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第二章
第34話 ゴブリン戦・開幕
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悪い予感が的中した。
俺たちが足止めしたのは第一陣で、それは負けることを前提とした捨て駒であり、その後に来る本陣が疲弊したドワーフを討つつもりだったのだろう。そして、現状はその第一陣と本陣が合わさって大隊へと変化した。
こちらの戦力は男のドワーフが七十とヴァイザーである俺たち。溝を挟んで向こう側にいるゴブリンは凡そ三百程度か。
腰蓑だけを巻いている奴や防具を身に付けている奴もいるが、すべてのゴブリンが武器を手にしている。
「やっぱり多いなぁ」
悲観的になってつい呟いてしまうくらいの差だ。
見たところ溝が埋まっているようには見えないが、ゴブリンたちは今か今かと鼻息荒く待ち構えている。
「栞と言ったな? 奴らがこのまま攻めてくる確証はあるのか? 夜まで待たれればこちらには不利になるぞ」
「その心配はいりませんよ、ゴウジンさん。そもそも奴らの本陣はこの時間を狙ってきているんです。斥候でこちらを疲弊させ、疲れたところを一気に狙う。それに合わせて士気も高めているはずなので、今を逃すはずはない。どちらかが開戦の合図を出せば――それで」
「はいはい! サーシャがやる!」
「だ、そうですが」
言いながらゴウジンに対して出てきたサーシャに掌を向ければ、考えるように顎髭を撫でた。
「……よし。やれ」
すると、サーシャの手の中に高密度で光る矢が現れ放たれた瞬間――数百本の矢に分かれてゴブリン共に降り注いだ。
断末魔のような叫び声の直後、雄叫びが響き渡ると同胞の死体を踏みつけにしたゴブリンたちが駆け出してきた。
跳び越えられない溝は、向こう側の地面を崩して坂にして登れるくらいにまで埋め立てたようだ。
「ゴウジンさん、こちらも」
「わかっておる。投擲機! 発射!」
張られたロープに斧を振り下ろすと、六台の投擲機に積まれた岩がゴブリンの群れに降り注いだ。
「おぉおぉ、自明の理だ。兵器はどの世界でも脅威だね」
「奴らが怯んだぞ! 儂に続けぇええ!」
駆け出したゴウジンに続いて、雄叫びを上げたドワーフたちが一斉にゴブリンに向かっていった。
「栞、アタイらは?」
「ロットーはあまり前に出過ぎるな。俺とサーシャで援護する。ハティは……好きに暴れろ」
そう告げると、ハティは笑顔を見せて狼に姿を変え戦場へと駆け出していった。
「サーシャは屋根に登るね~」
その言葉を背中で聞きながら、こちらはスリングショットを手に、腰に下げた布袋に入れた鉄屑の弾を取り出した。
昨日のうちに微調整は済ませてある。とはいえ、当たるかどうかは不安だから少し離れたところにいるゴブリンを――撃つ。
「おっ、ギリギリだな。狙うなら頭じゃなく胴体か」
貰った鉄屑のおかげで貫通力はある。
ナイフを投げるロットーに近付くゴブリンを撃ち抜いていると、頭上を過ぎていく光の矢は一気に数匹を殺していく。別に比べる意味は無い。こちらは一つ一つ確実に行こう。
次から次にやってくるゴブリンを撃っていると、投擲機を準備していたドワーフが前に出た。
「二発目、装填完了だ!」
「よし! 全員退け!」
ゴウジンの言葉にドワーフと一緒にロットーとハティが退いてくると、それを追ってくるゴブリンを撃ち抜いた。
「サーシャ!」
「わかってるよ~」
追ってくるゴブリンをサーシャの矢と俺のスリングショットで足止めし、ドワーフたちが戻ったのを確かめたゴウジンが声を上げた。
「放てぇええ!」
降り注ぐ岩がゴブリンを潰すが、その後ろから変わらぬ数のゴブリンが飛び出してきた。勢いは止まることもなく、か。
「長老! これで打ち止めだ!」
弾切れ。まぁ、投擲機で十二発分も撃ち込めれば十分だろう。
「あとは白兵戦だ! 一匹たりともこちら側には入れるな!」
「〝おぉー!〟」
すると、斧や剣を手にしたドワーフたちが向かってくるゴブリンと武器を交わせた。
白兵戦か。兵士がいるのだから、その言葉自体があることは不思議ではないが、そもそもこの世界で言う戦争には兵器を用いた歴史が無い。ある意味でヴァイザーを兵器と考えるのであれば、それ以外の戦いを白兵戦と呼んで然るべき、か?
「栞、ゴブリンの数が多い。アタイらも行くぞ」
思考が散漫とするのはいつものことだが、時と場所を考えろ。今は目の前の戦いに集中しなければ勝てるものも勝てない。
「サーシャ、援護を頼む」
「りょ~かい!」
スリングショットを背嚢に仕舞い、両手に取り出した斧を握り締めて駆け出した。
腰高のゴブリンの頭を斬り飛ばし、斧を投げ――近付いてきた顔を蹴り倒し、取り出した剣を突き立てた。
「っ――!」
放り投げられた槍が肩に刺さったが、すぐに引き抜きその槍で迫ってくるゴブリンの胴体を貫いた。次々とやってくるゴブリンに、取り出した鎖を振り回して威嚇しながら距離を取り、布袋の中の鉄屑を鷲掴んで力一杯に投げ付ければ、目が潰れたところにサーシャの矢が突き刺さった。
一体一体は大して強くも無いが、数が多くて厄介だ。死ぬことを躊躇わず突っ込んでくるのは達が悪い。
気が付けば、投擲機で投げ込んだ岩が転がっている前線まで来てしまった。
「栞!」
サーシャの声に振り返れば、転がった岩の影に潜んでいたゴブリンの頭を矢が貫いた。
感謝するように頷き、岩を背に周囲を見回せば怒声と叫び声が入り混じり、至る所で血が流れている。
――斧や剣では重くて手が回らない。剣針を抜き、取り出した鎖を腕に巻いた。
「さぁ、行こう」
気合いを入れ直し、向かってくるゴブリンを殴り飛ばした。
剣針を突き刺し、鎖でゴブリンの武器を防ぎ、蹴り飛ばして踏み潰す。五体目を刺したところで刃が折れて、即座に替え刃を出して付け替えた。
「っ!」
背中に受けた衝撃に振り返りながら腕を振れば、ゴブリンの頭を殴り飛ばした。
残る痛みに手を伸ばせば、腰より少し上にナイフが突き刺さっている。抜けば出血多量、細菌感染のリスクはあるが刺さったままでは傷口が塞がらない。
「ふぅ――っ」
力任せにナイフを引き抜けば血が溢れ出るのを感じたが、ここで止まってはいられない。
跳び掛かってくるゴブリンに抜いたナイフを放り投げれば頭に刺さって倒れ込んだ。
向かってくるゴブリンに対して剣針を構えた時――ホワイトウォールの奥から太鼓をたたくような音が聞こえてきた。
すると、ゴブリンたちが一斉に白樹の中へと戻っていく。
戦略的撤退か。こちらとしても有り難いが……形勢を立て直すという意味では不利だ。
「しーちゃん、平気ですか?」
「ああ、傷は塞がってきている。……まずは被害状況を確認しないとな」
こちら側はすでに全勢力を投入しているが、ゴブリン側はあとどれくらいの戦力があるのかわからない。
……乗り掛かった舟は泥船かもしれないな。
俺たちが足止めしたのは第一陣で、それは負けることを前提とした捨て駒であり、その後に来る本陣が疲弊したドワーフを討つつもりだったのだろう。そして、現状はその第一陣と本陣が合わさって大隊へと変化した。
こちらの戦力は男のドワーフが七十とヴァイザーである俺たち。溝を挟んで向こう側にいるゴブリンは凡そ三百程度か。
腰蓑だけを巻いている奴や防具を身に付けている奴もいるが、すべてのゴブリンが武器を手にしている。
「やっぱり多いなぁ」
悲観的になってつい呟いてしまうくらいの差だ。
見たところ溝が埋まっているようには見えないが、ゴブリンたちは今か今かと鼻息荒く待ち構えている。
「栞と言ったな? 奴らがこのまま攻めてくる確証はあるのか? 夜まで待たれればこちらには不利になるぞ」
「その心配はいりませんよ、ゴウジンさん。そもそも奴らの本陣はこの時間を狙ってきているんです。斥候でこちらを疲弊させ、疲れたところを一気に狙う。それに合わせて士気も高めているはずなので、今を逃すはずはない。どちらかが開戦の合図を出せば――それで」
「はいはい! サーシャがやる!」
「だ、そうですが」
言いながらゴウジンに対して出てきたサーシャに掌を向ければ、考えるように顎髭を撫でた。
「……よし。やれ」
すると、サーシャの手の中に高密度で光る矢が現れ放たれた瞬間――数百本の矢に分かれてゴブリン共に降り注いだ。
断末魔のような叫び声の直後、雄叫びが響き渡ると同胞の死体を踏みつけにしたゴブリンたちが駆け出してきた。
跳び越えられない溝は、向こう側の地面を崩して坂にして登れるくらいにまで埋め立てたようだ。
「ゴウジンさん、こちらも」
「わかっておる。投擲機! 発射!」
張られたロープに斧を振り下ろすと、六台の投擲機に積まれた岩がゴブリンの群れに降り注いだ。
「おぉおぉ、自明の理だ。兵器はどの世界でも脅威だね」
「奴らが怯んだぞ! 儂に続けぇええ!」
駆け出したゴウジンに続いて、雄叫びを上げたドワーフたちが一斉にゴブリンに向かっていった。
「栞、アタイらは?」
「ロットーはあまり前に出過ぎるな。俺とサーシャで援護する。ハティは……好きに暴れろ」
そう告げると、ハティは笑顔を見せて狼に姿を変え戦場へと駆け出していった。
「サーシャは屋根に登るね~」
その言葉を背中で聞きながら、こちらはスリングショットを手に、腰に下げた布袋に入れた鉄屑の弾を取り出した。
昨日のうちに微調整は済ませてある。とはいえ、当たるかどうかは不安だから少し離れたところにいるゴブリンを――撃つ。
「おっ、ギリギリだな。狙うなら頭じゃなく胴体か」
貰った鉄屑のおかげで貫通力はある。
ナイフを投げるロットーに近付くゴブリンを撃ち抜いていると、頭上を過ぎていく光の矢は一気に数匹を殺していく。別に比べる意味は無い。こちらは一つ一つ確実に行こう。
次から次にやってくるゴブリンを撃っていると、投擲機を準備していたドワーフが前に出た。
「二発目、装填完了だ!」
「よし! 全員退け!」
ゴウジンの言葉にドワーフと一緒にロットーとハティが退いてくると、それを追ってくるゴブリンを撃ち抜いた。
「サーシャ!」
「わかってるよ~」
追ってくるゴブリンをサーシャの矢と俺のスリングショットで足止めし、ドワーフたちが戻ったのを確かめたゴウジンが声を上げた。
「放てぇええ!」
降り注ぐ岩がゴブリンを潰すが、その後ろから変わらぬ数のゴブリンが飛び出してきた。勢いは止まることもなく、か。
「長老! これで打ち止めだ!」
弾切れ。まぁ、投擲機で十二発分も撃ち込めれば十分だろう。
「あとは白兵戦だ! 一匹たりともこちら側には入れるな!」
「〝おぉー!〟」
すると、斧や剣を手にしたドワーフたちが向かってくるゴブリンと武器を交わせた。
白兵戦か。兵士がいるのだから、その言葉自体があることは不思議ではないが、そもそもこの世界で言う戦争には兵器を用いた歴史が無い。ある意味でヴァイザーを兵器と考えるのであれば、それ以外の戦いを白兵戦と呼んで然るべき、か?
「栞、ゴブリンの数が多い。アタイらも行くぞ」
思考が散漫とするのはいつものことだが、時と場所を考えろ。今は目の前の戦いに集中しなければ勝てるものも勝てない。
「サーシャ、援護を頼む」
「りょ~かい!」
スリングショットを背嚢に仕舞い、両手に取り出した斧を握り締めて駆け出した。
腰高のゴブリンの頭を斬り飛ばし、斧を投げ――近付いてきた顔を蹴り倒し、取り出した剣を突き立てた。
「っ――!」
放り投げられた槍が肩に刺さったが、すぐに引き抜きその槍で迫ってくるゴブリンの胴体を貫いた。次々とやってくるゴブリンに、取り出した鎖を振り回して威嚇しながら距離を取り、布袋の中の鉄屑を鷲掴んで力一杯に投げ付ければ、目が潰れたところにサーシャの矢が突き刺さった。
一体一体は大して強くも無いが、数が多くて厄介だ。死ぬことを躊躇わず突っ込んでくるのは達が悪い。
気が付けば、投擲機で投げ込んだ岩が転がっている前線まで来てしまった。
「栞!」
サーシャの声に振り返れば、転がった岩の影に潜んでいたゴブリンの頭を矢が貫いた。
感謝するように頷き、岩を背に周囲を見回せば怒声と叫び声が入り混じり、至る所で血が流れている。
――斧や剣では重くて手が回らない。剣針を抜き、取り出した鎖を腕に巻いた。
「さぁ、行こう」
気合いを入れ直し、向かってくるゴブリンを殴り飛ばした。
剣針を突き刺し、鎖でゴブリンの武器を防ぎ、蹴り飛ばして踏み潰す。五体目を刺したところで刃が折れて、即座に替え刃を出して付け替えた。
「っ!」
背中に受けた衝撃に振り返りながら腕を振れば、ゴブリンの頭を殴り飛ばした。
残る痛みに手を伸ばせば、腰より少し上にナイフが突き刺さっている。抜けば出血多量、細菌感染のリスクはあるが刺さったままでは傷口が塞がらない。
「ふぅ――っ」
力任せにナイフを引き抜けば血が溢れ出るのを感じたが、ここで止まってはいられない。
跳び掛かってくるゴブリンに抜いたナイフを放り投げれば頭に刺さって倒れ込んだ。
向かってくるゴブリンに対して剣針を構えた時――ホワイトウォールの奥から太鼓をたたくような音が聞こえてきた。
すると、ゴブリンたちが一斉に白樹の中へと戻っていく。
戦略的撤退か。こちらとしても有り難いが……形勢を立て直すという意味では不利だ。
「しーちゃん、平気ですか?」
「ああ、傷は塞がってきている。……まずは被害状況を確認しないとな」
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