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第六章「同類」 ー中央都市編ー
第百七話「消失」
しおりを挟むあれから
また数日、
ルーカスとエマはカイジンの能力について
研究を重ねていった。
あの事故でわかったように
触手には痛覚が通っていて、
根元から切ってもまた生えてくるが、
根元より深く背中の肉事
削りとっても変わりはなかった。
「そ、そこまでやらなくていいよぉ!」
とエマが涙目で止める中、
ルーカスが自分の背中をえぐりっても
全く変わりなく、
えぐり取った部分ごと再生した。
「・・・一応、試してみるか?」
「やるわけないだろ!」
また、エマに限った話ではあるが、
彼女に管が浮かび上がることは
全くなかった。
触手を何度も出しているのだが
生え際である
背中の辺りですら
薄い管の一本すら見えてこない。
「・・・・・・・・」
「さ、触ったら駄目だかんな!」
「何もないな」
背中の服をめくりあげて
ルーカスが直で確認したから間違いないだろう。
「・・・・・・・・・どうした?」
「・・・・それはそれで傷つくんだけど・・・」
「・・・はぁ?」
「はぁって言うな
別にかっこよくないぞ」
「?・・・あ、ああ」
体をバラバラにしたら
何か手掛かりがあるのではないかという
発想にもいたり、
「そんなに体張らなくても」
「俺も気になる」
「それで死んだらどうする気だよ」
「前もバラバラになったことはあるから大丈夫だろ」
そう言って、
体の内部に熱を溜めていく。
「離れといたほうがいい」
「え?そんなにあっさりやるの?!」
エマが距離を取ってから
ルーカスの体は
中から赤く光り出し、弾け飛んだ。
「うぇ」
その光景のあまりの凄惨さに
エマは胃の中の全てが飛び出そうになっていた。
血なのか、臓物なのか
それとも別の何かなのか
辺りが真っ赤になり、
惨たらしいこと
この上なく
「・・・・・・・・」
齢18になったばかりの
少女なりにその中を見てみるが、
(むごいだけなんだけど・・・・っていうか大丈夫!?
死んでない!?)
ただの惨い自殺現場でしかなく、
観察よりも心配が勝ってしまう。
そんな中、
突如、その肉塊たちが蠢きだし、
周りの木や土も巻き込んで、
血肉の竜巻を起こすと
それが集まり
球になり、
その中から
「ふぅ」
服も何もかも
元通りの
ルーカスが現れた。
「何かわかったか?」
「・・・・お゛ぇ」
結局、エマによると
「気持ち悪くなっちゃって
よくわかんなかった」
らしく、あまり参考にはならなかった。
他にも
ルーカスの赤い状態と同じようなことができるのか
触手の数は増やせるのか
捨てたり、渡したりという
行為はもちろん
そういった他の行動も試してはみたが
どれも出来ず、
何もわからない状態が続いていた。
いつも、午前中にそういう研究をして、
昼食を食べてからは
ゆっくり休む。
そういう生活を繰り返し、
何も成果がなかったものにも関わらず、
「ふんふふんふ~ん」
エマから鼻歌が飛び出していた。
「機嫌良いんだな」
もうルーカスへの抵抗感も薄まり、
慣れてきたようだ。
二人は倒木の上に
並んで座っている。
手と手が触れそうな至近距離、
いや、仮に触れたとしても
嫌な気はしていないらしい。
「ん?まあね、えへへへへ」
彼に話しかけられて
エマはそうやって楽し気に微笑んでいた。
「ねえねえ、ルーカスって何歳?」
「18」
「え!?
同い年じゃん!」
エマはそう言って喜びを露にし
「・・・へえ」
ルーカスはそれだけ言う
そっけなく
興味もあまりないのだろう。
「もっと喜べよぉ」
「歳が一緒ってそんなにうれしいのか?」
「そういうものじゃない?」
「へえ」
普通なら
歳が同じというだけで
それなりに親近感はあるものだ。
学校の同級生が壊れていなくて
十歳から大人にいびられていなければ
「学院には行ってないんだっけ」
「ないよ」
「君らが勝ったら
クラス0の扱いって
変わるのかな」
「・・・・さあ」
「さあって、君、この戦いが終わったらどうするつもりなの?」
「・・・・・考えてない」
「リリーと一緒に暮らすの?」
「なんでそうなるんだ」
「一週間ぐらい一緒にいるけど
君たちで恋人じゃないの不思議だよ?」
「またその話か・・・・別にあれ以来普通だろ」
「いや、なんかこう・・・・これってやつはないんだけど
距離感がさあ」
「・・・・・・人には色々あるってことじゃないか?」
「そうかなぁ」
エマがそう見てしまうのか
ルーカスたちが普通と言い張っているだけなのか
ただ、どっちであっても
乙女の連想は止まらない。
「リリーは戦いの後どうするんだろ」
「それこそ知らないな」
「リリーって何歳なの?」
「・・・・26だったか」
「結構上だね
何やってた人なの?」
「粛清騎士らしい」
「ええ~、確かにそれっぽいけど
粛清騎士が革命軍にいるの?」
「ああ」
「その時から・・・知り合いなわけないか」
「クラス0がああいうエリートと
関係があるわけないだろ」
「だよね
・・・・っていうか
それなら、あの人って結構お金あるのかな」
「さあ」
「だとしたら、ルーカスも生活できるんじゃない?」
そうエマが言ったのに
「何の話だ」
「何の話?」
二人の返事が聞こえた。
「あ、お帰り」
「ただいま」
リリーが後ろにいたようだ。
いつの間にか帰ってきていたらしい。
「ねえねえ、リリーって粛清騎士だったんでしょ?」
「うん」
「どれぐらい貰ってたの?」
「月?ええっと・・・・」
(言うのかよ)
リリーは
「1000オルぐらい・・だっけ」
何のためらいもなくそう話す。
「ぶっ」
その金額の規模に思わずルーカスは吹き出してしまった・
ルーカスの強制労働時代、
貰っていた月給は
1オルにすら満たない
300アルだ。
20アルで買える缶詰を贅沢品としていた
ルーカスにとっては1オルですら大金、
彼にはその金で
どんな暮らしができるのか想像すらついていない。
「自分で聞いといてなんだけど
あっさり言うね」
「?」
不思議そうな顔のリリーを置いて、
金額の大きさを何とか理解しようとする
ルーカスにエマが口を近づけ、
「めっちゃ稼いでるじゃん
君ぐらいの一人や二人
軽く養ってもらえるかもよ?」
そう耳打ちした。
「二人で何を話してるの?」
「君たち二人の将来?」
「な、何を」
そういう話題は苦手なのか
その逆なのか、
そうとわかった途端
リリーの顔が少し赤くなる。
「結構、お金は貯まってるんじゃない?」
「わかんない・・・・前、通帳を見た時は・・・いくらだっけ
6万オル以上はあったような」
恐らくその預金だけで
ルーカスと暮らすぐらいなら
簡単である。
あと、20年ぐらいは安泰だろう。
「まあ、あんだけ危険な仕事してたら
それぐらい欲しいよね」
「・・・・」
(ダメだな
想像もできない)
「君なら
ルーカスぐらい軽く食わせられるね」
「ま、またそういう話?」
「ほら、君の・・なんだ?
彼氏じゃないなら弟子?
内弟子とかに取ってあげたら?
あの人、行くところないみたいだし」
そう言いながら
エマはリリーの方へ近寄り、
その肩に触れながら
彼の方を指さす。
「・・・・・真に受けなくていい」
ルーカスはそう言うが、
「・・・・別にいいよ?
ルーカスがそうしたいなら」
リリーの答えはこうだった。
エマはそれを聞いて
嬉しそうにニヤニヤと笑い、
「いいじゃん、いいじゃん」
そう呟く。
「ほんと、楽しそうだな」
「えへへへ、ちょっと現実的過ぎるけど
こういう話、友達としてみたかったんだあ」
「・・・あっそう」
そんな風に過ごしていた数日、
突如として
その日常は崩れていく。
「・・・・・・」
やけに静かな朝、
ルーカスが目覚めて感じたのは
明確な違和感
「エマ?」
体を起こし、
周りを見る。
「・・・どうした・・・」
その声に起きたリリーも思わず
彼と同じ方を見た。
「いない」
まるで
彼女との会話が
その笑顔が
すべて夢だったとも言わんばかりに
その部屋には
二人しか居なかった。
エマが居なかった。
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