上 下
35 / 66
1章 クズ勇者の目標!?

クズ勇者、認める 2

しおりを挟む
「どうせ、また下らない策でもあんだろ?どうせ死ぬんだから見せてみろよ」

「ハハハ……ある、と言いたいところだけど、こんな状態じゃ厳しいんだよね」
 
  笑って誤魔化すフィール。自分の置かれた状況を理解していないような様子で微笑んでいる。

「まぁ、テメェはどちらにしろ殺されっから変わらねぇよ」

「えっ?」

 俺はこいつの二代あとの勇者だ。勇者になったあと、簡単にだが駄女神から歴代勇者の話は聞いている。

 歴代勇者が皆、王都に凱旋してくる中、一人の勇者だけは相打ちだった。そう、それが二代前の女勇者……このクソザコ勇者ことフィールだ。そして、唯一相打ちで魔王との終止符を打った人物。

「テメェは魔王に殺される」

「…………そっか。でも、なんでそんなことを言えるの?」

  フィールは一瞬だけ嬉しそうに微笑んで、すぐにリョーマに視線を戻す。

「はっ。言う義理はねぇだろ。少し早ぇが、ここで死んでろ」

 俺は別にこいつと話すために喋っていた訳じゃねぇ。コイツの策を先に出させようとしたが、それも結局は本当の目的じゃねぇ。

 俺の狙いはソウゾウの魔剣に魔力を充分に流し、鋭くするための時間稼ぎだ。ソウゾウの魔剣は込める魔力の量でいくらでも強化できる。

 今の魔剣で斬れないものはまず無い。正しく最後の一撃だ。

  リョーマの持つ魔剣は輝きを増してより鋭利になっていた。

  リョーマはその魔剣を前に突き出して、剣先をフィールの心臓部に向けた。

「死ね」

  リョーマが手を上にあげて剣を振り上げる。それを見てフィールは残りの魔力でファニの体を包んだ。

  そして、ついにリョーマの剣は振り下ろされる。フィールは目を閉じて俯く。

  だが、ここで誰もが予期せぬ事態が発生した。

「…………これは、どういうことだ」

  リョーマは確かに剣を下に振り切った。本来ならばフィールはファニ諸共真っ二つに切り裂かれている。しかし、後ろに居るファニはおろかフィールすらも無傷だった。

  リョーマの手には魔剣が無かった。

「魔力が放出できない」

 何かが俺が魔法を使う事を拒絶している。でなければあんな場面で都合よく魔剣が消えるはずがない。

 これは俺の意思じゃない。俺はこいつらを確実に殺すために剣を振った。それは絶対に揺るぎない事実なんだ……なのに……。

「ザコドラか?またテメェの仕業なのか?」

 こんな状況、外部からの干渉がなきゃおかしい。

 俺が人間ゴミを殺し損ねるはずがない。

 ゴミを捨てるのに躊躇するはずがない。

「もう、無理しないくて良いんだよ」

  突如フィールは背伸びをしてリョーマの後頭部に腕を回すとグッと自分の方に抱き寄せる。そのまま頭に手をやって優しく撫で始めた。

「っ………!何しやがる!今すぐ止めねぇと……心臓を抉り取るぞ……」

  こんな暴言を吐くリョーマだが、いつもの覇気はなく、語尾もだんだんと弱々しくなっていく。

「未来を信じて……私だけはあなたを信じるから」

  フィールが放った何気ない言葉。しかし、その言葉を聞いたリョーマの脳内にはある場面がフラッシュバックした。

  それは昔、リョーマの村が魔族に襲われた時に助けてくれた冒険者の言葉だった。Sランク冒険者だったらしいその人物は、リョーマを助けた時ある一言を放った。

『今に囚われるな。未来を信じろ。いつか必ずお前は救われるから』

  この状況でそんな事を思い出したリョーマ。その瞳には一粒の涙が浮かんでいた。

「師匠………」

  リョーマが勝手に師匠と呼んでいるだけだ。だが、今のリョーマの性格の三分の一はその人物で出来ていると言っても過言では無い。それほどまでにリョーマはその人物を尊敬していた。

~~~~

  少しの間、リョーマはじっとしていた。だが急に冷静になり、赤面を晒しながらフィールから離れた。

「テメェ、何してやがんだ!俺はテメェら殺そうとしてたんだぞ!」

「そうだね。けど、さっきのリョーマは辛そうだった。たとえわたしが殺されようとも、目の前で悲しんでる人は助けないとさ」

  まるで何も無かったかのように、はにかむその姿にリョーマは呆れの眼差しを向けた。

「ちっ………余計なお世話だ」

 また、この感じだ……。前にも感じたこの感情。俺はこの気持ちを振り払うためにコイツらを殺そうとした。

 なのに、消えるどころかどんどんと膨れ上がる、この気持ちはなんなんだよ。

 なんで、俺は……こんなにコイツらと居る事を願っているんだ……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...