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2.番契約
しおりを挟むアレクサンダーの独白にジュードが涙を流す。
「ごめん……後悔はしてないんだ」とアレクサンダーが小さな声で謝る。
「貴方のせいじゃない。謝らないでください」
ジュードも涙を堪えた。アレクサンダーはモナークとの八年間を少しも後悔していないのだろう。
「極めつけは、亡命中に女王白薔薇に捕まった時だ。呪いは呪い付きの者同士には反応しないと言われた。
そして、モナークは呪いつきの同胞である。白薔薇を選んだ。俺は振られた。そしてアイツは、涙を流しながら「幸せになって』といった。俺は何も言えなかった」
アレクサンダーの告白に、ジュードは胸が締め付けられた。自分が彼の立場だったら耐えられただろうかと考えた。
「女王はある事情でモナークの発情期の相手ができなかった。だから五年間、俺が世話をしてきたんだ。俺は、モナークが自分のΩ、で戦友で恋人だって勘違いしてた…」
アレクサンダーは流れ落ちる涙を拭いながら、苦しげに言った。
「電子錠はさ、カルロスの親父なりの配慮なんだ。俺が自分の気持ちを誤魔化さないように。湿っぽい話はここで終わりな」
口の端を上げてアレクサンダーが真っさらに笑う。彼の愛情深さが分かるような清らかな笑みだった。ジュードの心にパッと火が灯る。彼に愛されたモナークが羨ましい。
「はい。承知いたしました」
ジュードもつられて笑う。このαは、ジュードが今まであったどのαより強い心と覚悟がある。
ジュードは決断した。
「首を噛んでください。それで、侯爵家の爵位と領土は維持できます」
さぁ。どうぞと、アレクサンダーの視線の先に白い首をさらけ出す。
アレクサンダー視線が痛いほど突き刺さる。
「嫌だね」
「なぜ?」
ジュードの瞳が問いかける。
「俺はカルロスの親父のような貴族主義じゃねぇ。好きな奴としか番たくねぇし、催淫誘発剤で乱暴に抱のは、もっての他だ。なぁ、アンタ、俺に愛される自信はあるかい?」
アレクサンダーは、紫色の瞳孔を獣のように細めて、試すかのように見つめる。
愛など、ジュードは信じない。
「私は戦争孤児で、男娼から公務員に這い上がった。でも、誰かに支配されるなんて真っ平だ。人は美貌に騙されて、理想を押し付けては絶望する。だから恋や愛より、自分の野心と努力だけを信じてる。ただ、貴方の心の強さと覚悟には敬意を払う」
心臓を射抜くような瞳にアレクサンダーは魅了された。
ジュードは、自分の理想を実現できる強い意志と行動力を持っている。
恋人に亡命中に意思を曲げられたアレクサンダーには響く物があった。
「アンタのその目……気に入った。俺の名前はアレクサンダー。名前の意味は守護者。アンタが俺を愛するまで口説く。覚悟しとけ。俺は、一度きめた番に愛を貫く」
アレクサンダーは不敵に笑った。
「はい。私は簡単に口説かれません」
ジュードも負けじと微笑む。
「ジュードが大切な首をくれた今日を忘れない。俺の番はアンタだけだ」
長い白い腕でアレクサンダーを抱きしめながら、ジュードは静かに囁く。
「静かに」
形の良い唇を覆ってアレクサンダーの口を塞ぐと、ジュードの胸の内には嵐が巻き起こる。
悲しみ、喜び、後悔、そして罪悪感—さまざまな感情が次々と胸をよぎった。
「ジュードは誇り高いんだな」
耳元で、アレクサンダーの声が優しくささやく。白い歯が丁寧に首筋にあてられ、痛はなくむしろ優しさがしみこむんでくる。
ジュードは、アレクサンダーにいくつかの秘密を隠したまま。瞳をとじた。自分は敵国の王族の末裔だ。体を重ねても、愛をそそがれても、Ωである発情期の制約は地獄でしかない。
守られるのは性格に合わない。
自分の名前はジーク『勝利』だから。どんなに抱かれても、心は抱かれない。
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