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4章 衝突する勢力
2話 難題
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週明けの月曜日。教室内は一週間の始まりのせいか少し重い空気が漂う。
そのなか、京雅はただ一人机に向かってペンを走らせる。
京雅が向き合っているのは数学の問題集。それも中学一年生のものだ。
「なんでマイナス掛けるマイナスでプラスになるんだ……?マイナスなのだから小さくなるはずだろ……?」
ペンを握っていない手で頭も抱えながら独り言をブツブツと漏らす。
「苦戦してるみたいだね」
「………瑛翔か。まぁ、時間にしてだいたい十年のブランクがあるからな。本当なら算数からやり直したいところだが、何せ時間が無いもんでな」
眠そうにあくびをしながら背筋を伸ばす。先週、色々とあったせいか、流石の京雅の顔にも疲労の色が見えて、眠そうに目を細めていた。
瑛翔は普段通りの笑みを浮かべて問題集に視線を落とす。
「こういうのは理屈を考えない方が楽だよ。公式とか法則性とかの意味をいちいち覚えてちゃ効率が悪いよ」
「機械的に覚えた方が良いのか?」
「そうだね。その方が良いかもね」
「なるほどな、助かる」
そういうと京雅は問題集の問題を一つ一つ丁寧に解いていく。それを瑛翔が隣で微笑ましそうに眺めていた。
「おっはよ、二人とも!」
「蒋、おはよ」
「おはよう、蒋」
月曜日と思えぬ高いテンションで現れた蒋。蒋も瑛翔と同様に、京雅の机の上に広げられている問題集を覗き込む。
「偉いなぁ、僕なんて分からないところがあっても放置しちゃうからさ」
「そんな事しているといつか足元掬われるよ?」
そんな事を話していると、京雅たちの背後から足音がする。それに気がついた瑛翔と蒋はスっと顔を上げる。
そこには暗い顔をした隼が居た。月曜日というだけでは説明出来ないほど暗い顔で、酷い顔をしていた。
「どうしたの?辛そうだけど?」
蒋が気を遣うように優しい声をかけるも、隼は力無く笑うだけだった。隼の視線はもとより京雅にしか向けられていなかった。
「放課後、ちょっと良いかな?」
誰、とは言わずにそれだけ言って去っていった。京雅はまるで気にしていないかのようにペンを走られ続けた。
そのやり取りをただ近くで見ていた二人は顔を見合わせて不思議そうな表情を浮かべた。
「あれは僕らじゃないよね?」
「そうだろうね。こういうのは大抵が京雅だからね」
そんなやり取りが隣で繰り広げられるも京雅は手を止めない。京雅はただひたすらに何十とある正負の四則演算を繰り返し続けた。
~~~~
「………」
時は過ぎて、現在放課後。京雅は自分の机に座りながら魂が抜け落ちたかのようにボォッとしていた。
周りから掃除のために椅子をあげる音がしようとも京雅はまだ動かない。
六時間目の生物の授業で、新しい数多の情報量で完全にトドメを刺されたのだ。
「京雅、後ろ詰まってるよ」
「………」
瑛翔の一言で京雅はのそっと動き出した。一番前の席のため、椅子を上げたら机を運ぶ必要もなく終了。京雅は廊下を目指して歩き出した。
その後ろを瑛翔が苦笑いを浮かべながら付いていく。
~~~~
「それで、俺を呼び出した理由は?」
掃除中に気力を取り戻した京雅は現在、隼と対面していた。
今もなお、隼は暗い顔をしたままで、どこか元気がない。
「愛衣ちゃんさ、今日ちょっと様子がおかしかったんだ」
「そうか?でも、それがどうしたんだ?」
京雅はピンと来ていない顔をしながら隼の方を興味無さげに見つめる。
隼は何かを躊躇っているかのように視線を泳がす。
「もしかして、その理由を俺に聞いてこいと?」
京雅は壁に背中を預け、腕を組みながらキメ顔でそう言い放つ。
だが、隼はその言葉に反応することはなく、意を決したかのような顔を浮かべる。
「それは別に良いんだ……ただ、彼女のあんな惚ける顔、今まで見たことなくてさ、モヤモヤするんだ」
「……………そうか」
京雅はいつもの無表情に戻り、姿勢を正して隼の方へ一歩近づく。
「俺の方からそれとなく聞いてみよう。なにか分かれば明日報告する」
「………ありがと」
京雅そう言って足早に階段を降りていった。
そのなか、京雅はただ一人机に向かってペンを走らせる。
京雅が向き合っているのは数学の問題集。それも中学一年生のものだ。
「なんでマイナス掛けるマイナスでプラスになるんだ……?マイナスなのだから小さくなるはずだろ……?」
ペンを握っていない手で頭も抱えながら独り言をブツブツと漏らす。
「苦戦してるみたいだね」
「………瑛翔か。まぁ、時間にしてだいたい十年のブランクがあるからな。本当なら算数からやり直したいところだが、何せ時間が無いもんでな」
眠そうにあくびをしながら背筋を伸ばす。先週、色々とあったせいか、流石の京雅の顔にも疲労の色が見えて、眠そうに目を細めていた。
瑛翔は普段通りの笑みを浮かべて問題集に視線を落とす。
「こういうのは理屈を考えない方が楽だよ。公式とか法則性とかの意味をいちいち覚えてちゃ効率が悪いよ」
「機械的に覚えた方が良いのか?」
「そうだね。その方が良いかもね」
「なるほどな、助かる」
そういうと京雅は問題集の問題を一つ一つ丁寧に解いていく。それを瑛翔が隣で微笑ましそうに眺めていた。
「おっはよ、二人とも!」
「蒋、おはよ」
「おはよう、蒋」
月曜日と思えぬ高いテンションで現れた蒋。蒋も瑛翔と同様に、京雅の机の上に広げられている問題集を覗き込む。
「偉いなぁ、僕なんて分からないところがあっても放置しちゃうからさ」
「そんな事しているといつか足元掬われるよ?」
そんな事を話していると、京雅たちの背後から足音がする。それに気がついた瑛翔と蒋はスっと顔を上げる。
そこには暗い顔をした隼が居た。月曜日というだけでは説明出来ないほど暗い顔で、酷い顔をしていた。
「どうしたの?辛そうだけど?」
蒋が気を遣うように優しい声をかけるも、隼は力無く笑うだけだった。隼の視線はもとより京雅にしか向けられていなかった。
「放課後、ちょっと良いかな?」
誰、とは言わずにそれだけ言って去っていった。京雅はまるで気にしていないかのようにペンを走られ続けた。
そのやり取りをただ近くで見ていた二人は顔を見合わせて不思議そうな表情を浮かべた。
「あれは僕らじゃないよね?」
「そうだろうね。こういうのは大抵が京雅だからね」
そんなやり取りが隣で繰り広げられるも京雅は手を止めない。京雅はただひたすらに何十とある正負の四則演算を繰り返し続けた。
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「………」
時は過ぎて、現在放課後。京雅は自分の机に座りながら魂が抜け落ちたかのようにボォッとしていた。
周りから掃除のために椅子をあげる音がしようとも京雅はまだ動かない。
六時間目の生物の授業で、新しい数多の情報量で完全にトドメを刺されたのだ。
「京雅、後ろ詰まってるよ」
「………」
瑛翔の一言で京雅はのそっと動き出した。一番前の席のため、椅子を上げたら机を運ぶ必要もなく終了。京雅は廊下を目指して歩き出した。
その後ろを瑛翔が苦笑いを浮かべながら付いていく。
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「それで、俺を呼び出した理由は?」
掃除中に気力を取り戻した京雅は現在、隼と対面していた。
今もなお、隼は暗い顔をしたままで、どこか元気がない。
「愛衣ちゃんさ、今日ちょっと様子がおかしかったんだ」
「そうか?でも、それがどうしたんだ?」
京雅はピンと来ていない顔をしながら隼の方を興味無さげに見つめる。
隼は何かを躊躇っているかのように視線を泳がす。
「もしかして、その理由を俺に聞いてこいと?」
京雅は壁に背中を預け、腕を組みながらキメ顔でそう言い放つ。
だが、隼はその言葉に反応することはなく、意を決したかのような顔を浮かべる。
「それは別に良いんだ……ただ、彼女のあんな惚ける顔、今まで見たことなくてさ、モヤモヤするんだ」
「……………そうか」
京雅はいつもの無表情に戻り、姿勢を正して隼の方へ一歩近づく。
「俺の方からそれとなく聞いてみよう。なにか分かれば明日報告する」
「………ありがと」
京雅そう言って足早に階段を降りていった。
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