evil tale

明間アキラ

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第一章 「弱き人」 ー幼少期編ー

第六話「日常と非日常」

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コリン採掘場、飛び交う怒号と乱痴気騒ぎが響き、
煙と土の匂いで覆われたこの場所でルーカスは黙々と働いている。

10歳の少年だった彼も今や17歳、
様々な仕事に回され、今は坑道をつるはしで掘り進めていた。

背は180cm近くまで伸び、その肉体は日々の肉体労働と
自主的なトレーニングによって磨かれ、非常に逞しくなっている。
つるはしを振り下ろす動きもこの肉体にかかれば何の支障もきたさない。

いくつもの季節を過ぎ、あの狭いワンルームでの暮らしにも
ここの熱さや冬の寒さにも慣れ、冷暖房がなくとも何とか生活できた。

また、他の人々がどのように暮らしているのかも把握できた。

どうやらあの人間たちは決まったグループで固まり、
同じメンバーで動いているらしい。年は上が50ぐらいで下には子供もいる。
年功序列でやっていそうなところもあれば、腕っぷしが強そうなやつが女を囲っている
所も見受けられている。
下っ端と思わしき者たちは、「あれ買ってこい」「あれとってこい」と言われ使い走りにされたり
「面白いことしろ」「笑わせろ」と言われ、受けなければ罰を受けるといった扱いをされたりしていた。

路地裏から喘ぐような声がたまに聞こえるし、実際にボス格の数人と女が盛っていて
それを下っ端が隠しているのを彼は何度も目撃していた。

(動物園の猿を見てるみたいだ)

ボス猿がいて、そのつがいらしき女、それ以外の取り巻き
大まかにこの三種類で彼らは成り立っている。

多くの人間がどこかしらの群れにいるのか
はぐれて行動しているものは少ない。

いるとすれば飲んだくれて動かなくなっている老人と
もっとヤバそうな目をして亡者のように動かない者たち

老人は極端に数が少なく、亡者の方が大多数と言えるだろう。

そして、後、もう一種類数は少ないが一人、もしくは限りなく少数で
そこらを歩いているものがいる。

それは騎士だ。

とても少人数なのでなかなか見つからないが、
装備は服の上に薄い皮鎧をつけ、両手両足に皮手袋に分厚いズボンといった軽装で
ぶらぶらと道の真ん中を歩いている。

ここで働く労働員たちは彼らを見るなりすぐさま道を開けていた。

そんな騎士が隅の人目の付かない場所に入ると
そこから粉が入った袋を隠しもしないで
持ち帰る人たちや足取りのふらついた女が出てくる。

少し時間が経つとその騎士が別の建物の出口から出てきた。

(予想通りというか何というか・・・)

こんなスラムみたいな場所にあんなものがない方が不自然だろう。
彼はそう思っていたが、目の当たりにすると驚くものがあったようだ。


そして、これらは知っているだけで、知り合いがいるわけではなかった。
彼はずっと誰とも話すこともなく、一人でいることがほとんどだ。

ずっと一人で過ごす彼の日課は
不定期に起こる乱闘騒ぎや誰かが始めた喧嘩大会を眺めること、
日記をつけること、そして、自分を鍛えることぐらいで、
皆の様に酒盛りをするようなことはできなかった。

そんな生活を送っていたのには一応、理由がある。

まず、ルーカスは第五地区出身、第五地区は基本的に昔ながら金持ちや権力者が多く、
彼も家庭環境はどうあれ、そういう家系その息子だ。

一方で、ここにいる連中はほとんどがここで生まれている。
クラス0でなければ逆に外に出されてしまうが、クラス0同士で子供をもうければ
その子がクラス0である確率は他の場合よりも高い。
そのため、クラス0が再生産され、他に飛ばされない限りは
ここで親や周りからルールを教えてもらって生活して、
その親がいたグループで暮らする場合がほとんどなのだ。
そのため、教育も受けないで、文字すら読めない者も多い。

そう言う人たちは生まれや育ちの情報に関して、騎士やコミュニティの連絡網で目ざとく見つけてくるし、
その違いを認識されると、そういった外部から入った連中に彼らはとても冷たい。
特に同世代からは目の敵にされてしまうのだ

グループに入って誰かと交流を図るにも
入り込むにはルーカスの方が下手に出るしかない。

しかし、もしそんなことをしても扱いは下っ端、もしくはそれ以下の可能性もある。
使い走りやいじりの対象ならまだいいが、それでは済まないことも往々にしてある。

実際ここにいる騎士たちはもめごとにはあまり入らずドラッグを売りさばくような連中なので
リンチにあってもだれも助けてくれない。

グループによっては年長者に従う場合もあり、
年上の男を見ると若干悪寒がしてしまう彼には到底耐えられないことだ。

グループを作ることも頭によぎったようだが、
今のルーカスにそんなことができるかが怪しく、
そもそも、それができても発展する前の段階で、
既存のグループに難癖をつけられるだろう。

だから、ルーカスは常に周りに目を配り、体を鍛え、
なるべく危険を避けられるように気を配っていたのだ。

話し声が後ろでしだすと遠くに行く。
金で解決するなら金で済ませる。
喧嘩になりそうになると逃げる。
逃げきれない場合には手段を択ばず戦う。

無様で情けないながらも、それのおかげで
彼がトラブルに巻き込まれることはあまりなかった。

同じような出身の人たちが、入ったグループにひどい扱いを受けている間
彼はどうにかそれを回避し、孤独ながらも無事にやっていたようだ。


そんな日々を過ごしている彼に突然転機が訪れる。
それはある夜の食事時、
彼が食堂で外から来た子供に混じって食事をしていた時だった。

(俺の方を見て話してる・・・・・)

彼の後ろの方で話し声が聞こえた。

「誰? ああ、あいつ?」
「そうそう あれあれ すっげえ強いんだって」
「へえマジで? ふーん」

話し声の主と思わしき足跡が彼に近づいてくる。
(ああ・・・・最悪だ)

そんなルーカスの気持ちは伝わらず、
数人の中から男二人が近寄ってくる。
そして、後ろから肩を組まれた。

獣人が右から左肩に手をまわし、
左の方では大男が手をテーブルに置いて彼の顔を覗きこんできた。

背丈にして2m30cmほどある

(巨人っていうバカでかい人種と他の人種が混ざった結果、
半巨人っていうただの背が高い人間ができたんだっけ?)

7年前に穴が開くほど眺めていた教科書の内容を思い返しながら、
ルーカスはこの状況をどう切り抜けるか考えていた。

「なあ坊ちゃん、外部出身なんだって?しかも第五地区らしいじゃん」
「ああ」
「へえ それでずっとここにいんの?
俺らと同じ空気は吸えねえか? おお?」

「・・・・・」

「クラス0で外部って人力車とか乗ったのかあ?
大変だよなあ いいとこのボンボンなのに魔力ないとさあ」

周りの子供も下を向きだす。

「俺だったらあんな『私は出来損ないです』アピールされたら
死にたくなっちまうよ ああ外生まれじゃなくてよかったわ~」

「・・・・・」
ルーカスは無言のまま口に残ったパンを咀嚼する。

「なんか言えよ」
「・・・・・」

「まあ いいや
それでさ、お前一匹狼気取ってるみたいだけど、
あんま好きにされても困るのよ
ほら 俺の世代ちゃんとシメれてないことになるじゃん?
良い体してんだし、ちょっと俺らと遊ぼうや なあ」

「それに、ボッチってことは金使ってねえんだろ
一緒に働く俺らに礼ぐらいしろよ」

肩を引っ張られる。

二人ともルーカスと同じくらいの歳で
タトゥーの入った体は、日々の労働で鍛えらえたことがわかる筋肉量で、
特に大男の方の手足は丸太の様に太い。

肩を引っ張り、立たせようとしてくる獣人

(逃げそびれた上に今からじゃ逃げれない。
目的は金だけじゃなく、多分見せしめとも入ってる。
下手に出ても・・・良いことはないだろうな)

二人の男にイライラが募り、
そろそろ始めてしまおうかと思ったその時、
ルーカスは引っ張る力に従うように立ち上がった。

しかし、立ち上がったそばからルーカスはバランスを崩してしまい、
獣人の男の足と引っ掛かって二人とも倒れてしまった。

周りから見れば、二人が足をもつれさせて、倒れてしまったように見えただろう。

「おいおい なにして」

そう言って茶化そうとする大男の声を遮るように
獣人の男は悲鳴を上げた。

「あああああああ!!!」

「!?」

突然のことに動揺しながらも

「おい!」

大男が咄嗟に上に乗るルーカスを突き飛ばし、獣人の男を見た。

すると、獣人の目には食用ナイフが深々と突き刺さっていたのだ。

目を抑えてのたうち回る仲間。
それを見てに大男は怯えて、すくんでしまう。

だが、そんな大男の頭に突然、衝撃が走った。

ドスン!! バキッ!!

鈍い音が聞こえて、大男も崩れ落ちそうになる。

「な、にすんっ」

見上げた先にいたのはルーカスだ。
椅子を振りかざり、大男を見下ろしている。
そして、次の瞬間、大男の頭に振り下ろされた。

何度も倒れた大男を椅子で殴り続けるルーカス
無言で、目を見開き、真顔のまま椅子を振り下ろし続けている。

ゴン! ゴン! ゴン! ゴン!

頭から血が流れ、一切動かなくなっていたのを確認すると
ルーカスは標的を獣人に変えた。

ぼろぼろになった椅子をそこらに捨てて、もがく獣人の側に行き、
足をゆっくりとあげて、頭を踏みつける。

ぐしゃり ぐしゃり ぐしゃり

最初はうがうが言っていた獣人も段々としゃべらなくなる。
だが、まだやめない。
踏みつけ続ける。

ぐしゃり ぐしゃり ぐしゃり

彼の睨みつけるような無表情が
少しずつ変わり、口角が徐々に上がっていく。
足の力が増していき、血しぶきが飛ぶ。

「あ゛あ゛! あ゛あ゛!」
唸るような声と共にルーカスは足で顔面を踏みつけ続けている。
まるで、何かに取りつかれたように
彼の顔に笑顔が形作られ、暴力が激しさを増していく。


周りの子供たちはおびえ、机の下に隠れているものもいた。
誰も彼を止められない。


しかし、ルーカスは突如、車にはねられたような衝撃を受けた。

彼の脇腹に手が見え、それが腹をコップでもどけるように横に動かされると、
次の瞬間には壁の方に吹き飛ばされていた、

「ごはぁ!!」

壁にぶつかって落ちる。
ぼんやりとした視界に映ったのは皮鎧をまとった男たちだ。

「おいおい クラス0相手に何してんだよ」
「手で払っただけでしょう?」
「だから言ったろうが、あいつらはそれでもダメなんだよ」

二人の騎士が話すのがぼんやりと映り霞んでいく、

やがて、ズルズルと引きずられ、ゴミ箱の横に捨てられる。
悪臭も何も感じないが、ゴミ箱の横で、朦朧とした意識の中、
どうにか立ち上がろうとするが、力が入らない。

このまま暗闇に落ちていきそうになった刹那、
最後の一瞬、目の前にケモ耳の生えた藍色の髪をした女が見えた。

「ー---ぶ?ー--」

話しかけてきているが彼の意識はどんどんと薄れる。
何を言っているのかわからないまま
ルーカスは意識を手放してしまった。

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