~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます

無味無臭

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新たなる道

彼を愛していた彼女たちは……

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 「や、やっとつきました~!! あはは~。でも、疲れたからちょっときゅうけ~」
 
 ソラにテレポートさせられたアローラ・マッコイ。彼女は、彼が適当に飛ばしたせいで元の街まで戻るのに凄く苦労した。転移した先は、運が良いのか悪いのか、街だった。しかし全く知らない場所だった。
 
 そこであたふたしていると、親切な人が救いの手を差しのべてくれた。
 
 「どうしたの? お嬢さん? 見たところあの有名な騎士学校の制服だけど?」
 
 アローラは知ることはなかったが、救いの手を差しのべてくれたのは、元国家騎士で寿退職した女性。この女性はアローラと同じ学校出身であり、この時期にこんな所に1人でいるのを見て不思議に思い、話掛けたのだ。
 
 「あ、ありがとうございます~。実はかくかくしかじかで……」
 
 涙目でアローラは現在までに至る話をした。
 
 「なるほどね。それは大変だったね。数日家で休んできな! そのあと、馬車で王都まで送ってあげるよ!」
 
 「良いんですか!?」
 
 目を輝かせながら聞く彼女に、元国家騎士はおおよ! と返事をした。
 
 因みにアローラが数日休んでいるうちに、元国家騎士の旦那が襲おうといて、妻にメッタメタのギッタギタにしばかれたのは内緒話である。
 
 「あんた次やったら、椅子に縛りあげて髪の毛全部引っこ抜くからね」
 
 「は、はいぃぃぃぃ!!」
 
 そんな、恐ろしい出来事が地下室であった事も純粋なアローラは知らない。
 
 
 そして数日後。
 
 
 「じゃあ、行こっか!」
 
 アローラの傷が癒え、準備が整った翌日の朝、彼女たちはたった1日でなぜか、お坊さんになってしまった旦那に見送られ出ていった。
 
 王都までは約半月ほど旅だった。特に問題はなく、立ち寄った街で観光をしながら、のんびり楽しく向かった。
 
 「いや~。ようやく王都についたね! じゃあ、私は商品の売買取引があるからここで、お別れだね!」
 
 「はい! お世話になりました! このご恩はいつか絶対返させてもらいます!」
 
 「お? 本当かい? じゃあ、期待しとくよ! じゃあ、元気でね!」
 
 「はい、お元気で! またどこかでお会いしましょう! リムさん!」
 
 しかしアローラ・マッコイを待ち受けていたものは、幸せや懐かしいといった正の感情ではなく単なる絶望の負。それだけだった。
 
 「たっただまーでーす!! ニール! とみんなーただいま戻りました~!」
 
 学生寮に戻り、玄関を勢いよく開けるアローラ。しかし、そこは予想以上に静かな空間だった。いつもだったら、誰かが帰宅の声をあげるとそこらじゅうから、帰宅を歓迎する声が戻ってきていたのに、今日は歓迎する声が1つとして戻ってこない。
 
 「あれ? みんな出掛けちゃってるのかな?」
 
 気になり、いるいないを表す、名前が書いてある板きれ。いわゆる名札を確認する。
 名札は在宅なら表。外出中なら裏向きにするように、徹底されている。
 そして今、視界に入っている名札は全て表。全員在宅と表されていた。
 
 「あれ~おっかしぃなぁ~?」
 
 「あ、アローラ! 生きてたのね!」
 
 そんな風に首をしばらく傾げていると、複数の女子生徒が大きな段ボールを抱え階段から降りてきた。
 
 「もちろんです! 私は、生きて帰らなきゃいけないのですから!」

 そのアローラの言葉が何を意味しているか、その場にいた全員が瞬時に理解した。してしまった。
 彼女たちはアローラが帰ってこないことを少しだけ願っていた。別に、嫌っている訳ではない。ただ――
 
 「ねぇ、アローラ」
 
 ――現実は残酷なものなのだ。そして今からアローラはその現実にぶち当たることになる。
 
 「なんですか? あ! そんなことより! ニールはどこですか? 今すぐ彼にあって安心させたいのですが。それと同時に私の手料理を食べて欲しいのですかが……」
 
 その言葉に誰もが気まづい顔をする。言っていいものか、悪いものか。悩み続ける。
 すると1人の女子が苦し紛れに言った。
 
 「あ、それなんだけどね! ニールは今少し出掛けてて……」
 
 「……ソレハウソ」
 
 「え?」
 
 「そうですよね? だってニールの名札は表向きじゃないですか。どうして嘘付くんですか? ねぇ、ドウシテ? ドウシテ?」
 
 「そ、それは……に、ニールがたまたま忘れてたんだよ!」
 
 苦し紛れの言い訳。しかし、言った本人も言われた本人もそれが通じないと分かっていた。
 
 「そんなことあるはずありませんよ。だってニールは騎士の中で誰よりもしっかりしている人ですよ? そんな人がこんな基本的なこと忘れる訳がないじゃないですか?」
 
 真黒に染まって見えるその目には、ニールはどこ? と書きなぐってあった。 
 
 「え、い、いや、えっと……」
 
 「もう良いわ。みんな……」
 
 背後から聞こえたその言葉に誰もが振り向いた。
 
 「ミュセルさん」
 
 「私から話すわ。みんなは作業を続けてちょうだい」
 
 「わ、分かりました」
 
 ミュセルは迷っていた。しかし、アローラの悲しい目と、クラスメイトたちの困った表情を見て決意した。
 
 「ねぇ、ミュセル。ニールはどこですか?」
 
 「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさいアローラ」
 
 急に泣きながら謝る親友にアローラは動揺を隠せない。
 
 「ど、どうしてミュセルが謝るんですか」
 
 「だって――」
 
 胃がはち切れるような、気持ちに襲われるなか口を動かした。
 
 「だって!!」
 
 この後のことを考えたら先を言えなくなる。だから、ミュセルは考えなかった。ただ、ありのままを口に出した。
 
 「ニールは私の力不足で死んだんだもん!!」
 
 泣きじゃくり、膝から崩れ落ちる。
 
 「――え?」
 
 黒く染まっていたアローラの目は変わる。黒から白へ。
 
 「嘘……ですよね?」
 
 「ほんとよ! ニールは私を逃がすために自爆したの!!」
 
 「そんな……そんなことって……」
 
 しかし、アローラは違った。剣聖ミュセル・グリーン・フリートとは違った。
 
 うずくまって泣いている彼女に対してアローラは拳を強く、強く、握りしめた。
 
 「仇を……仇を取りましょう……絶対に取りましょう」
 
 決して怒鳴らなかった。しかしその決意は何があっても絶対曲がることのないものだと確信させるものであった。
 
 その硬い決意をアローラはミュセルにも求めた。ミュセルはそれに対して、ただ短く答えた。
 
 「ええ、もちろんよ」
 
 憎悪だけに動かされる剣聖ミュセル・グリーン・フリートの目は、染まってはいけない色に染まっていた。
 
 
 
 
 アローラは1つの事に関してとても執着の強い女性だ。そして今、その執着は間違った方向へと歩みだした。
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