evil tale

明間アキラ

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第五章 「暗躍」 ー第二地区防衛編ー

第八十二話「共闘の後」

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ドロドロでオレンジ色の液体に覆われ、
酷く抉られた黒い大地が
二人の前に広がっている。

「スゲエ」
「だろ?」

青白い光が通った後には
その光景だけで何も残っていないように見えた。

もうあの化け物も全て消え去ったように見えた。

が、そのオレンジ色のドロドロから
人影が現れる。

ボロボロと肩から
黒い砂塵が落ち、
所々服が破けて、肌色がこぼれ出ている獣人。

「ア、忘れてた」

ルーカスは
後ろにリリーがいたことを完全に忘れていたようだ。

「・・・・・・・・・」

何か言いたげな視線が彼らに向く。

彼女は心底、不満そうな顔をしながら
自分の体についた粉塵を払っていた。

「まあ、問題なさそうだろ」
「ソウダナ」

しかし、それは彼女だけではなかった。

黒こげの大地に蠢く黒いドロドロがちらほら見える。

溶けた地面と混ざり合ってわかりづらいが、
蠢くそれは確かに黒色だ。

「・・・・あいつらも問題なさそうか」
「もう一発イクカ?」

そう言ってルーカスが再び構えようとした瞬間、
その液体たちは上へ吹きあがった。

まるで噴水のように打ちあがる黒の液体たち。

十メートル程度持ち浮き上がった水柱が
四つ出来上がり、それらは二人の方へ落ちてくる。

何のひねりもなく落ちるそれらを避けることは容易く
二人は後ろに下がって避けたのだが、
奇怪なことが起きた。

その水は地面で跳ねたのだ。

ボールが地面に当たるように
バウンドしたそれらは後ろに行った二人の方へ飛んでいく。

「ふん!」

ルーカスは構えた手から火を放ち、

「な!?」

それらを迎撃するが
黒い水たちはオレンジ色の光線を避けた。


ルーカスたちに向かって
円を描くような軌道で光線を避けて、近づき、
もう少しで黒い水がルーカスたちに当たりそうになる。

そこで、ルーカスは光線を止め、
床に向かって手を向けた。

手の内には再びオレンジ色の球体が現れ、
弾け、爆発する。

地面を抉るその爆発は
彼らを後ろへ運ぶ推進力となり、
勢いよく二人を飛ばしていく。

肩を掴んでいたテオをごと二人は地面から浮き、
迫る水たちから離れる。

「おお、すげえ」

その勢いは黒い水たちより速く、
後ろへ飛んでいく彼らに黒い水は追いつけず、
徐々に置いて行かれ、
気づけば、二人は黒い水から大きく距離を離すことができた。

「あれは・・・・・ナンダ?」

遠くの方であの黒い泥たちが
うねうねと蠢く。

「・・・・・・いよいよお前らが何なのか
わからなくなってきた」

「オレもだ」

そんな二人の元へ
リリーが跳んで来た。

彼らが作った黒いを一足で跳び越え、
ルーカスの眼前に現れ、右拳を彼へ突きだす。

「ちっ」

咄嗟に出されたルーカスの手の平は
金属が打たれたような音を出しながら、
その剛拳を受け止めた。

「・・・・・」
「これになるの何回目ダ?」

ギリギリと二人の力が拮抗し、
両社の踏み足がへこんでいく。

そこへ追い打つように
黒い泥たちが降り注いてきた。

「くっ」

ルーカスは自身の触手を使って
それらを受け止める。

先を逆さにした傘のようにすることで
泥を受け止められたが、

今にもそこから溢れ出し、
彼の方へ飛んできそうだ。

「失礼するぜ!」

そんな中、触手の隙間をくぐり、テオが前へ行く。

触手の隙間を跳び越え、通り抜けて
リリーの顔へ跳び蹴りを食らわせた。

「オラァ!」

横に振られた足がリリーの頭を打つ。

「・・・」

腕を握られた彼女は、
防御も出来ずに
蹴られ、後ろへよろける。

が、
(大したダメージにもならないか・・・)
蹴った感触としては
カスあたりだったらしい。

顔の半分は血だらけの彼女だが、
蹴られたことは大して気にも留めていない様子で
テオにその赤い目を向けていた。

「何でアンタとやらなきゃいけないんだよ」
「そ・・・れ・・は・・・・こっちの・・・セリフ」

黒い橋の下で二人は睨みあう。

一方、ルーカスは黒い泥たちと
力比べをしていた。

黒い泥一体につき、
触手一本をぶつけて
まとわりつかせて、拘束している。

だが、当然、泥たちは力の限りに暴れ、
その拘束から今にも逃れてしまいそうだ。

だから、彼は
「うおらっ!!」

触手を思いっきり後ろに振り回し、投げた。

四体の泥は道へ落ち、家を壊し、
辺りへ散らばる。

泥は散り散りになった先で
どんどんと集まっていき、
最後には四つの体へと戻っていった。

背中合わせで敵に向かい合うテオとルーカス

緊張が走り、
テオの首筋に冷たい汗が流れ落ちる。

今にも戦いの火ぶたが切って
落とされそうになっていた。

その中、まずルーカスが動き出す。
足が動き、周りが身構える。

だが、その足は前ではなく、
後ろへ向いていった。

後ろへ向き、
黒い手がテオに回される。

「はっ!?」

掴まれたテオは
その予想外の出来事に困惑するが、
それが覚める間もなく、

「ふん!」

投げられた。

「ちょっ!?」

その行動を咎めることすら出来ないままに
彼はさっきまで居た城塞の方向に飛ばされる。

丁度、その方向にいたリリーは何も反応せず、
頭上に彼が通り過ぎるのを黙って見ていた。

突如として放り出されたテオはそのまま
城のあたりまで飛ばされ、
この戦いの場からは去ることになった。

「ふぅ」

やり切ったように息を漏らすルーカスは
辺りに目を配る。


その頃、テオはアパートの壁を突き破り、
床に寝ていた。

「な、何すんだ、アイツ・・・・」

体から瓦礫を落としながら
ゆっくりと立ち上がる。

頭がこんがらがっているが
大した痛みはない。

「はぁ」

彼はため息をつき、
残った瓦礫を肩から払いながら
ルーカスがいる方を見る。

(大分遠くまで飛ばされたな)

「・・・・・俺じゃ役不足ってか?」

そう呟き、周りに目を向けた。

もういくつ壊したかわからない机と椅子。
ソファや暖炉はまだ無事なようだ。

使い古された絨毯には破片が散らばり、
床板にはひびが入っていて

「・・・・・・・・」

リビングだとおぼしき部屋の端には
赤い目の生気のない女と小さな子供が
立っていた。

焦点の合わない目で彼の方を見るが
特に何もしてこない。

「・・・邪魔して悪かったな」

彼はそう言って自分であけた穴を通って
地上へ帰っていく。

一度通った道に戻ってきた彼は

「・・・俺は俺にできることをやるか」

そう言い、前へ歩き出した。


一方、ルーカスは相変わらず周りを囲む
敵たちと視線を交わす。


「さあて、あんたらのアイテはオレダ。
全員まとめてカカッテ来いよ!」」

相も変わらず不敵な笑みを浮かべ、
気の向くままに構えを取る。

腕を下げ、指に力を入れながら
手を開く。

その動作に意味はない。
ただ彼は滾る気持ちのままに
体を動かしているだけだ。

「ドウシタァ?
さっさと来いよ!」

その声に応えるように
敵が動き出す。

四方から迫り来る触手に拳、
彼はそれらに向かって吠え、
戦いの火ぶたが切って落とされた。
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