59 / 235
第四章 「戦争」 ークリ平原の戦い編ー
第四十五話「開戦」
しおりを挟む
カティア国、暦1921年1月2日
イーズからもっとも近いクリと言う都市、
その都市の城壁の上に立つ男、
向かい風に彼の黒い外套が揺らぎ、たなびいている。
そして、その彼の視線の先には銀色の大軍団が展開されていた。
鎧を着た騎士が横並びになって
歩幅を合わせて進む。
広い平野が広がるクリの周辺、
勾配も少ないこの地形は
大人数で攻めるにはうってつけだろう。
まだ遠くにいる彼らも平らな地面では
よく見える上に、その魔力と数の多さはまるで目の前にいるかのような
圧迫感を放っていた。
「ああ、きちまった」
黒い服を身にまとい、長い銀色の棒を持つ人間の男、
テオが城壁から彼らを見る。
「元気そうだなあ
万全でないことを祈るか」
彼らが進んでくるのを見て、
テオはトランシーバーに向かって話し始めた。
「敵、前方3,6km
接敵準備開始。」
彼が指示を送ったのは
彼がいいる壁の下方、
そこ一面に広がる防衛陣だ。
段差があるものの、
一番下から上までを図ると
人が二人は入れるであろう深さの穴が
四本も直線を描くように
壁の前で堀られ、
その前方にはこの世界ではまだ見慣れない
黒い魔導具たちが設置されていた。
大きな魔導銃
それも半巨人ほどの長さのあるそれを
地面と三角形を描くように台が支えている。
それを兵士たちは穴からひょっこり顔を出して
構え始めた。
「全員、上は見るな、前だけ見据えて、
ひたすらに撃て。
確実に一人一人、あの銀色の、浮かれたエリートどもを撃ち抜け。
それ以外は考えなくていい。それだけに専念してくれ。
だが、同時に、ここで誓おう。
君らに何が降り注ごうと、
俺が払いのける。」
そう言ってトランシーバーを切ると、
彼は横にいる眼鏡をかけた男に話かけ始める。
「ライム、
カイヤの森はどうだった?」
「真っ赤だそうです。
落葉も紅葉もしないはず木々が
どす黒い赤で染まったらしいですよ。」
カイヤの森とは魔獣が多く住まう森だ。
人々の脅かし、自然に慣れた手練れのハンターですら
迷い込んだが最後、魔力を切らして、魔獣に食われてしまうと言われる森。
そこには、今、いつもの緑色に満ちた自然ではなく、
どす黒い赤で汚れた森林だけが広がっていたのだ。
しかし、そこにあるはずの死体は一切見受けられず
それは今、カティア騎士団の胃袋の中におさまっていた。
「やったのは?」
「鎧の騎士です。
鎧を脱がなかったみたいですし、
体つきもよくわからかったそうですが、
十中八九アイツでしょう。
あんな継続的に戦い続けられるクラス4はあの人しかいない。」
「だよなあ
あいつ中央で騎士やらせるより
ハンターやらせた方がいいんじゃないか?」
「かもしれませんね」
親しげに話す二人は口元が緩む。
顔は見ずとも、その表情は察せられるのか
テオは前を見続けながら
ライムと話をしていた。
しかし、それも終わりを迎える。
「来たな
下がってろ」
ライムが城壁から降りていく。
そして、
それから程なくして
空が変わった。
一切、雲のない晴天の空が突如、黒い雲で覆われる。
帯電する雲がビリビリと音を立てながら
漂い始める。
が、テオがそこに向かって手を向けると、
その先に穴が開くように雲が散った。
雲が散っていき、晴天が広がって元に戻る。
しかし、その空の上、
そこにあるのは赤と茶色の大岩。
都市にも匹敵するような大きさの隕石が
ゴォオオオ
と言う音とともに迫っていた。
そんな巨大な大岩を見れば
常人ならあきらめて祈るか、
裸足で逃げ出しそうなものだ。
だが、ここで逃げる者は誰もおらず、
「開戦の狼煙にしては」
テオは不敵に笑い、
腰元でためを作りながら右手を開いた。
彼の手の上に
赤色の小さな、
ビー玉ぐらいの大きさをしているオレンジ色の光の玉が二つ現れる。
それぞれが球体を描くように
軸を変えながら円状に回り、高速で動き始めた。
「派手すぎるだろ」
大きく手を後ろに引き、足に力を入れて踏ん張った後、
テオを前へ突き出す。
その瞬間、重ならないように動いていた二つの玉の軌道が
ぶつかった。
その瞬間、現れたのは
青と白の光。
踏ん張る足が城壁の床にめり込み、ひびをいれ、
発射している彼の周りの空気から煙が上がる。
城壁が溶け始めてしまうほどの熱量を持った
それは隕石を丸々包むほど広がった。
余波ですら
城壁の一部を溶かす熱量。
それが直撃した隕石が無事でいられるわけがない。
光に包まれた巨大な隕石は
一瞬にして溶けて消えてなくなった。
「ふぅ」
テオが息を吹き出すと
やがて光はやみ、そこには何もなくなる。
雲も何もかも、すべて消えた広い広い青い空。
地面にいる兵士たちは、その余波の熱で汗を流し、
それをぬぐう。
「開戦だな」
一方、カティア騎士団、後方では
「あの人、ずるい」
黒髪の幼き魔女、アリアが
師団長にそう訴える。
「まだいけるか?」
「いってもいいけど多分無駄だと思う。」
師団長の問いかけに
アリアが残念そうな声をあげた。
「無駄でもいいからあいつの気を引きたいんだ。
あれが後方支援するのとしないのじゃ大違いだからな」
「・・・・・わかった」
そこから何発もの
隕石が革命軍の上に降り注ぐが
「懲りない奴だな!」
すべてあの光を放って消すテオ。
小さいものは一つの光の玉を出して
破裂させ、細い光を出しながら
空を青白い光が照らし続ける。
その間もカティア騎士団は進軍を続けていた。
「そうだ。あれが俺たちに飛んでくる前に進め」
統率の取れた足取りで
地響きをならし、騎士たちが迫る。
革命軍と騎士の距離が近くなり
それの間の距離が3kmを切る。
その時、動いたのは、
革命軍だ。
「接敵距離、接敵距離
総員構え!」
前線で号令をかける男の声がトランシーバー越しに
各兵士へ届く。
それを聞いた彼らは敵へ狙いを定め、
敵を見据え、耳を澄ませる。
そこへ騎士が走るぐらいの速度で
近寄っていく。
陣形を崩さず走る彼らの技はすさまじい。
しかし、それは肉薄するときの話だ。
「一斉掃射!!」
号令が響いた。
その号令は
兵士たちの
引き金に指をかけさせ、
一斉に火が放たれる。
発射音と共に細長い青白い火の玉が解き放たれ
それが何千、何万と続く。
一人ですら毎秒、数十の玉が
弾幕となって、まるで雨のように降り注いだ。
その光景を見ても騎士たちは引かない。
「展開」
騎士たちはそう言いながら鎧周辺の空間をゆがめ
彼らを守るように膜のようなものが、張り巡らされる。
それを形作りながら走る。
あの程度の魔法、
俺たちの抵抗力ならはじけるだろう。
そんな予想の元
突っ込んでいく。
しかし、
その火の玉は
あっけなく彼を貫いた。
ジュワァ
と金属と肉の溶ける音が鳴り、
その火の雨が騎士たちの体を次々に穴だらけにしていく。
「うわぁああ!」
自信満々に防御膜を展開した
騎士たちの体が面白いぐらい
簡単に穴だらけにされた。
これまでの疲労と恐怖、ストレス
そう言った彼らに溜まっていたあらゆるものが
一気に噴き出す。
地面を揺らす足音は一斉に乱れ、
悲鳴がそこら中に轟いた。
ボトリ
ゴトン
と音を立てながら手足が落ち、
穴あきチーズのようになった体が力なく倒れる。
「うわぁ、あああ、がっ!!」
一人、また一人と
弾幕が騎士たちを襲い、穴だらけの体から
金属と肉、血の焦げた匂いが漂う。
その地獄の始まりにたまらず
騎士たちは悲鳴を上げた。
「退避!!退避!!」
そう号令を送るも、大軍団の急な後退は
焦りを生み、騎士たちに動揺が走るが、
弾幕は止んでくれない。
その間も悲鳴を上げる
騎士の頭が落ち、腕が落ち、胴が落ち、
それを見て恐れおののく横の騎士にも同様の未来が襲う。
「腕がぁ、あッ!」
「下がれよおい!早く!!」
「押すな、押すな、止めっ」
だが、腐っても騎士。
焦りと恐怖にまみれ、
誰かを押し倒して、踏み殺してしまおうとも
どうにかこうにか引いていき、
魔導銃の有効射程から
離れていった。
残った地面には銀色の鎧と
さっきまで教養と研鑽で
形作られていたはずの体が
動きも考えもしないただの肉片となって
赤黒い血で染められ、そこらに転がる。
平原は地獄そのもの。
しかし、
それを見た兵士は
騎士とは正反対の感情を手にしていた。
圧倒的な強者とされたカティア騎士団、
産まれ落ちてからずっと恵まれた人生を歩み続けてきた
傷つけることすらできない怪物。
それが今、目の前で粘土でも
崩すように、簡単に、容易に、
倒れていく。
それをやったのは
何でもない、魔獣をゴミみたいに殺せる彼らとは違う、
魔中にいつも怯え、エリートの生活とは無縁の低クラスたちだ。
平凡で、凡庸で、繰り返しの多く
騎士に比べて実りも少ない人生を送ってきた彼ら。
ずっと
「我々が素晴らしい人間だ」
と目障りに喧伝され、輝かしく彩られた彼ら
それの根源である
圧倒的な強さが今、崩れ落ちた。
声は出さずとも
その昂ぶりと感動、喜びと怒りが
彼らに押し寄せ、目が鋭く、ギラギラとし始めた。
(殺せる・・あいつらを俺たちが!)
(もう何も怖くない!!)
(もう魔獣に怯えることも、
上位クラスにへりくだることもねえ!)
感激の漏れる声が
トランシーバーから
テオに伝わる。
「効果てきめんです!
総督!」
少し肩を上下させ、
汗を流しているテオはそれに応答した。
「はぁ、はぁ、そうか」
戦場を見る。その地獄を見る。
彼の目にもそれは映り込む。
「・・・・・」
「ど、どうかされましたか?」
「いや・・・なんでもない。
良い調子だ。そのまま奴らを倒せ」
「はい!」
兵士たちの元気良い声を聞き流して
トランシーバーを切る彼の視線は、
あの地獄絵図に吸い込まれてしまう。
「・・・・・」
「どうかされましたか?総督?」
いつの間にか戻ってきていたライムが彼に声をかけた。
いつも通りと言った感じで普通に話しかける。
「・・・下がってろっていったはずだが?」
「総督には魔法戦に専念してもらわないといけないんで
指揮変わるって伝えに来ただけですよ」
「ふっ、あっそう」
「なんか浮かない顔みたいですが?」
「いや、自分が心血注いで作ったものが
成果を上げててうれしいだけだよ」
「・・・そうですか」
また、隕石が空から降ってくる。
「下がっててくれ」
「ええ」
また空には光線が飛び交い、
地上では静寂が戻っていた。
「どうするの?」
全身鎧の騎士が
師団長へ問いかける。
「・・・」
狼狽する騎士たち。
これまで積み上げてきた自信が打ち砕かれ、
これまでの疲労と合わさってつぶれてしまうそうな彼ら。
「・・・・やることは変わらない。
いつも通りだ。
聖騎士は前に出ろ」
その声と共に
風体の変わった騎士が前へ出る。
銀色の騎士の中から
変わった風貌の騎士が前へ出た。
魔女、半裸と長ズボン、
軽装鎧、ドレス、全身鎧。
個性豊かな連中が準聖騎士たちを飛び越えて
彼らの前に背を向けて立つ。
一見するとふざけた風体の聖騎士と呼ばれた者たち
しかし、準正騎士と最も違うのは彼らの目だ。
全くの恐れも感じさせないその目には
まだまだ自信で溢れている。
「やれることをするだけ、
聖騎士はその責務を果たせ」
その言葉と共に聖騎士たちは前へと走り出した。
イーズからもっとも近いクリと言う都市、
その都市の城壁の上に立つ男、
向かい風に彼の黒い外套が揺らぎ、たなびいている。
そして、その彼の視線の先には銀色の大軍団が展開されていた。
鎧を着た騎士が横並びになって
歩幅を合わせて進む。
広い平野が広がるクリの周辺、
勾配も少ないこの地形は
大人数で攻めるにはうってつけだろう。
まだ遠くにいる彼らも平らな地面では
よく見える上に、その魔力と数の多さはまるで目の前にいるかのような
圧迫感を放っていた。
「ああ、きちまった」
黒い服を身にまとい、長い銀色の棒を持つ人間の男、
テオが城壁から彼らを見る。
「元気そうだなあ
万全でないことを祈るか」
彼らが進んでくるのを見て、
テオはトランシーバーに向かって話し始めた。
「敵、前方3,6km
接敵準備開始。」
彼が指示を送ったのは
彼がいいる壁の下方、
そこ一面に広がる防衛陣だ。
段差があるものの、
一番下から上までを図ると
人が二人は入れるであろう深さの穴が
四本も直線を描くように
壁の前で堀られ、
その前方にはこの世界ではまだ見慣れない
黒い魔導具たちが設置されていた。
大きな魔導銃
それも半巨人ほどの長さのあるそれを
地面と三角形を描くように台が支えている。
それを兵士たちは穴からひょっこり顔を出して
構え始めた。
「全員、上は見るな、前だけ見据えて、
ひたすらに撃て。
確実に一人一人、あの銀色の、浮かれたエリートどもを撃ち抜け。
それ以外は考えなくていい。それだけに専念してくれ。
だが、同時に、ここで誓おう。
君らに何が降り注ごうと、
俺が払いのける。」
そう言ってトランシーバーを切ると、
彼は横にいる眼鏡をかけた男に話かけ始める。
「ライム、
カイヤの森はどうだった?」
「真っ赤だそうです。
落葉も紅葉もしないはず木々が
どす黒い赤で染まったらしいですよ。」
カイヤの森とは魔獣が多く住まう森だ。
人々の脅かし、自然に慣れた手練れのハンターですら
迷い込んだが最後、魔力を切らして、魔獣に食われてしまうと言われる森。
そこには、今、いつもの緑色に満ちた自然ではなく、
どす黒い赤で汚れた森林だけが広がっていたのだ。
しかし、そこにあるはずの死体は一切見受けられず
それは今、カティア騎士団の胃袋の中におさまっていた。
「やったのは?」
「鎧の騎士です。
鎧を脱がなかったみたいですし、
体つきもよくわからかったそうですが、
十中八九アイツでしょう。
あんな継続的に戦い続けられるクラス4はあの人しかいない。」
「だよなあ
あいつ中央で騎士やらせるより
ハンターやらせた方がいいんじゃないか?」
「かもしれませんね」
親しげに話す二人は口元が緩む。
顔は見ずとも、その表情は察せられるのか
テオは前を見続けながら
ライムと話をしていた。
しかし、それも終わりを迎える。
「来たな
下がってろ」
ライムが城壁から降りていく。
そして、
それから程なくして
空が変わった。
一切、雲のない晴天の空が突如、黒い雲で覆われる。
帯電する雲がビリビリと音を立てながら
漂い始める。
が、テオがそこに向かって手を向けると、
その先に穴が開くように雲が散った。
雲が散っていき、晴天が広がって元に戻る。
しかし、その空の上、
そこにあるのは赤と茶色の大岩。
都市にも匹敵するような大きさの隕石が
ゴォオオオ
と言う音とともに迫っていた。
そんな巨大な大岩を見れば
常人ならあきらめて祈るか、
裸足で逃げ出しそうなものだ。
だが、ここで逃げる者は誰もおらず、
「開戦の狼煙にしては」
テオは不敵に笑い、
腰元でためを作りながら右手を開いた。
彼の手の上に
赤色の小さな、
ビー玉ぐらいの大きさをしているオレンジ色の光の玉が二つ現れる。
それぞれが球体を描くように
軸を変えながら円状に回り、高速で動き始めた。
「派手すぎるだろ」
大きく手を後ろに引き、足に力を入れて踏ん張った後、
テオを前へ突き出す。
その瞬間、重ならないように動いていた二つの玉の軌道が
ぶつかった。
その瞬間、現れたのは
青と白の光。
踏ん張る足が城壁の床にめり込み、ひびをいれ、
発射している彼の周りの空気から煙が上がる。
城壁が溶け始めてしまうほどの熱量を持った
それは隕石を丸々包むほど広がった。
余波ですら
城壁の一部を溶かす熱量。
それが直撃した隕石が無事でいられるわけがない。
光に包まれた巨大な隕石は
一瞬にして溶けて消えてなくなった。
「ふぅ」
テオが息を吹き出すと
やがて光はやみ、そこには何もなくなる。
雲も何もかも、すべて消えた広い広い青い空。
地面にいる兵士たちは、その余波の熱で汗を流し、
それをぬぐう。
「開戦だな」
一方、カティア騎士団、後方では
「あの人、ずるい」
黒髪の幼き魔女、アリアが
師団長にそう訴える。
「まだいけるか?」
「いってもいいけど多分無駄だと思う。」
師団長の問いかけに
アリアが残念そうな声をあげた。
「無駄でもいいからあいつの気を引きたいんだ。
あれが後方支援するのとしないのじゃ大違いだからな」
「・・・・・わかった」
そこから何発もの
隕石が革命軍の上に降り注ぐが
「懲りない奴だな!」
すべてあの光を放って消すテオ。
小さいものは一つの光の玉を出して
破裂させ、細い光を出しながら
空を青白い光が照らし続ける。
その間もカティア騎士団は進軍を続けていた。
「そうだ。あれが俺たちに飛んでくる前に進め」
統率の取れた足取りで
地響きをならし、騎士たちが迫る。
革命軍と騎士の距離が近くなり
それの間の距離が3kmを切る。
その時、動いたのは、
革命軍だ。
「接敵距離、接敵距離
総員構え!」
前線で号令をかける男の声がトランシーバー越しに
各兵士へ届く。
それを聞いた彼らは敵へ狙いを定め、
敵を見据え、耳を澄ませる。
そこへ騎士が走るぐらいの速度で
近寄っていく。
陣形を崩さず走る彼らの技はすさまじい。
しかし、それは肉薄するときの話だ。
「一斉掃射!!」
号令が響いた。
その号令は
兵士たちの
引き金に指をかけさせ、
一斉に火が放たれる。
発射音と共に細長い青白い火の玉が解き放たれ
それが何千、何万と続く。
一人ですら毎秒、数十の玉が
弾幕となって、まるで雨のように降り注いだ。
その光景を見ても騎士たちは引かない。
「展開」
騎士たちはそう言いながら鎧周辺の空間をゆがめ
彼らを守るように膜のようなものが、張り巡らされる。
それを形作りながら走る。
あの程度の魔法、
俺たちの抵抗力ならはじけるだろう。
そんな予想の元
突っ込んでいく。
しかし、
その火の玉は
あっけなく彼を貫いた。
ジュワァ
と金属と肉の溶ける音が鳴り、
その火の雨が騎士たちの体を次々に穴だらけにしていく。
「うわぁああ!」
自信満々に防御膜を展開した
騎士たちの体が面白いぐらい
簡単に穴だらけにされた。
これまでの疲労と恐怖、ストレス
そう言った彼らに溜まっていたあらゆるものが
一気に噴き出す。
地面を揺らす足音は一斉に乱れ、
悲鳴がそこら中に轟いた。
ボトリ
ゴトン
と音を立てながら手足が落ち、
穴あきチーズのようになった体が力なく倒れる。
「うわぁ、あああ、がっ!!」
一人、また一人と
弾幕が騎士たちを襲い、穴だらけの体から
金属と肉、血の焦げた匂いが漂う。
その地獄の始まりにたまらず
騎士たちは悲鳴を上げた。
「退避!!退避!!」
そう号令を送るも、大軍団の急な後退は
焦りを生み、騎士たちに動揺が走るが、
弾幕は止んでくれない。
その間も悲鳴を上げる
騎士の頭が落ち、腕が落ち、胴が落ち、
それを見て恐れおののく横の騎士にも同様の未来が襲う。
「腕がぁ、あッ!」
「下がれよおい!早く!!」
「押すな、押すな、止めっ」
だが、腐っても騎士。
焦りと恐怖にまみれ、
誰かを押し倒して、踏み殺してしまおうとも
どうにかこうにか引いていき、
魔導銃の有効射程から
離れていった。
残った地面には銀色の鎧と
さっきまで教養と研鑽で
形作られていたはずの体が
動きも考えもしないただの肉片となって
赤黒い血で染められ、そこらに転がる。
平原は地獄そのもの。
しかし、
それを見た兵士は
騎士とは正反対の感情を手にしていた。
圧倒的な強者とされたカティア騎士団、
産まれ落ちてからずっと恵まれた人生を歩み続けてきた
傷つけることすらできない怪物。
それが今、目の前で粘土でも
崩すように、簡単に、容易に、
倒れていく。
それをやったのは
何でもない、魔獣をゴミみたいに殺せる彼らとは違う、
魔中にいつも怯え、エリートの生活とは無縁の低クラスたちだ。
平凡で、凡庸で、繰り返しの多く
騎士に比べて実りも少ない人生を送ってきた彼ら。
ずっと
「我々が素晴らしい人間だ」
と目障りに喧伝され、輝かしく彩られた彼ら
それの根源である
圧倒的な強さが今、崩れ落ちた。
声は出さずとも
その昂ぶりと感動、喜びと怒りが
彼らに押し寄せ、目が鋭く、ギラギラとし始めた。
(殺せる・・あいつらを俺たちが!)
(もう何も怖くない!!)
(もう魔獣に怯えることも、
上位クラスにへりくだることもねえ!)
感激の漏れる声が
トランシーバーから
テオに伝わる。
「効果てきめんです!
総督!」
少し肩を上下させ、
汗を流しているテオはそれに応答した。
「はぁ、はぁ、そうか」
戦場を見る。その地獄を見る。
彼の目にもそれは映り込む。
「・・・・・」
「ど、どうかされましたか?」
「いや・・・なんでもない。
良い調子だ。そのまま奴らを倒せ」
「はい!」
兵士たちの元気良い声を聞き流して
トランシーバーを切る彼の視線は、
あの地獄絵図に吸い込まれてしまう。
「・・・・・」
「どうかされましたか?総督?」
いつの間にか戻ってきていたライムが彼に声をかけた。
いつも通りと言った感じで普通に話しかける。
「・・・下がってろっていったはずだが?」
「総督には魔法戦に専念してもらわないといけないんで
指揮変わるって伝えに来ただけですよ」
「ふっ、あっそう」
「なんか浮かない顔みたいですが?」
「いや、自分が心血注いで作ったものが
成果を上げててうれしいだけだよ」
「・・・そうですか」
また、隕石が空から降ってくる。
「下がっててくれ」
「ええ」
また空には光線が飛び交い、
地上では静寂が戻っていた。
「どうするの?」
全身鎧の騎士が
師団長へ問いかける。
「・・・」
狼狽する騎士たち。
これまで積み上げてきた自信が打ち砕かれ、
これまでの疲労と合わさってつぶれてしまうそうな彼ら。
「・・・・やることは変わらない。
いつも通りだ。
聖騎士は前に出ろ」
その声と共に
風体の変わった騎士が前へ出る。
銀色の騎士の中から
変わった風貌の騎士が前へ出た。
魔女、半裸と長ズボン、
軽装鎧、ドレス、全身鎧。
個性豊かな連中が準聖騎士たちを飛び越えて
彼らの前に背を向けて立つ。
一見するとふざけた風体の聖騎士と呼ばれた者たち
しかし、準正騎士と最も違うのは彼らの目だ。
全くの恐れも感じさせないその目には
まだまだ自信で溢れている。
「やれることをするだけ、
聖騎士はその責務を果たせ」
その言葉と共に聖騎士たちは前へと走り出した。
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。
狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。
街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。
彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)
実はスライムって最強なんだよ?初期ステータスが低すぎてレベルアップが出来ないだけ…
小桃
ファンタジー
商業高校へ通う女子高校生一条 遥は通学時に仔犬が車に轢かれそうになった所を助けようとして車に轢かれ死亡する。この行動に獣の神は心を打たれ、彼女を転生させようとする。遥は獣の神より転生を打診され5つの希望を叶えると言われたので、希望を伝える。
1.最強になれる種族
2.無限収納
3.変幻自在
4.並列思考
5.スキルコピー
5つの希望を叶えられ遥は新たな世界へ転生する、その姿はスライムだった…最強になる種族で転生したはずなのにスライムに…遥はスライムとしてどう生きていくのか?スライムに転生した少女の物語が始まるのであった。
家の庭にレアドロップダンジョンが生えた~神話級のアイテムを使って普通のダンジョンで無双します~
芦屋貴緒
ファンタジー
売れないイラストレーターである里見司(さとみつかさ)の家にダンジョンが生えた。
駆除業者も呼ぶことができない金欠ぶりに「ダンジョンで手に入れたものを売ればいいのでは?」と考え潜り始める。
だがそのダンジョンで手に入るアイテムは全て他人に譲渡できないものだったのだ。
彼が財宝を鑑定すると驚愕の事実が判明する。
経験値も金にもならないこのダンジョン。
しかし手に入るものは全て高ランクのダンジョンでも入手困難なレアアイテムばかり。
――じゃあ、アイテムの力で強くなって普通のダンジョンで稼げばよくない?
錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。
いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成!
この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。
戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。
これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。
彼の行く先は天国か?それとも...?
誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。
小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中!
現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
おっさんの神器はハズレではない
兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる