上 下
38 / 59
新たなる道

最期まで

しおりを挟む

 クズニールを投げる事で完璧に死角を作った。そして俺はどっかのアニメで出てくるアホ主人公みたいに、声を張り上げて攻撃しない。忍者の様に忍び足で相手を確実に仕留める。
 
 俺は亡くなった右手の代わりに氷の手を瞬時に生成する。そしてそれに続く様に無属性魔法でジャマダハルを作る。
 ジャマダハルと言うのは突きに特化した武器で古代北インドの刀剣であり、殴る様に使う武器だ。
 
 生成中、刀身がニールの胴体を貫通する様に長さを調整した。
 
 「ニール!」
 
 ミュセルは素早く剣を鞘に戻しそう叫びながらクズニールをキャッチする。そしてそれと同時に――
 
 ザクンッ!! と音が響く
 
 よし!!

 手応えを感じ心の中でついガッツポーズをとる。
 
 ジャマハルの刀身はクズニールの腹を貫通し、そしてミュセルの腹にも届く。
 
 クズニールはこれでほぼ確実に殺した。あとはこの剣聖だ。
 
 「ニール!! ニール!!」
 
 その事に気づいたミュセルは必死にクズの名を呼ぶ。
 
 ふんっ、バカが。こいつはもう――
 
 死んだ。そう言おうとした時だった。
 
 「なっ!!」
 
 クズニールが俺の手首を凄まじい力で握っていた。それは今までの戦闘ではありえない程の力だった。
 
 「ミュセ……ル……」
 
 おい、おい冗談じゃねぇ! この力はなんだ! 
 
 火事場の馬鹿力。もしかしたらこれを言うのかもしれない。
 
 「ニール!!」
 
 ミュセルが感激の声を漏らす。その声と共に目からはポロポロと涙が流れ出ている。
 
 「ゴメンな……ゴフッ!」
 
 クズニールの口から大量の血が出る。
 
 そうだ! そのまま早く死んじまえ!
 
 「沢山……沢山、迷惑を掛けて」
 
 クソッ! ざけんじゃねぇ!!
 
 死にかけのはずのクズニールの腕の力は一行に弱まらない。むしろその逆で強くなっている。
 
 「こんな、ろくでないで、ゴメンな……」
 
 「ううん、いいだよ。私は大丈夫だから」
 
 ヤバイ、ヤバイ!! こいつ一ヶ所に残りの魔力集めてやがる!

 今すぐにでも氷の腕を溶かして逃げたい。しかし、もしそれをすれば、どういう訳か体に激痛が走る。その痛みは、全盛期の俺ですら耐えられなくて失神した程だ。だからそれは絶対に出来ない。 
 
 「ガゼルにも……リンにも、サイにもゴフッ……悪いことをした。僕は……最低な主人だ……」
 
 「そんな事、ないよ。ちゃんと、皆の名前覚えてるじゃん」
 
 クソッ! なんてウゼー茶番だ!あああ、 不味い、不味い、不味い! 
 
 一ヶ所に集まってる魔力はどう考えても死にかけの人間の魔力量ではない。
 
 「ニール、今後ろのゴミを取り除いて助けてあげるからね」
 
 ミュセルが優しく言うが―――
 
 「君が手を汚す必用はない」
 
 返ってきたのは否定の言葉だった。ミュセルはその反応に目を見開く。
 
 「それ! ちょっ! どういう――」
 
 その言葉を遮ってニールは魔法を唱える。
 
 「ブ……ロー」
 
 それは弱々しくまさしく瀕死の状態の者の声だった。
 
 「キャァ!」
 
 風邪魔法。ミュセルはニールの風魔法で他の学生の元へ飛ばされる。飛んできたミュセルを1人の学生がキャッチする。その時ミュセルの腹からは血が漏れ出ていた。そしてクズニールは―――
 
 「残念だけど、僕も君もここまでだね」
 
 「ざけんじゃねぇ!! 俺は死なねぇぞ!!」
 
 「そうかい……じゃあ、幸運を」
 
 ニールが凝縮した魔力をいっきに膨張させる。その膨張させた魔力の場所は俺の手首を掴んでる左手だった。
 
 ミュセル達が逃げた直後だった。ニールの腕が爆発する。その爆発は規模が小さく威力が絶大な、まるで気が治ったニールの気持ちを表していた。俺だけを殺すため。ミュセルや他の生徒、木や動物を巻き込まないため。
 
 そんな思いが込められてた自爆だった。
 
    「ニィィィィルゥゥゥゥ!!!」
しおりを挟む
感想 159

あなたにおすすめの小説

魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡

サクラ近衛将監
ファンタジー
 女神様のミスで事故死したOLの大滝留美は、地球世界での転生が難しいために、神々の伝手により異世界アスレオールに転生し、シルヴィ・デルトンとして生を受けるが、前世の記憶は11歳の成人の儀まで封印され、その儀式の最中に前世の記憶ととともに職業を神から告げられた。  シルヴィの与えられた職業は魔晶石採掘師と魔晶石加工師の二つだったが、シルヴィはその職業を知らなかった。  シルヴィの将来や如何に?  毎週木曜日午後10時に投稿予定です。

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

最底辺の転生者──2匹の捨て子を育む赤ん坊!?の異世界修行の旅

散歩道 猫ノ子
ファンタジー
捨てられてしまった2匹の神獣と育む異世界育成ファンタジー 2匹のねこのこを育む、ほのぼの育成異世界生活です。 人間の汚さを知る主人公が、動物のように純粋で無垢な女の子2人に振り回されつつ、振り回すそんな物語です。 主人公は最強ですが、基本的に最強しませんのでご了承くださいm(*_ _)m

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

念願の異世界転生できましたが、滅亡寸前の辺境伯家の長男、魔力なしでした。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリーです。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

処理中です...