evil tale

明間アキラ

文字の大きさ
上 下
191 / 199
第七章「勝敗」ー第四地区編ー

第百四十九話「アオバの里の子供たち:前編」

しおりを挟む
「おい、ハンクさん!
何でそんな弱気なんだよ!」

ある獣人の男が
伸びきった金髪を垂らし、
項垂れて、座り込むだけの男に
そう叫ぶ。

「革命軍とやらが
解放してくれたってのに

どうしたんだよ!
玉抜かれたみたいに」

どれだけ
怒号をあびせても

その男は立とうとしない。

「新しい魔導具も武器も仕入れた。
大分数は減ったが、人もそろった。
第四地区の裏をまた俺らが仕切れる。

なのに、なんであんたそんな」

「お前ら、死神を見たことあるか」

代わりに
男から零れ出たのは
酷く冷たく

無気力な言葉

「はあ?死神?
あんなのただの噂じゃ」

「・・・・・お前らの後ろにいる」

その言葉通り
振り替える間もなく

「久しぶり、ハンク」

彼らの横を
銀髪の獣人が
通り過ぎていった。

「なっ」「どこから」
「い、いつの間に」

驚き声を上げる男たちに対して

「・・・・・・・」

ハンクは黙って、
その女をただ見ていた。

「良い子にしてた?」
「・・・・・・・・」

まるで
久しぶりに会った
親戚の子供を相手にしているような
死神


「お、お前一体!」

男たちはそんな彼女に
魔導銃を向けるが

「お前ら全員武器を下した方が」

そう言い切る前に

「は?何だよ、こんな女一人に」

その銃身は
喧しい騒音を奏でながら

真っ二つになって
地面を転がった。

「・・・・・・・・」

思わず声を失う
男たち

「ハンクの友達?」

「ああ」

ハンクは
彼女に言われたことは
全てうそ偽りなく
答えてしまう。

「・・・・」

そんな彼が気に入らずとも
周りの男たちは納得する他なかった。

これがいる限り
何をしても無駄だと

「これ、全部違法」

「う、うるせえ、もう法律なんて関係」

「・・・確かにそうかもしれない
でも、それじゃあ」

いつ抜いたのか
その場の誰にも見えなかった。

いつの間にか
放たれていた刃が
口を開いた男の顔へと向けられる。

「私にもその縛りはない」

その一言で十分だった。

男たちは金縛りにでもあったかのように
ピクリとも動くことが出来なくなった。

「私ももう革命軍だし、
騎士はやめちゃった。

だけど、また皆を困らせる様なら
私も容赦しない。

それだけは覚えといて」

「・・・・・・・」

それだけを言い残し、
彼女は跳んでいく。

視界の先で
点になって見えなくなるぐらいまで
一つ跳びで跳んでいき、

死神はどこかへと消えていった。


そんな彼女が向かった先の
線路の中に一両だけ

ぽつんと佇む
オンボロ列車の中では

「「「「・・・・・」」」」

十人の、五から十代前半ぐらいの子供と
四人の二十代、十代後半ぐらいの若者が

座席をどうするかに
頭を悩ませていた。

「こんなに乗って・・・
大丈夫かな・・・・」

皆、一様に、顔に無を浮かべる
人形たちに見つめられながら

エマはそう呟く。

「「「「・・・・・・」」」」」

瞬きするだけで
本当に人形と変わらない
その子らにずっと見られていると

どうにも不気味で仕方がない。

(・・・・・どこ座ろう)

このオンボロ列車にある座席は
対面するように置かれた
長椅子二つのみ

一応、七人、七人で
ギリギリ座れるのだが

あの子供たちの横に
座ることになってしまうというのが
どうしても気になってしまう。

「皆、良い子たちですよ?」

両隣を子供たちに挟まれている
イブはそう言うのだが

「そういう問題じゃないと言うか・・・」

「ずっと立ってると疲れますよ?
私の席と代わりますか?」

「いや、問題解決してないし・・・」

どうも
何が嫌なのか
よくわかっていないらしい。

「でも・・私たちが座って
エマさんが立つのはちょっとおかしいですよね・・・」

「いや、良いよ
僕は地面に座ってるから」

「それはちょっと」

「いや、大丈夫だって」

そんな問答を少し繰り返した末、

「・・・・・・・・・・・」

「「「「「「・・・・・・」」」」」」」

なぜかエマは一番真ん中に
座ることになってしまった。

もちろん、
彼女の両隣には
五、六歳ほどの少年少女のカイジン、

向かいは
一回戦ったこともある
イブ、アダム、レアだ。

(・・・・すっごい見てくるんだけど・・・)

「皆?あんまりじろじろ見たら駄目よ?」

そう言われると
視線を外してくれるような
素直な子達ではあるようだが

その様子も
灯台から放たれるサーチライトのように
妙に規則的で

気持ち悪さに磨きがかかっている。

「・・・・・僕も天井で待てば良かった」

エマが見上げた先、
そこにも
一人カイジンがいる。

その男が遠くを見ていた。

少し人里を離れた
線路だけを通すために切り開かれた
森の一本道

「・・・・・」

そのど真ん中に鎮座する
列車の上に座り、

男は周りの森を見ていた。


何もないように見える。
いや、何もないのだろう。

その目は風に揺れる葉の動きを
追い続けている。


そんな彼の方へ
何度か轟音が響き、
木々の揺れが激しくなったかと思えば、

「ここで良いの?」

突然、何の前触れもなく
聞き覚えのある声が

彼の耳に響いた。

「ああ」

既に隣に立っていたリリーに
ルーカスは一瞥もくれることなく

森を見続けている。

さっきの音も
彼女がここにいるのも

何も驚くような事じゃないと
言わんばかり

「私も居ていい?」

リリーも
数キロ先にある都市から
跳んで来た割には

散歩でも行ってきたみたいな
雰囲気だ。

「・・・・好きにしろよ」





「やっと来た」

リリーが帰ってきたのを
感じ取るとエマは席を立ち、

運転席へと
歩を進める。

「・・・お二人はどういう関係なのでしょうか」

「さあ、二人はよくわかんないって」

手を振りながら
車掌席に座り、

何となくで覚えた
発車の手順を進めていく。

「あんな化け物にも
仲良い人居たのね」

「そんなこと言ったらダメですよ?
私たちだって似たようなものですし」


「んじゃあ、出発しま~す
お二人さん!大丈夫?」

運転席の窓から顔を出し、
足を頬り出して座る二人にエマが
そう声をかけると

「ああ」
「大丈夫」

二人が彼女の方を向き
軽く手を振りながら
行って良しと返事をした。

「はいはい、お二人でどうぞ
楽しんでくださいね~」

お邪魔にならないように
すぐに引っ込み、

レバーを前に倒す。

どこから、どうして、どうやって
鳴っているのか不明の列車の音

なぜか、車輪の隙間から
出てくる蒸気

全てがエマにとって謎だが動けばいい。
そこには興味がない。

「ま、二人が上なら
脱線とかの心配ないかな」

そうやってエマは
客室の方へと戻ってきた。

形だけでも
運転席にいるとか

そういうことは
もうしないらしい。

何もしなくても
多分、上の二人が何とかするだろう。

「上のあいつら何してんだ?」

「随分な言いようだね・・・・
えっと・・アダム?」

「アンタもだいぶ馴れ馴れしいぞ」

「僕は誰に対してもこうなの」

睨みを利かせてくるアダムに
エマは自信満々にそう返す。


「上から変な音とかしないでしょうね
この子たちに聞かせたくないんだけど」

「サイッテー、クソカイジン!
助けてもらう立場のくせに
ほんと図々しい奴らだな」

口をとがらせてくるレアに対しても

胸の辺りで腕を組みながら
エマは顔をしかめて
応戦した。

そんな様子を見かねて

「すいません本当に」

イブが両隣の頭を掴み、

「う」「ぐ」

無理やり
三人で謝った。

「いやまあ、
僕は人のこと言えないから
別にいいけど」

「本当に申し訳ありません。
ほら、二人も」

二人の頭を強引に動かすイブ、

「す、すいません」「ごめんなさい」

「いや、いいって別に」

反抗的な態度を隠さない二人に対して
イブは一切の敵意を見せたくなさそうだ。

「い、イブ姉・・・」「か、髪抜ける」

「あ、ごめんなさい」

思わず
弟と妹の髪を
引っこ抜いてしまいそうになるほど必死らしい。


「・・・・あの二人は多分、
肩並べて隣で座ったまんまじゃない?

たまに喋ってるんだけど、
大体はあのままだと思う」

「「・・・・・・」」

そんなエマの言葉の通り、
二人は並んで基本

座っているだけだった。


「ねえ」

「何だ」

「・・・・実証って何?」

「半日経ってるのによく覚えてたな」

「ずっと気になってた」

「証拠自体のことか、証拠を使って証明すること」

「・・・・・・?」

「無理して覚えなくていい」

「・・・・そう?」

(・・・・・・リリーはこうやって
馬鹿になったのか?)

「えっとな・・・・・例えば・・・・」

そんな会話をたまにするぐらいで
至って静かだ。

加えて、
二人が上にいるならば、
何らかしらの外敵が来たところで
乗員が気づく前に

その問題は消えて無くなっているだろう。


「はあ・・・」

そんな強力な監視塔を
付けた列車の車掌は
上を見ながら唐突にため息を漏らす。

呆れているような
甘酸っぱいような

そんなため息が
列車の天井目掛けて
放たれた。

「・・・やっぱり代わります?」

「体の問題じゃない・・・いや、何でもない」

「そうですか・・・」

この類の心配事は
人が簡単に踏み入れるものではない。

それぐらいは
イブでも察せられたようだ。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

天使様の愛し子

BL / 連載中 24h.ポイント:1,391pt お気に入り:5,971

こころ・ぽかぽか 〜お金以外の僕の価値〜

BL / 連載中 24h.ポイント:660pt お気に入り:795

捨てられΩはどう生きる?

BL / 完結 24h.ポイント:3,095pt お気に入り:190

アルファポリスで閲覧者数を増やすための豆プラン

エッセイ・ノンフィクション / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:11

元カノ幼馴染に別れを告げたらヤンデレになっていた

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:2

異世界に転生したと思ったら、男女比がバグった地球っぽい!?

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:569pt お気に入り:5

君といた夏

ライト文芸 / 完結 24h.ポイント:284pt お気に入り:98

処理中です...