野心家オメガの独立戦争

大福

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17.アレクサンダー奮闘する

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『雲』にはいる人間は必ず赤い霊柩車にのり『橋』を渡らないと行けない。


何故ならば『雲』に穢れを持ち込むことを天界は嫌がるからだ。


霊柩車から降りると、アレクサンダーは楼閣の結界の前で、コインを一つ取り出して空に投げる。

コインが面なら店は開店。裏なら閉店だ。コインは面。さらに結界を節をつけて三回ノックする。

「五信の楼主、式神をはなった。俺は店に入れるか?」


『雲』にある高級遊郭、五信の楼閣は簡単に客を受け付けない。五信の主、ラシャドは気難しい。客を選び限定している。
背の曲がった小さな老人が店の前に現る。
「おいでませ。アレクサンダー様。ラシャド様がお待ちです。」

アレクサンダーは安堵のため息をつく。ラシャドには緊急の用を頼みたいと式神を使い連絡してある。

五信の銀行に入れたからといって油断ができない。ラシャドは相手の運気を奪って、人の願いを聞く。

玄関で靴をぬぐ。白地に黄緑の刺繍のある服をきた男衆があらわれ靴をうけとる。黄緑は天界において悪神、緑の炎を示す。ラシャドは以前、緑の炎と関わりがあったと噂されている。

楼主の後を追い玄関から長い廊下をあるき、高い天井にはステンドグラスが当て嵌め込まれ、広い座敷には一枚織の芸術的な絨毯がひかれている。

中央には幾重にもクッションが敷かれていた。そこに黒く艶やか肌の男が一人、黒豹の如く鎮座している。この楼閣の主じラシャドだ。

「アレクサンダー、座りな。女王白薔薇に恋人を取られた哀れな男よ」
水タバコを吹かしながらラシャドは片手で客人を手招く。

ラシャドの左顔には蛍光黄緑の塗料で必勝の呪が施されいる。賭け事で彼に勝てる者はいはい。五信の楼閣は今の役割は賭博場だ。この楼閣では自分の身や命を賭けてギャンブルをしないといけない掟だ。

「今日は何を賭けにきた。そして、何を俺に望んでる?」

「俺の勝負運をかける。俺は天界へのつてが無い。炎帝の神巫ダキニに橋渡しをお願いしたい。やっと愛するΩの番ができたんだ。そのジュードが聖僧の聖域に連れてかれた。彼を連れ戻したい」
アレクサンダーが世にも珍しい紫金の瞳でラシャドを真正面から見つける。

「テメェはからっしきし恋愛運が無いとみる。諦めな。俺はお前自身の在り方は好きだが。女王白薔薇がかかわる恋愛ごとには、関わりたく無い」
ラシャドが冷たく断る。

「アレクサンダー!酒、持ってるか?」二人の背後で声がする。
そこには鍛え抜かれた肉体をもつ妖艶な男装の麗人がたったいた。

三つ目に四本の腕の炎の神の一族だ。
「ダキニ。なんでアンタがここにいるんだ」間の抜けたアレクサンダーの声にダキニがラシャドの静止の声も聞かずに絨毯の上に上がってくる。

「ヴァルロメオ家に白羽の矢を打ったのは私だからさ。風帝碧蘭様の命令で断れなかった。モナークの馬鹿と失恋して。せっかく出来た恋人を神に奪われたら可愛いそうだろう。な、ラシャド今日はサービスしてくれよ」

ダキニは、ラシャドの側に座る。

ダキニはアレクサンダーに酒を寄越せと四本の手を差し出す。

人が神を祀る時、穀物、塩、酒が必要になる。それになぞって、願いを聞くなら酒を寄越せとダキニはねだっているのだ。

アレクサンダーが健啖家で懐に特上のウィスキーを携帯していることをダキニは知っていた。

「携帯用の酒でわるい。今度とっておきを持ってくる」
小さなリカーケースをダキニ渡す。
ラシャドが楼主に小さな盃を三つ用意させ、そこに酒を注ぐと祝詞を唱える。三人で一気に酒を煽る。ラシャドが恋愛運をましてやったと一言つけくわえる。

「今日はサービスしてやる。ダキニと一緒に恋人を取り戻して来いよ。後で、しかとお前の勝負運を回収してやる」ラシャドが凄みのある顔で笑う。

「部屋の奥にこい」

ラシャドがアレクサンダーにいう。「俺は人のために能力を使うのは好かん。しかし、ダキニの頼みだ。特別な回路を教えてやる」

一方、ジュード

「封印を解いてやる。我が愛子、ジュードよ。私の前にたて」

碧蘭の強い誘導でなすがままに真正面に立たされる。何やら長い詠唱を唱えながら、碧蘭は形のよい額を、ジュードの額に押し当てる。唇が触れそうな距離に若干、落ち着かないが、ここまで来たら最後まで封印をといてもらおうと決意する。

身体中の魔術回路が光だし、体が熱を帯びる。

横でみていた炎帝黄河が見事な魔術回路だと感想を漏らす。

戦闘以外で魔術回路を他人に見せるのは裸体を見せる行為と同様とされ、羞恥心で顔が赤くなる。そんな中、口に刺青のある聖僧が炎帝黄河に手話で何やら伝える。

「碧蘭。ジュードに迎えがきている。ヴァルトロメオ侯爵家にジュードを返せと私の神巫のダキニが言っている」

炎帝黄河の戦神巫であるダキニは有名だ。そして炎帝黄河はダキニに甘い。

「ダキニの要件を無下にすると、黄河が五月蝿いから面倒だ。仕方ないから、ジュードは返してやる」

碧蘭の魔術回路の光がおさまる。
「ジュードよ、お前は私の大事な巫だ。番がいても、迎えにいく」

首筋の噛み跡を碧蘭に撫でられそうになるのを、済んでの所でかわす。
同時にドアが開く。

「炎帝黄河様。我が愛しの君、迎えにあがりました」

優雅に四本の腕を操る、華やかな麗人が入ってくる。一気に場の空気が浄化され温かみがます。一級の神巫の実力は聖僧以上だ。神巫は神と人を繋ぐ役割を担っている。

その行為を体現するような人物。
ふとダキニの金色の三つ目の視線がぶつかる。ダキニの片手が宮廷手話で話す。

『外にでろ』

はっと気づいて、ジュードは碧蘭と黄河に貴族の礼をする。扉を出る瞬間に、碧蘭がジュードの手をにぎる。

「ヴァルロメオ侯爵家のアレクサンダーに伝えよ。今度、挨拶にいくと」
碧蘭がジュードを引き留めようとするのを黄河が間に入る。

「碧蘭。神巫への執着は気をつけろ。悪神、緑の炎になるつもりか」

黄河の指摘に碧蘭が笑う。

「黄河は、私が悪神になるのを心配しているのか?私は風帝だ。その様な事はありえん」

碧蘭と黄河が話している間に、ダキニは部屋の扉をしめる。

「風帝碧蘭は執着が強い。用心しな。あんたの番が外で待ってる。アレクサンダーは良い男だから、アンタの為に五信の楼閣のラシャドに運を掴まれている。大切にしてやれよ」

初めてあったダキニの忠告にジュードは目を見開く。

早く行けと三つ目に促されてジュードは口に刺青のある聖僧に促されて聖域の外に出た。
赤い目をしたアレクサンダーがヴァルロメオ家の航空艇で迎えに来ていた。

聖域からの帰り、ヴァルトロメオ家の航空艇に迎えにきたアレクサンダーが、ジュードを抱きあげると無言で暫く離さなかった。

ジュードはアレクサンダーに酷く心配をかけたと思い、何か言葉をかけようとしたがアレクサンダーから先に口を開いた。

「親父はヴァルロメオ侯爵家の為に神をの加護を貰えなど命令する。アンタは真面目だし、Ωである事を気負っているから結果を出そうと必死になる。
今までの生い立ちも恵まれなかったと思う。けれど、反骨精神で立ち上がるジュードはαの俺から見ても尊敬に値する。短期間しか一緒にいないが、俺はアンタに惚れている。
俺の事を好きにならなくていい。俺の寿命は短い。だから、俺が一方的にアンタの事を好きなだけだ。
ただ、神との契約は注意しろ。人の命なんてゴミ屑としか思っていない。俺は敵国の勝利の為に神との交渉でテロリストに犠牲にさせららた。肉体と母親の命を捧げられた。
だから、肉体をサイボーグ化したし、母親を亡くした。そんな過去がある。ジュードは体を大切にしてくれ」

衝撃的な告白にジュードは固まる。

アレクサンダーはジュードを自分の腕の中からおろして、また抱き寄せた。そして、そのつむじに口づけた。

「アンタは、俺の番だ。だから、俺は何があってもアンタの味方だ。守りたいし、愛している」
アレクサンダーのまっずくの告白にジュードは無言で抱き返す。

その愛の重さに真剣に返事をしたいが、自分が敵国の王族の血筋であり、更に自分の価値を高める為に風帝碧蘭の神巫の契約を遂行しようとしている。碧蘭の執着のつよさから、簡単にアレクサンダーに返事をしてよいか分からない。

「私からは簡単にアレクサンダーの愛に返事をすることは出来ませんが、これで許してください。私は貴方の肉体の健康と、命が末長く続くことを願っています。貴方への祝福を」

ジュードがアレクサンダーの顔を両手で包み、口付けをする。同時に何やらお互いの心臓部に楔がささったような重さがかかる。
アレクサンダーがジュードに深い口付けを仕返す。紫金の瞳がゆれて、番の緑の瞳に何やら問いかけようと見つめられるが瞳が閉じられる。ジュードの性格上、何をしたかなど言わないだろうと推測をしたからだ。
ジュードがアレクサンダーから体を離す。二人はヴァルトロメオ侯爵家につくまで無言で手を握っていた。

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