evil tale

明間アキラ

文字の大きさ
上 下
134 / 235
第六章「同類」 ー中央都市編ー

第百六話「女の子」

しおりを挟む
「ただいま」

リリーが小屋に帰って来た。

「・・・お帰り」

まだエマは眠ったままで
ルーカスはそんな彼女の横に座り、
その様子を見守っていた。

「なんかあったのか?」
「ん?」
「列車が通ったろ」
「ああ、中央都市に行ってた人が帰ってきたみたい」
「なるほど」

そんな風に話していると、

「んん・・・」

エマが目を覚ました。

「・・・・あ」

しばらく、無言で天井を見つめていたが、
自分の足や股座の濡れた感覚に気づいて、

「ひぐっ・・・・・
な゛んて゛ぼくが
こん゛な目に・・・」

起き上がり、
三角座りで
泣き始めてしまった。

「・・・・・悪かったな」

「い゛だいよぉ゛
ま゛だジンジンするよぉ」

足の間から
くぐもった声を響かせている。

「・・・・ごめん」

流石に可哀そうに思ったのか
思わずルーカスの口からも謝罪が漏れ出し、
エマは涙を流し続けた。

しばらく泣いた後、

「・・・はぁ」

泣き止んだエマは大きくため息を吐き、

「・・・・カイジンも解けてないし・・・
ズボンは汚れるし・・・・最悪だ」

そう呟く。

「一応、勝手に血とか汗とか
勝手に吸収して、分解するらしいから」

「そいう問題じゃない!」

そんな風に
エマに慰めにもならないと一蹴されると、

「・・・はい」

ルーカスも
はいと言うしかない。

「はぁ・・・切ってもダメかぁ・・・
痛い思いまでしたのになぁ・・・」

「・・・・手、見せてくれ」
「・・どうしたの?」

エマは涙にぬれた顔を彼の方へ向けながら
手を差し出す。

「確認しときたい」

彼女の手は変わらず
色白のままだった。

血管の色も人の物
新しい管が出来ている様子もない。

「・・・・まだ大丈夫だな」
「君に近づいていないってこと?」
「ああ」

「はぁ」

それを聞いて、
思わず息を漏らし、

「唯一いいこと?なのかな・・」

そう言った。

そして、
「もう一回する」
もう一度立ち上がり、
小屋の外へ行こうとする。

「・・・・ああ、頑張れ」

そんな彼女を
そうやって冷たく見送ろうとする彼の手を

「君は僕を手伝うんだよ!」

彼女は
それが当然と言わんばかりの態度で
引っ張り、連れていこうとした。

「・・・・居ても変わらんだろ」
「居ないと何すればいいか
わかんないもん!」
「・・・わかった」

引っ張られても
微動だにしなかった体が起き上がり、

「行こ?」
そう言う彼女の後ろをついて行く。


「・・・・・いい子だと思うんだけど」

蚊帳の外といった感じの
リリーはひとまず
彼らに続いて外へ出て、
木の上から二人を眺めることにした。


「どうすればいい?」

わからないことを
顔から雰囲気から
堂々と露にし、
彼女はそう言う。

「・・・力の扱いに慣れる・・・しかないだろ」

「ええ~」
「それ以外にやれることがわからん。」

「・・・・・むぅ」

不満げに頬を膨らませながら
エマは背中から触手を出す。

大蛇の尾のような黒い一本の触手が
うねうねと揺らめきながら
彼女の背から出てきている。

「すんなり出たな」

さっきとは違い、
あっさりと飛び出してきたそいつは

地面に垂れさがるわけではなく、
勝手に動き回っていた。

「・・・・改めて見ると気持ち悪いね」

自分の背から出てきたそいつを見て
エマはそう呟く。

何となく触ってみると、
固いゴムような感触が
手に広がった。

「すぐ慣れる」

「・・・・触手出しても
管でないんだね」

エマは触手を出しても
その肌に管が浮かび上がってくることはない。

「あんたはそうみたいだな」

「・・・ふぅ、なぁんだ
じゃあ・・・いや、良くない
さっさと切り離すには越したことないぞ」

「・・・・・」
(あの後、何があったんだろう・・・)

自分と比べて
様子の異なるエマを見て、
もう一度自分の過去を思い返そうとする
ルーカス、

「・・・・・・」
彼が呆然と空を眺めている間

「案外自由に動くね」

エマは自分の意のままに動く
触手の感覚に驚いていた。

尻尾があるってどんな気分なんだろう

獣人を見て、
いつも胸に会った素朴な疑問が今
解消されたような気がして、

触手を動かしながら
生え際を視界にとらえようと
エマはぐるぐる回り出した。

元々、運動神経も悪い上に
慣れない動作、慣れない感覚の中、
動き回った彼女は、

「うわ!」
足をもつれさせて
尻もちをついて転んでしまう。

「いて」
ただ、そんなことを一人でしている間も
ルーカスは空を見ていた。

「ねえ~、どうしたんだよ」

そう直接呼びかけて
初めてルーカスは
現実に帰ってきたようだ。

「・・・何でもない
普通に動かせるか?」

空に向いていた黒目が
エマの方へ戻って来る。

「うん。なんか腕みたい」
「だろ」
「これを切れって言ったの
今になったら恐ろしいね」

自分の手足を動かすように動き
神経の通ったそれを傷つけるなんてことは
今になれば
恐ろしくてできたものではない。

「おお~、もしかすると便利かも」

どんどんと伸びていく触手、
五メートルほど距離を取っていた
ルーカスの元へ触手は伸び、

「・・・・・・」
「えい」

彼女の意志に基づいて、
額をつついた。

「・・・・・」
「えいえい」

触手の先が
更に彼の額に触れる。

「はは、なんか
ゴム手袋で触ってるみたい
変な感じ」

その感触が新鮮で面白いのか
エマは触るのをやめようとしない。

「へへへ」

「・・・・楽しいか?」

「へ、変なこと言うのやめて!
すぐに捨てるんだから!」

その彼女の叫びに呼応するように
触手もピンと立ち、
指をさすように
ルーカスの方を触手の先で
指し示していた。

「・・・・・・ああ、そうだな」

「もう」

頬を膨らますエマ、
一方、触手は彼女の周りに丸まり、
その先はまだ彼を指し続けている。

「・・・・・後は」

唐突にそう呟き、
目をつぶるルーカス、

その瞬間、
彼から地面をも溶かす熱と
木々を揺らす突風が起こった。

「うわっ!」

管と角が明るい赤で染まり、
彼はゆっくりと目を開き、

「これはできるか?」

そう聞いた。


「そ、それって必要なのかい!??」
「確認だ」

座り込んだままだったので、
風圧で後ろへ三回転してしまった
体を立て直しながら

「ど、どうやるの?」

エマはそう問い返す。

「・・・ふざけんなって思いながら
地面を踏みつける感じ」

「な、なにそれ?!」

「怒りながら
暴れようとしたら
なると思うけど」

「・・・・・・・」

彼の雑なアドバイスに顔をしかめがらも

「ふ、ふざけんな!」

エマは立ち上がり、
思いっ切り、
地面を踏みつける。

予想外の力、
地面にひびが入り、
大地が揺れる。

だが、

「ぃたぃ」

それと同時に
エマの足から鈍い音が鳴った。

「痛いよぉ」

地面を踏みつけたはずの足が
地面から帰ってきた衝撃を吸収できずに
折れてしまったらしい。

「・・・・・大丈夫か?」
「痛い゛ぃ~」

そう叫びながらエマはのたうち回っている。

次第に骨は元通りになるが
痛みはそのままだ。
痛いことに変わりはない。


「もう三日ぐらい
こんなことばっかなんだけど・・・」

痛みが収まるまで
数分ほど騒いだ後、
エマはまた三角座りで
いじけていた。

「・・・ごめん」
「君すぐ謝るよね」

何となく謝った方がいい気がして
そうしてしまった彼にエマが突っかかる。

「・・・・悪い」
「それ、心こもってないでしょ」
「・・・・悪い」
「ふざけてる?」
「・・・悪い」
「ふざけてるよねえ?!」
「・・・・悪い」

「それ止めて!」

また頬を膨らませて
少し怒りながら
悪いの連呼を咎めた。

「・・・・・・・・・・」

「ま、まず君のせいじゃないから謝る必要ないし!
そんな心こもってないこと言われても嬉しくないし!」

「・・・元気だな、あんた」

「あんた呼びもやめよう?
僕にはエマ・オリエって名前があるんだから!
エマちゃんでいいよ!」

その彼女の顔は
屈託のない笑顔

ころころと入れ替わり、
忙しいことこの上ない
彼女の表情は
明るい笑顔で彼にそう呼びかける。

「・・・いい」
「なんで!?」
「・・・・・・」

答えにくい。
(なんか嫌なんだよ)
彼が自分でわかる理由はそれでしかないのだ。
ちゃんづけで人を呼べない。
そんな距離感で接することができない。怖い。

「いいじゃん!
僕みんなにエマちゃんて呼ばれてるし
可愛い女の子なんだから
ちゃん付けで呼んでも恥ずかしくないよ?」」

頬を指でぐりぐりと押したりして、
何かアピールされても

「・・・・・いい」

彼の反応は芳しくなかった。

「頑なだなぁ
その方が距離も縮まるよ?
あ」

だが、エマは何か気づいた様子で
彼の耳元へ近づき

「もしかして、あの人の前だと
こういうのまずい?」

リリーをちらちらと見ながら
そう囁いた。


「・・・・」
勘違いも甚だしいと思い、

「何を気にしてるのかは知らんが
俺とリリーは特別な仲じゃない。
変なことするのは
あいつがおかしいだけだ」

ルーカスはそう弁明する。
普通の声で、もちろんリリーにも届きうる音量で


「酷いこと言うね
まあ、確かにリリーは面倒は良いけど変だよね」

エマもそれを見てか
普通に喋ってしまった。

「・・・そう、なんだ・・・ごめん」

そうなれば、
リリーに聞こえるのは当然である。

表情筋は動かないものの
その声色は沈んでいた。

「いや、別に謝られるような事じゃないけど・・・
え?じゃあ、君ら、
本当に付き合ってない人の頭を撫でたり撫でられたりしてたの?」

「・・・・ごめんなさい」

リリーの体が
器用に木の上で縮こまっていく

「いや、別に責めてるわけじゃないって
っていうか、彼女が落ち込んでるぞ!」

「だから、そういう仲じゃないって」

「じゃあ、これから?」
「・・・・ないだろ」

ルーカスが否定するたび、

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

リリーの周りの空気が重たくなっている
ような気がしてくる。

「おい、あれ、落ち込んでない?」
「いっつも、あんな感じだろ」

そうは言うものの、
一度も彼女の方を向かないのだから
彼の言葉に説得力はない。

「・・ち、違うから、私たちはそういうのじゃないから」

「・・・ふぅ~ん・・・まあ、いいけど」

そっぽを向いてしまったリリーの顔を追いながら訝しむ
エマに
「・・・・この後どうする?」
彼はそう聞いた。

「今日はもうしない!」
「そうか」
元気のよい彼女の返事を聞いたルーカスは
立ち上がり、その場を去ろうとする。

が、
「駄目!」
エマは彼の手を引っ張り、
横に引き戻す。

「リリーのことどう思ってんの?」
「・・・・・・・・」

年頃の女子らしく
恋バナが好きらしいエマは
その後、カイジンがどうのといった話はそっちのけで

「ねえねえねえねえ」

鬱陶しく両者の口を割ろうとしてきた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

実はスライムって最強なんだよ?初期ステータスが低すぎてレベルアップが出来ないだけ…

小桃
ファンタジー
 商業高校へ通う女子高校生一条 遥は通学時に仔犬が車に轢かれそうになった所を助けようとして車に轢かれ死亡する。この行動に獣の神は心を打たれ、彼女を転生させようとする。遥は獣の神より転生を打診され5つの希望を叶えると言われたので、希望を伝える。 1.最強になれる種族 2.無限収納 3.変幻自在 4.並列思考 5.スキルコピー  5つの希望を叶えられ遥は新たな世界へ転生する、その姿はスライムだった…最強になる種族で転生したはずなのにスライムに…遥はスライムとしてどう生きていくのか?スライムに転生した少女の物語が始まるのであった。

家の庭にレアドロップダンジョンが生えた~神話級のアイテムを使って普通のダンジョンで無双します~

芦屋貴緒
ファンタジー
売れないイラストレーターである里見司(さとみつかさ)の家にダンジョンが生えた。 駆除業者も呼ぶことができない金欠ぶりに「ダンジョンで手に入れたものを売ればいいのでは?」と考え潜り始める。 だがそのダンジョンで手に入るアイテムは全て他人に譲渡できないものだったのだ。 彼が財宝を鑑定すると驚愕の事実が判明する。 経験値も金にもならないこのダンジョン。 しかし手に入るものは全て高ランクのダンジョンでも入手困難なレアアイテムばかり。 ――じゃあ、アイテムの力で強くなって普通のダンジョンで稼げばよくない?

錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。

いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成! この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。 戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。 これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。 彼の行く先は天国か?それとも...? 誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中! 現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

処理中です...