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1章 クズ勇者の目標!?
クズ勇者、認める 2
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「どうせ、また下らない策でもあんだろ?どうせ死ぬんだから見せてみろよ」
「ハハハ……ある、と言いたいところだけど、こんな状態じゃ厳しいんだよね」
笑って誤魔化すフィール。自分の置かれた状況を理解していないような様子で微笑んでいる。
「まぁ、テメェはどちらにしろ殺されっから変わらねぇよ」
「えっ?」
俺はこいつの二代あとの勇者だ。勇者になったあと、簡単にだが駄女神から歴代勇者の話は聞いている。
歴代勇者が皆、王都に凱旋してくる中、一人の勇者だけは相打ちだった。そう、それが二代前の女勇者……このクソザコ勇者ことフィールだ。そして、唯一相打ちで魔王との終止符を打った人物。
「テメェは魔王に殺される」
「…………そっか。でも、なんでそんなことを言えるの?」
フィールは一瞬だけ嬉しそうに微笑んで、すぐにリョーマに視線を戻す。
「はっ。言う義理はねぇだろ。少し早ぇが、ここで死んでろ」
俺は別にこいつと話すために喋っていた訳じゃねぇ。コイツの策を先に出させようとしたが、それも結局は本当の目的じゃねぇ。
俺の狙いはソウゾウの魔剣に魔力を充分に流し、鋭くするための時間稼ぎだ。ソウゾウの魔剣は込める魔力の量でいくらでも強化できる。
今の魔剣で斬れないものはまず無い。正しく最後の一撃だ。
リョーマの持つ魔剣は輝きを増してより鋭利になっていた。
リョーマはその魔剣を前に突き出して、剣先をフィールの心臓部に向けた。
「死ね」
リョーマが手を上にあげて剣を振り上げる。それを見てフィールは残りの魔力でファニの体を包んだ。
そして、ついにリョーマの剣は振り下ろされる。フィールは目を閉じて俯く。
だが、ここで誰もが予期せぬ事態が発生した。
「…………これは、どういうことだ」
リョーマは確かに剣を下に振り切った。本来ならばフィールはファニ諸共真っ二つに切り裂かれている。しかし、後ろに居るファニはおろかフィールすらも無傷だった。
リョーマの手には魔剣が無かった。
「魔力が放出できない」
何かが俺が魔法を使う事を拒絶している。でなければあんな場面で都合よく魔剣が消えるはずがない。
これは俺の意思じゃない。俺はこいつらを確実に殺すために剣を振った。それは絶対に揺るぎない事実なんだ……なのに……。
「ザコドラか?またテメェの仕業なのか?」
こんな状況、外部からの干渉がなきゃおかしい。
俺が人間を殺し損ねるはずがない。
ゴミを捨てるのに躊躇するはずがない。
「もう、無理しないくて良いんだよ」
突如フィールは背伸びをしてリョーマの後頭部に腕を回すとグッと自分の方に抱き寄せる。そのまま頭に手をやって優しく撫で始めた。
「っ………!何しやがる!今すぐ止めねぇと……心臓を抉り取るぞ……」
こんな暴言を吐くリョーマだが、いつもの覇気はなく、語尾もだんだんと弱々しくなっていく。
「未来を信じて……私だけはあなたを信じるから」
フィールが放った何気ない言葉。しかし、その言葉を聞いたリョーマの脳内にはある場面がフラッシュバックした。
それは昔、リョーマの村が魔族に襲われた時に助けてくれた冒険者の言葉だった。Sランク冒険者だったらしいその人物は、リョーマを助けた時ある一言を放った。
『今に囚われるな。未来を信じろ。いつか必ずお前は救われるから』
この状況でそんな事を思い出したリョーマ。その瞳には一粒の涙が浮かんでいた。
「師匠………」
リョーマが勝手に師匠と呼んでいるだけだ。だが、今のリョーマの性格の三分の一はその人物で出来ていると言っても過言では無い。それほどまでにリョーマはその人物を尊敬していた。
~~~~
少しの間、リョーマはじっとしていた。だが急に冷静になり、赤面を晒しながらフィールから離れた。
「テメェ、何してやがんだ!俺はテメェら殺そうとしてたんだぞ!」
「そうだね。けど、さっきのリョーマは辛そうだった。たとえわたしが殺されようとも、目の前で悲しんでる人は助けないとさ」
まるで何も無かったかのように、はにかむその姿にリョーマは呆れの眼差しを向けた。
「ちっ………余計なお世話だ」
また、この感じだ……。前にも感じたこの感情。俺はこの気持ちを振り払うためにコイツらを殺そうとした。
なのに、消えるどころかどんどんと膨れ上がる、この気持ちはなんなんだよ。
なんで、俺は……こんなにコイツらと居る事を願っているんだ……。
「ハハハ……ある、と言いたいところだけど、こんな状態じゃ厳しいんだよね」
笑って誤魔化すフィール。自分の置かれた状況を理解していないような様子で微笑んでいる。
「まぁ、テメェはどちらにしろ殺されっから変わらねぇよ」
「えっ?」
俺はこいつの二代あとの勇者だ。勇者になったあと、簡単にだが駄女神から歴代勇者の話は聞いている。
歴代勇者が皆、王都に凱旋してくる中、一人の勇者だけは相打ちだった。そう、それが二代前の女勇者……このクソザコ勇者ことフィールだ。そして、唯一相打ちで魔王との終止符を打った人物。
「テメェは魔王に殺される」
「…………そっか。でも、なんでそんなことを言えるの?」
フィールは一瞬だけ嬉しそうに微笑んで、すぐにリョーマに視線を戻す。
「はっ。言う義理はねぇだろ。少し早ぇが、ここで死んでろ」
俺は別にこいつと話すために喋っていた訳じゃねぇ。コイツの策を先に出させようとしたが、それも結局は本当の目的じゃねぇ。
俺の狙いはソウゾウの魔剣に魔力を充分に流し、鋭くするための時間稼ぎだ。ソウゾウの魔剣は込める魔力の量でいくらでも強化できる。
今の魔剣で斬れないものはまず無い。正しく最後の一撃だ。
リョーマの持つ魔剣は輝きを増してより鋭利になっていた。
リョーマはその魔剣を前に突き出して、剣先をフィールの心臓部に向けた。
「死ね」
リョーマが手を上にあげて剣を振り上げる。それを見てフィールは残りの魔力でファニの体を包んだ。
そして、ついにリョーマの剣は振り下ろされる。フィールは目を閉じて俯く。
だが、ここで誰もが予期せぬ事態が発生した。
「…………これは、どういうことだ」
リョーマは確かに剣を下に振り切った。本来ならばフィールはファニ諸共真っ二つに切り裂かれている。しかし、後ろに居るファニはおろかフィールすらも無傷だった。
リョーマの手には魔剣が無かった。
「魔力が放出できない」
何かが俺が魔法を使う事を拒絶している。でなければあんな場面で都合よく魔剣が消えるはずがない。
これは俺の意思じゃない。俺はこいつらを確実に殺すために剣を振った。それは絶対に揺るぎない事実なんだ……なのに……。
「ザコドラか?またテメェの仕業なのか?」
こんな状況、外部からの干渉がなきゃおかしい。
俺が人間を殺し損ねるはずがない。
ゴミを捨てるのに躊躇するはずがない。
「もう、無理しないくて良いんだよ」
突如フィールは背伸びをしてリョーマの後頭部に腕を回すとグッと自分の方に抱き寄せる。そのまま頭に手をやって優しく撫で始めた。
「っ………!何しやがる!今すぐ止めねぇと……心臓を抉り取るぞ……」
こんな暴言を吐くリョーマだが、いつもの覇気はなく、語尾もだんだんと弱々しくなっていく。
「未来を信じて……私だけはあなたを信じるから」
フィールが放った何気ない言葉。しかし、その言葉を聞いたリョーマの脳内にはある場面がフラッシュバックした。
それは昔、リョーマの村が魔族に襲われた時に助けてくれた冒険者の言葉だった。Sランク冒険者だったらしいその人物は、リョーマを助けた時ある一言を放った。
『今に囚われるな。未来を信じろ。いつか必ずお前は救われるから』
この状況でそんな事を思い出したリョーマ。その瞳には一粒の涙が浮かんでいた。
「師匠………」
リョーマが勝手に師匠と呼んでいるだけだ。だが、今のリョーマの性格の三分の一はその人物で出来ていると言っても過言では無い。それほどまでにリョーマはその人物を尊敬していた。
~~~~
少しの間、リョーマはじっとしていた。だが急に冷静になり、赤面を晒しながらフィールから離れた。
「テメェ、何してやがんだ!俺はテメェら殺そうとしてたんだぞ!」
「そうだね。けど、さっきのリョーマは辛そうだった。たとえわたしが殺されようとも、目の前で悲しんでる人は助けないとさ」
まるで何も無かったかのように、はにかむその姿にリョーマは呆れの眼差しを向けた。
「ちっ………余計なお世話だ」
また、この感じだ……。前にも感じたこの感情。俺はこの気持ちを振り払うためにコイツらを殺そうとした。
なのに、消えるどころかどんどんと膨れ上がる、この気持ちはなんなんだよ。
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