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第二章

第37話 士気のための指揮

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 次に死んだときは目を覚まさないんじゃないか、と思わないこともない。

「……はぁ」

 それでも一時間後には確実に目が覚めてしまう。とはいえ、相も変わらず回復痛は残っているが。

 体に感じる重みに視線を向ければ、ベッドの上でサーシャとハティが俺に添い寝をしていた。

「起きたか、栞」

「ああ。ここは?」

「ドワーフの家だ。食事やら寝床は隠れていたドワーフの女性や子供が用意してくれた」

 道理で女子供が見当たらなかった。まぁ、未來へと繋がる命を守ることは正解だ。

「お前も休んどけ、ロットー。俺はゴウジンさんの様子を見てくる」

「栞はもう大丈夫なのか?」

「いつものことだ。一度死ねば残るのは微妙な疲労感だけ。こいつらを頼んだ」

 起こさぬようにベッドから出れば、ロットーはサーシャを奥に押し込んでベッドに腰を下ろした。

「そういえば、外に出る時は気を付けろ」

「ゴブリンにか?」

「いや、ドワーフに、だ」

「……?」

 疑問符を浮かべながら家を出た瞬間――外で待ち構えていたドワーフたちが一斉に声を上げた。

「おぉっ! 長老の命を救った英雄よ! よくぞ生きていた!」

 そう言って次々に差し出された手と握手を交わしているが……英雄とは随分と大仰だな。

「小僧、こっちだ」

 握手をしながら声がしたほうに視線を送れば、そこには俺に斧を渡したドワーフがいた。

「その節はどうも」

「いやなに、こちらこそ礼を言わねばならん。まさか生きているとは思わなかったが」

「まぁ、死なないことだけが取り柄みたいなものなので。それで、ゴウジンさんは無事ですか?」

「無事、とは言い難いな。とりあえず場所を移そう。ほらお前ら! 散れ散れ! 次の戦に備えろ!」

 連れられた家の中へと入れば、そこには目を覚ましていないゴウジンが寝ていた。

「まだ起きませんか」

「ああ、おそらく頭に受けた一撃が効いているんだろう。まぁ、小僧が気に病むことは無い」

 これは戦争だ。誰のせいとか、誰のおかげとかも無い。大事なのは結果だけだ。勝てば官軍負ければ賊軍――戦争ってのはそういうものだろう。

「ゴウジンさんが目を覚まさないとなると、誰が指揮を執るんですか?」

「儂らには序列が無い。長老以外は皆が等しく同価値だ。故に――心苦しくもあるが、小僧。主に頼むのが最も最善手だと考えているが、どうだ?」

「どうだ、と言われたところでって感じですが……現状では俺が役立つ保証はありませんよ?」

「役立つかどうかよりも、士気の問題だ。今は奴らの勢いが増している。それに対抗するには主の協力が必要不可欠だろう」

「なるほど……まぁ、最後まで手を貸すつもりでしたし、ゴウジンさんが目を覚ますまでの繋ぎくらいなら引き受けます」

「よろしく頼む」

 頭を下げるドワーフに苦笑いしか出来ないが――とりあえず現状を確認しておこう。

「ちなみにですが、今のこちらの戦力はどんな感じですか?」

「先の戦いでこちらは五名を失った。投擲機に関してはすでに使い物にならず、すでに穴を塞いでいるところだ」

 ゴブリンの残存勢力がわからない以上、投擲機が使えないのは痛い。もちろん、それを狙ってのことだろうが、絶対数の劣るドワーフ側にとっては嫌な状況だ。

 そもそもが戦略など関係の無い総力戦――俺に出来ることは限られている。

 将棋やチェスなどの駒取りゲームの知識はあるし、過去の歴史に倣った戦法も知っている。だが、これは違う。ジリ貧の殴り合いに勝つためには……やはり、地道な方法を取るしかないか。

「すみません。皆さんへの伝言をお願いしても良いですか?」

「うむ、なんでも言ってくれ」

「次の戦いが始まったら、こちらは二名で背中合わせで戦ってください。背中側からの奇襲、不意打ちを防ぐことで効率良くゴブリンを狩ります。あとは……盾があるといいですね。用意できますか?」

「防具ではなく盾か? あるにはあるが、盾では奴らを殺せぬぞ?」

「まぁ、やりよう次第だとは思いますが、盾はデカいゴブリン対策です。二対の片方に盾を背負っておくように伝えておいてください」

「ふむ……? あい、わかった。伝えておこう」

「よろしくお願いします。使い方はまた後で教えますので。俺は仲間のほうに伝えてきます」

 同時に家を出れば、再び待ち構えていたドワーフたちの相手を任せて、俺はロットーたちの待つ家へと戻った。

「栞、どうだった?」

 起きていたロットーの問い掛けに、つい溜め息が出た。

「確かに言っていた通りだったな。俺が英雄だと。ついでに目を覚まさないゴウジンさんに代わって次の戦闘の指揮を執ることになった」

「……大役だな」

「まぁ、乗り掛かった舟だ。最後まで付き合う気はある。当然、お前らにも働いてもらうが――」

「訊く必要はない。アタイだけでなくサーシャもハティも、栞に付いていくことに変わりはない」

 次の太鼓が鳴るまでの約三時間――ゆっくりと体を休めてから家を出れば、すでに装備を整えたドワーフたちが待っていた。

「お待たせ致しました。これから戦い方をお伝えします。各々で気が付いているかもしれませんが、片方が矛で片方が盾です。普通のゴブリンを相手にするときは背中合わせで、デカいゴブリンのときは片方が盾を構えて攻撃を受け、隙を突いてもう片方が攻撃をします。まぁ、実践したほうが早いと思うので試してみてください」

「〝おう!〟」

 脳が揺れるほどの大きな返事を受けると、ドワーフたちは各々で持ち場に向かって行った。

「さて――そんじゃあ次は俺たちだ。ロットー、ナイフは?」

「数は多くないが、相手がゴブリンだからな。直接斬って刺して腐らせることにした」

「ナイフは出せないが剣なら出せるから必要になったら言ってくれ。サーシャは?」

「サーシャは日の光があれば最強!」

「だな。ハティは……変わらず好きに動け。但し、新しい力を使うのも変わらず無しだ」

「わかりました」

 そして、太鼓の音が鳴る。
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