evil tale

明間アキラ

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第六章「同類」 ー中央都市編ー

第百十二話「闘争は続く:中編」

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アダムが前に出る。

その拳で
眼前のルーカスを粉砕しようと
高い位置で構え、

彼の方へ踏み込んできた。

にぃと口角を上げ
ルーカスはそれに応える。

彼も同じような構えを取って
前に出た。

先手を取ったのは
ルーカスだ。

彼よりも速く
己の右拳を彼に振りぬく。

それが
当たることはなく
アダムの髪をかすめる程度にしかならなかった。

めげずに
ルーカスは攻撃を続ける。

左右
左右
左右

最初は躱していた
アダムだったが
段々と拳が髪をちぎり、
頬をかすめるようになってしまう。

そうなって
彼は頭を腕で覆い守り始めた。

(速いッ!)

苦い顔を浮かべて
守りに回ったアダム、

それを見た
ルーカスは笑顔を浮かべて
防御の上から叩き続けた。

アダムの腕に嫌な紫色が浮かび
腕そのものがひしゃげ、曲がり始める。

それが
面白いのか
楽しいのか

ルーカスは笑顔で夢中に叩き続けた。

(・・・・・・・・・・)

反撃のそぶりを見せない
アダムをルーカスの拳が襲う。

打たれるたびに
体が揺れ、後ろに下がらされる。


そうやって
ただ打たれていたはずのアダム、

襲い来る左拳
そこでアダムが一歩引いた。

単純に殴り過ぎたのだろう。

動きを読み、
距離を取った彼は
右足でルーカスの左足を蹴りつけた。

前に出ていた足を蹴られ、
ルーカスの態勢は崩れてしまった。

(今!)

ここぞとアダムは踏み込み、
彼の腕を持つ。

懐に入り込むと

「そらぁ!」

雄たけびと共に
背負い投げた。

練度の高い動きに
ルーカスはまんまと投げられ、
背中から地面に落ちてしまう。

「ぐっ!」

叩きつけられた
ルーカスは口から血を吐きながらも
笑顔のままだ。

しかし、更に彼へ襲い来るものが一つ、

アダム自身は手を離し、距離を取っていた。
普通なら
こうやって投げた後は
追撃をするものだが
彼はそれをしなかった。

腕の傷の回復もあるのだろう。

ただそれ以上に
今、上空から降ってきている
彼女に任せた方がいいと判断したのだ。

彼が投げられたから
数舜後、

空からオレンジ色の飛来物が
ルーカスの腹へ直撃した。

「ぐはぁ!」

いつの間にか跳びあっていた
レアが真っ逆さまに落ちてきて
彼の腹を踏み砕いたのだ。

彼の下の地面が
大きくひび割れ、へこんでいく。

衝撃は彼の全身をめぐる。

が、それぐらいで
目の前の狂った笑みの男が死ぬとは思えないと

レアはもう一度そこから跳びあがった。

雲にすら届く勢いで
跳んだ彼女は
その身に重力の恩恵を受け
彼の方へ降り落ちていく。

しかし、あまりに安直だと言ってのけた
彼がそんなただの自由落下を咎めないはずはなく、

彼はレアが降ってくる瞬間
寝た態勢のまま
腕を上へ突き出した。

しっかりと
同じ場所目掛けて
落ちて来たレアのその右足を彼は難なく掴み受け止め、

「なっ!!」

嘲るように笑うと
彼女を床に叩きつけた。

降ってきた衝撃が緩和されたわけではない。
受け止める場所が腹から手に変わっただけだ。

普通なら腕ごと全身が砕けるだけのはずが
彼は片手で受け止めキリ、
更には掴んで叩きつけた。

そんな彼女に覆いかぶさろうと
動き始めるが

そこへまた横槍が入る。

アダムの蹴りだ。

ボールでも蹴るかのような
蹴りがルーカスの頭を捉え、

彼はそれに押され、
立ち上がってしまう。

そこへ
凄まじい速度で起き上がってきたレアが
突進にも似た肘打ちで追撃を仕掛けた。

肘鉄は
狙った通り脇腹に突き刺さり、
更に彼は後ろへよろける。

二度とないかもしれない好機


二人は一気に畳み掛けようと
前へ出た。

二人による拳の雨がルーカスを襲う。

今度は彼が守りの番だ。

両腕で頭を覆い
それ以外の部分はすべて捨てる。

直線的なレアの拳
隙のない連撃で
確実に痛めつけてくるアダム

(痛え)

腕の隙間から
彼の黒い瞳が垣間見える。

打たれ続け、
後ろへ下がり続けながら

冷静に観察し、

「・・・・・・・・・・・」

二人の攻撃が
同じタイミングで来た瞬間、

それを避けた。

タイミングが同じ以上
体ごと横に移動すれば
当たることはない。

アダムの側面に回り、
固く握った拳で

「お返しだ」

殴りつけた。

その拳が顔面に当たった衝撃は
アダムを宙に浮かせ、
後ろにいたレアを押し、
後ろへ吹き飛ばす。

「ぶっ」
「な」

瓦礫の中へと
飛んでいった二人

ルーカスは
それに無理な追撃はせず、
腕の回復をしながら佇んで、
二人が飛んでいった方を見つめている。

「はぁ・・・はぁ・・・
ははは、いいなぁ」

息は荒い
苦しい

なのに
楽しい。

「殴るのは楽しい」

笑顔が自然に湧いてくる。
上がる口角を抑えたくない。

「まあ、まだ来るよな」

そんな彼の元へ
今にも泣きそうな顔で
怒りをあらわにしながら
レアが突っ込んで来た。

胸が躍る。

楽しい
楽しい
楽しい

足が勝手に動き出す。

追いつくのも面倒になるぐらい
速かったはずのレアへ
体が勝手に向かいだした。

「ッ!?」

もう止まれない
レアの直進を真っ向から
ルーカスが迎えに行く。

彼女にとっては初めての体験
動きを見切られたことはあっても
正面から来られるなんて
これが初めてだ。

苦し紛れに
拳を前に出すが
走りながら止まらずに
打つ拳など
手打ちも手打ち

軽く遅いその打撃が
彼に届く前に
ルーカスは再び
その顔へ手を伸ばす。

彼の右手は
頭蓋を握りつぶす勢いで
頭を握りこみ持ち上げた。

そして、
そのまま前へと進み、

瓦礫に叩きつけた。

もろく崩れた
廃墟の壁は簡単に壊れる。

そこから
彼は彼女の顔で
壁を雑巾がけでもするかのように
走り回り、引きずりまわしていった。

彼女の抵抗力なら
大したダメージもならないだろう。

ただ、そんなこと今の彼にはどうでもよかった。

見える限りの壁を壊すと、
今度は彼女を地面に叩きつけた。

顔は手で隠れて見えないが
それもはもう必死で
彼の手を掴むも
彼は止まらない。

玩具で遊ぶ子供の様に
ルーカスはレアを持ち上げ
振り回し、床に叩きつけている。

それを見て、
我慢ならない者がいた。

そいつが彼の後ろから
怒り心頭で駆けつけてくる。

それが来た瞬間、
彼はレアから手を離した。

そして
斜め後ろから近寄ってきていた
アダムに向かい、回し蹴りを放った。

彼が咄嗟に後ろに下がって
回避したところへ

ルーカスは更に左拳を大きく振り回し
畳み掛ける。

大ぶりな攻撃
最初は焦ったがちゃんと対処すれば
避けるのは造作もない。

横なぎの攻撃から
反動をつけて
ルーカスの体が戻って来る。

(今!)

アダムはそこから
動き出した。

彼の軌道を
大振りの右拳
だと判断

自身の頭を少しだけ動かし
彼の頭のある位置へ右拳を放つ。

まっすぐな右拳

それが当たることはなかった。

まず、そもそも
ルーカスがとった行動は
右の大振りではなく、
上半身を左斜め前に
屈ませることだったのだ。

(なっ!?)

さっきまで
自身の姉を嬉々として
痛めつける狂人だったはずが

今はどうだ。

(ダッキング!?)

避けた体は懐へ
潜り込んでいる。

振られた右は
もう戻せそうもない。

先にルーカスが動く。

アダムが右膝で押すよりも速く
最短で左拳が下から
その顎をかち上げた。

(ーーーーーーーーーーー)

キィィイイィィン

脳が揺れる。
甲高い音が頭の中で響き、
思考が痛みで封じられる。

「・・・・・ッ!」

咄嗟に右手を挟もうとしたが
もう遅かった。

彼の眼前には
赤い管の浮かび上がった
右拳

それは抵抗する間もなく
彼の顔面を叩き潰し、

一瞬意識の飛んでいた
アダムを殴り飛ばした。

力なく空中へ放り出される体は
数メートル後ろへ飛んだあと

廃墟の壁を突き破って
土煙を上げた。

「ふぅ・・・・・」

ニヤつきながら
深く息を吐いた彼は
突如、後ろに跳び、
起き上がろうとしていた
彼女の背中を上から踏みつぶした。

「ぐぁッ!」
「今度は俺の番だな」

また少し跳んで
上から踏み、
地面に降りて
頭を蹴り飛ばす。

レアの細い体が
ごろごろと転がる。

それを再び踏んで止めて

「俺たちみたいな奴は
どうやったら死ぬんだろうな」

「・・・なあ、アダム」

朦朧とした意識の中
立ち上がってきたアダムに向かってそう言った。

「気安く・・・・呼んでんじゃねえ」

アダムは
呼気を荒くして
そう言い返す。

「足を・・・・どけろ」

「聞く義理は」

そう言いかけた時、
レアの背中から
オレンジ色の触手が飛び出して来る。

自分たちを踏みつける
その足をちぎり取ろうと絡みついてくるが

「ないな!」

高速で足を振り、
それを払うと、
レアを蹴り飛ばし、
アダムの方へ渡した。

「・・・・ごめん」

力のない
か細い声で謝るレア

「謝んないでくれ」

アダムの返事にも
力がない。

傷は治りつつある。

だが
明確に二人には
疲労が見て取れていた。

「一、二、三、四、五・・五本か
両立できるんだな
その形態」

指をさして
触手の数を数えるルーカス

「・・・・・」
「・・・・・・」

余裕のある笑みを浮かべる
彼に二人の視線が突き刺さる。

「どうした?
まだやれるだろ?」

手で挑発する彼を前にして
動けない二人

場が一瞬膠着したものの、
ルーカスはすぐさま手を下し、

前へ出て行く。

また
カイジンたちがぶつかる。

そう思った時、
ルーカスの前に霧が沸いて出た。

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