嬢クラリッサはどこへ消えた?
ルーシャオ
恋愛
完璧な令嬢であれとヴェルセット公爵家令嬢クラリッサは期待を一身に受けて育ったが、婚約相手のイアムス王国デルバート王子はそんなクラリッサを嫌っていた。挙げ句の果てに、隣国の皇女を巻き込んで婚約破棄事件まで起こしてしまう。長年の王子からの嫌がらせに、ついにクラリッサは心が折れて行方不明に——そして約十二年後、王城の古井戸でその白骨遺体が発見されたのだった。
一方、隣国の法医学者エルネスト・クロードはロロベスキ侯爵夫人ことマダム・マーガリーの要請でイアムス王国にやってきて、白骨死体のスケッチを見てクラリッサではないと看破する。クラリッサは行方不明になって、どこへ消えた? 今はどこにいる? 本当に死んだのか? イアムス王国の人々が彼女を惜しみ、探そうとしている中、クロードは情報収集を進めていくうちに重要参考人たちと話をして——?
別れてくれない夫は、私を愛していない
abang
恋愛
「私と別れて下さい」
「嫌だ、君と別れる気はない」
誕生パーティー、結婚記念日、大切な約束の日まで……
彼の大切な幼馴染の「セレン」はいつも彼を連れ去ってしまう。
「ごめん、セレンが怪我をしたらしい」
「セレンが熱が出たと……」
そんなに大切ならば、彼女を妻にすれば良かったのでは?
ふと過ぎったその考えに私の妻としての限界に気付いた。
その日から始まる、私を愛さない夫と愛してるからこそ限界な妻の離婚攻防戦。
「あなた、お願いだから別れて頂戴」
「絶対に、別れない」
お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして
みこと。
恋愛
お兄様は女王陛下からいただいた指輪を、ずっと大切にしている。
きっと苦しい片恋をなさっているお兄様。
私はただ、お兄様の家に引き取られただけの存在。血の繋がってない妹。
だから、早々に屋敷を出なくては。私がお兄様の恋路を邪魔するわけにはいかないの。私の想いは、ずっと秘めて生きていく──。
なのに、ある日、お兄様の指輪が壊れて?
全7話、ご都合主義のハピエンです! 楽しんでいただけると嬉しいです!
※「小説家になろう」様にも掲載しています。
完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ
音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。
だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。
相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。
どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。
【完結】夫は王太子妃の愛人
紅位碧子 kurenaiaoko
恋愛
侯爵家長女であるローゼミリアは、侯爵家を継ぐはずだったのに、女ったらしの幼馴染みの公爵から求婚され、急遽結婚することになった。
しかし、持参金不要、式まで1ヶ月。
これは愛人多数?など訳ありの結婚に違いないと悟る。
案の定、初夜すら屋敷に戻らず、
3ヶ月以上も放置されーー。
そんな時に、驚きの手紙が届いた。
ーー公爵は、王太子妃と毎日ベッドを共にしている、と。
ローゼは、王宮に乗り込むのだがそこで驚きの光景を目撃してしまいーー。
*誤字脱字多数あるかと思います。
*初心者につき表現稚拙ですので温かく見守ってくださいませ
*ゆるふわ設定です
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
【完結】あなただけが特別ではない
仲村 嘉高
恋愛
お飾りの王妃が自室の窓から飛び降りた。
目覚めたら、死を選んだ原因の王子と初めて会ったお茶会の日だった。
王子との婚約を回避しようと頑張るが、なぜか周りの様子が前回と違い……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる