野心家オメガの独立戦争

大福

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モナークとアレクサンダーの青春、ある少女の備忘録(スキップしても大丈夫)

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スラム街の雑居ビルの谷間に元恋人の部屋がある。
貴族出身なのに、『モナート』は広大なあの邸宅には住んでいない。
彼の本名はモナートだ。


強力な呪い付きの彼を、周囲は畏怖を込めて『モナーク』とよぶ。
意味は君主や国王を意味する。
彼は女王白薔薇の一番の側近だ。


セシリアは、高額な学費を払う私立の高等学校の生徒だ。つまり『イイトコ』のお嬢さんだ。
1人で国境ギリギリのスラム街になんて来れない。


送迎の車で無理やり狭い路地裏にある裏ぶれた雑居ビルにやっきた。

一階は庶民的な定食屋だ。
おそる恐るのぞくと、女将が顔もみないで声をかけてくる。


「モナートはいないよ。階段で1番うえの部屋に登りな」


敬称のモナークじゃなく、本名であるモナートで呼んでいる。

彼はスラム街の住人に好かれているらしい。

「有難うございます。」


静かに返事をするとセシリアは慣れない階段をあがる。モナークはいつも優しくて下校後は転移術式であの部屋に運んでくれた。


セシリアが『千本腕のアリス』怖がるからだ。

だから、この煤けて剥がれたコンクリートの階段は初めてだ。

錆びついた手すりをつたいながら、上へと上へと登る。
かすかに、いつものドアは空いていて、誰かの低い鼻歌が聞こえる。


「お前がセシリアか?」
ドア空けても無いのに声が届く。

モナークがお気に入りの長椅子に黒髪の紫の瞳の長身の男が本を読みながら寝そべっている。
鍛え抜かれた体躯は常人じゃない。


「あなた軍人ね」

「答えろ。お前がセシリア・ロードか?」
腹の底に響く低い声。

「えぇ。そうよ。モナートに物を返しに来たの。そのタグ。
貴方、ヴァルトロメオ侯爵の証しじゃない。ソエル卿の政敵の私兵がなんでいるの!」
警戒を込めて声がひるがえる。

「あいつはヴァルトロメオの弟子の一人だ。俺はモナートの幼馴染だ。親父のソル卿と揉めてから、モナートはヴァルトロメオ派だぞ。そんなことも教えなかったのか、、、、宮廷のそとで、学生生活を満喫したかったんだろうな。部屋に入れよ。お嬢さん」

みた目とは裏腹に、静かに話す青年は軍人特有の剣呑さがない。毒気をぬかれてしまい、言われた通り部屋にはいる。

すぐ逃げれるようにドアは微かに空けておく 珍しい紫金の瞳がマジマジと見つめてくる。 


「何よ。顔に何かついてる?」

「モナートがあんたの顔の傷が治ってるか確認してほしいってな。綺麗な顔に赤髪の長身の巨乳。アイツの好みのど真ん中だな」


乱暴な言葉づかいなのに、何故か嫌な気持ちにならないから、不思議である。


「怪我をしちゃったから、女王白薔薇のお姉さん……キャサリンさんの代わりにはならなかったけど」

  
「キャサリンの代わりには誰も慣れねぇよ。あの人は半龍族、唯一の生き残りだった。」


自分の恋人に死んだ初恋の相手の話をするか、、、相変わらずデリカシーがないな。と、男はため息まじりに話す。


「元恋人だから、荷物を返しにきたんだけどね、、、」


セシリアは手に握りしめた鞄の蓋をあけて、荷物を差し出す。


「あいつ、、、申し訳なくて会えないってよ。好きになってごめん。だと」

音は長椅子の上でぶっきらぼうにつげる。
不機嫌そうにする姿は大型の猫科の猛獣を連想させた。
いつも優しげなモナークに、強面の友人がいるなんて珍しい。



「そう。モナークが呪い付きだって分かって付き合ったんだもん。このぐらいの怪我は気にしない。
生体強化治癒術式ですぐに治ったは。
むしろ、私の親が新聞社にリークして、王宮にデモ隊がいくなんて、、、」

セシリアは目線を下におとした。
口に出すのも嫌だ。悔しくて唇をかむ。


「お前の親父さん、いま儲かってないんだろう。 
1人娘をだしにして賠償金をがっぽり貰う算段に、モナートがはまっただけさ。自分をせめんなよ。お嬢さん。モナートに本気だったんだろう?」
初めて気遣うような眼差しを向けられた。

この男は何処まで自分の事をしっているのだろう。多分、ヴァルトロメオ家の軍人だとしたら、何もかもお見通しだ。

「セシリアでいいわ。馬鹿にされてる気がするから、、、両思いにならなかったら、モナートに迷惑をかけなかったわ」


セシリアの目から涙がこぼれた。
親にも友人にも言えない感情が、不思議と男の前では吐きだせた。

「泣くなよ。モナークが誰かに本気になるのは、滅多にないから。
それも覚悟の上だろ。そのヘアバンド、何かわかるか?賢者の石を装身具にして恋人におくるとは恐れいった」

「これを返しに来たんだけど!賢者の石ですって!あと、本も!」

男の発言に目を剥いた。そんな、とんでも無い物を持たされていたとは。

「その本は、ソル公爵がモナートの誕生日に送った本だ。それに、王宮で窃盗がおこなわれたとか、、、研究所がひっくり返るほど騒いでいた。こんなところにあるとはね。あいつの本気はわかっだろう?別れないでやり直せば」


『できないわ。親が何をしでかすか分からないし』


『そんな親は捨てちまえ。邪魔な奴は捨てるだけだ。』
セシリアの胃がキリキりと痛い。
捨てられたらどんなに良いか。



「私は親を捨てれないわ。恋人と別れると決めたの。モナートは優しいから、また、恋人に戻れるだろうけど。
私はそんな弱い私が嫌なの。
いまより強くならなければ、ずっと彼の足をひっぱるだけ。
モナートに伝えて。ありがとう。こちらこそ、ごめんなさい。って、、、最後に軍人さん。貴方の名前を聞いていい?」

声をはりあげて強く決意をした。
モナークへの恋心を振り切るように男を一瞥する。


「アレクサンダーだ」


「アレクサンダー、もう会うことはないでしょうけど。モナークのこと好きなんでしょう?」

男の様子にセシリアは、ある推測をした。

モナークは女の子が好きで、周りに男性をよせつけない。
これでもかと、邪険に、邪険にする。
多分、この男もそうされているはずだが….どうも、自分の知らないモナークを知っているらしい。


「はっ!!、無類の女好きが。男をすきになるかる。伝言、ヘアバンドはやるってよ!」


「記念にもらっとくわ。真っ赤になってるのは、図星ね。ここは東の都よ。同性婚もできるんだから!モナートのこと宜しくね。いま押せば付き合えるかもよ。じゃ、さよなら」


本をアレックスに投げ渡すと、エンジンをかける車の音がする方へと階下をかろやかに降り始めた。
足音が消える。


すると、部屋の壁が歪んで金細工のような少年が現れた。呪力でモナークは隠れていた。

「あいついい子だな。本当に別れてよかったのか」

アレクサンダーは呆れた眼差しをする。
戦友の恋愛の仲裁を頼まれるのは、今後、一切お断りしたいと顔に書いてある。

「いま僕にそれ聞く!まじ、追いかけそうになった」
モナークの顔は涙と鼻水で、ぐちゃぐちゃだ。

「顔…治ってよかったな。美人だった」

「あたり前だよ。僕の恋人だったんだ。
過去系になっちゃった」
面食いにも程があると、アレクサンダーはため息をつく。


「未練たちきれよ。また両思いだったら、呪いの効果で事故るぞ」

「セシリアのほうが断ち切ってるよ」
未練たらたらなモナークである。

涙と鼻水を引きずって、恋人を振ることもできない優柔不断な男である。

この国の戦力の半分を支える強力な呪いつき『千本腕のアリス』を従える男にはみえない。

そこには、年相応の、不恰好で不器用な同い年の少年が恋に敗れて泣いていた。

それが、たまらず愛しくてなってた。

「じゃ、俺たち付き合わないか?」
アレクサンダーの口から予想外の言葉がでた。モナークは一瞬、固まった。

「えっ、誰と誰が….」


「5年だ。戦場であってから5年。
お前が女ずきだから、諦めてた。俺はそのあたりの女より頑丈だし。
俺は、能核の神経を弄れるから呪いの発動にはならない」


「傷心の身に告白。えげつないなぁ…」

「女好きのお前に告白するのはいましかないだろ」

逃すまいと、身を乗り出すアレクサンダーにモナークは天を仰いだ。

「あーまじか、剣聖カルエカラが言ってたことが本当になっちゃうな」

「なんだ?」

「女よりも、戦闘中に背中を預けれる戦友が一番信頼できるって」

「………」

「僕、淫乱オメガだから。ヒートの時は覚悟してね?」

「俺がお前の恋人になれるのか……?女好きのお前が、男の俺でいいのか?」

「だってアレクサンダーが男しか駄目って知ってたもの」

「いつ、ばれた?!」

「カルロスの飲み屋で女の子はべらしてても、つまんない顔してたとき」

「かえる!」

「失恋したばかりだから、恋人らしいチューしていいよ」
アレクサンダーは赤面し。モナークは、ふざけて唇を突き出した。

「しるか!」
「僕のアルファ、これから宜しくね!」

これは、二人が十五才の時の物語。
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